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霹靂‐へきれき‐のシルト  作者:


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18/31

生き残った奴が全てをかっさらう


5秒、10秒…。


辺りは、先程まで戦闘をしていたとは思えないほどの静寂に包まれた。



ーやった…か?


小岩の陰に隠れていたクァズが、そろそろと顔を出す。ルツはアールに覆いかぶさり、サンディは消えかけた暴走魔法陣の中で蹲り肩で息をしていた。


トロールから目を離さずにサンディに駆け寄ると、MPを使い切ったサンディはMP回復薬を求めてポーチに手をかけようとしていた。クァズが代わりにポーチを開けるが、中はすでに空だった。



「くぅ…、いったーい」

「おい、大丈夫か?」

「うん…、! トロールは?!」

「あそこだ」

「あ、死んだ?!」

「ああ」


二人はよろよろと立ち上がると、体中から黒煙を立ち昇らせるトロールに近づいていく。それをクァズとサンディは無言で見ていた。



「あたし達、トロールに勝ったの?」

「あぁ」

「やったやったやった! ほんと、しぶとかったよね! 最後はサンディがとどめを差したけど、あたしの火球も良かったよね?」

「ああ。アールがトロールの体力を削ったおかげだ」



手強いトロールに勝ったのと、ルツに褒められてアールは浮かれる。



「ねぇ、これ。もう変異種? 変異種だったらジェムはいつものより高く売れるよね?!」

「多分…な…」


ザンッ!


ルツが返事を言い切らないうちに、胴体が真っ二つに分かれ、横にずれ落ちていく。それまでアールを優しく見ていたルツの目は見開かれ、ルツの不自然な視線は地面に落ちていく。


ーえ?


地面から見上げる上半身だけのルツの視線と目が合った時、アールの腹から赤く染まった何かが弾けるようにこぼれ落ち、視界が赤く染まる。




目だけをトロールに向けると、先程まで背中を向け丸まっているように見えたトロールと視線が合う。

消滅しかかったトロールの手にはクァズの剣が握られていた。


そして消滅間際、トロールがにやりと笑ったように見えた。


ー痛い痛い痛いいたいイタイ…!!!!


アールはゆっくりと、それ以上何かをこぼさないよう腹に手をあて仰向けに倒れた。




「あーあ、いつも言ってたじゃねぇか。とどめ刺したと思ってもジェムになるまで近づくなって」

気がつくと、クァズがアールの側にきてアールを見下ろしながら呟いた。



「ハァハァハァ…、み…見てないで…た…助け…てよ」

「うーん、ルツは無理だな。真っ二つだからよ。お前は…高級ハイポーションならな」

「持ってる…でしょ。ハ…イポーション。知ってるん…だから」


高級ハイポーションは欠損した四肢は再生できないが、どんな怪我でも修復できるポーションだ。


だが完全に治療できるわけでなく、あくまで修復で修復された個所は生まれたての赤ん坊のように弱く、それなりの時間か治療を受けないと元通りにはならない。


腹を掻っ捌かれたアールは高級ハイポーションを使って傷を修復できても自力での移動は無理だ。クァズの手を借りなければ、ダンジョンを出ることすらできない。



クァズは片膝をつくとアールの耳元で囁いた。

「なら、俺の女になれよ」

「…な…に…言って…」


「飽きたんだよな。あれに。それに女2人抱えて逃げられるほど俺はマッチョじゃねぇ。どちらか1人だ。お前、生きてここを出たいだろ?」

にやにやとクァズはゲスな薄笑いを浮かべる。



「んふ。ふ…ふふ」

アールの笑みを了承と受け取ったクァズは、腰のボーチに手を伸ばす。


ペッ!

口に溜まった血をアールはクァズに吐きかけた。



「きもっ!」

頬についた血のりをクァズは袖口で拭いとると、憎々しげに見上げるアールの脇腹を蹴り上げた。はみ出した臓腑が波打つように空を舞う。




「ぐぐうああぁ!!」

「じゃあ、ここで死ぬんだな」

あまりの痛みにのたうつアールを冷めた目でクァズが見下ろしてルツからタガーを、そして赤子の頭ほどあるジェムと自分の剣を回収するとサンディのいる場所に走り出した。



ール…ツ…


最後の力を振り絞り、見開いた目をしてアールに手を伸ばしているルツに向かってアールは躙り寄る。


だが、アールが絶命の瞬間まで伸ばした手は、ルツの手に触れることはなかった。




「あんた…」

「回収してきたぞ」

クァズの手には腐った沼色の禍々しい光沢をしたジェムがあった。


「あの子達は?」

「死んでた」

「死にかけの魔物に不用意に近づくから。それよりアールはMP回復薬持ってた?」

「いや、使い切ってた」

そう言うとクァズはジェムをマジックボックスにしまった。



「ちっ、使えない。ねぇ、手を貸してよ。なんだか地鳴りが大きくなってきてるのよ。早く出ないと巻き込まれ…」


そう言いながらサンディはクァズの肩に手を伸ばし、立ち上がろうとした。MPが空っぽのサンディがよろけるようにクァズの方にもたれかかった時。


ーえ?


サンディは自分の胸に深く刺さるルツのタガーと、優しい笑みを浮かべるクァズを見比べた。



「やっぱ、予定変更な。俺達はダンジョン成長期の変異種かもしれねぇボスを死闘の末、なんとか討伐した。だがよ、不幸にも絶命間際のトロールに反撃を食らって俺は仲間を三人失うんだ」

「な…」


「ルツとアールはトロールに。お前はルツが投げたタガーに誤って当たった。俺は入り口までお前を運ぶが、当たりどころが悪かったお前はここで命を落とす。回復薬もポーションも切らしていて、俺はどうしようもできなかった」

「…ど…う…して」


「どうして? 飽きたんだよ。抱いても面白みが無くなって小五月蠅こうるさくて束縛の激しいお前にな」

そう言うと、クァズは深く差したタガーをぐるりとねる。


ーひぅ…



「そうそう、俺のマダムはお前だけだ。前代未聞のダンジョンの成長期に遭遇して長年の相方を亡くした俺は、お前を忘れられないってね。泣ける話だろ? 若い女冒険者が好きそうな…なぁ? あぁ、もう聞こえないか」


そう言うとずるずると崩れ落ちるサンディのスティックホルダーから杖を抜き取り、クァズはサンディを突き飛ばした。


ぐたりと横たわるサンディの首を触り息が事切れているのを確認すると、クァズはダンジョンの入り口に向かって全力で走り出す。


それまで微震だった地鳴りが大きく揺れ始めた。


クァズがダンジョンの入り口を抜け振り返ると、ダンジョンの入り口は跡形もなく消え、ただの岩肌になっていた。


そこがダンジョンの入り口だと示すのは、ギルドに打ち付けられた錆びた看板だけだった。


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