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霹靂‐へきれき‐のシルト  作者:


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19/31

成長とダンジョンマスター


『…んん、終わったのかしら』

体が変化する前はやたらと眠い。うとうととしていたら、いつの間にか身の内に生体反応が1つになっているとのアラートを感じて目が覚めた。



『あぁ、やっと成長できる』


身震いをすると古い殻を破るように体がふたつ大きくなった。

『ふたつかぁ、まぁ…しょうがない。ここはご飯が少ないんだもの。ふたつ大きくなっただけでも良いほうよね』


でも、前回と違って大きくなっても力に余裕がある。



『うふ。今度は隠し部屋や幻影が作れちゃうかも? どんな配置にしようかな…。草原や密林とか良いわよね。今まで岩ばかりだったし…。あっと、いけないいけない。それより先に新ボス配置しなくちゃ!』



さっそく、新しい体の中を探る。

『今度はどんな子にしようかな。パワーメインの子が続いたから、次は魔法系よね?』


うきうきと探しているけど、すぐに見つからない。

『あら? さっきまで前のボスの子がいたはずなんだけど…』


成長前に以前の子達は一掃する。新しい空間には新しい間取りと、それに相応しい子を配置する為だ。


その為にお互い戦わせ、残った一番強い子を新ボスに作り替えるのがダンジョンボス作りのセオリーなのである。



『うーん。居ない? そんな事ないはず』

神経を研ぎ澄ませて体の中を探ると、弱々しい反応を見つけた。


『あ、いたいた』

2階と3階の間に引っかかっているそれに、焦点を合わせる。


『前のボスの子と違う…。下剋上しちゃったのかしら』

お互いを戦わせると、大抵はそれまでダンジョンボスだった子が勝ち残るのだが、極まれに格下の子がダンジョンボスだった子に勝つ事があると姉様達に聞いた。



『ううん? こんな子いたっけ?』

よーく見ると与えた覚えのないギフトを持っている。



『あら、そとの子じゃない』

本来自分のダンジョンボスは自分の力で作り出したものを使うのがセオリーだ。


だが、一からダンジョンボスを作り出すには力も使うし時間もかかる。成長したばかりの今の自分にはそれが惜しかった。


使うなら新しいトラップや空間の装飾に使いたい。



『まぁ…、いっか。ほとんど死にかけてるし。影響ないでしょ』

ダンジョンマスターは妥協してその弱々しい命にボスとしての力を与える事にした。



『うーん、いま動かすと壊れそうね。仕方ない。まずは、ここから動かせるくらいまで修復して…』

自分が作り出した魔物以外の修復は難しい。慎重に慎重に弱い自動修復の呪文を唱えると、次のボスに使おうと思っていた属性の種を埋め込んだ。



『よし! 動かせるまでこの子が回復したら最下層に移動させれば良いわね』


そう言うと、ダンジョンマスターは自身の身のうちに意識を広げる。



『あぁ、新しい空間! 何を置こうかなー。あら!』


1階層に今までになかった気配を感じ、意識を集中するとそこに魂の気配を見つけた。



『魔法系の子じゃない!』

そこには今までのパワー系の魔物ではなく、魔法系の力を持った魂が地面に転がっている。ダンジョンマスターはそれを見て驚喜した。ダンジョン内で死んだ生き物の特性やスキルはダンジョン内で再利用できる。


だから1階層は近場の獣を匂いで誘い込み、特性を活かして猪や狼の魔物にしていた。2階層も死んだ冒険者達のスキルを活かしてゴブリンに変えた。


だが、魔除けのアイテムや結界を使い最後まで生き残って逃げられる事が多いヒーラーや魔法使いの魂のストックは持っていなかったのだ。



『回復系1種と火魔法系が2種類も! ラッキー!』

さっそく転がっている魂を回収しようとするが、上手くいかない。



『うん? この魂達、つがいなの?』

回復系とその近くにいる火魔法系の魂は、しっかりと絡み合い個別に回収できなかった。



『仕方ないわね。別々の階に配置しようかと思っていたけど、こんなに絡み合っているなら一緒に配置するしかないわね』

ダンジョンマスターがふたつの魂を一緒に掴むと大人しくなったので、とりあえず3階に移動させた。



『ちょ…! こいつ! なんでこんなに抵抗するのよ?!』

残る火魔法系の魂は、回収しようとすると激しく抵抗してその場にしがみついて甲高い悲鳴をあげる。



生前の魔力や執着が強いほど、良い魔物に変えることができるのだが、それも場所による。


ここはダンジョンの入り口で、セオリー的には弱い魔物を配置して、奥へ奥へと誘いこめるようにする場所なのだ。



この魂の執着は強くてダンジョンボスにしても良いくらいのポテンシャルがあり、たくさんのご飯を狩れる良い魔物になるだろう。



だが、ダンジョンのしょっぱなに、こんな執着の激しい魂から生まれる魔物を配置すれば、ご飯達は躊躇してなかなかダンジョンに入ってこない。たくさんのご飯が手にはいらなくなると成長できなくなる。


ダンジョンマスターはその魂をその場から引き剥がすべく力を込める。



その力に甲高い悲鳴をあげ地面に爪をたて抵抗する魂を、ダンジョンマスターは数秒後、ぎゅっと圧縮して小さなたまにすると、4階に移動させ大岩の中に埋め込んだ。

埋め込まれてもなお、その珠は悲鳴を上げ続けていたが、その声は岩の中で響くのみだった。



『あー、無駄な力を使っちゃった。ちょっと休憩』

そう言うと、ダンジョンマスターはすぐにまどろみ始め、ダンジョンは静寂に包まれた。



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