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蝉のように儚く  作者: 櫻井賢志郎
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きっと今日を終えたらこのカフェに誰かと来ることは当分ないだろうな。そう思いながらいつものメロンソーダを頼む。


「俺はさ、2人といるのが好きだっし、2人を見てるのが好きだっだんだ。」

突然和馬がそう口に出す。

「優香はいつも明るくてちょっとアホだったけどどこか寂しそうに過ごしてて、しずくはいつも冷静なようで感情的な部分があったりして全然違った2人が話してるのを見るのが好きだったんだよ」

「うん」

「俺もさたまに思ったことあったんだ、この中に俺は必要ないんじゃないかなって。でもさ、俺はその場にいたいからずっとい続けたしそうして良かったなって今でも思ってる。きっと優香はしずくのことが好きだったけどしずくは鈍いからそういうの全然気づかないんだろうなとか、どうせ映画見に行った時も何も考えてなかったんだろうなとか思ったりしてさ。」

「なんだよそれ」

「一回さカフェにしずくが遅れてきた事あったろ?その時に優香に聞いたことあったんだ、しずくのことどう思ってるのかって」

「そしたら?」

「ちょうど良くしずくが来ちゃって聞けなかった」

「タイミング悪すぎだね」

「本当だよな、まあでもなんとなく優香は本当のこと言わなかった気がする。優香ってあんなんだったけど実はすごく色々なこと考えてたし、きっと関係がどうとか思って言わなかったと思う。だからまあ、実際のところはわからないんだけどね」


ことごとくタイミングの悪い自分が嫌になったけど和馬の言ってることも何となくわかる気がした。

優香はたまに何考えてるかわからなかったり、急に寂しそうな顔をしたりする事があったから本当は何を考えてるのかわからなくなる事があった。

「でもやっぱり寂しいよな」

そう言った和馬の目には今にも溢れ出しそうな涙が溜まっていた。

初めて見る和馬の表情にこれから先訪れることのない3人での時間、今まで過ごした3人の時間がどれだけ大切な時間だったのかを感じて僕も涙を流しそうになる。

それを隠すためにメロンソーダを一口だけ飲む。


いつもと変わらない味、3人で飲んだあの時と同じ味のメロンソーダを飲んで和馬とこれから先自分のやるべきことを頑張って必死に生きようと約束をする。



今僕たちにできることが何か明確にわかるわけではなかったけれど、必死に生きなきゃ行けないと思った。何か凄い人になる必要はないけれど、優香の分も生きて、生きて僕はこんなふうに生きたよって自信を持って言えるくらいに生きなきゃと思っていた。




大学生になった僕は沢山のことを学んだ。

特に子供の福祉に関わる事には敏感になっていて、多くの学びがもう遅いと僕に突きつける。

虐待を受ける子供の特徴や周りの人が取るべき行動、そんなことを学びながらもっと早くにしれていたらと常々思っていた。


きっと優香が長袖を着ていたのはアザを隠すためだったしアザがなかったとしても過去にあった傷がどこかにあるのではないかと言う恐怖心から半袖を着る事ができずにいたんだと思う。


いつもお昼が一緒だったのもそうだった。

コンビニで買ってばかりできっと栄養が偏っていたんだと思う。優香はたまたま容姿に現れにくかったけれど。


それに周りにも気付く事ができた大人は沢山いたはずだった。

担任も近所の人も、バイト先の人も。通報だってできたはずなのにそれをしなかったのはきっとこの時代がそうさせていたんだと思う。何かを言えば訴えられてしまう学校の先生、厄介な事に首を挟めば自分自身が損をしてしまう時代だからたとえ気付いていたとしても実際にそうする事ができなかったんだと思う。


