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悪役令嬢のCPKは1.33です  作者: 工程能力1.33
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15 一騎打ち

 私は今、王都の目の前に広がる平原にいる。以前見た光景と比べると、行き交う人の数が減っているように思えた。各地で徴兵が実施されているのだから、物流を担う働き手が減少しているのだろう。さらに、収穫を前にした畑は荒れ放題で、農作業をしている人もまばらだ。千年に及ぶ栄華を極めた王国も、一人の無能な王のせいでここまで短期間で落ちぶれるものかとその光景を眺めていた。


「ゲームには無かった光景ね」


 そう独り言ちる。そんな私に本田が話しかけてきた。


「城壁を一気に超えて、王宮を攻撃しないんですか?」


「それも考えたけど、万が一私がやられた場合はみんな逃げ道もなくて枕を共にしちゃうでしょ」


 その可能性があるので、王宮に直接乗り込むのはやめたのだ。この平原で王都の守備隊と戦う。通過した領地の全ての領主を支配下に置き、いまやフレディたちの到着を待つのみとなっている。


「課長と同衾なら歓迎ですが、枕を共にするのでもかまいませんよ」


「セクハラ発言は厳罰ものよ。もっとも、同衾や褥を共にするなんて言い回しは中々通じないでしょうけどね」


 もう一度コンプライアンス教育を実施しないとならないようね、と本田を見て思った。意味が伝わりにくいが、それでも言っていいわけではない。


「すいませんでした」


 しゅんとなった本田から視線を王都に戻す。昼間という事で城門は開かれているが、公国からここまでの領地が陥落していると知ったら、あの門は閉ざされるのであろうか。複数ある騎士団も、近衛を除いては国境の戦闘地域へと派遣されており、現在の守備は手薄となっている。状況としては最高だ。ベルゼブブに王都の様子を探らせて、手薄であるとわかっていたからこその作戦でもあるのだが。


「現在王都の守備は手薄。私たちの手勢だけで落とすことは十分に可能。この状況でも運否天賦っていうのは面白くないわね。乾坤一擲を賭すって好きじゃないのよね。人事を尽くして天命を待つもか。そんなことならFMEAもFTAもいらないでしょう」


「実際にFMEAもFTAもやったはずなのに不良は出ますからね。その製品で不良が流出するかしないかは神のみぞ知るっていうことなんでしょうね」


「そうなのよねえ」


 どんなに量産開始前に準備をしたところで、完璧ということは無く不良が流出するかしないかは常に揺れる振り子のようなもので、どっちに転ぶかはわからないのだ。いや、多くの場合は流出する方に転ぶか。前世を思い出してため息をついた。

 そんな会話をしているうちに、ムシュフシュが次々とフレディたちの部隊を運んできてくれた。全員が揃ったところで進軍を開始する。ムシュフシュが飛んでいるのは目撃されることを気にしていないので、既に王都でも邪竜が近隣を飛行しているのは話題になっていることだろう。先ほどまで開いていた城門は既に閉じられている。閉じられた城門の前に人はいない。別の門にまわるように言われたのだろう。これなら一般人を巻き込むことは無い。


「戦闘の前の口上はどうしますか?」


「やるの?」


 フレディに言われて聞き返した。口上とは「やあやあ我こそは――」で始まる自己紹介のあれである。そこまでの決まりは無いが、誰が攻めてきたのかを知らせるくらいはしておかないとということらしい。他人の注目を浴びて恥ずかしいのでやりたくない。


「あるじ、我がいくさ前の口上を引き受けようか?」


 ムシュフシュがそう提案してくれたので、二つ返事でのっかった。あるじ思いのいい子なので餌の牛肉を増量してあげよう。

 ムシュフシュは城門へと飛んでいき、そこで名乗り口上を始める。


「遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ。我が名はムシュフシュ。我があるじの命にしたがい王都の開放の戦に加わった。私欲に目がくらみ、民の生活をないがしろにする愚王を弑し、この国に再び安寧を取り戻すのが目的である。あるじの名はアビゲイル・ウィステリア・ハワード。我こそはと思う者はこの公王陛下の首をとってみせよ」


(いやいやいや、そこは自分の首じゃないんかい!)


