12 変化点
戦線の膠着は継続しており、帝国軍はこちらが積極的に国境を越えないのを確認すると、防衛のみの戦力を配置する作戦に切り替えてきた。何故攻め込まないのかといえば、占領したときにつかえる軍が足りないからである。地球の歴史を見ても、他国を占領した後に多くの陸軍を送り込んで治安維持をしなければならないし、それをすることで多くの被害と経費が発生する。そんな余裕がないのだ。元々公爵領だったのを国家としたので、近隣国よりも人口は少ないし、義弟の悪政によって男手が激減してしまったので、どんなにはやくとも、20年くらいは人手不足が続くだろう。
そんな何もしてこない帝国と対照的に、王国からは積極的な攻勢がある。といっても、近隣の領主が攻め込んでくるくらいであり、王国軍はやってこない。帝国と共和国との戦闘で手が離せないというのが実情だろう。地方領主の軍が攻めてきたところで、ベルゼブブとムシュフシュに返り討ちにされるだけなのだが、彼等もウィリアムからの命令に逆らう事が出来ずに、無駄な消耗を続けているのがかわいそうだ。
ただし、攻めてくるのは軍隊ばかりではない。既に、何度か暗殺者を送り込まれている。けれど、邪竜ですら簡単に倒してしまえるような私に、人間の暗殺者が襲ってきたところで殺される気はしない。現に素手の私が全て撃退しているのだ。因みに、警備は経費がもったいないので付けていない。いらないものに金をかける必要はない。世界最強の私にそれより弱い人員での警備なんて、過剰品質もいいところよね。
「というわけで、前回送り込まれてきた暗殺者から得られた情報は、ウィリアムの指示だったということと、もう暗殺者がいなくなってしまったということです」
ベルゼブブからの報告は聞き飽きた。暗殺者は帝国と王国から送り込まれているが、比率は1:10で王国の方が多い。元婚約者に対しての扱いが酷いわね。私はあなたたちの仲を壊すつもりはないわよと伝えてあげたい。国家の暗部が無くなるほど送り込んでこなくてもいいのにね。
「それにしても、よくそんな暗殺者がもういなくなってしまったなんて情報聞き出せたわね」
とベルゼブブに興味本位で質問したが、それは失敗だった。
「脳内の記憶を吸いだしましたからね」
「へぇ、そんな事が出来るのは便利ねえ。嘘も簡単に見抜けるし。どんな魔法なのかしら?私も使えるなら使ってみたいわ」
「ご主人様には難しいかもしれませんね。鼻から蛆を入れて脳を蝕みながら記憶を覗いていくので。勿論、蛆に蝕まれた脳は使い物になりませんので、その後はよだれを垂らしながら焦点の合わなくなった目で呆然としているだけなんですけどね。食事がとれないのでじきに死んでしまいます。なんなら、罪人を使って実演してみせましょうか」
「いやいいわ。今の説明だけで一週間は食事が出来そうにないから。実演されたらダイエットがはかどりそうよ」
想像しただけで吐きそうになる。サファリパークで虎が食べ残した餌に蛆がわいているのを見たときの、あの気持ち悪さが記憶に鮮明に残っていて、からだが受け付けないのだ。
「陛下、そろそろ工房の視察に出掛ける時間ですが」
と本田に言われて、この会話は終わりとなった。
工房の視察は内政の一環で、いうなれば現場の声を拾い上げる工程巡回のようなものである。何に困っているかというと答えが返ってこないことが多いが、今よりも生産性を上げるためには何が邪魔か、何が出来たら生産性が上がるのかということを、農業工業問わずに聞いているのである。
