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蝉のように儚く  作者: 櫻井賢志郎
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秋になってもうすぐ文化祭という事でクラスで準備をした。

私たちのクラスは縁日をやる事になっていたけど最後の文化祭という事で私もかなり気合が入っていた。

準備の期間は2人とだけじゃなくて色々な子と話すことが多かった。

あの時からかってきた男子や他の女の子たち色んな子と一緒に準備をして今までで1番楽しい準備期間になった。

なんだか普通の高校生になれた気がして私だけが場違いだなんて思わなくてもいい。そんな気持ちで毎日を過ごしていた。


やっぱり私もみんなみたいに進学して普通の大学生として学びながらサークルに入ったりたまに飲み会でオールしたりなんかして充実した日々を送ってみたい。そんな気持ちがこの期間で少しずつ強くなっていく実感があった。

今ならきっとしっかり説得もできるし、許してもらえるそう信じることができる様になっていた。


文化祭の当日は3人で色々な出し物を回った。メイドカフェをやっているクラスに入った時は和馬はノリノリだったけど少し恥ずかしそうにしてるしずくが可愛くてずっとみていたいと思ったりした。

お化け屋敷に入った時には純粋に怖かったからもあったけど2人の手を握ってて、初めてしずくと繋いだ手の感触を一生忘れない様にしようと思った。

他にも色々な食べ物を食べたり、出し物を見たりとにかく全部が2人といるとキラキラしていて今までの文化祭では感じたことがないくらいの楽しさ、ドキドキがそこにはあった。


たまたまシフトが一緒でしずくと縁日の受付をできる事になった。たぶん、和馬がそうシフトを組んでくれたんだと思うけど。

「高校卒業したくないなー」

「わかるよ。特に最近は楽しいから尚更だよね。」

しずくと同じ気持ちでいたことが嬉しくて

「うん。それにみんなと離れてまた1人になるのもやなんだよね。」

「大丈夫だよ、卒業しても会えるから!」

心から出た言葉だった。この楽しくて幸せが卒業を境にプツンと終わってしまう気がしてすごく寂しかった。でも卒業しても会える、会ってくれると言ってくれたのが嬉しくて最近ずっと思っていたことを口に出してみた。

「まあね!後私ね大学行く事にしたんだ!やっぱりカウンセラーになろうと思って!行くなら国立がいいんだけど!」

「いいと思う!優香ならなれるよ!」

「ありがとう!でもまだ親には言えてないから説得できればいいんだけど!」

「応援してるね!」


今ならきっと親も許してくれるし、応援だってしてくれる。

私も絶対上手に説得できる。

自信に満ち溢れていた。

もしダメだったとしてもきっと一緒にどうしたらいいか考えてくれるだろうし、せめて他のやりたいことはないのかとか相談くらいにはなってくれるだろうな。

頑張って伝えたらきっと何かいい方向に傾くに決まってる、そしたら胸を張ってしずくと和馬に私はこれからこんなふうに過ごすんだよって笑顔で伝えよう。

きっとなにかが良い方向に進めば最初とは違った形でも2人なら応援してくれる。


高校を卒業してもきっと何かに頑張っている私がいて、定期的に2人には会ってお互いの近況報告なんかしたりして、お互いを応援しあってこれからどんどん大きくなっていくんだろうな。


いつかきっとしずくにも想いを伝えて、付き合って一緒に色々な場所に行ってたくさん写真撮ったりするんだろうな。

そうだ、いろんなところのメロンソーダを飲みに行ったりするのも良いかもしれないな。

私たちが付き合っても和馬はあまりビックリしなさそうだけど、どんな形になっても3人はずっと一緒にいて、ずっとずっと下らないことで笑ったりして過ごすんだろうな。

これから先のことを考えて、たくさんの期待を胸にしていた。



数日経っていよいよ両親に伝える日が来た。

「私将来カウンセラーになりたいの。そのために大学に行って心理学を勉強したい。もちろんバイトだって続けるし必死に勉強してお金がかからない様に国立の大学に挑戦しようと思ってる。」

