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悪役令嬢のCPKは1.33です  作者: 工程能力1.33
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14 ランチェスターの法則

 最初は隣接するジョーンズ男爵領の攻略だ。彼の居城にムシュフシュに乗って移動する。居城といっても男爵程度では城のような規模の建設は出来ず、大きな屋敷程度の場所で生活と執務を執り行っている。その庭にムシュフシュを着地させた。着地前から翼による風で枯葉や砂ぼこりが舞い視界を悪くする。着地の振動でさらにそれらが激しく舞って、尚且つ揺れが大きかったことで相手もこちらの侵入に気づいただろう。案の定、直ぐに警備兵たちが集まってきた。しかし、彼等はムシュフシュを見て足がすくんでしまう。そんな彼らを見て私は不敵な笑みを浮かべて宣言する。


「アビゲイル・ウィステリア・ハワードよ。ジョーンズ男爵はこちらにいるかしら?」


 勿論、ベルゼブブを使って彼の居場所は確認している。私はムシュフシュの背中から降りると、屋敷の玄関を目指して足をすすめた。それを見た警備兵たちは我に返り、剣を抜いて私の前に立ちふさがる。


「待て。あの叛徒どもの首魁か」


「そうよ」


 白の作業着を着て、腰に手を当てた姿勢で相手を睨む。


「ならば通すわけにはいかん。ここで討ち取って手柄にしてくれる」


 そう言うと斬りかかってきた。なんの変哲もない横薙ぎの一撃を私は片手で受け止めると、掴んだ相手の剣を握りつぶした。バキンという音がして剣が割れる。


「邪魔しないのなら命までは取らないわ。今ので実力差はわかったでしょう」


「まさか、剣を握りつぶすなどと。これは幻術か?」


 理解が追い付かずに、幻術ということで納得したいようだけど、どんなに頬をつねってみても割れた剣は元には戻らないと思う。


「さあ警告はしたわよ。次は手加減しないからね」


 そう言って足をすすめると、彼等は私を避けるように左右にわかれた。私はひらいた場所を真っ直ぐ歩く。もはや私を止めようとする警備兵はいない。

 玄関に到着してドアを開けてみると、鍵はかかっておらずすんなりと開いた。そこからはハエの姿のベルゼブブに案内してもらい、男爵のいる場所へと向かう。男爵のところにハエがいるので、ベルゼブブはその情報を元に真っ直ぐに案内してくれる。


「ランチェスターの法則、この場合は第一法則かしら。その法則の計算式だとこちらの兵器の性能が相手の何十倍にもなっているってことよね」


 先程の庭でのやり取りを思い出して、そう口にした。


「ランチェスターの法則ってなんですか?」


 本田はランチェスターの法則を知らなかったようで、そう聞かれた。


「ランチェスターの法則っていうのは兵士数と武器性能によって、実際の戦闘でどの程度兵力が減少するのかを計算する法則のことよ。第一法則は剣や弓矢をつかった戦闘で使う法則、第二法則は銃火器を使った戦闘で使う法則になるの。基本的には人数が多い方が有利なんだけど、例えば鉄と青銅の武器だとその性能に差があるから、人的不利を補えるっていえばわかるかしら」


「はあ、なんとなくですが」


 本田は中途半端な返事をした。これはわかっていないな。


「例えばだけど、こちらが一万、相手が三万の軍を持っていて、武器の性能が同じだった場合は相手が勝つのがあたりまえでしょう。だけど、相手が四方からこちらを包囲しようとして、軍を四分割したら各個撃破の選択をとると、一万対七千五百の戦いになるから有利さがひっくり返るの。それに、相手が原始的な弓矢で武装していて、こちらが銃火器で武装しているなら、10倍の戦力で攻め込まれても怖くないでしょ。今の状況でいえば、こちらの戦力になるのは私とムシュフシュ。警備兵は見た感じ30人くらいいたようだけど、彼等に対してこちらの被害がゼロっていうことは、少なくとも相手の人数と武装度合いからしたら、単体の能力さが20倍以上はあるってこと。15倍なら相打ちだからね」


