ギルド証とマント
いつもはいない門番にギルド証をみせ街に入ると、なんか街の雰囲気がざわついていた。
ーすぐにギルドに向かうか。いや…
行き交う街の人間の視線が痛い。
討伐帰り冒険者は小汚いが、今の俺はそれに輪をかけてボロボロの格好で髪もボサボサだった。冒険者と言うより浮浪者に見えたんだろうな。
ーとりあえず、適当な服を買うか。
俺は顔なじみだった道具屋に向かう。クァズのパーティに入る前によく通っていた道具屋だ。店の扉をあけ中に入るといつもの親父じゃなくて、でっぷり…いや、とてもふくよかなおばちゃんがいた。
「…なんか用かい?」
無愛想にそう言って、俺をじろじろと見た。多分物乞いかなんかと思ってるな。うん。
「あー、服を買いに」
「金持ってんのかい? 今は買い取りができないから物との交換はできないよ」
「持ってます。ちょっと長く討伐に行ってて服がボロボロになっちゃって…買い換えようかなって…あははは…は…」
言い訳がましいことに言い、俺がマジックボックスから財布代わりの袋を取り出して金を見せると、おばちゃんは裏から古着がたくさん下がったハンガー台を押してきた。
服を選んでいる間、おばちゃんに親父さんの話をしたり、ここの店でマジックボックスの拡張スクロールを買った話をすると、最初は警戒していたおばちゃんも険しい顔が緩んできた。
今日は親父さんは仕入れで隣町まで出かけているらしい。
「そうかい、あんたがスクロールを買った子かい」
「はい」
「旦那が心配してたよ。ここんとこずっと顔を見てないってね」
「あ、ずっと討伐が続いていて、自分の物を買う暇がなくって…」
服の代金を払ってハンガー台の裏で着替える間、おばちゃんはずっと喋り続ける。
「討伐と討伐の間に休みは貰えなかったのかい?」
「あ、はい。次の討伐の買い出しをしたりメンバーの買い物に付き合ったりしてて…」
「……気をつけな。普通そういう事は金の管理をする金庫番がやったり自分らでする事だよ」
ーえ…そうなのか。荷物持ちだからって、俺ずっと連れ回されていたぞ。
「あ…でも、もうそのパーティ抜けるんで」
「そうかい。次のパーティに入る前にもっとよく待遇の話は聞くんだよ。知らないといいように使われるからね。それでなくても荷物持ちの扱いは良くないんだ」
おばちゃん、良い人だな。
ぶっきらぼうだが久しぶりの温かい言葉に、ちょっと鼻の奥が熱くなる。
「そう言えば、あんた今日討伐から帰ってきたって言ってたよね?」
「はい」
「外はどうだった? 今までと変わったことはなかったかい?」
「いや…、いつも通りで…」
俺はダンジョンの事は喋りたくなかったから、適当に誤魔化した。
「なんかあったんですか?」
「あんた、知らないのかい? なんかさ、街から一番遠いところのダンジョンがあるだろ」
ー俺達が行ってたダンジョンだ。
ベルトを締める手が止まる。
「あそこのダンジョンが『成長期』になったらしくってさ。偶然居合わせたパーティが全滅したらしいんだよ」
「え…全滅…?」
「いや、リーダーだけ何とか助かったらしいんだけどさ…。そのリーダーが手塩にかけた若いのらと、相方の女冒険者を亡くしたんだよ」
ー全滅…サンディ達が死んだ…?
俺は今まで生きてきて、身近な知り合いを亡くしたことはない。俺をダンジョンに見捨てた奴らとはいえ、死んだと聞いて俺は何とも言えない気持ちと同時に、喉にかすれるような妙な違和感を感じた。
「…それは…いつ?」
「1週間くらい前かねぇ。夕方リーダーが一人戻ってきて。そりゃもう街中大騒ぎになったんだよ。ダンジョンの『成長期』なんてこの街始まって以来の大事件でさ、ギルドはすぐに領都のギルドに調査隊を依頼してね。3日前にここを出発したんだよ。スタンピードでも起きちゃたまんないからね」
ー調査隊…そう言えば、すれ違ったパーティは大所帯だったな。
「なのに、うちの人はこれから稼ぎ時になるって、あたしが止めるのも聞かないで領都に仕入れに行っちまうし…はぁ」
おばちゃんはそう言うと、受け取った金を持ってカウンターに向かった。
「あの…」
俺はおばちゃんにマントも欲しいと言い、古いマントを一着買って店を出た。
この街で俺の顔を知る奴は少ないが、ギルドには見知った奴も多い。俺は顔を隠したかった。
何故かって?
クァズのパーティは全滅。クァズ以外は全員死んだ事になっている。だったら俺は?
俺は生きている。
クァズは俺の生死は分からなくともギルドはわかるはずだ。冒険者ギルド証は、登録し携帯していた者の生死が分かるのだから。
冒険者はどこの冒険者ギルドにも別名で何度も登録できる。
じゃ、なんかやらかしても別のギルドで名前を変えて再登録し放題じゃんかと言われれば…そうなのだ。実際そうやってギルドを渡り歩く奴らもいる。
この世界の冒険者にはそれが許されている。
生まれ故郷の近くに出る比較的狩りやすい魔物を安定的に狩って生きる冒険者も多いが、そういう冒険者で強い魔物を討伐しようする者は少ない。報酬が高くとも身の安全をとる。
だが冒険者ギルドは、魔物からその地域の安全を守る為に置かれている。
だからギルドは時々出てくる強い魔物用に、流れ者の冒険者を受け入れる。
危険でも高い報酬やレアドロップ品、希少な核目当てに討伐に向かってくれるのだから、多少荒っぽくても訳ありでも目を瞑る。冒険者の登録に身分証が要らない理由はこれだ。
だから、レベル40以上の国に認められた冒険者以外が持たされるギルド証もそんなに高性能じゃない。
ただ登録者が身につけている限り生死が分かる。生きているうちにギルド証を捨て一定時間が過ぎるとギルドには登録者情報に「Drop」と表示され、ギルドはそいつの情報を抹消する。登録が抹消されたギルド証では核の買取はしてくれない。闇市場でも売れるが、足元を見られ買い叩かれるのだ。
俺はギルド証を捨ててない。
日が落ち暗くなりかけていたが、マントのフードで顔を隠すように俺はギルドに向かった。




