17 決着
同じ国の言葉を話しながらも、決して会話にならない相手に悩む。殴りつけて屈服させるのが手っ取り早いかな?私が思案しているとエマがウィリアムに話しかける。
「ビル、いいえ、ウィリアム国王陛下。私は公王陛下の提案に従い、庇護を受けて生活しようとおもいます。今まで申し訳ございませんでした」
「何を言っているんだ」
エマの謝罪にウィリアムは動揺を隠せない。彼女の肩を掴んで激しく揺らす。
「やめなさい。それ以上揺らしては可哀想でしょ」
私がその行動を咎めると、親の仇でもかくやという怒りの籠った視線で睨まれた。怒りというよりも、狂気と言った方が近いかもしれない。
「諸悪の根源の貴様さえいなくなれば、エマはきっと正気を取り戻すはずだ!!!」
そういって拳を前に突き出してきた。殴ってきたというわけではない。赤い宝石のはめ込まれた指輪を私に向けてきたのだ。
何事かとそれを見ている私の耳に本田の声が入ってくる。
「課長危ない!」
その声の直後、赤い光が見える。と思ったら本田が私の前に立ち、その光を遮った。ただ、本田の体で遮り切れなかった光が私の指に当たり、痛みを感じた。見ると光が当たった場所から血が出ている。
(あれ?無敵のはずなのに指から血が出るなんて)
そう考えているうちに光は完全に消えた。光が消えたと思ったら、今度は赤い液体が宙に舞う。それが本田の血液だと気づくのに1秒くらいかかっただろうか。本来短い時間であるはずだけど、私の中では時間が止まったかのような感覚になる。
「本田あああああああああああああああああ」
崩れ落ちる本田の体を掴み、名前を大声で叫んだ。目の光が速い速度で失われていくのがわかる。
「今すぐ回復魔法をかけるから」
回復魔法を使おうとすると、再びウィリアムが動くのが目に入った。が、今はその相手をしている暇がない。私にダメージを与えられるような攻撃をまともにくらったらどうなるかわからないが、今本田の治癒をしなければ手遅れになる。ウィリアムを無視して本田の治癒を敢行する。
「今度こそ死ねえええええ」
ウィリアムの声が耳に入ってきて咄嗟に本田に覆いかぶさり攻撃から守ろうとするが、二撃目がやってくる事は無かった。
「ぎゃあふっ――」
ウィリアムの悲鳴のような叫びが短く聞こえたが、そこで終わってしまう。本田の治癒が終わったのを確認してからウィリアムのほうに顔を向けると、そこにはウィリアムの体を口にくわえたムシュフシュが見えた。おとがいからは血が滴っているのがわかる。
「食べた?」
そう訊ねると咀嚼しているために、無言で首肯してくれた。
「あれ、課長無事でしたか?」
私がムシュフシュとやり取りをしている間に、意識の戻った本田が緊張感に欠ける言い方でそう聞いてくる。私はそんな本田に年甲斐もなく泣きながら抱き着いた。
「本田ぁぁぁ」
「あの、課長。みんなの前ではルイスなんですけど」
感情が抑えきれずについ本田と呼んでしまったことを、本人から窘められる。やらかしたことに気づくが、反省よりも安堵に支配されており、安堵からの涙が止まらない。しばらく泣いた後やっとで気持ちが落ち着き涙が止まった。
「生きててよかった。どうして私を庇おうとしたのよ。どう考えたって不死身の私を庇う理由はないでしょう」
ちょっと怒り気味に言うと、本田から意外な答えが返ってきた。
「あのアーティファクトは神殺しの指輪って言われている最強のアイテムなんですよ。知らないんですか?」
「そんなの一度も聞いたこと無いわ。攻略本にだって載っていなかったわよ」
「あー、あれが出てきたのは同人誌即売会で発売されたスタッフがお遊びで作ったゲームなんですよね。BL的な展開で話題になったと思いますが、そこでアビゲイルを倒した後帝国の家臣だった奴が祝勝会の最中にウィリアムの暗殺を計って、あれを使うんですよ。創造神の守りを突破できる威力があるっていう設定でしたね。で、ジャックが体を盾にしてウィリアムを庇って死ぬんです」
「どっかで聞いた話ね」
「同人ですから」
