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悪役令嬢のCPKは1.33です  作者: 工程能力1.33
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05 死のFTA

 家でサザンクロスの輝く千年王国の内容を思い出しながら、これから自分がするべき事を考えていたが、遂に考えがまとまった。その考えを本田に話す。


「すっかり村になじんでしまったけど、このままのんびり暮らすわけにもいかないわ。自分の死因についてFTAをやってみたけど、どうしても精霊王の剣と創造神の守りを先に入手する必要があるの」


「それってゲームの話ですよね。課長、よくご存じで」


 うかつにもゲーム知識で本田に語り掛けてしまった。

 FTAとは英語のFault Tree Analysisの頭文字で、日本語では故障の木とも呼ばれる。トップ事象にたいしてそれが起きる原因を下位に並べていくというツールだ。ここでは私の死因に繋がる要因を探すことになる。トップ事象は勿論死亡。では死ぬ原因には何があるのかとなると、病気、事故、寿命などがあげられる。寿命については対策はないのだろうけどゲーム内では寿命で死ぬのを待とうなんて表現は無かったので死なない確率の方が高いと思うし、病気や事故についてはさらにその原因が下位に広がっていく。例えば病気になるには病原体が体内に侵入するのだが、それは手洗い、マスク、うがいなどの予防処置がとられているかどうかというのを確認して、とられていないのであればそれをするようにするとなる。

 そして、私がさっき本田にうっかり口を滑らせてしまった精霊王の剣と創造神の守りは対策をすべき事項となる。精霊王の剣はドワーフが作る最高の剣に精霊王を宿したもので、通常武器による攻撃ではダメージをくらわない私の体に唯一傷を負わせることができる。そして創造神の守りはエルフが代々守ってきた宝で、創造神が作ったといわれる防御力を向上させるアイテムだ。南十字星の乙女たちはこのアイテムを入手して、ラスボスであるアビゲイルと戦う。このアイテムの入手がクリアーの必須条件なのだけど、逆に言えば私がこれを先に入手することでクリアーは不可能になるわけだ。

 それなら、精霊王の剣だけでもよいのではと思うが、創造神の守りでこちらの攻撃を防ぎつつ、なんらかの手段で封印なんてされてしまえば、それは実質死亡と同義なのでそちらの可能性も潰しておきたい。千日手ならまだしも、じりじりとこちらが追い込まれるっていうのはねえ。むしろ死ぬよりもたちが悪いのかもしれない。

 なお、毒や病気の類は全くの無効となっている。アビゲイルにのっとられた帝国の人達が、アビゲイル暗殺を目論んで毒殺だったり呪い、魔法による病気の発症を試みたが、すべて返り討ちにされて一族郎党その首を帝都に晒すことになったという表現が出てくるので、今の私もそうなんだと思う。試してみる気にはならないけど。言ってみれば、死なない董卓よね。呂布に裏切られても死なないのに、呂布よりも強いっていうおまけつき。

 そんな私が完全体になるためにも、二つのアイテムはなんとしてもおさえておきたい。


「天の啓示があったの」


「課長がそういうのなら」


 なにかかんづいたような言い方の本田であったが、私の言う事に納得してくれた。


「まずはドワーフの自治領に行って精霊王の剣を入手するわよ」


「入手するっていっても、どうやってやるんですか?まさか、ドワーフを滅ぼして奪うなんてことは――」


「そんな物騒なことはしないわよ。交渉して譲ってもらうの」


「そういえば、ゲームでも鉱山に巣食う邪竜を退治したお礼に、主人公たちがドワーフから譲り受けるっていう設定でした」


「そ、そうなの。いやー知らなかったわ。でもそれでいきましょう」


 いささか棒読み気味になってしまったが、私も当然それは知っている。鉱山に邪竜が住み着いてしまって、武器を作る鉱石が不足しているのを主人公たちが解決するのだ。主人公たちは帝国と戦うために武器の大量生産をドワーフたちにお願いしにくるのだが、邪竜のせいで鉱石の採掘に支障が出ていて、武器の生産は引き受けられないって言われるのよね。今の私に大量の武器を調達する必要がどこにもないから、なんらかの理由を考えておかないとならないのは面倒ね。


「じゃあ、今から出発するわよ」


「待ってください」


 早速出発しようとした私に、本田が待ったをかける。クイックレスポンスという言葉を忘れたの?


「何故?特に準備するような荷物もないでしょ。ここに来る時だって荷物なんて殆どなかったんだから」


 準備の時間が欲しいのかと思っていたが、実はその理由ではなかった。


「自分と課長は公爵様によってここの村に幽閉されているんです。なので、この村を出たのがわかった場合は不味いことになります」


「そんなの言わばければわからないでしょ」


「自分の役目は課長の状況を定期的に公爵様にご報告することなんです。この村に来る商人に手紙を渡さないと一発でばれます」


 そういえばそうだったと思い出す。今の実力であれば父である公爵がどんな軍隊を差し向けてこようとも撃退出来るのだけど、それをするとかなり面倒なことになるのは容易に想像できた。


