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霹靂‐へきれき‐のシルト  作者:


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焚き火と執念


ーどこだ?! どこ行った!


ギルドで呟いていたマントの男の足は早く、ギルドを出て見失いそうになりながらも、俺はその男に追いついた。


「待ってください!」

人通りが途切れたところで、俺は男に声をかけた。


「……なんの用だ」

「…さっきクァズはそんなタマじゃない…って…聞こえて」

俺の問いかけに、男は黙って返事をしない。



「あの…エールを奢らせてください!」

「俺は、人の金で酒は飲まない主義だ」

そう言って踵を返そうとする男に、なおも俺は追いすがった。



「あなたの話が聞きたいんです」

「……なぜだ?」

その男は冷ややかに聞き返した。


俺は答えられなかった。

俺は自分が置かれた立場がわからない。さっき聞いた話からこの街のギルドや冒険者達の間では、俺はパーティを壊滅させた張本人になっている。


本当は違うが、先に帰ったクァズがそうギルドに報告していて、なんの実績もない俺が違うと言っても信じてもらう自信も証拠もない。



「お前、Unknownか?」

ー!

俺は言い当てられて黙って目を泳がせた。



黙り込む俺に、その男は静かに言った。

「俺の話は聞きたいが、自分の話はできないってか?」

「ぐ…」


その男のフードから見える口の端が歪む。

なにも言い返せないまま、俺は手を握りしめた。



「もう一度聞く。お前、Unknownか?」

「…そうです…俺がそのUnknownです…」


「でも、俺はダンジョンボスにイキって向かっていったりしてない! 隠れていた俺達をボスが見つけたんだ! それに俺は知らなかった。パーティを外されていた事も…サンディ達が死んだ事も…何もかも」


絞り出すような声で、俺は話す。信じてもらえるかどうかわからない。でも俺は、俺の身に起こった事を誰かに言いたかった。


誰かに信じてもらいたかった。



「……そうか」

そう言って男はしばらく黙り込んでから近づいて来た。



「まずは、お前が知っている事を全部話せ」

フードの中から頬に傷のある男が俺を見下ろした。



*****



「クァズとサンディは、過去にパーティ半壊を何度も繰り返している」

そのマントの男…オイゲンが焚き火に薪を放り込む。


オイゲンは多分40代後半くらいのゴツい男だった。マントで気が付かなかったが、筋肉質な体格のいかにもベテラン冒険者って感じだ。


今、俺達は街外れに野宿している。街の宿屋はダンジョンの成長期を聞きつけた近隣の冒険者であふれていて泊まれなかったからだ。


俺は、洗いざらいオイゲンに全部喋った。

この世界に来たことはさすがに口にしなかったが、ギルドに登録してからクァズ達とパーティを組んだ経緯もパーティを組んでからの事も、もちろんあのダンジョンで起こった出来事も。


そして、オイゲンがクァズ達を何年も追っていたと聞いた。



「え…でも、冒険者って生死が隣り合わせなんじゃ」

「確かに冒険者はそんな稼業だ。だから生死の引き際を弁えた奴らがベテランと呼ばれてる。仲間を死なさないからベテランなんだよ。たまに大怪我はするがな」

べた焚き火がパチパチと爆ぜた。



「そして、死ぬのは見極めが甘い伸び盛りの若い奴らだ。それ自体はおかしくない。だがクァズ達のパーティは不自然に若い奴らが死に過ぎている。今回はサンディも死んだようだがな」

「……」


「血気盛んな若い奴は確かに死にやすい。自分の力を過信するからな。だが…」

そう言うとオイゲンはまた焚き火を焚べ、話を続けた。



「…クァズ達は、その時のパーティが全滅すると、すぐにギルドを変わる。居づらくなってギルドを変わる奴は珍しくないが、奴らはここ数年田舎や辺境の小さなギルドを回っていた」

「普通はそうじゃないんですか?」


「大抵は大きなギルドのある場所だ。稼がなならんからな」

「だったら、なんでクァズ達は田舎ばかり?」


「大きなギルドには『エールの噂』がすぐに回る。レベルが高いベテランが2人もいて、パーティの半壊を繰り返していたらすぐに噂が回る。ちょっと離れたくらいじゃ、噂は振り切れん」

オイゲンはただ焚き火を見つめながら、独り言のように話をする。


「田舎や辺境は定住の冒険者が多くて流れの冒険者が少ない。目立ちはするが、大きなギルドに比べて冒険者同士の噂が回りにくいからな。それにギルドの罪人回覧に載るのは、犯罪を犯した冒険者の情報だけだ。奴らは仲間を失っただけで犯罪を犯しちゃいない。ギルドも気がつかない」


冒険者の犯罪とは、護送時の依頼者の殺害や荷物の略奪行為といったギルド規律違反や、その街での殺人なんかだ。


個人の討伐記録は記録に残すような珍しい魔物を討伐した時くらいだ。全滅は調査隊を出す為に記録が残るが生き残りがいた場合は残らないらしい。



「あの…オイゲンさんは…」

「オイゲンでいい」


「あ…オイゲンは、どうしてクァズ達を追ってたんですか?」

俺は疑問に思っていた事を聞いてみた。なんでこの人は何年もかけてクァズ達を追っているんだろうって。



「……」

「あ…言いにくい事だったら…」


「いや…、俺には子供がいてな。俺と同じ冒険者になったんだ。俺が鍛えて一人前にした。そして修行に出たんだ…俺も若い頃には修行に出たしな。そしてギルドから連絡が来た。息子が死んだと」

「……」


ギルド登録時に死んだ時の連絡先や稼いだ金を送金できる相手とギルドを1か所だけ登録できる。ほとんど使う奴はいないが、親や送金したい家族がいる奴は必ず登録するギルドの数少ない福利システムだ。


「冒険者なんだ。修行に出る時に覚悟はしていた。知らせを聞いて俺は形見になるような物はないかと、そのギルドに行って、メンバーの名前を聞いた」

「……」


「そして…半年後、娘が死んだと別のギルドから連絡が来た」

「え…」


「俺は、また同じパーティメンバーの名前を別のギルドから聞いた。息子は剣士だったから諦めもついた。だが娘は治癒師ヒーラーだった。生き残る確立は高い。それに娘は慎重過ぎるくらい慎重な子だった」

「……」


「俺は故郷を後にして、クァズ達の噂を集める旅に出た。クァズ達は自分のレベル上げの為に若い奴らを犠牲にしていると思ってな。そして…お前の話を聞いて確信したよ」


焚き火に照らされる歪んだ笑みを浮かべたオイゲンの顔と、パチパチと焚き木が爆ぜる音だけが、夜の闇に吸い込まれていった。





Eugen (オイゲン)

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