少しの恐怖と期待を胸に勇気を出して口に出す。

「ダメだ。」

即答だった。ちゃんとお酒を飲む前の機嫌が悪くなる前の状態でお願いをしたのにそれでもすぐにダメだと言われた。

「うちはお金もないし、まだ小さい弟だっているのに家族のために働こうとは思わないのか」

「でも、せっかく進学校に入ったし誰かのためになれる仕事をしたい。」

「家族のためにもなれないやつが人のためになれるわけがないだろ!」

涙が止まらなかった何日もなんて伝えようか考えた、なんて言われるかも想像した。でもそのどれよりもやっぱり現実は厳しくて、残酷だった。

「お願いします」

「ダメだって言ってるだろ!!」

「どうして私ばっかり。他の子はみんな大学に行くのに。」

いつも思っていたことを口に出す。何で私ばかり我慢しなきゃ行けないんだ人生を決める進路くらい私の好きなようにしたい。

「お前だけが我慢してると思うな!他の子がどうだとしてもお前はうちの子で親の言う通りにしろ!何でお前はわからないんだ!そんなんだからダメなんだ!言う事が聞けないなら出て行け!」


そんなやりとりを横目に母はただ黙って怒鳴り声に驚いて泣く弟を抱きしめていた。

これじゃあまるで私が悪いみたいだ、ただ心の奥底にずっとしまっていた気持ちを伝えただけなのに、分かってもらいたくて応援してもらいたくて必死に考えながらやっとの思いで口にしただけなのに。

あーそっか、ダメなんだ。お酒のせいなんかじゃない。最初から私は応援なんかされていなかったし、必要となんてされていなかったんだ。

母だってきっとこのやりとりが早く終わることを望んでいる。父が落ち着けばそれでいいと思っている。いつ自分に飛び火しないかただそれだけを考えているに違いない。

これから大きくなっていく弟は私なんかみたいに育たないようにって思ってるんだ。大事なのは結局私じゃなくて弟だけなんだ。

もう全部どうでもいいや、こんな家に生まれた時からこうなる事は決まってたんだ。次はもっと普通の家に生まれたい、別にお金持ちじゃなくてもいいから私の事を見てくれて応援してくれて、必要だと思ってくれる家に生まれてきたいな。


「いつもそうじゃん。私にだって言いたいことはあるのに、私だって守って欲しいのに。」

そう言って自室へと戻る。最後の心からの叫びだった。今までずっと言えなかったこと、でもずっと心の中で思っていたこと。

枕に顔を埋めながらひたすら泣いた。応援してくれたしずくのこと、たくさん想像したこれから先の人生。そのどれもが「ダメ」の一言で簡単に意味のないものに変わってしまった。

きっとしずくもガッカリするだろうな、あんなに応援してくれたのにやっぱり諦めることにしたなんて言ったら情けないとかダメなやつとか思われちゃうんだろうな。


どうして私はこの家だったんだろう。他の家ならやっぱりもっと幸せなことがたくさん待っていたのかな。

きっとそうに違いない、この家に生まれた時から私の人生は決まっていたし誰かのためにどころか私のために生きることさえ許されることはなかったんだと身に沁みる。


顔を横に向けた時にまた、コードが目に入る。

こないだとは違ってなんだか少しの安心感すら感じながらコードに手を伸ばす。

どこで見て覚えたわけでもなく気が付けば目の前には輪っかが完成していた。


大粒の涙を流しながらも紙とペンを用意する。

せめて2人には何か伝えなきゃ。そう無意識に思っていた。


和馬へ

初めてみた時から野球部だってわかる見た目で見た目通り声が大きくてでもどこか安心感のある和馬に出会えて良かった。

3人でカフェに行ったり私のわがままで水族館に行ったりしたね。

和馬の試合を見に行って、すごく感動したし野球をしてる和馬はすごくかっこよかったよ。

その姿を見て私も前向きになれたしそんなふうに誰かを感動させたり誰かのために何ができる人になりたいと思えた、ありがとう。

和馬はいつも私たちに合わせてくれていたけど、実は色々な事に気付いてるって私にはわかってたよ。

だからきっと私の秘密にも気付いてたと思う。しずくは疎いから気付いてないと思うけど、言わなくて大丈夫だからね!