 そう説明したら、いたく感動したようだ。


「転生生活25年。この本田どれほどこういった現代知識の披露を待ち望んだことか」


 って泣きまねしているくらいだし、感動してないかな。微妙にどこかで聞いたようなセリフだし、ふざけているだろう。


「ふざけているわよね?」


「はい。すいません。でも、単純に攻める側は守る側よりも三倍の戦力が必要なんていう知識よりもかなりいいです。そういう知識が欲しいんです。やっぱり転生悪役令嬢はこうでないと」


「前から一度聞こうと思っていたんだけど、本田の考える悪役令嬢の中央値ってどんなものなの?」


「それはですね――」


 というところで目的地に到着した。


「この部屋です」


 ベルゼブブが教えてくれた部屋は、木製の高級そうなドアが取り付けられていた。この中にジョーンズ男爵がいるわけね。何の警戒も無しにドアを開けると、目の前に切っ先が迫ってきた。私は首を動かすだけでそれを躱す。切っ先は先ほどまで私の顔があったところを突くが、むなしく空を切って終わる。よく見ると剣を突き出してきたのは小太りの中年男性。高級そうな服を着ているので、これがジョーンズ男爵だろうか。多少頭が切れるなら、高級な服を身代わりの人間に着せて、自分は使用人の服を着て逃げるところだけれど。値踏みするようにかれをみた。

 しかし、本人かどうかわからない。自分に人を見抜くような能力はないので、直接聞いてみる事にした。


「ジョーンズ男爵かしら?」


「そうだ。王国のご恩を忘れて裏切った叛徒が何をしに?」


 あっさりと本人であるとみとめたが、確認のしようが無い。ベルゼブブに確認するが、入れ替わったというのは見ていないというので、本人ということで話をすすめようか。


「叛徒っていうけど、王国の現状を憂いている忠臣って言ってほしいわね。男爵は今の状況がいいと思っているの?帝国と共和国の二正面作戦を強いられておきながら、国王はそれを解決する手段を見いだせない。なのに、女に溺れて国政をないがしろにしている。うちの愚弟もそれにくみして、住民に重税を課して疲弊させ、終わりの見えない戦争で貴重な働き手を失った。私はそれを止めようとしているのよ。愚弟を止めたのはいいけど、家の継承を認めてくれないから独立を宣言しただけ。それが認められていたら国に弓を引くような真似はしなかったわ」


「そんなものはあとからどうとでも取り繕う事が出来る理論だ。婚約を破棄された恨みから独立に踏み切ったという意見に反論するには弱いだろう」


「それもそうね。まぁいまはそれはいいの。私は国王の愚行を止めるためにこれから王都に向かうつもりよ。私たちのあとからうちの兵士達がここを通過する予定だから素通りさせてほしいの」


 私のお願いにジョーンズ男爵は難色を示した。


「陛下を裏切れと?」


「最終的にはね。私がウィリアムに敗れて処刑される可能性だってあるんだから、今はまだ味方になってないふりをしてもらいたいのよ」


「しかし、領地を通過されるのを黙って見過ごせば、直ぐに裏切りがばれてしまうではないか」


「言われてみればその通りね。じゃあ、私が勝つように祈っていることね」


「無理だろう。王国を相手にたかだか公爵領の兵力で勝てるものか」


 そう言われたので私は窓を指さした。


「外にいるドラゴンは、ドワーフの自治領で暴れていた邪竜よ。ドワーフ達ですら手に負えない邪竜がいるんだもの、兵力差なんて簡単に埋められるわ」


 男爵は私に言われて窓の外を見た。


「報告は受けているし、遠目には何度か見た。なにせ我が領は貴国と国境を接していて、何度も戦った相手だからな。戦場ではその竜が一吠えするだけで、多くの軍馬が驚いて使い物にならなくなった。まともな戦力でも無ければ、退治することは不可能だろうな。だが、王都の戦力はそのまともな戦力だ。勝てるわけがない」