 そう心の中で激しくつっこみをいれた。してやったりという表情でこちらに戻ってくるムシュフシュ。そして、感涙にむせぶ本田とフレディ。元々他人に押し付けるつもりは無かったけど、なんか納得がいかない。

 そのことは置いておき、進軍を開始した。といっても、前に進むのは私とムシュフシュとハエの姿のベルゼブブ。少し後ろに本田となっている。本田は普通の人間なので、矢が当たれば死ぬし、魔法の攻撃でも死ぬので、ムシュフシュの身体に隠れるようにして前に来ている。ついてこなくてもいいと言ったのだけど、


「課長と一緒にいたいんです」


 と強く主張されたために、同行を許可した。本田一人くらいならなんとか守り切れるかなっていうのもあったからだが、フレディたちも一緒に戦いたいと申し出てきて、それを断るのに苦労した。万が一の場合は直ぐに公国へと逃げ帰ってもらって守備を固めないとならないので、全員で前に出る訳にはいかないのだけれど、どうしてみんなそんなに死に場所を求めているのかしら。

 私たちが進んでいくと城門が少し開いて、そこから一騎全身深紅の金属鎧でかためた騎士が出てきた。深紅の金属鎧といえば、王国の近衛騎士団長であることは誰でも知っている。その名はアーチー・オズボーン。ヘルムで顔は見えないが間違いないだろう。私がジャックに恐怖を植え付けるためになぶりものにした人物である。今では戦争で亡くなった騎士団長に代わって、近衛騎士団長となっているのはベルゼブブからの情報でしっていた。なお、騎士団長という称号は持ち株会社、騎士団ホールディングスの社長みたいなもんであり、その下部組織にそれぞれの団長を置いている。広域暴力団なんかと一緒のイメージに近いかな。○○組っていう組織の下に沢山の組がぶら下がっているあれだ。近衛騎士団長はジャックの父親が兼務していたが、死亡して代替わりした時に近衛騎士団長はアーチーが就任となったのである。王都でも目立つ深紅の金属鎧はシンボルとして広く知れ渡っているのである。年齢は50代くらいのビジュアルだったが、詳しい描写は無かったはずだ。同人誌ではよくジャックに攻められていたが、そういえばそういう同人誌は異品整理の時にどうなったのだろうか?嫌な事を考え付いてしまったものだ。

 私が背筋が凍る思いをしていると、馬は眼前まで来てとまり、騎士が地面におりた。ヘルムをとるとやはりアーチーだった。


「おひさしゅうございます」


 彼は私に一礼する。私たちは初対面ではない。ウィリアムの婚約者として行動していた私は、近衛騎士団のメンバーとは面識があり、何度か彼が護衛についてくれたこともあったのだ。


「今は敵同士、そんな挨拶はいらないわ。と言いたいところだけど、こちらにつくつもりはないかしら?こんな状態の王国に尽くす忠誠なんてないでしょう。復興させるにしても、私の持っているカードだけじゃ役が揃わないのよ」


 私の勧誘にアーチーは首を横に振った。


「そういう訳にはいかんのですよ。どんな国王であれ、その身を守る役目が我ら近衛騎士団ですから。誰も戦わず降伏したとあっては、後の世までの笑いものとなります。たとえ勝てずに殺されるとわかっていても、戦う姿勢を見せないとならんのです。ですが、部下たちの処遇はよろしくお願いいたします」


「あら、勝つつもりがないみたいな言い方ね」


「数か月前、ドワーフの自治領に巣食う邪竜が若い男女によって退治されたと聞きました。しかし、退治されたはずの邪竜が今こうして目の前におり、それがあるじと呼ぶ若い女性の存在がある。竜は己よりも強い者にしか従いません。ここから答えが出るというもの。私も若い頃はドラゴンスレイヤーに憧れましたが、この歳になってわかったのは、ドラゴンスレイヤーというのはなろうとしてなれるものではないということです。人を超越した存在の竜を倒せるのは人にあらずということですな」


 アーチーはそこで一旦言葉を区切る。そして深呼吸してから話を続ける。


「が、若い頃の夢を諦めるほど大人になり切れていなかったとわかりまして。目の前にドラゴンスレイヤーがいるのであれば、自分の力がどれほど通じるのか試してみたくもなるというもの。王国への忠義などとは言い訳でしかありませんな」


 話が終わるとアーチーは剣を抜いた。


「ひとつ訂正をさせてもらうわ。私はドラゴンを倒していないので、ドラゴンスレイヤーではないの。単なるテイマーよ。それでもいいというのなら、思う存分その力をふるいなさい」