「思い出したわ。同人誌即売会に行って買おうとしていたけど、入場して企業ブースに直行しても売り切れで買えなかったやつだわ。よく知っていたわね」
「課長、同人誌即売会に行ってたんですか?」
「友達に誘われてよ」
「何で企業ブースに直行なんですか」
「そ、それは頼まれたから……」
かなり苦しい言い訳に、本田がジト目で見てくる。愛想笑いで誤魔化したが、誤魔化しきれていないだろうなあ。
「まあ、僕は妹のサークルチケットで入場して、妹の指示で会場と同時に並んで購入したんですけどね。ネットで転売されていたと思いますけど、買わなかったんですか?」
「友達は、それは負けって言っていたから」
前世だったらウィリアムを庇って死ぬジャックの尊さに鼻血が出ていたとおもう。多分悶え死んでいたにちがいない。今の彼らを見てしまうと絶対にそうはならないが。
「でも、それでわかったわ。私も死ぬ可能性があるから盾になってくれたのね」
「今度こそは課長を死なせたくないって思ったら体が動いていました」
そう言われて顔が赤くなるのがわかった。本気で誰かに守られるなんて親以外ではなかった。そういえば、前世でも本田は私を助けようとして、落ちてくる鉄パレに飛び込んでくれたんだっけ。嬉しいんだけど、映画の主人公たちのような出来事に恥ずかしさが込み上げてきたのだ。
「今後私より先に死ぬのは許さないから。次からは考えて行動しなさい」
守られている立場なのに、強い口調になったのは恥ずかしさを隠すため。誰にも気づかれたくない。お願いだから早くこの時間が終わって欲しい。終わって欲しくないけど。
「そう言われましてもねえ。課長は最強生物ですし。でも、課長が誰と結婚してもずっと守ることはしようかなと」
その言い方に引っかかるものがある。うまくは説明できないんだけれど、心の奥底でのもやもやがあって、何かが喉から出てきそうだ。それが上手く出せず、違う言葉が口から出てきた。
「ねえ、私が誰かと結婚したら本田はどうするの?それでもつき従って守ってくれる?家庭を持つとか考えている?」
「自分も誰か相手を見つけるかもしれませんね。一度は自分の子供ってやつを育ててみたいし」
私は本田が誰かと結婚して幸せな家庭を持つのを想像してみた。だけど、そうしてみると凄く気持ちが悪くなる。ああ、駄目だ。これ以上は想像できない。他の誰かと本田が幸せそうに暮らしていたら、嫉妬の焔で世界を焼き尽くす自信が有る。
「本田、ごめん」
「何がですか?」
「本田が他の誰かと幸せな家庭を持つのを見るのが辛い」
「えっと、それってつまり自分に不幸になれと」
「そうじゃない。私と結婚しなさいって言っているのよ」
「あ、すいません。それは待ってもらえますか」
「何でよ!私に不満があるの?そりゃあ確かに歳の差はあるけど」
「そうじゃないんです。プロポーズは自分からさせてください」
それを聞いて私はまた泣いた。今度の涙はうれし涙だけれど。本田の胸の中で泣いていると、上から声が聞こえる。
「課長、いや、お嬢様。違うな、敦子?アビゲイル?ちょっとみんなに見られていて恥ずかしいので、プロポーズは今度ちゃんとやるので、今はこの状況に決着をつけましょうか」
言われて思い出したが、王都での戦いの最中だった。ウィリアムは死亡したので戦いは終わったといってもいいが、勝利宣言をしておかないとか。この場にいる騎士たちに向かい、私は宣言をした。
「国を乱していたウィリアム国王は討ち取った。私たちはこれからこの国を支配下に置く。まずは王宮を占領させてもらい、そこで国政の内容を確認させてもらいます。今までの戦闘で戦ったことを理由に誰かを処罰するということはないので、この国の復興に力を貸してほしい」
そうお願いすると私の前に意識を取り戻したアーチーがやってきて臣下の礼をとる。アーチーがそうしてしまえば、他の騎士たちも抵抗なく従ってくれることだろう。実際に彼らはアーチーの行動に少しの戸惑いを見せた後、彼にならって臣下の礼をとってきた。
こうして私は騎士たちに護衛されながら入城することが出来たのである。




