黒猫ツバキ、可憐な少女が憧れの歳上の女性に告白する瞬間をコンニャクと一緒に見守る(後編)
ツバキ「今回のお話にタイトルをつけるとしたら、さしずめ『ロマンチック・ウィンター・コンニャク・ラブストーリー』になるのニャ」
チリーナ「素敵です!」
コンデッサ「夜道で巨大コンニャクに出会うとか、普通にホラーだぞ」
冬の夜道で、いきなり巨大コンニャクに遭遇してしまったコンデッサ。
魔女である彼女も、さすがに、こんな経験をしたのは初めてである。(←当たり前)
『ム。魔女よ。〝コンニャクごとき〟とは、聞き捨てならんセリフだな』
「うわ! 喋ったぞ、このコンニャク」
連続して起こる、異常すぎる事態。
とっさにコンデッサは、己が耳を疑う。もちろん眼前の光景に、目のほうも疑っている。
自分の目と耳への信頼を失いかけているコンデッサへ、チリーナが現状の説明をした。小さな声で、遠慮がちに。
「あの……お姉様。私、おでんの三角コンニャクを、魔法で大きくしてみましたの。そしたら、どういうわけか、コンニャクに知性が芽生えてしまって……」
「知性!? たかがコンニャクに? 冗談だろ?」
『魔女よ。お主の発言――〝たかがコンニャク〟の〝たかが〟の部分は撤回してもらおう』
「コンニャクのくせに、偉そうだな」
『実際にコンニャクは、偉いのだ。コンニャクは〝世界に生まれた奇跡〟であり〝人類の叡智の勝利〟なのだぞ』
「ずいぶんと大げさなことを……」
『〝大げさ〟では無い! 魔女よ。お主は、コンニャクがどうやって出来るのか、知っているか?』
「……訊かれてみると、知らないな」
『コンニャク芋から、出来るのだ』
「芋!? あのプニプニした食べ物の元は、芋なのか?」
『そうだ。コンニャクにするには、芋を3年間も育てる必要があるのだ。しかも冬になったら掘り起こして、春に植え直す作業もしなくてはならない』
「それは大変だな……で、育った芋を、すりつぶして固めるのかな?」
『コンニャク作りは、そのように単純なものでは無い! まずコンニャク芋を良く洗って皮をむき、適当な大きさにカットしたのち熱湯で茹で、すりおろしてペースト状にして、しばらく置いてから水酸化カルシウムと混ぜ合わせ、その際には練りすぎてボソボソになったり、あるいは練りが足らなくて脆くならないように気を付けて、型に入れて形を整え、そこから加熱凝固を行って、最後にお湯でアク抜きをするのだ』
「そ、そんなに手間が掛かっていたのか……知らなかった……」
『どうだ? 魔女よ。コンニャクの偉大さが分かったか?』
「ああ。〝たかがコンニャク〟なんて言って、悪かった」
『分かれば、良い』
「しかしコンニャクが偉大な食べ物であることと、お前に知性があることは、全くの別問題だが……あと、お前、どこから声を出しているんだ?」
コンデッサと巨大コンニャクの話し合いは、長々と続いている。
ツバキは前足で、チョイチョイとチリーナをつついた。
「チリーニャさんは、ご主人様に告白をしないニョ?」
「は! そうでした! コンニャクの話に聞き入ってしまい、当初の目的を忘れてしまうところでした」
「チリーニャさん、うかつニャン」
チリーナはコンデッサへ、身体を寄せた。
「お……お姉様!」
「ん? どうした? チリーナ」
「お姉様、お願いします! 私と……私とコ……コンニャクしてください!」
(しまった! 噛んじゃいましたわ)
気が逸るあまり、チリーナは〝婚約〟を〝コンニャク〟と言い間違えてしまった。
痛恨のミスだ。
「『コンニャクして』とは、どういう意味なんだ? チリーナ」
首を傾げるコンデッサに、巨大コンニャクが、訳知りな様子で語りかけてきた。
『そんなの決まっているであろう、魔女よ。その少女は「コンニャクのように水分が多くて、アッサリしていて、低カロリーで、ノン・ストレスでヘルシーな……つまり瑞々しくて、淡泊で、落ち着いていて、楽しくて健康的な関係になりましょう」と言っているのだ』
「そうだったのか。コンニャクよ。お前、頭が良いな」
コンデッサが、コンニャクを褒める。
コンニャクのどの部分が頭なのかは、不明であるが。
チリーナのほうへ、コンデッサは振り向いた。
「承知したよ、チリーナ。まぁ、今までの関係と、たいして変わらないと思うが……これからは、そんな風に付き合っていこう」
「え、ええ。そうですわね……お姉様」
そうチリーナは返事しつつも、心の中では涙に暮れながら、必死に訂正の言葉を並べ立てていた。
(違います~! 私はお姉様とドロドロと濃厚で、激重で、熱くて、ベタベタと密着した刺激的な関係になりたいのです~!)
で。
「オカしいですわ。冬の大三角が側にいてくれましたのに、どうしてお姉様への告白が上手くいかなかったのでしょう?」
チリーナが呟いていると、〝冬の大三角〟という単語を聞きつけたコンデッサが問いかけてきた。
「チリーナは、冬の大三角を知っているのか?」
「ハイ……」
「ふふ。チリーナも女の子だな。ロマンチックな世界に興味があるとは――」
「やっぱり、お姉様も〝コンニャクはロマンチックだ〟と思われるんですね?」
「違う! 夜空の星や星座の話だ!」
コンデッサは、今夜は喚きっぱなしだ。
チリーナとツバキは、きょとんとした顔つきになった。
「え? 〝星座〟とは何でしょう? お姉様」
「〝星座〟って、ニャニ? ご主人様」
「そうか。古代と違って、今の世界には〝星座〟は無いんだったな」
コンデッサは古代世界における《冬の大三角》や《星座》について説明した。
「あの明るい星が《シリウス》で、その上にある星が《ベテルギウス》で、左にある星が《プロキオン》だ。3つの星を線で結ぶと、正三角形が出来るだろう?」
「本当ですわ! ロマンチックですね!」
「キレイだニャン~」
コンデッサは夜空を見上げた。
チリーナも見上げた。
ツバキも見上げた。
コンニャクも見上げた。
ボロノナーレ王国の夜の空に《冬の大三角》が輝いていた……。
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♢おまけ
後日の、コンデッサとチリーナの会話。
「で、チリーナ。あの巨大コンニャクは、その後どうしているんだ?」
「伯爵家で働いています」
「ええ!?」
「我が伯爵家では、領内において、コンニャクの生産を始めましたの。そのマネージャーをしておりますわ。コンニャクの全てを知り尽くしたかのような適切な指導をするため、従業員にも、関係者の間でも、極めて高い評価を得ています」
「それは、まぁ、アイツ自身がコンニャクなので、コンニャクのことは熟知しているだろうよ」
「そして現代にも古代の星座の概念を甦らせようと、布教活動をしています」
「……なんで?」
「コンニャクの星座のためです」
「???」
「ボロノナーレ王国でコンニャクの評判を高め、いつかは冬の大三角をボロノナーレ王国認定の星座第1号――《コンニャク座》と呼ばせるのだ! と意気込んでいるのですわ」
「それは、無理だと思う……というか、無理だと思わせてくれ」
♢
「そして遠くない未来、ボロノナーレ王国の冬の夜空は《コンニャク座》《だいこん座》《たまご座》《はんぺん座》《がんもどき座》など、おでんの具まみれになってしまったのニャ……」
「ツバキ! おかしな予言をするな~!」
次回は「黒猫ツバキ、文豪を目指す」です!




