バンシーと雷撃とダンジョン脱出
はぁはぁはぁ
俺はダンジョンの入り口を目指して走る。
行きとちょっと印象が違うが、間違ってはいないはずと先を急いだ。
「な…なんで?」
ダンジョンの入り口のはずの場所が岩で塞がれていた。道を間違えたかと思って目を凝らすと、入り口を塞いでいる岩の色が周りの岩と少し違う。
ーそう言えば、2階層と1階層の境にあった扉が無かったな。あれと関係が? もう成長期が始まって閉じ込められているのか?
それだったらまずい。
成長期自体よくわからないからどんな影響があるかわからないし、いつ終わるのかもわからない。下手すりゃ、一生外に出られない可能性がある。
手持ちの食料が尽きたらここで飢え死にだ。いや、食料が尽きる前に魔物に襲われたら回復薬も持たないソロの俺は死ぬしかない。
ごくりと唾を飲み込んだ時、後ろから微かなうめき声が聞こえた。
ーえ? 誰かいる? 魔物か?!
俺はショートソードに手をかけ、ゆっくりと振り向く。
うめき声は、段々とはっきりとした言葉になって耳に纏わりつく。
ーーーーー
うう…うう…
なぜ…どうして…
うう…
ーーーーー
薄暗いダンジョンの中、少し戻った所にぼんやりと人影が見える。
……、さっき通った時には、誰もいなかったはず。
用心しながらそろそろと近づくと、その影は輪郭を濃くさせた。
跪き、両手で顔を覆い泣き続けている。
長い白い髪が地面まで届いていた。
女だ。
ーサンディ?
いや、同じストレートだがサンディは火魔法を使うだけあって燃えるような赤い髪だった。アイツの髪は白い。
ーーーーー
どうして置いていくの?
うう…うう…
アタシを…ここに…
ーーーーー
ー! もしかして他のパーティの遺棄者か?
長い髪でわからないが武器は持っていなさそうだ。足元を見れば裸足だった。
ー酷でぇな。装備も取り上げられたのか。
自分と同じ境遇かもしれない。
そう思ったタクヤは、声をかけようと一歩足を踏み出した。
からん。
踏み出した足が弾いた小石が転がる。
その音に気がついたのか、女がゆっくりと振り返り、耳元まで裂けた口を歪ませニタリと笑った。
泣きはらした真っ赤な目を大きく見開いて。
ーーーーー
見つけた!見つけた!もう離さない!
逃さない!
あんたはずっと私のモノ!
ーーーーー
そう叫んだ女は両手を広げると、タクヤに向かって駆け出してきた。
「うわぁぁあ!」
タクヤはあまりの驚きに後ずさりながらショートソードを振り回す。
ーこいつ、バンシーだ!
バンシーは泣き女と呼ばれる魔物で、しがみついた相手の生気を吸い尽くす。一度捕まったら最後の厄介な魔物だ。
ザシュ!
一直線に向かってきたバンシーに、タクヤは一撃を落とした。バンシーはあっけないくらいその攻撃をまともに受けて倒れると黒い煙をたてながら消えた。
ーなんだよ。脅かすなよ。
立ちのぼる黒煙を見ながらショートソードを仕舞おうとすると、頭の中でピロンとステイタスからのお知らせ音がした。
『雷属性定着』
ーん? 雷属性? どういう事? そう言えばさっきも岩階段作れたよな… なんか変化でも…
ステイタス画面を確認しようと開きかけた時、目の前の地面から立ちのぼる黒煙の中から一体、二体とバンシーが湧き出してきた。
「だーかーら! どういう事だよ?!」
湧き出したバンシー達は、迷う事なくゆらゆらとタクヤに向かってくる。
ーーーーー
待って、待って
ずっと一緒。永遠にあんたは私と一緒…
ここで…
ーーーーー
「やなこったい!」
せっかく生き残れたんだ。
ここでコイツらにやられてたまるか!
タクヤは湧き出すバンシーを手当たり次第切り倒す。だが切っても切ってもバンシーは湧き出してくる。
しかも時間が経つと技を思い出したのか、「ひぁー」と体が痺れるような『号泣』という叫び声も繰り出してきた。
ー埒が明かねぇ! 確かコイツらが湧き出す場所を聖魔法で祓うか火魔法で焼きはらうしか手が…
聖魔法は聖職者である僧侶かヒーラーの上位者しか使えない。火魔法が使える魔法使いがいればいいが、物理攻撃しかできないパーティは、次のバンシーが湧き出す間に急いでその場を離れる。
だが、バンシーが湧き出す場所はタクヤの目の前にあり、後ろのダンジョンの入り口は塞がれ退路がない。
ー何か、なにか手はないのか?!
そう思った時、また頭の中でピロンと音がした。
『雷属性レベルアップ。雷撃が使えます』
「それだぁ!! 雷撃!」
タクヤはバンシーが湧き出す場所に向かって左手を突き出すと掌から激しい雷が迸り、バンシー達とバンシーが湧き出す地面に直撃した。
ひぁー!
雷の轟音とバンシーの叫び声が当たりを劈いた後、かすれた声がタクヤの耳に聞こえた。
ーーーーー
いやぁ…、置いてかないで…
ーーーーー
はぁはぁはぁ
黒いスス溜まりになった地面を見て、タクヤは剣を収めた。
ーとりあえず、勝ったのか?
静寂を確認してタクヤは、塞がれた出口の岩に背を預けた。
静寂に一応の勝利を確信するが、ダンジョンから抜け出さないと先はない。
バンシーは祓われたり焼き尽くされたりしても一定期間を置いたらまた湧いてくる。二度と湧いてこないようにするには湧き出す場所を浄化するしかない。浄化ができるのは最上位の聖職者だけだ。
ーくそぅ。ここから抜け出せたら。
そう思った時、
背中にあたる岩の硬さが消え、支えを失った俺は、一瞬不安定なぬるんとした感覚に包まれた。
その次の瞬間。
ーえ?
俺はダンジョンから吐き出されるように転がり出て、眩しく光る太陽を久しぶりに見上げていた。