少し情けないしずくをこれからもよろしくね。

和馬に出会えて良かったよ。ありがとう。

優香


きっと和馬は色々な事に気付いていたと思うもしかしたら私がしずくのことを好きな事にも気付いていたかもしれないし、生活のことだって知っていたと思う。

それでも和馬は何も言わずにいつも一緒にいてくれた。それがすごく嬉しかったし安心して一緒にいられた。

友達としてすごく大切で大好きな人だったな。



しずくへ

しずくとは三年生になって一番最初に話したね。

今でもあの時声かけて良かったなって思ってるよ。

しずくはあまり好きじゃないって言ってたけど私は海瀬しずくって名前がすごく好き。私の大好きな海が入ってるし名前を呼ぶたびに家族で行った海を思い浮かべたりしてたよ。

しずくのおかげで私の最後は楽しい思い出で溢れてたし、しずくと和馬のおかげで最後は夢にも向かおうと思えた。ありがとう。

結局説得はうまくできなかったんだけどね。

一度だけしずくに強く言っちゃったことがあったよね。あの時はごめんね。

私にとってしずくは自然でいられる存在だったし、自然な私のまんまでい続けたかった。しずくの知らないもう一つの私の生活を知ったら嫌われちゃうと思ってあの時は急に強く当たっちゃった。

もししずくがもう一つの私に気付いてたら、いや、もしかしたら気付いてたのかもしれないどっちにしても、いつも通りの関係でいれたからきっと楽しかったし。私はそれを壊したくなかった。

辛いことばかりだったけど最後はしずくたちとの楽しくて温かい思い出が胸にあるうち死ぬことができて私は幸せだったよ。

少し嘘をついちゃった部分もあったし、隠していた事もあってごめんね。

ずっとしずくのことが大好きだったよ。一緒に映画に行けて嬉しかったしあの時勇気を出して誘って良かったなって今でも思ってる。

こんな形で2人と離れる事になってごめんね。

私が一番2人との時間が続けばいいのになんて口にしてたのに私から離れる事になってごめんね。

でも私は人生で1番今が輝いていたんだと思う。2人が、しずくが愛してくれた今この時にこの世を去れる事に少し安心してるよ。

今までありがとう。ごめんね。

優香


そしてもう一枚宛先も書かずに文字にした。


私はただみんなみたいに過ごしたかった。みんなみたいにお母さんの作ったお弁当を食べたり、家族でどこかへ行ったり。

お父さんの悪口を友達に言いながらも家に帰ったら実は仲良く喋ってたりそんな些細な普通が欲しかった。

みんながそうしてるのを見て毎日羨ましいと思ってたし、きっといつかは私もそうなれると思ってた。

でもいつからか私はその普通に憧れることすら減っていって今の生活で満足しなきゃいけない。

時には手を挙げられたり罵声を浴びたりするけれど、家があってご飯が出てくるだけでもありがたいと思わなきゃ行けないそう思うようになってた。

弟が生まれて少しずつ私は相手にされなくなっていった気がしたし、私はこの家に必要のない存在なんだと思うようになった。

それならそうと言ってくれたらどんなに楽だったか。何が本当で何を頼ればいいかわからない毎日だからとにかく辛くて、何も期待しない事が1番私を助けてくれる生き方なんだなって思った。

他の家に生まれていたらって何度も思ったけれどそんな事ができるわけはないし、何より心の底から嫌いたいと思ってるはずなのに心のどこかではまだ期待していたり、嫌いになりきれない部分があった。

私が死んだら悲しんでくれますか。必要な存在だったと思ってくれますか。

生きてるうちにはきっともう実感する事ができないから、天国に行って確かめてみたいなって思います。

もし悲しんでくれたなら、もう一度やり直したいと思ってくれたならもう一度生まれ変わって、お父さんとお母さんの子供として生まれてきたいです。

もう一度、海に行きたいです。


優香


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