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蝉のように儚く  作者: 櫻井賢志郎
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15

もし死んだら両親は少しは悲しんでくれるかな。きっとそんなことはないけれど、もしそうだったらなんか少し嬉しいかもな。

昔一緒に行った海が綺麗だったこと、あの景色があったからしずくと仲良くなれたことを思い出す。

私にとっての家族での幸せな記憶。弟が生まれてからも幸せなことはあったのかもしれない。それでも私が思い出す1番な記憶はこの記憶だから、この記憶だけはずっと私の中にとっておきたい。

そう思いながら机の上にあった当たりと書かれたアイスの棒をポケットに入れる。海に行ったあの日の帰り道お父さんが買ってくれた、アイスが当たったのが嬉しくて今でもずっと大切に持っていたものだった。これを持っていればきっと次の人生でもまた幸せなことがある。そう思えた気がした。

この棒を持っていたらもしかしたら、違った形でもう一度、、



最後にしずくに思い伝えた方がよかったかなとも思ったけれど、きっとこれでいいんだと思う。

何も伝えず、しずくの想いも知らなければただ私が大好きだったしずくのまま、私と一緒にいてくれたままの和馬としずくのままに死ぬことができるのだから。

私にとっての今の1番の幸せをくれた2人。最後まで関係が変わらなくて良かったなって思う。2人はどう思っていたかわからないけれど私は沢山の幸せと愛をもらう事ができた。

だから、その幸せを壊さないままにこの世を去る事にする。

2人はきっと悲しむだろうな。もしかしたら怒るかもしれないな。そしたらちょっと嬉しいかもしれない。しずくが私の家に手を合わせて実は好きだったなんて言ってくれるかもしれないな。

そんなことを思いながら止まることのない大粒の涙が頬をつたう。


あーもっと沢山思い出を作りたかった。もっと沢山の場所に行けば良かった。こんな事になるならもっといっぱいありがとうとか言っておけば良かった。映画の時だってもっとツーショット撮ったし水族館だってもっと長い時間かけて回ったし文化祭の時だってずっと手を繋いでたのに。いつものカフェだってもっと大切に時間使ってたのにな。


考えれば考えるほど涙は頬をつたい沢山の思い出と沢山の後悔が頭の中を駆け巡る。

壁に貼ってあった写真の中から文化祭の時に撮った制服姿の3人で楽しそうに映る写真をそっと取ってポケットにしまう。


自分で選んだ事なのになぜこんなに涙が止まらないんだろう。

何でこんなにいろんな事が思い起こされるんだろう。

でももう戻ることなんて出来ない。戻ったらまたいつものように2人と楽しく過ごせるかもしれない。でもそれ以上に今ある苦しみが怖くてこれ以上この辛さに耐えられなくて、だからもう仕方ないんだ。そう思いながら

「たくさんの幸せな時間をありがとう。」

そう口に出してコードを首にかける。


3


「いつも長袖着てたのも虐待を隠すためだったんだと思う。優香と仲良かったこの仲でアザを見たことがあるこもいたくらいだから。」

和馬と話をする中で僕は自分の鈍さが嫌になった。

僕だって優香がいつも長袖を着ていることは知っていたし気になっていた。

このカフェで暑くないのかと聞いたことだってあるのに、なんで着てるのかなんて対して深く考えた事もなかった。


「服装のこととか実は優香の生活について少し気付いていたけど確証もなかったし勝手に口にするのも良くないかなと思って言えなかった。」

その言葉を聞いて、僕なんかより和馬はよく優香のことを知っていたんだと思った。


そんな話をしている中で優香の生活を考えるとたくさんの虐待を疑うヒントの様なものが出てきたのがわかった。


もし僕がもっと早くに知ることができていたなら何かを変えることができていたのかもしれない。

そんなことを考えてももう遅いんだという現実がただ目の前にはあった。


「しずくは優香のことどう思ってたの?」

「どうって?」

「いや、2人でいる時間も多かったんだし好きにならなかったのかなと思って」

「もちろん友達としては好きだったけど、付き合うとかそういうのではなかったと思う。」

「そっか。もしかしたらだけど優香はしずくのこと好きだったのかなって。まあもうわからないけど。」


そう言われて遺書の中にあった大好きの三文字が浮かぶ。大好きと書かれてたなんて口にはできないけれどましそうならやっぱら僕がもっと色々な事に気付けていればと思ってしまう。


もっと僕に知る力があれば、何かに気付ける心があれば変わった今があったかもしれない。そんな想いを胸にこれからの日々を僕は過ごしていく。


卒業式の日、僕と和馬は優香の家へ行き線香をあげさせてもらった。

優香のお母さんは僕たちが来た事に涙を流していたけれど、それがどんな意味の涙なのかどうして優香は死ななきゃ行けなかったのかそんな気持ちがひたすら頭の中にはあった。


線香をあげて明るく笑う優香の写真を見ながらあれからの数ヶ月僕と和馬は変わらず一緒にいた事、無事に大学に合格してカウンセラーを目指そうと思ってる事を心の中で伝える。

「優香はどんな子でしたか」

優香のお母さんが僕たちに聞いた。

「いつも明るくて元気な子でした」

和馬が答える。お母さんは泣きながら優香が何度か僕達の話をしてくれていたことを教えてくれた。

「私がちゃんと守ってあげなかったから」

「何かあったんですか」

「優香は家での事何も言ってませんでしたか」

「はい」

「私がもっと優香のことを見てあげていたら、優香のために何かしてあげられたらこんな事にはならなかったんです。」

そう言って優香のお母さんは優香の家での生活について話してくれた。


和馬からの話と全てがつながるかのように僕が知らなかったもう一つの優香の生活を知る事になる。

優香、ごめん。そう心の中で思いながら僕は優香に何もしてあげられなかったんだと改めて感じる。

もっとちゃんと優香を見てあげていたら。それは僕も同じだった、あんなに近くにいたのにあんなにたくさん話したのに何も見てあげることができていなかった。

きっと優香は知られたくなかったのかもしれないだから、僕たちには本当のことを言ってくれなかったのかもしれない。

それでも僕は優香に生きていて欲しかった。いつまでも一緒にいて欲しかった。

一緒に大学生になって、沢山のところに行っていたもの明るさでいつもみたいに僕に笑顔を見せて欲しかった。

何で何も言ってくれなかったんだ。

誰にもぶつけることのできない行き場のない感情を胸に抱えながら

お母さんにお礼を伝えて、家を後にした。家を出てすぐに僕は泣き崩れる。

あの頃に戻りたい。3人で過ごした日々に戻りたい。そう何度も心の中で叫びながら、ただひたすら涙を流していた。


「しずく、帰ろう」

和馬が優しく声をかけて手を差し伸べてくれる。和馬に起こされて僕たちはいつものカフェへと向かう。


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