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悪役令嬢のCPKは1.33です  作者: 工程能力1.33
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04 空腹のなぜなぜ

 村の復興は私の魔法でちょちょいのちょいと終わった。といっても、建物を再建しただけであって食糧事情は悪いままだ。今は温かくて作物の収穫には適している時期だというのに、村人たちはみんな節約しながら食事をしている状況だ。


「満腹っていう感覚を忘れそうですね」


 テーブルの上にあったわずかな芋を食べ終えた本田がそう言った。お腹を手で押さえて、空腹を紛らわせようとしている。


「本田、いつも言っているでしょう。問題が有ったら解決するためのツールを使えと。QC七つ道具、新QC七つ道具、8Dレポート、なぜなぜ分析、FTA。なんだってあるんだから。そうだ、まずはなんで満腹になれないのかなぜなぜ分析してみるように。それが出来たら報告を持ってきて。さ、三現主義にもとづいて、現場、現物を確認してきなさい」


工場での生産をしていると日々問題が発生する。その問題を解決するためのツールとして様々なものが考案されてきた。今自分が羅列したものがそれであり、このほかにもまだある。それらを使うためにはまず現場・現物・現実を確認しておかないといけない。これがあたまの現を取って三現主義と呼ばれている。

 本田は私の指示を受けて出ていき、数時間後に戻ってきた。


「課長、行ってきました」


「よろしい、報告をきこうか」


「はい。まずは5M1Eによる変化点調査の結果ですが、変化点は特にありませんでした」


 5M1Eというのは人(Man)、機械(Machine)、材料(Material)、方法(Method)、測定(Measurement)、環境(Environment)の頭文字をとったもので、不良が起きた時にはこれらになんらかの変化点があることが殆どなのである。


「変化点が無いというだけの報告ではわかりにくいわね。もう少し詳しく説明をお願い」


「はい。農作業に従事する村人たちは新規の流入がないため変化点はありません。また、農具についても新規で購入する余裕もないので、同じものを使い続けています。作っている芋も千年王国で一般的に栽培されている物であり、最近になって作付を変えたというわけでもありません。栽培方法についても時期や肥料を変えてませんし、環境もこの時期の気温や雨量は同じだということです。まあ、環境については記録を取っている訳ではないので、感覚的に今年も例年並みっていうくらいですけど。測定については推測ですが、満腹感や空腹感を感じる部分への変化はないかと。官能作業ですからバラツキはあるのでしょうけど。それに、収穫量がすくないのはいつものことらしく、言ってみれば慢性不良ですね」


 本田の報告に頷く。官能作業というのは人の五感による検査のことであり、大人向けという意味ではない。確認結果は予想通りであり、慢性的に食糧が足りないというものである。では、どうして慢性的に食糧が足りないのか、そこを確認して真の原因を探っていくとしようかしらね。


「なぜこの村では満腹感が得られないの?」


 と本田に問いかける。


「食べるものが無いからです」


「なぜ食べるものが無いの?作物が採れないから?誰かに盗まれるから?税として納めるから?保管が出来ずに腐ってしまうから?」


 食べるものがない理由を本田にたずねた。


「作物が採れないからです。盗みはありませんし、税は薪です。聞き取り調査の結果ですけどね」


 一応は公爵家に仕える立場なのだが、ここの村の徴税方法なんて調べている暇がなかったのだろう。それでも私に報告する前に確認するとは、随分と成長したなと嬉しくなった。最初に配属された頃なんて、こちらが質問するたびに調べてきますって言って、現場に飛び出していったのが懐かしい。

 これは期待してもいいかなと思い、次の質問をしてみた。


「ではなぜ作物が採れないの?」


「土地が痩せているから。耕地面積も小さいです。それにマウンテンボアが作物を食べてしまうんです。特に今の時期栽培している芋は甘くて好物なんで、ちょくちょく畑にやってきます」


「マウンテンボア?」


「畑を荒らす野生生物です。肉は美味いんですが、気性が荒くて体も頑丈なので中々退治できないんです。しかも、夜に活動するから見張りも大変でして。奴は鼻が利くんで甘い芋を畑から掘り返して食ってしまうんです」


「なぜマウンテンボアに畑を荒らされてしまうの?」


「それは、芋が美味しいからですね。それに畑は囲いがないから侵入し放題です。あと、マウンテンボアを駆除する方法を持っていませんから」


「芋が美味しいなら、不味い作物を作ればマウンテンボアは来ないかもしれないけど対策としてはどうなのかしらねえ。やせた土地で育つ不味い作物を見つけるところからになるし、そんなものをお腹いっぱい食べるなんて拷問よね。囲いを作るにしても労働力を考えたらすぐに出来るようなものでもなし。では駆除する方向になるのかな」


