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霹靂‐へきれき‐のシルト  作者:


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26/31

エールと噂と知らなかった事実


俺はギルドの扉を開けて中に入った。


ギルドの中は、ガヤガヤとうるさかった。夕刻のこの時間は、討伐帰りの者達で賑やかなのは当然なのだが、カウンターで職員相手にもっと値をつけてくれと騒ぐ奴もいない。


冒険者は依頼書の貼られた掲示板の前にたむろして、ずっと喋り続けている。俺は掲示板を見る振りをして、そんな冒険者達の話に耳をすました。



「まだ調査隊は帰ってきてねぇのか」

「まだらしいぞ」

「あのダンジョンまでここから片道2日はかかるからな。ダンジョンの周辺も調べるだろうから、まだ数日はかかんじゃねぇか?」

「あーあ、それまで仕事なしかよ…」



ーこいつら、時々ここで見かけた冒険者達だ。

だが一度も喋った事はない。俺は思い切って声をかけてみた。


「あの…なんかあったんですか?」

「んあ?」

一斉に数人の冒険者達の視線がタクヤに集まる。


「なんだ、お前知らないのか? ここの北の奥のダンジョンが成長期に入って偶然居合わせたパーティがやられたって」

「え、成長期?」

俺は今知った風を装って驚いてみせた。



「お前、成長期って聞いたことないのか?」

「初めて聞きました…詳しく聞いていいですか?」


ここのギルドに酒場は併設されてないが、夕方になると査定待ちの冒険者相手にエール売りがやってくる。俺は側にいたエール売りを捕まえて、人数分のエールを買った。


さっき道具屋のおばちゃんから「冒険者に何かを教えて貰うんなら一杯奢るのがルール」と教えて貰ったからだ。


俺があまりにも世間知らずに見えたんだろうな。


「お節介かもしれないけどさ」とおばちゃんは道具屋や武器屋は情報屋を兼ねているとも教えてくれ、どんな情報がいくらくらいかの目安も教えてくれた。


ギルドの職員はギルドが教えていいと決めた事しか喋れない決まりがあるらしい。情報にガセはあっても、生の情報は冒険者の方がよく知ってるとも。


俺はお礼を言って、教えてもらった分はちゃんと金をおばちゃんに払った。


俺、そう言えばこの世界に来てギルドの職員と農家のおっちゃんくらいとしかまともに話してなかった。だからクァズのパーティでも「これ、おかしくないか」って思う事がいろいろあったけど反論できなかった。


この世界、コミュ障じゃやってけないらしい。



エールを奢った冒険者達から聞いた話によると、1週間前に北のダンジョンが成長期にあって調査隊が組まれた事、クァズだけが生き残った事を教えてくれた。


そして…死んだメンバーはサンディ、ルツ、アール。そしてソロの剣士…らしい。



「…ソロの剣士? 同じパーティじゃなく?」

「それがさ、その剣士それまで荷物持ちだったんだが、剣士での初参加の討伐ではそのダンジョンはハードルが高いってんで、外す予定だったがせっかくやる気出してんだからって、連れてったらしいんだよ」

ーは? なんも聞いてないぞ。俺。


「あぁ、クァズ面倒見がいいからよ」

「…そう…なんですか」

その冒険者のクァズと知り合い風な口調に、俺はただ相槌をうった。


「そいつに1階層めくらいで安全に経験を積ませたい、そいつのレベルを上げさせる為にパーティから一時的に外すって受付に言ったらしい」

ーそれで、パーティ名が無かったんだ!


俺はダンジョンの中でステイタス画面を一度開いたが、スキル振りに気を取られててパーティ名のところなんて気にしてなかった。



「クァズ、若いの育てるの上手かったもんな。どこのパーティでも鼻つまみ者だったルツとアールを上手く育ててたもんな」

「へ…へぇ」


「ここに来る前もあちこちで若いの育ててきたらしいな」

「あー、そうらしいな。ギルドが言うにはそろそろクァズはレベル40になるからって目をかけていたらしい。相方と二人で育成型の指導者目指しているからってさ」

「…そうなんっすね」


俺はもっと喋ってもらう為、二杯目のエールを奢った。


「だがそれが裏目に出ちまってよ。その荷物持ちが粋がって無理やり下層までついてきて、ダンジョンボスを刺激しちまったらしい」

「え!」

ー!!! 俺のせいになってるのか?!



「まぁ、なりたての奴に限って功を焦るわな」

「俺、前に一度その荷物持ち見たことあるぜ。もっさりとした小太りでさ、どんくさそうな奴だったぜ」


俺は、顔を隠すようにジョッキに口をつけた。あの頃と違い痩せて人相が変わっているかもしれないが、俺を見たことがあると言った奴の顔を見れなかった。



「いくら指導者になれたからって、そいつのせいで長年の相方亡くしちまうし、手塩にかけて育てた若いもんも、そいつを庇ってお陀仏になったってよ…。やってられないだろうな」

「俺ならそいつが生きていたら殺しちまうな。そいつのせいで相方もなくすってよぉ」


「殺すって…そいつも死んだんじゃないんですか?」

「それがよ。ここだけの話だがよ」

その冒険者は小声で言うと、俺に空のジョッキを見せた。俺はすぐに3杯目をエール売りに頼む。



「さっきギルドの職員が話してたのを小耳に挟んだんだがよ。そいつ『Unknown』らしいんだよ」

「『Unknown』?」

「ギルドはギルド証を持ってる奴の生死がわかるだろ?」

「え…ええ」


「他のメンバーは『Dead』と表示されてるらしいんだが、そいつだけギルドの登録台帳には『Unknown』って表示されているらしいんだよ」

「……」

「つまり、そいつは生きているかもしれねぇ」


「なにしろダンジョンの成長期なんて滅多に遭遇しねぇからな。調査隊は、そいつの生死も含めて調査するらしい」

「な…なるほどですね。ところでそのクァズさんって冒険者は今どこにいるんですか?」



「もう領都の冒険者ギルドに出発しちまったよ。ギルドの聴取は終わったしな。ここには相方の思い出があり過ぎて辛いって言ってさ」

「あぁ、それでも相方の形見のスティックを大事そうに持っていたな」

「長年の相方失くすのは、つれえよな」

「だよな…」



赤ら顔の冒険者達はしんみりとしていたが、ふと俺の耳に後ろの男のぼそりとした呟きが入ってきた。


「笑わせるぜ。クァズがそんなタマかよ」


ー! 

振り返ると、その男はすーっと人混みを泳ぐようにギルドを出ていった。俺はすぐに冒険者達に挨拶をすると、その男を追いかけた。



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