113.気分転換
ここ最近は本当に忙しかった。急に新たな部隊を設立し、新たな決まり事も定めたからだ。それもこれも、沙希の友人である三品二等兵の為だ。
彼女と出会った時はかなり驚いた。ガブリエル大統領に頼まれて、新兵に向けてのスピーチをする事になった。簡単に言うと校長先生みたいに壇上で語ったのだ。その後、新兵の一人だった彼女が上官を通してオレに接触を図り、面会する事に。そのおかげでオレの家族がどう過ごしているのかを知ることができた。すごい行動力だ。
だが、その内容は酷いものだった。母さんはやせ細り、父さんがそんな母さんを気遣ってオレの死亡届を隠していた事。そして沙希もかなり痩せてしまったらしい。だが、今ではそれも回復して元気に過ごしていると聞いた時は安心した。
ガブリエル大統領が直接足を運んでオレの死を訂正してくれたおかげだろう。あんな大物が嘘をつく訳がないからな。
家族の事を知れたのは良かった。そのお礼と、妹の友達を死なせる訳にはいかないので、彼女の為に後方支援部隊を設立したのだ。そのせいで最近多忙を極めたが、それももう落ち着いた。
ちなみにスピーチの原稿を考えたのはコマンダーだ。自分で言うのもなんだが、オレにあんな文才はない。
事務仕事や根回しやらで疲れ切ったオレは、久し振りに何もしない一日を設けて休む事にした。こういった仕事はオレには向いていないとつくづく実感する羽目になった。オメガと戦っている方が楽だと思ってしまう程。
自室のソファーでぐったりとしていると、ミカエラが紅茶を淹れてくれた。
「はい、今日はゆっくり休んでね」
「ありがとう」
それを受け取って一口啜る。うん、紅茶の味。オレに茶葉の違いによる良さなんて分からないから、こっそり茶葉を変えられても気付かない自信がある。
いつもならオレが淹れているが、今日はホントにやる気がでない。このまま溶けてしまいそうだ。それに彼女もオレがあちこち走り回っていた理由をしっている。ミカエラにも少しばかり手伝ってもらったからだ。ガブリエル大統領の説得とか。とは言っても、すんなりと後方支援部隊の設立に賛成してくれた。ワガママを言わないオレが珍しく頼み事をしたのが嬉しかったらしく、あっさりと可決したのだ。あの人には頭が上がらない。
シミ一つない天井を見つめるぐらい気が滅入っている。気晴らしに何かしたい気持ちもあるが、立ち上がるのですら億劫と感じていると、不意に左腕に付けている白い腕輪からアラーム音が響く。
「あーそろそろ惑星マザーにオメガが来る頃か」
通知の中身を確認した訳ではないが、体感的にそろそろオメガが惑星マザーに襲来する頃だと悟る。確認してみると、やっぱり読み通りだった。
「仕方ない、行ってくるか・・・」
淹れたての熱い紅茶を一気に飲み干し、体の奥底にしまいこんだやる気をひねり出してなんとかソファーから立ち上がる。
「私も行く?」
「いや、いいよ。数も少ないみたいだし」
オレにしか通知が届いていないのがその証拠だ。コマンダーがオレ一人で問題ないと判断したのだろう。であれば、サクッと終わらせてしまおう。
「うん。じゃあ待ってるね」
「ああ。行ってきます」
ミカエラと軽くキスしてから戦闘服に着替え、戦場である惑星マザーに移動する。
「敵の数は?」
『トウテツとバステトが2千ずつ、それとカイムが5百だ』
早速コマンダーに戦況を確認すると、案の定少ない。ただ、犬と猫だけではなくて鴉もいるのか。少しだけ面倒臭い。ホントに少しだけ。
「カイムもいるなら20分、ってところかな」
単純計算で1秒あたりで2体倒す。・・・結構余裕かも。頑張れば15分で済ませられそうだけど、気分転換も兼ねての運動だから本気を出すつもりはない。
『やる気が出る様、BGMを用意した』
「お前って単独での作戦の時、何かと音楽掛けたがるよな」
だからなのか、惑星マザーにオメガが襲来した時はいつもオレしか呼び出しを受けない。多分だけど、自分が気に入った曲をオレに聞かせたいんだと思う。可愛いヤツめ。
「で、今回の曲は?」
『チャイコフスキーの――』
「先に言っておくけど、落ち着いた曲はやめろよ?」
コイツ、今チャイコフスキーを選曲しようとしたけど、確かチャイコフスキーってロシア人だよな? 絶対この前ロシアのモスクワに行ったからだろ。分かりやすいヤツめ。
『・・・チャイコフスキーの組曲「くるみ割り人形」の「花のワルツ」だ』
チャララララララ~ラ、ラ~ラ、ラ~ラ・・・。
「おい! 聞いた事ある曲だけど選曲ミスだろ。草1本生えてない惑星マザーで何が花のワルツだよ。バレエでも踊りながら戦えってのか? え?」
『健闘を祈る』
「あ、おい!」
一方的に通信を切りやがった。ったく、こんな曲聞きながらどうやって気分上げて戦えっていうんだ。ちょっとリクエストしただけで拗ねやがって。子供みたいなヤツめ。
タイミングがいいのか悪いのか、ちょうど卵型ポッドも着弾して中からオメガが出てきたのでとりあえず戦闘を開始する。
迫るトウテツとバステトは剣でなで斬りに、空中から神風特攻してくるカイムをバッティングする様に剣の腹で打ち返してトウテツにぶつける。バステトに向けて打ってもどうせ躱されるから、鈍いトウテツを狙い打ちにする。
ボンッ――
ちょうど人ひとり消し飛ばす威力の爆発が起き、トウテツの体がバラバラになって吹き飛ぶ。
「ストラーイク」
ん? ストライクか? ホームランでもないし・・・ただのヒットか? まあ、何でもいいや。オレ野球詳しくないし。中学の頃はテニス部だったからな。中学では珍しく硬式の。それこそどうでもいいか。
バッティングに飽きて途中からカイムはサイコキネシスで対処した。こっちの方が正直何倍も早く処理できる。まとめてサイコキネシスで薙ぎ払えば勝手に爆発していくし。
そうして特に苦戦する事もなく、トウテツとバステト、カイムの討伐を終える。それと同時にループ再生されていた花のワルツ(3回目)も終わりを迎える。
「予定通り20分と少しぐらいだったな」
カイムで遊んでいなければ、やはり15分程度で終わっていただろう。
「それと早く4回目が再生される前に曲を止めろ」
『君は学がないから、音楽だけでも聴いておくべきだと、心優しい私の考えを蔑ろにする気か?』
「黙れ。おかげさまでこちとら最終学歴中卒だっての」
それと機械が心を語るな。
死骸の片付けはいつも通りアンドロイドに任せる為、オレは帰還しようと腕輪に手を伸ばす。その瞬間――
ダァアアアアンッ!――
爆発した様な音が突然背後から鳴り響いた。振り返ると、白い鎧を身に纏っている二足歩行のサイみたいなオメガがいた。




