黒猫ツバキ、可憐な少女が憧れの歳上の女性に告白する瞬間をコンニャクと一緒に見守る(前編)
※このエピソードのキーワードは「冬の大三角」です。
冬の大三角とは、北半球の冬の夜空において「おおいぬ座の1等星シリウス」「こいぬ座の1等星プロキオン」「オリオン座1等星ベテルギウス」という3つの星を結んで出来る、大きな三角形のことです。
あとチリーナはツバキのことを普段は「駄猫」と言っているのですが、今回は相談に乗ってもらっているため「ツバキさん」と呼んでいます。
冬のある日。
ツバキはチリーナに呼び出された。
♢
ここは、伯爵家のチリーナの自室。居るのはチリーナとツバキだけだ。
「チリーニャさん。ご主人様じゃ無くてアタシを自宅に招待するなんて、いったい何の用なニョ?」
「ツバキさん。私、貴方に重要な相談事がありますの」
「どうせ、ご主人様に告白するとかなんとかニャン」
「なんで、分かりましたの!? ツバキさん、貴方はもしや、超能力猫なのですか?」
「アタシは、使い魔の猫にゃん。チリーニャさんって本当に、ご主人様のことばっかり考えてるニョね」
「私、次にお姉様に会うときには〝愛の告白〟をするつもりですの!」
「すれば良いニャン」
投げやりに返事をする、ツバキ。
これまでにもチリーナは何度もコンデッサへ〝告白もどき〟の行為をして、そのたびに失敗しているため〝ど~せ今回もチリーニャさんが空まわりするだけニャン〟と思っているのだ。
「単なる告白ではありませんわ。お姉様へ婚約を申し込みます!」
「にゃ! 婚約!?」
「ええ。ですから、失敗は許されませんの。確実に成功させなくてはなりません」
「チリーニャさん。あまり焦らにゃいほうが……そういうニョは、段階を踏むのが大切ニャン」
さすがにチリーナがフラれるのを見るのは忍びない……と考えてツバキは忠告するが、チリーナは変に自信満々だ。
「心配は要りません! ツバキさん、この書物を見てください」
「ニャニ? これ」
「古代の冊子で……《解読魔法》を使用してみたところ〝17歳の少女の日記〟であることが判明したのです!」
「チリーニャさんと、同じ歳にゃん」
「そのとおりです。しかもその内容は〝5つ歳上の女性へ想いを告げ、互いの愛を確かめ合った〟という、素晴らしいものなのです。この日記の記述を参考にして、私はお姉様へプロポーズをします。良い先例がある以上、それを真似すれば、成功するのは間違いないはず!」
「そうかニャ~?」
「ただ1つだけ、困った問題があって、それで私、ツバキさんから何かヒントを貰えればと思って……」
「どんにゃ事?」
チリーナは、日記の内容をボロノナーレ王国の言葉に翻訳しながらツバキに教えた。
『冬の日の夜。
わたしはお姉様と土手の上を歩いた。
おでんの屋台を通り過ぎた。
夜空を見上げる。
立ち止まった。
冬の大三角が見守ってくれている。
わたしが「ロマンチックですね」と言うと、お姉様が「そうね」と言う。
ちょっと、沈黙。
頑張れ、わたし!
勇気を出すんだ!