目安箱のようなものを作りたいと本田に相談したら、識字率が低いからそれでは伝えたいことを伝えられない人たちが大勢出てきますと言われてしまった。それに、暴れん坊将軍が好きなんですねとも。私は徳川吉宗のやったことが好きなだけで、時代劇が好きなわけではない。悪人のところに自分で乗り込んで成敗してるわけでもないしね。
そういうわけで、私が工房や農村に出向いて意見を直接聞いているのである。そして、今日は武器や包丁などの刃物を作っている工房の視察というわけだ。なお、視察の衣装は上下白の作業着である。やはり現場視察はこうでないと。
「もうそんな時間なのね。わかったわ、出掛けましょう」
「はい」
メンバーは私と本田。それに文官が二人とハエの姿となったベルゼブブだ。なので、すぐに出発できた。
目的の工房で予定どおり視察を行う。その途中で本田が私に小声で質問してくる。
「熱間鍛造と鋳造しかやってませんけど、出掛け冷間鍛造の方が良くないですか?」
その質問を聞いて私は額に手を当てた。
「製鐵技術の問題よ。不純物が多すぎて硬度が高くて靭性がないの。銅ならばなんとかなるかもしれないけど、金型とプレス機のノウハウが無いからそれでも無理かな。高性能の高炉でもないと冷間鍛造は出来ないわね」
冷間鍛造、つまり常温での加工の方が高精度の加工が出来る。しかし、その前提となるのは柔らかい鉄の材料があることだ。柔らかい鉄というと不思議に思われるかも知れないが、鉄は純度が高いととても柔らかい。そこに炭素などの他の元素が加わることで、とても硬くなるのだ。ただし、それは地球での話であり、精霊王の剣に使われている魔鉱石みたいなJIS規格には載ってない物質があるので、全く同じとはいえないだろう。
私の言った事を聞いたら、本田の表情がとても明るくなった。なにか違法な薬でも使ったのかというくらいの変わりようがとても怖い。
「それじゃあ高炉を作らないとですね」
なんて嬉しそうにいう。
「高炉が簡単に作れたら苦労なんてしないわよ」
高炉の技術はとても複雑だし、素人が簡単に作れるようなものではない。質の悪い鉄を作るのならそれでも良いが、冷間鍛造するための材質なら、思い付きで作れるわけない。
「何言ってるんですか。転生悪役令嬢の内政チートと言えば高炉は定番ですよ」
「何言ってるんですかはお前だろう。素材起因の不良の対策で高炉メーカーとも相談を重ねたが、今以上に精度の良いものは出来ないと言われたのを忘れたのか?」
鉄を作っても出来がばらつくのだけど、JIS規格はそのばらつきを認めている。使う側がばらつきを吸収しなければならないのだけど、高精度の製品を作る時にはそのばらつきがどうしても吸収しきれないのだ。日本にある高炉メーカーの担当者とは散々打ち合わせをしてきたが、やはり技術的に難しいところで解決にはいたらなかったという経験がある。本田もその打ち合わせに参加していたはずだ。コンピューター制御されている高炉ですらそうなのに、全てが人力のここで高炉を作ったとして、まともな鉄を作れるわけがない。私も悪役令嬢が主人公の作品、いや異世界転生して現代知識で高炉を作って内政チートする作品は読んだ事があるけど、我々工場の品質管理部門の人間が同じ感覚で高炉が作れると思うのは駄目だろう。
「じゃあ、高炉は作らないんですか」
なんて泣きそうな顔を見せられると、ちょっとフォローはしないとという気持ちになる。
「製鐵技術の向上は国家的な問題よ。放置するつもりはないけど、今の人員だと優先度は低くなるわね。だけど、やらないっていう訳じゃないの。高炉建設の計画を立案しなさい。技術者の育成からになるから、とても時間がかかるでしょうけどね」
フォローしたつもりだったけど、どうにも顔が晴れない。どうしたのか?