それならば……


「身代わりを用意するわ」


「身代わりですか?」


 私の提案に本田はピンとこなかったようで、不思議そうな顔でこちらを見てくる。これはゲームに出てくるのだが、アビゲイルは悪魔を召喚して使役することが出来る。そこで召喚した悪魔を自分に変身させて、攻略対象たちを色仕掛けしていくのだ。なお、本人が色仕掛けしない理由は高貴な自分はそんな真似をしたくないからという理由であった。戦闘イベントで敗北して捕えると、泣きながら今までの事を詫びて、夜になると牢に様子を見に来た攻略対象たちを誘惑する。そこで一定の値まで好感度が上がっていない攻略対象は誘惑に負けてしまい、アビゲイルの肩を持つようになってしまう。その後は戦闘にマイナスペナルティが入り、かなり使えないサマルトリア状態になり最終決戦の勝利が難しくなる。ただし、南十字星の乙女が「悪魔祓い」の称号を持っていると、アビゲイルの正体が悪魔であると見抜くことができて、マイナスペナルティを回避できるのだ。全キャラの好感度を上げるのって結構面倒なので、その救済措置っていうわけ。

 それで、その召喚する悪魔というのがベルゼブブなのだ。ハエの姿でお馴染みのあいつである。


「我が求めに応じていでよ、ベルゼブブ」


 私が召喚魔法を使うと、床に魔法陣が描かれる。そしてその中からハエの姿の悪魔が出現した。


「俺を召喚したのはお前か。人間のくせに俺を使役できると思うなよ。貴様を殺してこの世界で自由に暴れまわってやる」


 などと生意気な口を聞いてきた。


「課長、こいつこちらの言う事をきかなそうですよ。っていうか、殺意が溢れ出してます」


 本田が泣きそうになっている。が、震えながらも私を庇うように私とベルゼブブの間に立つ。そういえば、死んだときも私を助けようとしてくれたんだっけ。中々出来る事じゃないわね。断罪イベントで誰も助けに入ってくれなかったのと比較すると、胸がきゅんとしちゃうかも。


「大丈夫、心配いらないわ」


 そう言って本田を押しのけると、魔法の呪文を唱える。


「吾が體に満ちる魔力よ、糾い縄となって我が身に害をなす敵を絡げ」


 呪文が終わると魔力が縄となってベルゼブブにまとわりつく。


「人間如きの拘束魔法など……、あれ?」


 こちらをたかが人間と侮って、魔力で作った縄を壊そうとしたが、それができずに焦りだすベルゼブブ。ジタバタともがくが、縄で拘束されていない部分が少し動かせるだけだ。それを見てとびっきりの悪役令嬢の笑顔で語りかける。


「さて、この縄と同じように魔力でつくったハエたたきを使ったら、お前の存在が消滅するのに何発必要か試してみようかしら」


「待ってください。契約しましょう。貴方様を我が主と認めます。殺さないで」


 焦って契約を持ち掛けてくるベルゼブブ。これがやれ打つなハエが手をすり足をするってやつね。ハエは夏の季語だけど、春に見られるとは思ってなかったわ。


「そこまで言うのならしかたないわね。下僕として従うのであれば命だけは助けてあげるわよ」


「わかりました、これからは御主人様と呼ばせてください」


 殺意が消えたので拘束を解いてやると、ベルゼブブは亜空間から契約書を取り出してきた。


「こいつに御主人様の名前を書けば契約完了です。契約はご主人様がお隠れになるまで有効です」


「あら、それはよかったわ。私死なないから未来永劫お前を使役できるのね」


「は?」


 首をかしげるベルゼブブ。私の言った意味が理解できなかったようだ。そりゃあまあ、人間なんて寿命は有限であり、寿命は悪魔からしたら短いのだからちょっとだけ我慢すればと思っていたのだろうが、生憎と私の中には邪神が入っている。ゲームの中ではバッドエンドとして末永くアビゲイルの悪政がつづいたなんてのがあったので、本当に寿命じゃ死なないかもしれない。


「他の人には口にして欲しくないんだけど、私の中には邪神の力が宿っているの。この国のかつての南十字星の乙女とその仲間たちが邪神をここに封印していたのよね。その封印を破ったのが私っていうことよ。考えてもみなさい、ただの人間の小娘がどうして上級悪魔のベルゼブブを簡単に拘束出来るのか。どう考えたって規格外でしょ」


「そういうのは早く言ってくださいよ」


「言う前に殺そうとしたのが悪いんでしょ」


「ごもっとで……」


 こうしてベルゼブブは私の配下に加わった。そしてここからが本題だ。


「私とこのルイスがこれからちょっとした旅に出るの。その間、私たち二人に変身して、村人たちの相手と公爵への報告の手紙を書いてほしいの。私がこの村から出ると面倒な事になるから、いない間なりすましてうまくやり過ごして欲しい。ベルゼブブの能力なら問題ないでしょ」


「お安い御用ですが、ばれた時は口封じに殺せばいいんですね」


「発想が物騒なのよ。ばれた時はお前を殺すことにするわ。麻姑掻痒の活躍を期待しているからね」


「全身全霊で命令遂行に勤めます」


 この後、私と本田からこれまでの経緯を伝えて、しばらくの間成りすませるように知識を与えておいた。緊急の際に連絡がつくように、私たちに使い魔のハエを同行させると提案されたのでそれを承認したけど、ハエがついてくるなんて宮本武蔵みたいね。あれは創作らしいけど。


 こうしてやっと出発出来る事になった。

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