確かに本人が望んでいるかはわからないし、何をしてあげる事が良いのかを自信を持って行動に移せる人はそういないと思う。

それでも行動を起こさなかった事で1人の命が失われてしまうことの恐ろしさを体験した今では例えおせっかいだったとしても何か行動に移すべきだと思っている。

実際はそんな簡単な事じゃないし、色々な事情がある事も今なら何となくわかる。これから僕はたくさん学んでどうして行くのがいいのかを知る必要があった。


沢山の現場を見て沢山の制度や支援を知りながら沢山の人を助けられる人になりたい不純だった僕の将来の夢も少しずつ形を成していって気が付けば僕の意思でなりたい職業はカウンセラーだと言えるようになっていた。


きっと優香は自分が辛い思いをしていたから、同じ思いをしている人を救いたいそんな思いでカウンセラーを目指していたんだと思う。

今でも僕は優香はカウンセラーになるべき人だったと思うし誰よりも人の痛みをわかってあげられる人だったと思う。

もし今も優香が生きていたなら必死に沢山のことを学んで必死に沢山の現場を見て過ごしていたと思うと胸が痛くなる。

僕は今同じように取り組む事ができているのだろうかそう思いながら今日も大学の授業に取り組む。


大学の講義の中で、人が手をかけた動物は稀に自殺に似た行動をとる事があるという話があった。野生の動物ではそのような行動は見られないけど飼育された動物が稀に見せるらしい。

その話を聞いて、どうして人は簡単に死んでしまうのだろうと考えた。形は様々あるけれど人は簡単に死んでしまう。天敵がいるわけでもないのに、人同士が傷つけ合って死にまで至ってしまう。

きっとこれは人が多くを手に入れてしまったからなんだと思った、多くを手に入れて一見どんな事にも不自由がない生活だから不自由を感じたり、格差を感じた時に自らを傷つけたり相手を傷つけてしまうんだと思う。


貧困なんかもその一つだ。世界を見れば文字も書けずたった数時間を生きるのに必死になっている人たちがいる。その人たちから見ればきっと僕たち日本人は裕福な暮らしをして安全な中で生活をしているだろう。でも、同じ日本人の中で見ればやっぱり違いがあって、毎日のように高級な食べ物を食べている人から毎日同じものを味わう事もなく食べてる人だっている。どちらも食べる事に関しては同じだし生きる上では充分かもしれないけれど、片方の生活を知っているだけでもう片方が劣って見えてしまう。

劣っている方はその差を埋めようと犯罪に手を出したり、時には自らを死に追いやってしまう事だってある。

そうやって比べてみれば日本の中にも多くの貧困は存在している。


大学院に行ってからは実際に多くの現場を見る事になった。施設や少年院なんかにも行ってそこにいる子どもたちがどんな子でどんな特性を持っているかを学んだ。

優香のような生活をしている子は沢山いて、その中の一部の子たちが施設にいるんだと思う。

生活保護をもらっているかや、通報があったか、色々な偶然が重なって施設に入る子もいれば、偶然に出会える事ができずに辛い日々を送っている子もいる。

どちらが不幸かと言われればこっちと決める事なんて当然できないし、どちらも辛い日々だった事に間違いはない。

ただ一つ言える事があるとすれば、まだ誰にも気付いてもらえずに辛いだけの日々を送っている子が沢山いるんだと思った。


大学院を無事に卒業した僕はカウンセラーとして中高生を相手にカウンセリングを行っていた。いわゆるスクールカウンセラーだ。

沢山の現場を見て子どもに限らず多くのカウンセリングを必要としている人がいる事を知ったけれど、年々増えている虐待の数が僕をスクールカウンセラーに後押ししていた。


虐待が注目され多くの取り組みが行われながらも中々解消されることもなく数は増えていく一方で、僕自身も何をしていく事がこの問題の解決につながっていくのかを必死に探していた。

子どもと関わる中で同じ虐待でも中身が全く異なるのが現実で、明らかなアザを作ってくる子もいれば心にあざを作ってくる子どもも多くいた。


時には優香のように自ら命を絶ってしまう場合もある中で命を絶たなかったとしても生きながらその苦しみ、痛みと戦う事がどれほど大変な事なのかをいつも想像する。


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