 私はバトルジャンキーには困ったものねと思いながらも、戦闘は避けられないと諦めて精霊王の剣を抜いた。それを見たアーチーは目を見開く。


「素晴らしい業物ですな」


「見ただけでわかるの?」


「はい。剣は自分の命をあずけるものですから、その良し悪しは見ただけでわかります。もっとも、その域に達するまでに二十年はかかりましたが」


「もう一度聞くけど、降参するつもりはない?手加減はするけど、当りどころが悪ければ万が一ってこともあるわ」


「いや、出来れば全力でお願いしたいのですが」


 再度の説得にも応じなかったので、私は諦めて剣を構えた。


「好きなタイミングで打ち込んできなさい」


 私の言葉にアーチーは無言で頷き、呼吸を止めた。


――来る――


 と思った時には、アーチーは動きだしていた。間合いに入ると迷いのない横一線の斬撃。乙女に向けていいものではないわね。常人であれば目にもとまらぬ速度の一撃を、私は左手で掴んで止めた。しかも素手である。刃物を取り扱う時は、巻き込まれ防止のため軍手は禁止なのだが、だから素手だったというわけではない。絶対防御アイテム創造神の守りがあるから、通常攻撃など無効化出来るので防具がいらないからだ。

 素手で剣を掴まれた事で、アーチーは呆気にとられて動きが止まる。いや、私が剣を掴んだせいで動けないのだ。動くためには剣を手放さなければならない。しかし、そうなると武器がなくなってしまう。少しの停止のあと、アーチーは剣を私の手から引き抜こうと力を入れる。でも、私の膂力には及ばずそれは叶わない。


「人の身でありながら、よくぞここまで鍛え上げたものね」


 必死に剣を取り戻そうとしているアーチーに私はそう言ってあげると、彼は苦笑いをした。でも、まだあきらめずに剣を取り戻そうと力を入れてくる。どうすれば彼は戦うのを諦めるのかと考えた結論として、剣を折ってみることにした。


「えいっ」


 左手にさらに力をこめると、アーチーの剣が二つに折れた。それにより、後ろに重心をかたむけていたアーチーはたたらを踏む。


「なっ……」


 何とかしりもちをつかずに踏みとどまったアーチーは、驚きの表情で折れた剣を見つめている。


「これでわかったでしょう。諦めて降参してちょうだい」


 その言葉に対してアーチーが口を開く。


「私は――」


 そこまで言ったところで、私の視界が真っ赤に染まった。そして、私の身体の目の前に防御結界が出現し、何かを受け止めたのがわかった。視界がもどったので確認してみると、アーチーの鎧の右腕と右胸の部分が大きくえぐれている。視界を真っ赤に染めた原因は深紅の金属鎧の破片と彼の血だった。当の本人も想定外の出来事に驚きを隠せない。そしてそのまま前のめりに倒れる。私はそれを受け止めると治癒魔法を使って彼の一命を取り留めた。ただし、失われた意識は戻ってこない。そのうち気づくだろうが、もうしばらく時間が掛かりそうだ。

 アーチーを抱きかかえたままどうしたものかと思案していると、城門の方からもう一騎馬がかけてきた。聞き覚えのある声が馬上から聞こえてくる。


「魔導砲をくらった感想はいかがかな?しかし、まだ健在の様子。次はこのジャック・ブッシュクローバー・ヒュームが一騎打ちを申し込む」


 今度はジャックか。それにしても魔導砲が出てくるとは。魔導砲というのはゲームに登場する魔法兵器で、魔力を使って鉄の弾丸を撃ち出すものだ。魔法攻撃と物理攻撃の合わせ技で、対魔法障壁や対物障壁単体ならどちらかの効果を使って貫通できる。防御魔法を使う悪魔軍団に対して有効だったと覚えている。ビジュアルは戦隊ヒーローの必殺技みたいで、背後がカラフルな爆発ならもうそれしかないっていう感じだ。そんな兵器も残念ながら、完璧生物の私にはダメージはないのだけれど。

 アーチーごしに見える城門では数名が魔導砲を持っているのがわかった。おそらく、最初からアーチーを使って射線を隠し、彼ごと私を撃つつもりだったのだろう。「今だ!」や「どけ!」っていう合図もなかったし、アーチーの驚いた顔は事前の打ち合わせが無かったことを物語っている。


「今更あんたが出てきてどういうつもり?」


 ジャックを睨みつけると、一瞬だけぎょっとしたのがわかった。しかし、直ぐに平静をよそおう。


「アーチーの身体に当たって威力が減らされたか。あれをくらってまだそんな元気があるとはな。しかし、その血まみれの身体でどこまで動けるかな?おっと、一騎打ちを受けないっていうのは無しだぞ」


 言っていることは最低だな。魔導砲のダメージがある私が満足に動けないと思って一騎打ちを挑んて来たということか。おそらくは、魔導砲でとどめをさせると思っていたのだろうけど、私がまだ動いているのをみて、討ち取ったという手柄を立てたいと思いこうやって来たのだろう。ジャックってこんなキャラだっけ?騎士団長を目指してトレーニングを積み重ね、くじけそうになりながらも南十字星の乙女に励まされて成長していくっていう話だったと思うけど。味方を巻き込んでの長距離攻撃とか、騎士団の方針とは180度違うと思う。公差が良くわからないけど、多分NGとなる行為のはずだ。