 私はそう結論付けた。


 なぜ満腹感を得られないのか、食べるものがないからだ。

 なぜ食べるものがないのか、作物が採れないからだ。

 なぜ作物が採れないのか、マウンテンボアに畑を荒らされるからだ。

 なぜマウンテンボアに畑を荒らされるのか、駆除できないからだ。

 なぜ駆除できないのか、体が丈夫で攻撃がきかないからだ。


 なぜなぜ分析の完成である。


「じゃあ、課長がマウンテンボアの駆除をするんですね」


 ニコニコ顔の本田には悪いが、私はそれには首を縦に振らない。


「それじゃあ、私がいなくなったらどうするの?村人たちで出来るようにしなくては意味がないわ」


「でも、駆除が出来ないからこうして畑を荒らされているんですよ」


 そう食い下がられるが、


「それは攻撃がきかないという話であって、駆除するのはなにもそれだけじゃないだろ。罠を仕掛けてやればいいの」


「罠ですか」


「本格的な罠なんて作ったことないけど、落とし穴くらいなら何とかなるだろうからね。支援魔法で作業者の身体能力を向上させられるし、それくらいはしてあげるわ」


「わかりました。早速村人たちを集めてきます」


 本田が急いで出ていく。嬉しそうに走り出すその姿を見て、実家で飼っていた子犬を散歩に連れていくのを思い出して、なんだかとても可愛らしく思えてしまった。


 本田がもどってくると、その後ろには多くの村人たちがいた。困ったわね、こんなに大勢いても穴を掘るのには不向きだわ。直径何メートルの穴を掘るつもりなのかしら。


「こんなに大勢で作業するものでもないけど」


 困惑した顔でそう言ったが、本田がニコニコしながら


「みんな、かちょ……、お嬢様のお役に立ちたいと言ってくれまして」


 と教えてくれた。今村上の前で課長って言いそうになったろ。たぶん意味は通じないと思うけど、前世の記憶があるとかいうのが知られると面倒なので、極力そういうのは表にださないように言っておいたのに。私だって本田じゃなくてルイスって呼ぶように気を付けているのにこいつは。

 集まってもらって悪いけど、多すぎるのでこちらで適当に人選してあとは帰ってもらう。残ってもらった人達にはマウンテンボアがやってくる方へと移動してもらい、落とし穴を掘る場所を決めた。場所が決まればあとは掘るだけ。支援魔法で身体能力を向上させるのだが、この時もまた呪文の詠唱をきかれてしまい、顔から火が出る思いがした。こういうのって普通は無詠唱じゃないの?


「聖女様の魔法で力があふれてくる」


「みんなに自慢しないと」


 なんて浮かれているけど、怪我はしないでね。治癒魔法の詠唱も恥ずかしいから、怪我をしても治癒魔法は使わないわよ。と心の中で叫んだ。

 穴は支援魔法の効果であっという間に掘られていく。この魔法が有れば建設機械なんていらないわね。前世でも支援魔法があれば、あんな製品ライフの長い建設機械の部品なんて作らなくて済んだのに。そう、建設機械の部品は四半世紀作り続けるなんてざらで、度重なるコストダウンのおかげで利益の出ない邪魔ものになっていたのだ。金型や治具の更新もままならず、早くやめたいとみんなが思っていた。そういうのに限って終わらないのよね。憎まれっ子世に憚るってやつかしら。


「お嬢様、終わりました」


 ルイスから穴を掘り終えた報告を貰う。本田、今度はちゃんと出来たわね、えらい。


「早かったわね。じゃあ次は穴を木の枝と葉っぱで隠して、その上に芋を置きましょうか」


 マウンテンボアは鼻が利くというのだから、芋を穴の上に置いておけば当然気づくわよね。それを食べようとして近づいてきたら穴に落ちるっていうすんぽうよ。なんか簡単に考えているけど、きっとうまくいく気がするの。まあ、再発防止対策書を書いている時はいつもそうなんだけど。でも、現実は甘くないのよね。

 芋が置かれてこれで準備万端。後は罠にかかるのをまつだけ。


「明日の朝が楽しみね」


 ということで今日は解散。また明日、日が昇ったらここに集合といって村人たちと別れた。


 そして翌日。


「プギィィィィィ」


 穴の中で元気に叫ぶマウンテンボアが一匹。はじめてみたけど、完全にいのししね。あれだとこの村の貧弱な装備では駆除できないのも納得だわ。いのししだって猟銃があってはじめて駆除できるんだもの。日本刀を持っていたとしても、突進されればひとたまりもないのよ。車とぶつかっても死なないし。