「課長がやってくれないんですか?だって、こんな世界じゃミルシート作るのも出来なくて、自分には荷が重いんですよ」
その一言で堪忍袋の尾が切れた。結婚式で言う人生で大切なふくろ三点のうちの一点よ、さようなら。
「いつまでも人に頼ろうとする考え方をなおせ!だいたい、私が今ここにいるのだって、本田が一人で監査できないって泣きついてきたせいだろうが!納期は決まってないんだから、出来る方法をじっくり考えろ。駄目なら廃案だって誰も怒らない!」
「すいません」
私が怒鳴ったものだから、周りはキョトンとしてこちらをみている。今まで前世の知識での会話だったので、お互いに小声だったけど、怒りのあまりついつい声が大きくなってしまったのだ。みんなからしたら、私が怒っている理由がわからないので当然か。
集まる視線に愛想笑いで視察を続ける。そして、全てを視察してからの問題点のはなしとなった。
「見た感じ工房の広さと、職人の数があってなさそうね。工房がとても広く感じたのだけど」
私が工房の親方に感じたままを聞いてみる。
「男手はみんな戦争に取られちまいましたからね。ハリソン様の親の仇を討ちたいっていう思いで、この領は一番の激戦区に送り込まれたんだとか。死んだやつもいれば帰ってきても腕が無くなって仕事にならねえって奴もいます」
そう返答が来た。そこには明らかに怒りの感情が込められている。
「愚弟のしでかしたことは申し訳なかったわ。ただ、新しい職人を募集したりはしないのかしら?」
「あ、公王様を批判したわけじゃありません」
と急にかしこまったので、それを手で制した。
「別に怒ってないから。それで、新しい職人の募集はどうなの?」
「それはしております。つい最近もハンスを雇ったばかりで」
親方がチラッと工房で働く若い男の方を見た。なんとなくぎこちなさがあるのだけど、私から視線を逸らしたら襲い掛かるとかないから、そこは安心して欲しい。
「足りないわね。職にあぶれた軍人を紹介しようかしら?彼らの就職先についても頭が痛いのよ。戦争で多くの物資と人員が取られたため、武器も農具も包丁みたいな刃物もみんな足りないの。足りない分は輸入したいのだけれど、周囲は敵国しかないでしょう。そうなると、国内で生産するしかないのよ」
私の悩みはそれだ。戦争のせいで物資が不足してインフレが起こっている。武器は後回しにしてもいいけど、農具や包丁は急ぎで欲しい。愚弟は農民兵に武器を支給しなかったので、彼等は農具などで武装して戦争に臨んだ。その結果、国内では農具が不足。収穫にも影響が出てくるのは間違いない。
「公王様は我々の仕事をわかっていない!職人は直ぐには育たないんですよ!素人を何人渡されたってこっちの効率が落ちるだけです」
私の言葉に対して親方は口調が強くなった。しかし、そんなことでは怯まない。前世でも頑固な職人たちと何度も渡り合ってきたのだ。今更この程度を言われたところでいつも通りという感想しか出てこない。
「職人は直ぐには育たないっていうけど、教え方にも問題があるのよ。どうせ作業を見て覚えろくらいしか言ってないでしょう?」
「そうですよ、俺だって、俺の親方だってみんなそうやって仕事を覚えてきたんです」
「まずはその考え方を変えてもらわないとね。それじゃあ見て覚えられるうような優秀な人材しか育ってこないじゃない。いつまで経っても職人不足は解消しないわ」
「それくらいの素質と根性がある奴じゃないと良いものは作れないんですよ」
「今民衆が求めているのは最高品質のものじゃないわ。普通に使えればいいのよ」
「そんなもの恥ずかしくて売ったらお天道様の下を歩けない!」
「わけて考えて欲しいの。数打ちの品と高品質のものを別々のブランドで作って売ればいいじゃない。これは妥協案よ。貴方が高品質にこだわるなら私が直接鍛冶工房の経営に乗り出すからね。本当は民衆の自由に任せたいけど、今はそれを言っていられる状況じゃないの」
「貴族のお嬢様に鍛冶が出来るもんですか!」
よし、予定通り売り言葉に買い言葉で乗ってきた。
「道具を貸して。今ここで作って見せるわ」
「怪我してもしりませんよ」
私は親方から道具を借りると、鉄を熱して包丁を作って見せた。熱間鍛造なんて久しぶり過ぎて、感覚を思い出すのに少し時間が掛かったが、前世と違ってチートな肉体では疲労が全くないので作業がすいすいとすすむ。
