村への報告と大会
村に戻ると、広場には村長と村人たちが集まっており、俺たちの帰りを待っていてくれた。
「おおお……魔物を退治してくださったのですね! 本当にありがとうございます。さすがはヒイロ様、そしてエイル様!」
村長が深々と頭を下げる。
だが、俺は首を横に振った。
「……いや、俺らが倒したんじゃねえよ」
そう言いながら、隣を見る。エイルも少しバツが悪そうに口をつぐんでいた。
「そ、それは一体どういう……?」
村長が困惑したように問い返す。
「知らねぇ二人組がいたんだよ。でっかい騎士と、その契約者らしい男。そいつらが倒した。依頼だとか言ってたけど、心当たりあるか?」
「我々が頼んだのはギルドだけですが…」
村長は首をかしげつつも、すぐに微笑みを浮かべた。
「ですが、たとえそのお二人が倒したとしても、あなた方が村のために尽くしてくださった事実は変わりません。その恩は、決して忘れませんよ」
「いや……でもな」
俺が食い下がろうとしたそのとき、村長がやさしく笑みを浮かべながら手を振った。
「ふふ、真っ直ぐなお方ですね。けれど、せめてこれだけは――」
その合図に応えるように、民家のほうから子どもたちが駆けてくる。手には、焼きたてのパンや果物の包みがたくさん。
「ヒイロお兄ちゃんたち、ありがとうーっ!」
「これね、みんなで持ってきたの! お礼っ!」
子どもたちの無邪気な笑顔を前に、俺は言いかけた言葉を飲み込んだ。
(……何も言えねぇな)
「ありがとよ。大事に食うからな」
そう言って、エイルが子どもからパンを受け取り、さっそく頬張る。
「ほら、こういうのは素直に受け取っときなさいって」
パンを口に詰めたまま、エイルが笑う。
俺はふっと息を吐いた。
「……お前は、素直すぎんだよ」
◆ ◆ ◆
ギルドに戻ると、入口からして賑やかな雰囲気だった。お知らせ板の前には人だかりができていて、ざわざわと声が響いている。
「なんだ? 今日はやけに賑やかだな」
「いつもよりずっと騒がしいわね」
受付に向かうと、ミレアさんが俺たちに気づいて顔を上げた。
「おかえりなさい、ヒイロさん、エイルさん。泉の件、お疲れさまでした」
ミレアの笑顔に、俺は肩をすくめる。
「おう。……ただな、倒したのは俺らじゃねぇ」
「えっ?」
ミレアさんが驚いた顔をする。
「知らねぇ二人組がいたんだよ。俺と同じくらいの歳の男と、黒くてデカい騎士みたいな守護獣」
「ああ、それって……もしかして……」
思い当たる様子のミレアさんが、カウンターの下から新聞を取り出す。
「たぶんこの二人じゃないですか? 王都新聞に載ってたんです。ブルームとロイ。王国守護団に最年少で内定したって話題なんですよ」
俺は記事の写真を見て、思わず指を差した。
「こいつらだ! 間違いねえ! ……同い年で、もう守護団内定だと……?」
隣でエイルが新聞をのぞきこみ、頷いた。
「このロイってやつ、土と重力の魔法を使う上位守護獣みたいね」
ミレアさんがうなずきながら言った。
「その二人、王都じゃ有名なの。今度の《召喚闘技大会》でも優勝候補って噂よ」
「召喚闘技大会? なんだそれ」
俺が眉をひそめると、ミレアさんが説明してくれる。
「二十三歳以下の召喚者限定の闘技大会よ。若手の召喚者と守護獣がペアで戦うの。近隣のギルドにも通知が来てるはずよ」
「守護獣持ち同士のバトルか……面白そうじゃねえか」
そのとき、エイルが記事の端を指差して目を輝かせた。
「ねえ見て! 優勝したら賞金たっぷり出るって。美味しいものとか服とかも買える!」
「……優勝商品なんてどうでもいい! やられたらやり返す。それが男ってもんだ!」
拳を握りしめる俺に、エイルが呆れたように言う。
「アタシ、女なんだけど」
「そこは……いいだろ、別に……」
「でも、確かにムカついたわ。アタシ、負けるのって大っ嫌いなの。あの無口なデカブツ、雷で焼き焦がしてやる」
ミレアさんは微笑みながら聞いてきた
「……二人とも、大会に出たいの?」
「もちろんだ!」
「当然よ!」
彼女は満足げにうなずき、口を開いた。
「実はね、うちのギルドから一組だけ推薦枠があるの。誰にするか、ちょうど悩んでたのよ」
「俺らじゃダメなのか!?」
俺は思わず身を乗り出して叫んだ。
「ダメじゃないわ。ギルドマスターもね、ヒイロくんと、魔力量が最上位クラスのエイルさんなら、推薦にふさわしいって言ってたし」
「なら――!」
「――その前に、ちょっと試してもらいたい依頼があるの」
そう言ってミレアさんが差し出してきた依頼書には、こう書かれていた。
《王都地下ダンジョン一階層に出現するサイクロプスの目を採取せよ》
俺は内容を読みながら、目を細める。
「サイクロプスって……一つ目の巨人だよな? 皮膚がめちゃくちゃ硬くて、剣も弾くって聞いたことあるぞ。……ってか、王都に地下ダンジョンなんてあったのか?」
「一般の冒険者には教えられてないの。危険すぎて、入れるのは守護団や、認可された一部の冒険者だけ」
彼女の説明に、エイルが嬉しそうに身を乗り出す。
「なにそれ! 秘密ダンジョンってやつ? めっちゃ面白そう!」
ミレアさんが改めて俺たちに尋ねる。
「やってくれる?」
俺は力強く頷いた。
「任せとけ。絶対に成功させてやる」
「私もいるしね。ヒイロが無茶しないよう、ちゃんとお守りするわ」
彼女は心配そうなを浮かべて、俺たちを見つめた。
「……無理だけは、しないでね。ヒイロ君たちなら、やれるって信じてるから」
「大丈夫だ。こんなとこでくたばるわけにはいかねぇ。サイクロプスの目、しっかり持って帰ってきて――大会で、あいつらをぶっ飛ばす!」
「うんうん、それでこそアタシたちでしょ?」
ミレアさんが背中を押すように笑った。
「ふふっ……頑張って。いってらっしゃい!」
(――絶対に成功させる。推薦、勝ち取って……ブルームとロイに、一発食らわせてやる)
心の中でそう誓いながら、俺たちはギルドをあとにした。
――待ってろよ、ブルーム。ロイ。




