ギルドの地下
じゃあ、ついて来てくれる?
ミレアさんの後についてギルドの奥の部屋に行く。会議室のようだ。円卓のテーブルと八つの椅子。
何か大事なことを話し合う時はここでするのかもしれねえな。
ここに何があるんだ?そんなことを考えていると
ミレアさんは会議室にある扉を抜けて隣の部屋に入っていった。
「あ、ここじゃないのかよ」
「こっちよ」
案内されたのは、大量の本棚のある部屋だった。
以前、魔物の魔力値が載っている本を借りたときミレアさんはここから本を取って俺に貸してくれたのかもしれない。
「うわー、たっくさん本があるのね。ねえヒイロ、ここにある本全部読んだらアンタの頭も良くなるわよ」
「うっせえ。よけいなお世話だ」
俺らが言い合っていると、ミレアさんは壁を背にした本棚の前で、立ち止まっていた。
「この奥に、ギルドの地下へ続く通路があるの」
「え? 本棚の奥? どう見てもただの壁だろ」
俺が眉をひそめると、ミレアさんは慣れた手つきで一冊の本を引き抜いた。
カチリ――と、乾いた音が鳴る。
次の瞬間、本棚の一角がゴゴゴ……と小さく震えて、奥にスライドしていった。
本棚が動いた瞬間、俺は小さく息を呑んだ。
現れたのは、階段だった。
狭く、湿った空気が漂ってくる。明かりはなく、奥は真っ暗だ。
「ここはね、実は転送装置への入り口になってるの。そこから王都地下ダンジョンに向かうのよ」
ミレアさんは、準備していた魔導ランプを取り出し、階段を照らす。魔導器の光に照らされて、石造りの階段がずっと奥まで続いているのが見えた。
「おいおい、マジで秘密基地かよ……!」
「えっ、凄くワクワクしちゃう。ねえミレア早くいこうよ!」
俺の気持ちを代弁するかのようにエイルも興奮している。
地下階段をしばらく降りていくと、空気がさらに冷たく湿っていくのを感じた。足音が、石の壁に反響する。
「……ここ、なんか空気が違うな」
「ここから先は、ギルドの中でも一部しか知らない領域よ。足元危ないから慎重に進んで」
ミレアさんの声が少し硬い。俺とエイルは、ランプの明かりを頼りに彼女の後についていく。
やがて階段が終わり、重厚な鉄の扉が現れた。扉の表面には複雑な魔法陣が刻まれ、わずかに淡く光を放っている。
ミレアさんが鍵のような形の魔導具を取り出し、扉の中央に差し込んだ。
ギイイ……という軋んだ音とともに、扉がゆっくりと左右に開く。
中にあったのは、石の壁で囲まれた部屋だった。天井は高く、中心には巨大な円盤状の魔法陣が埋め込まれている。その四隅には古びた石像と、水晶のような転送媒体が配置されていた。
「これが……」
「王都地下ダンジョンへの転送装置よ。この魔法陣の上に立てば、自動でダンジョン入口へ転送されるわ」
「すげえ……まるで別世界だな。まさか、こんな場所がギルドの地下にあったなんて」
俺はつばをごくりと呑んだ。
エイルも神妙な顔で部屋の中を見渡していた。
「ちゃんと戻ってこられるのかしら」
「うん、ここの転送装置は片道じゃないから大丈夫。ただし、転送先では通信もできないし、誰にも助けは呼べない。だから……本当に気をつけて」
「わかった。ありがとな、ミレアさん」
「そうだわ、これを持っていって。これは《帰還石》といって、魔力を込めるとこの転送装置の場所に戻れるの。使用は一回きりだけど、非常時のためにね」
「へぇ、便利だな。まさかダンジョン用のアイテムまであるとはな」
「王国の管理下にある場所だからね。でも油断しないで。この帰還石があるからって、無理していいってことじゃないのよ」
「わかってるって、心配すんな」
エイルと視線を交わし、俺たちは転送陣の中央へ足を踏み入れる。
「じゃあ、エイル行くか」
「うん」
魔法陣が淡く輝き始めた。足元から空気が振動し、世界が揺らいでいく。
次の瞬間――
視界が光に包まれた。
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やがて光が収まり目を開ける。
「ちょっと待て。ここってほんとに王都地下ダンジョンなんだよな?」
「ええ、ミレアは確かにそう言ってたけど……」
「でもよこれって…」
目の前に映る景色。それは…ありえない光景だった。