わたしはお姉様へ「婚約してください!」と言った。
お姉様は微笑み、頷いてくれた。
わたしとお姉様は、静かに抱き合った。
こうして、わたしとお姉様は結ばれた。
これも全ては、冬の大三角のおかげだ。
ありがとう、冬の大三角』
「この日記の中に出てくる《冬の大三角》というワードの意味が分からなくて――」
「冬にょ大三角……三角……三角形……」
「ツバキさんはお姉様と、いつも一緒に居るでしょう? お姉様は古代語にも詳しいし……心当たりはありませんか?」
「にゅにゅにゅ」
ツバキたちの時代に、星座などの天文集合体の概念は無い。
そのため、ツバキもチリーナも《冬の大三角》の正体が分からない。
やがてツバキはピコーン! と何かに思い当たった顔になった。
「分かったニャ!」
「え! 本当ですの? ツバキさん」
「こにょ日記で注目すべきポイントは『おでんの屋台を通り過ぎた』って文章ニャン」
違う。
注目しなければならないのは、そのあとの『夜空を見上げる』の文章のほうである。
「でも、ツバキさん。《おでんの屋台》と《冬の大三角》に、どのような関連性が……?」
「チリーニャさん。よく考えるニャン。おでんが1番美味しい季節は、いつニャ?」
「それは……おでんは春も夏も秋も美味しいですけど、やっぱり冬に頂くのが――」
「そうニャン。おでんは《冬》に食べるのが最高で、そして、おでんの具の中には紛うことなき《三角》の品があるニャ」
ツバキの発言を聞いて、チリーナは俯いて考え込み、ついでハッと顔を上げた。
「分かりましたわ! コンニャクですね!」
「正解にゃん。おでんのコンニャクは、ほとんどが三角形をしてるニャ」
「考えてみれば、不思議ですわね。どうして、おでんのコンニャクは三角の形をしているのか……」
「そんにゃの、知らないニャ。ここで大事なにょは〝《おでんのコンニャク》こそ《冬の三角》である〟という驚きの事実をシッカリと認識することニャン」
「な、なるほど」
確かに、驚きである。
ツバキとチリーナの勘違いっぷりが。
「これで、チリーニャさんの疑問は解決したニャンね」
「まだです。日記のワードは《冬の三角》では無くて《冬の大三角》となっておりますわ」
「その答えは簡単ニャ。《おでんのコンニャク》じゃ無くて《おでんの大きなコンニャク》だったのニャ」
「大きなコンニャク……?」
「つまり《おでんの巨大コンニャク》に見守られながら行ったからこそ、女の子のお姉様への告白は成功したのニャ」
「ツバキさん、見事な状況解説です。貴方に相談して、本当に良かったですわ!」
「アタシは賢い猫なのニャ」
ツバキとチリーナへツッコミを入れてくれる親切な人は、ここには居ないのであった。
♢
冬の夜。
チリーナはコンデッサを誘い、土手の上を歩いていた。2人のあとから、ツバキもトコトコついていく。
「お姉様、寒くないですか?」
「ちょっと……な」
しばらく進み、チリーナが立ち止まった。
コンデッサも、その場で動きを止める。
2人の吐く息が白い。
ツバキは心得たふうに、チョコンと丸くなって待機している。
コンデッサは察した。
(チリーナは、この場所へ私を連れてきたかったらしいな。ここが目的の地点なのは、ツバキも了解済みか?)
澄んだ夜の空気。
美しい星空。
耳に心地よく響く、川の音。
〝ロマンチックな雰囲気〟と言えないことも無い。
だが。
しかし。
けれども。
「……お姉様」
「……なんだ?」
「ロマンチックですね」
「そんなわけ無いだろ!!!」
コンデッサは思わず、大声を出した。
何故なら、コンデッサとチリーナ――2人の側に、人間に匹敵する大きさの三角コンニャクが立っていたからだ。
一辺をピタリと地面につけて
天を真っ直ぐ指し示す三角の頂点は、チリーナの頭と同じ程度の高さで
幅は分厚く、質量はたっぷりあり
三角面を悠々とコンデッサたちのほうへ向けている。
夜道に突如として現れた、巨大コンニャク。
意味不明で、奇々怪々だ。
なにより理解不能なのは、そんな得体の知れない状況に直面しているにもかかわらず、チリーナもツバキも平然としていることだ。
コンデッサは混乱した。
(え? なに? このでっかいコンニャク。夜道で巨大なコンニャクに出会う経験って、普通にするものなのか? チリーナもツバキも『コンニャクが居るのは当たり前』みたいな顔をしているけど、この事態に異様さを覚える私の感性のほうが間違っているのか? そんな筈はないよな?)
コンデッサは恐る恐る、口を開く。
「あ~、え~と、チリーナ。どうして、こんなところにコンニャクがあるのか、お前、分かるか?」
「ハイ。私が用意いたしましたの」
恥ずかしそうに答える、チリーナ。
コンデッサ、唖然。
「なんでだ!? チリーナ! どんな意図があって、コンニャクごときを夜道に持ってきたんだ!?」
その時。
『ム。魔女よ。〝コンニャクごとき〟とは、聞き捨てならんセリフだな』
「うわ! 喋ったぞ、このコンニャク」
冬の夜道で、喋るコンニャクに出会ってしまったコンデッサ! チリーナの告白は、果たして成功するのか……?
後編に続きます!