「流石聖女様」


「本当にマウンテンボアを捕まえる事ができるだなんて」


 と村人たちは感心している。

 それにしても困った。このマウンテンボアをどうやって仕留めようか。上から重たい石を落としてもいいんだけど、穴は再利用したいわよね。そうなると重たい石を引き上げるのがまた一苦労だし。攻撃魔法は使いたくないわ。昨日と違って村人全員が集合しているもの。そんなところで呪文の詠唱なんてしたらお嫁にいけない。

 そんな心の中なのに、本田がお構いなしに


「お嬢様、ご自慢の力でマウンテンボアを仕留めてください」


 なんて言ってくる。思いっきり睨んでやったら不思議そうな顔をしやがって。どうしてこの子は気が使えないの。もっと相手の気持ちを考えなさいって学校の先生みたいなことまで何度か指導したのに、それが身になっていないじゃない。

 込み上げる怒りを抑え込んだ時に、ふと思いつく。そうだ、ゲームの中の私は魔力だけじゃなくて筋力も底上げされていたんだっけと。イラストでは筋肉なんてみじんも感じさせない細い腕なんだけど、設定では重騎士の鎧を素手で容易く砕くとなっている。実際に、アビゲイル討伐の為に差し向けられた騎士団が、素手のアビゲイルによって壊滅させられたシーンもあったわね。

 ジャックは絶対的な存在であった父である騎士団長が、アビゲイルになぶられる姿を目の当たりにして動けなくなってしまう。アビゲイルはそんなジャックを見て愉悦にひたり、彼だけを無傷で帰還させてそのトラウマに悩まされるのを楽しむのよね。その心の傷を南十字星の乙女に癒されながら、再びアビゲイルを倒すために立ち向かう。今にして思えば戦場帰りでPTSDになった兵士を再び戦場に送りこむなんて、なんて嫌な女なのかしら。ゲームをプレイしていた時は痘痕も靨で気にもしなかったけど。

 さて、そんなわけで私の力はすでに人間を超越しているはずだ。足元の手ごろな石を拾ってそれを穴の中のマウンテンボアに向かって思いっきり投げつける。


ゴシャッ


 鈍い音とともに穴の上まで血が飛ぶのが見えた。先ほどまでうるさかったマウンテンボアの鳴き声はもう聞こえない。穴の中は簡単に想像できるので見るのが怖い。


「ルイス、確認をお願い」


「かしこまりました」


 命令されて喜ぶ子犬のように、本田が嬉々として穴の中を覗き込む。


「流石お嬢様、頭部が見事にぐっちゃぐちゃになってます。一撃でしたね」


 なんて嬉しそうに報告してくるんだけど、そんな状態のいのししをみて喜べるなんて人としてどうかと思うのよね。自分でやっておいてなんだけど。

 本田の報告を聞いて村人たちも我も我と穴を覗き込んではこちらを見てくる。その目には憧れというか尊敬というか、信仰のような物を感じる。顔がひきつりそうになるのを必死にこらえて笑顔を作ったんだけど、はたしてそれが笑顔だと伝わったかしら?


 その後、マウンテンボアを穴から引き揚げて食べようということになり、私が支援魔法を数人にかけて獲物を穴から引き揚げると、村の女性たちが総出で解体をはじめた。内臓なども貴重なタンパク質?なので余すことなく料理することになる。男たちも椅子やテーブルを持ち出して来て、ちょっとしたお祭りの雰囲気となった。なお、祭りでも酒が出てこないのは、ここの村では酒を造る余裕も、買う余裕もないからである。肉を食べながら歌って踊るくらいで、非常に健全である。

 そして、しばらくはマウンテンボアが罠によくかかり、そのたびにとどめを刺すのに呼ばれていたが、流石に数も減ったのか、罠にかかるマウンテンボアはいなくなった。その結果として、マウンテンボアによる畑の作物被害はゼロになったのである。


「最近お肉たべてませんね」


 と本田が少し残念そうに言うので、


「QCサークルで肉をいつでも食べられるようにするっていうテーマを取り扱ってみる?」


 と言ってやったら心底嫌そうな顔をされた。そういえば、QCサークルが苦手だったわね。一番嫌なのが、人前での発表っていう理由だったけど。でも、嫌そうな顔をしないで「QCサークルで扱うテーマにしては大きすぎます」とかいうもっともらしい理由で拒否できないなんてまだまだね。もう少し鍛える必要があるか。

 切り返しが下手な本田を見て、そう思ったのだった。

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