「ほら、これでどう?」
柄は付いていないが、仕上げに研いで刃をつけた包丁を親方に手渡した。なお、刃物も散々前世で研いできたので、切れ味も抜群のはずである。
「いや、これなら直ぐにでも弟子を取れますが……」
出来栄えを見た親方が驚いた。貴族のお嬢様には鍛冶は無理だと決め込んでいたところ、私が売り物になるものを作ってしまったからである。
「別に見て覚えるだけじゃなくて、叩き方や冷やし方を丁寧に教えればこれくらい出来るようになるの。これと商売でぶつかってやっていく自信があるならそれでいいわ」
勘やこつでやっていた作業を極力数値化して、作業の急所を丁寧に教えていけば、売り物を作れるようになるのにそう長い時間はかからない。製造業では雇用したらすぐにでも稼いでもらいたいので、悠長に見て覚えるようにとかいうのは20世紀のうちになくなったのだ。この世界では見習いのうちは給料は払わずに小遣いを渡すなんてのをやっているので、雇用側はそんなに痛くないというのもあるか。なんにしても育成が非効率で、改善の余地は大きい。
「わかりましたが、俺には教えるノウハウが無い。親方はげんこつで教えるもんだって育ってきたから、いざ自分が親方になってもそれしか出来ないんです」
「指導方法はルイスが教えるわよ」
本田も製造業を経験してきたので、標準作業や加工条件の伝え方くらいは教えられる。鍛冶作業を見て作業分解をし、何を注意すべきか、何の数値を守らなければならないかくらいはわかるはずだ。
なんて考えて本田の方をちらっと見たら泣きそうな顔をしているが、見なかったことにしよう。
「さあ、お話はいったん中断してお茶でもどうぞ。公王様のお口にあうかはわかりませんが」
親方のおかみさんがそういってお茶を淹れてきた。どうにもお茶を持つ手が緊張しているように思えるが、私はお茶が不味いからといって人を殺すような短気な性格ではない。なにもそんなに怖がらなくてもいいのにと思いながらお茶を受け取り一口すする。
「ん?」
舌の先にピリッとした感覚がある。辛さの弱い七味唐辛子を口に入れた時のような感覚だ。これは私の防御反応が出たことをあらわしている。無味無臭の毒だったので、口に含むまで気付かなかったのである。
「あら、こんなところで毒を盛られるとは思ってなかったわ。どうにもおかみさんの仕草に違和感があったのだけど、その正体はこれだったのね。毒が入っていると知ってこれを差し出したのでしょう?」
にっこりとほほ笑んだのだがおかみと親方は青い顔から変な汗を流して下を向いたままだ。他の者達にはお茶を飲まずに捨てるよう命じた。そしてもう一度親方に向き合う。
「正直に言った方がいいわよ。私は慈悲深いから正当な理由があればこのことは不問にするわ。私の政策のせいで生活できなくなるとかなら、私が悪いんだもの」
そういうと、暫くの間があいて親方が口を開いた。
「私はどうなってもいいので妻は見逃してください。真実をお話いたします」
「内容しだいだけど、まあいいわよ。先に進まないからおかみさんは無罪とするわ」
「それともうひとつ」
「あら、要求が多いわね。でも聞くだけ聞いてあげる。真因に辿り着くためには、全ての事を話してもらわないとならないからね」
そう言って再びほほ笑んだ。これは不良を作った作業者にも言える事だが、怒ってしまうと真実を隠されてしまう。そうすると真因がわからずに不良が再発してしまうのだ。なので、怒らずに聞くことが大切なのだ。
そして親方の口から真実が語られる。
「数日前、息子が誘拐されました。覆面の男が家にやってきて、そう伝えてきたのです。そして、開放して欲しければ、公王様の視察の時にお茶に毒を入れるようにと、粉薬を手渡されたのです。どんな毒かはしりませんが、毒入りのお茶を飲ませるのをハンスが確認したら、息子は開放すると言われました」
それを聞いて私は常人の目に留まらない速度でハンスに駆け寄り、彼を床に倒して拘束した。
「それが本当なら二人とも無罪よ。安心して。子供の命と天秤にかけられるようなものなんて無いものね。それと、ちょっと奥を借りるわよ。ハンスにききたいことがあるから。これで二人の息子さんが死んでいたら、ハンスとその仲間には死ぬよりもつらいめにあってもらわないとね」