「あら、そうかしら?どうして邪竜が私に従っていると思う?」


「契約の魔法でも使ったのか」


「そうじゃないわ。単純に私の方が強いから服従しているのよ。邪竜とそれよりも強い私が攻めるんだもの、王都の陥落だって夢物語じゃないわよ」


「馬鹿な。貴族令嬢が邪竜よりも強いなどと」


「にわかには信じられないでしょうね」


 こんな話理解できなくて当然だと思う。逆の立場なら私も信じない。


「でも、不思議だと思わない?警備兵がいたのに私が無傷でこうしてここに立っているのなんて。それは彼らが私に敵わないと悟って、攻撃するのを諦めたからなのよ」


「確かに、そこの窓から見ていて、剣を握りつぶしたのは目を疑ったよ。幻術の類かとも思ったが、そうではなく本当の力なのか」


「そういうこと。ここで忠義をはたして散るもよし、裏取引で今後も領主としているのもよし。どちらでもいいわ。ただし、今すぐに決めてもらうけど」


「領主のままでいいのか?」


「もちろんよ。我が国には人材が不足しているから、奪った領地を治めるなんて出来ないわ。だったら今治めている領主にそのままお願いした方がいいじゃない」


 そこまで言うと男爵は黙って考え込んだ。そしてしばらく後、やっと口をひらく。


「そういうことであれば、協力させてもらおうか。万が一陛下が勝った場合でも、ドラゴンで脅されていたと言い訳すれば許してもらえそうだしな」


「そう、それなら早いところ契約を結びましょうか」


「契約?」


 私が契約といったら男爵は不思議そうな顔でこちらを見てきた。


「ええ、契約よ。男爵が私を裏切らない限りは、この地の領主であるという契約。ただし、裏切った場合はその場で木に閉じ込めて、永遠の苦しみを味わってもらう事になるけど」


 私が手で合図すると、本田が契約書を取り出す。


「さあ、ここにサインをしてもらえるかしら」


 署名欄を指さすと、男爵は笑いながらサインをした。


「永遠の苦しみとはまた怖いことを。世の中に永年の命などというものは無いですが、本当にそのような事が可能なのでしょうか?」


「どうかしらね」


 と私ははぐらかしたが、この契約書はベルゼブブに作らせた呪いのアイテムだ。嘘や冗談ではなく本当にそうなってしまう。が、男爵は脅しの類だと思っているらしい。間違いを起こさなければいいけど。

 先を急ぐ私たちは、男爵にくれぐれもフレディたちに何もせず、無事に通過させるようにと念をおしてから、次の領主の居場所へと向かった。



 ☆


 アビゲイルたちが立ち去った後で、男爵は部下のサイラスを呼んだ。


「サイラス、これから叛徒どもの軍がここを通る。奴らはこちらが攻撃をしないと油断しているから、後ろから襲って皆殺しにしろ」


「よろしいのですか?無事に通過させると約束をしたと聞いておりますが」


 サイラスはアビゲイルが屋敷を出る時に、彼女自身からそう男爵と約束をしたと聞かされたのだ。


「かまうものか。国力の差を見ろ。この戦争、どちらが勝つかは一目瞭然だ。公爵領に支配者がいなくなれば、当然そこは功績のあったものに下賜されるだろう。そのためには、敵を多く討ち取っておかねばならん。それに、わしの取り分が多くなるという事は、当然お前らにもそのおこぼれがあるという訳だぞ」


「それは確かに」


 サイラスは納得し、男爵の指示に従ってフレディたちを背後から襲うことにした。

 が、その時である。目の前にハエが一匹飛んできたかと思うと


「契約違反を確認。ペナルティを実行します」


 と言ったのだった。ハエが喋った事に驚いていたが、直後にもっと驚くことになる。


「ぎゃあああ」


 男爵が悲鳴を上げたかと思うと、みるみるうちに彼の足は根となり、体は幹に、手は枝葉となったのである。そしてそれは屋敷の床と天井、壁を突き破って大きな木となった。木の幹には男爵の顔だけが残っており、それが苦悶の表情で悲鳴を上げている。


「閣下」


 サイラスが男爵に近寄ろうとすると、ハエが人の姿に変わって間に入った。


「こうなっては人の力ではどうにもなりません。が、お優しい我がご主人様ならば、このあとここを通過する軍に対してなにもしなければ、恩赦を与えるかもしれません。しかし、貴方が男爵の命令どおりに行動をするのであれば、それもなくなるし貴方の命もないでしょう。忠義を見せるなら止めませんがどうされますか?」


 その問いに答えを出せないサイラス。立ち尽くす彼の耳に男爵の声が届く。


「助けて。痛い、痛い」


 異形の身となった男爵を見て、サイラスは男爵の命令に従わない事を決意した。

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