 私はアーチーを丁寧に地面に寝かせて、ゆっくりと立ち上がる。白かった作業服はアーチーの血で赤く染まっていた。知らない人が見たら瀕死の重傷と思うだろう。おそらくジャックも勘違いしているはずだ。油断させるためにもよろめいて見せようか。


「フッ、足元もおぼつかないようだな。しかし、そんな事で貴様の罪が許されるわけでもない。虐げられた民の怒りの一撃をお見舞いしてくれる」


 なんてジャックに言われて、吹き出しそうになるのを堪えるのが大変だった。ウィリアムの命令で国中に増税が課されたのはわかっている。それも、自分達が贅沢するためにだ。当然ジャックもその恩恵にあずかっている。虐げられた民の怒りの向かう矛先はこちらではなくそちらだろう。全くもって滑稽だ。

 そんなジャックが馬から降りて、剣を抜いた。アーチーと比べると隙だらけの構えである。よく見ると、城門にはウィリアムと南十字星の乙女、トーマス、アーサーがいるではないか。ジャックは南十字星の乙女にいいところを見せたいと、こうして一騎打ちを申し込んできたのだろう。


「悪よ、滅びるがよい!!!」


 そう叫びながら上段に振りかぶるが、その動作が大きすぎるので私の放った拳が簡単に顔面にあたる。


「ぶべっ」


 変な音を出しながら後ろにふっとび、仰向けに倒れた。殴った拍子に歯が二本ほど抜けて飛んでいったので、これからは硬いものを噛むのが大変だろう。食べる機会があればだが。

 私がゆっくりと違づいていくと、半狂乱となって仰向けに倒れたまま後ずさる。


「助けて、助けて」


 そんな情けなく泣き叫ぶジャックを掴むと、犯人が人質の喉元に刃物を突き付けるような形で、後ろからジャックを抑え込んで城門の方を向いた。


「さあ、貴方には盾になってもらうわよ。このまま城門まで一緒に行きましょう」


 ジャックを盾にするかたちで進むと、魔導砲を持った連中がこちらに狙いを定めるのがわかった。


「あら、今度はジャックもろとも私を撃つつもりなのね」


 なんてニコニコしながら言うと、ジャックは泣きながら暴れ始めた。それを強引に抑え込む。


「近衛騎士団長を巻き込んで撃っておきながら、自分は勘弁こうむるなんて都合のいい話はないわよね」


「許してください。もうしませんから」


 泣きながら謝るジャックに対して、私は突き放す。


「許すか許さないかを決めるのはアーチーよ。彼が許すと言うなら今すぐにでもこの手を放してあげるわ」


 アーチーが気絶しており、許すと言えないのをわかっていて敢えてそう言った。それはジャックにも伝わったようだ。


「無理無理無理、気絶している」


「そうよ。彼は貴方たちの攻撃のせいで気を失ったのよ。残念だったわね」


「そんな、ぎゃああああああああああああああああ」


 私たちが話しているうちにも、相手の発射準備が整ったようで、ジャックがいるのをお構いなしに撃ってきた。私は攻撃が急所を外すようにジャックを動かしてやる。急所は外れたので死にはしないが、痛いものは痛い。そして、アーチーの時とは違って、こちらも来るとわかっているので当たったら直ぐにジャックを治癒している。結果、意識を失うことなく痛みを何度も感じることになっているのだ。相手は容赦なく連発してくるのだからたまったものではないだろう。暫くはジャックも叫んでいたが、痛みが脳の許容量を超えたのか、気を失ってぐったりしてしまった。死んでいないのは確認済みだ。

 ウィリアムたちはもう目と鼻の先なので、ジャックは投げ捨てて一気に走り寄る。もう魔導砲の攻撃は飛んでこない。魔力切れで撃てないのだろう。切り札を失って逃げようとする彼らを見て、私はムシュフシュを呼び寄せる。


「ムシュフシュ、城門を破壊しなさい」


「承知」


 ムシュフシュの一撃で城門は崩れ落ちる。がれきが退路を塞いだ。


「さて、一騎打ちっていう言葉が辞書とは違うようだけど、誰の命令だったのかしら?」


 青ざめる彼らに私はとびっきりの悪役令嬢の笑顔をぶつけた。

最初にこの話を思いついた時は、現代知識を使って辺境スローライフの予定だったのに、とある品管異世界転生小説に殆どネタを先に書かれてしまい、なにをやってもパクリにしかならなそうで気づけばこんな話に。

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