有無を言わさず奥にある小さな部屋にハンスを連れ込むと、ベルゼブブに脳内を確認するように命じた。すると、口っぽい管を鼻に突っ込む。蛆を送り込んでいるのだろう。
「そこは卵管じゃないの?」
「私、卵管持ってないんですよ。それよりも見ていて平気なんですか?」
「精神抵抗値が高くなったのかしらね。胃の中のものが上がってくる気配が無いわ。それよりもどうなの?何かわかった?」
「人質は隠れ家で生きているみたいですよ。暗殺成功後に両親をそこに連れていき、対面させて安心したところを口封じに全員殺す計画だったみたいですね」
「それは重畳。死んでいたら城の柱に埋め込んで、未来永劫蛆に身体を蝕ませては回復させようと思っていたけど、息子を殺していないならこのまま放置して餓死させてあげられるわね」
「ご主人様も人を殺すのにためらいが無くなりましたね」
「そんな事ないわよ。ただ、敵は排除しなければこちらがやられると割り切っただけ。無辜之民を手にかけるようなことは出来ないわよ」
「だといいですがね。最初の頃は虫も殺さないような感じでしたが、今ではそうではないですよね。なにか大きな力が働いて、ご主人様の性格が変わっていくように見えます」
その一言で自分の考え方が変わってしまったのかと怖くなる。世界が私に悪役令嬢としての役割を求めていて、自分でも気づかないうちにそうなろうと変化しているのだとしたら。
いや、それは無いな。子供を誘拐して親に毒を使わせるのは、一作目のアップデート版でアビゲイルがやる作戦だ。それを最後の断罪シーンで暴露されて、処刑エンディングをむかえることになる。アビゲイルが生きているのが許せないという多くの声に応えて、追加シナリオを販売したのだ。処刑される理由は南十字星の乙女を毒殺しようとして、学園の食堂のスタッフの子供を誘拐して、親に毒を使わせるのだけど、誘拐した子供は殺すように命じていたからだ。毒を使ったこと事態は許すといわれて、一瞬アビゲイルが喜ぶ描写があるのだが、直後に誘拐殺人の罪で王太子から処刑が言い渡される。一応、国の裁判をその後に受けたとかいう文字が表示はされるんだけどね。私が悪役令嬢としての役割を担うなら、どこかでこの作戦を実行していたはずだ。
不安を振り払ってみんなのところへと戻る。
「ハンスが監禁場所を吐いたから今から行ってくるわね。ルイスは一緒についてきて。他はフレディに連絡して第三大通りで待機するように伝えておいて」
指示を出して出掛けようとしたら、不安そうにこちらを見る親方とおかみさんに気づく。
「心配しないで。必ず助け出すから」
そういうとふたりは無言で頷いた。それを見てから工房を出発する。
道中で本田に先ほどの不安の話をした。
「ねえ、私がもしもゲームのアビゲイルみたいに悪事に手を染めたら、本田が私にとどめをさしてくれるかしら?」
「どうして急にそんなことを?」
「どうも、この世界はゲームのシナリオを何とかして再現しようとしているみたいなのよね。そうなると、私がいつ世界に取り込まれて悪役令嬢のアビゲイルになるかわからなくて不安なのよ」
そういうと、本田は少し考え込む。
「最強生物の課長にとどめをさせるきはしませんが、その時は二人で誰もいないところに行きましょう。自分が一生課長のことを見守りますよ」
「期待しているわよ」
って言ったら本田が困ったような顔をした。
「随分と弱気ですね」
と言われてしまった。
「弱気にもなるわよ。ひょっとしたら自分がそうなるかもしれないって思ったらね。不良が出たのが自分のせいかもしれないっていう状況と似ているわね」
「ああ、あの不良品を回収して確認する前の緊張感はやばいですね。それならよくわかります」
品質管理で製品を生産することは無いが、自分の判断が間違っていて不良品を大量に生産してしまうことはある。そんな判断を間違っている時、誰かが止めてくれたらとは常々思う事だ。今は本田がいてくれて本当に良かったと思える。
監禁先を襲撃して人質を救い出し、無事に両親の元に返す事が出来た。誘拐犯たちは公国に潜入していた王国の工作員たちであり、彼等の脳内の情報から他の工作員が判明。ベルゼブブにその全てを排除するように命じた。




