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月光に咲く花の如く  作者: 夜妬
第1章 ドラゴンスレイヤー
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第8話 青い光

 福島県会津若松市に駆けつけた2等星とその直属部隊のライブラ、スコーピオン隊は、A級ドラゴンのリントヴルムが破壊した街の惨状に目を見張った。


「酷いな……」


 隊員の誰かが呟いた。

 そう言うしかない光景だった。


 ここはまだドラゴンによる被害が少なく、しっかりと建物が残り『崩壊の日』以前の街並みがそのまま広がっていた。


 ━━はずだったのだが、目の前に広がるのは瓦礫すら存在しないただの荒野だった。


 辺り一帯を整地したかのようになにもない。




 リントヴルムがドラゴンスレイヤー達に気付き、咆哮をあげる。


 ビリビリと身体が震えるような雄叫び。

 一瞬で緊張感が漂う。


 そんな中、すっと1歩前に出るものがいた。

 この場では異色の輝きを放つブロンド。派手な髪色の割にスーツを着てネクタイをきっちり締めている。

 凛と背筋を伸ばして立つ1人の青年。


 ペンタグラム2等星、敬称『アルストロメリア』


 肩にかけたコートを翻し、彼は腰のレイピアを抜く。すると、内陸部であるはずなのに波がさざめくような音がした。

 それを合図に、隊員達が武器を構える。


「行くぞ。()()()がくる前に終わらせる」





 

 水のエレメントのマナを操る彼らは、()()()()()()()()


「スコーピオンは二手に分かれてアルス様の後方支援、ライブラ各員はサイドから攻めるぞ!」


 アルスのレイピアに水が纏う。キラキラと光るその水が、刃のように鋭くなりリントヴルムの強靭な鱗を斬り裂いた。


 リントヴルムが低く唸り、アルスの方を向く。どうやらターゲットを決めたようだ。


 リントヴルムはガパッと口を開く。A級の大きな牙がのぞいた。そのまま素早く攻撃を仕掛ける。


 アルスは動かない。


 リントヴルムが勝利を確信したように目を細める。

 鋭い牙が、アルスの首筋に突き付けられ、今にもその白い肌が噛み裂かれようとした時、アルスはふっと小馬鹿にしたように笑った。


「……甘いな。A級と言えど、所詮その程度か」


 ━━刹那。リントヴルムの首が爆ぜた。


 耳を劈くような叫びをあげ、体勢を崩すドラゴン。その左目は爆発の影響で潰れていた。

 アルスの影からスコーピオン達が攻撃したのだ。


 ペンタグラム直属、12星座部隊の中でも規律を重視し、乱れのない連係プレーが目立つアルストロメリアの部下達。洗礼された動きでリントヴルムに対し確実にダメージを与えていく。


 それを統率するアルスの攻撃は、一切のブレがなく、美しい太刀筋だった。

 相手の攻撃に合わせ激しく応戦しているが、そのひとつひとつの動作には無駄がなく、本人はとても涼しい顔をしている。


 アルスはリントヴルムの懐に素早く潜り込み、右に払うようにレイピアを振る。

 その動きはとても軽そうに見えたが、相手に当たる瞬間、まるで加速したかのように重い一撃に変わる。


 これもマナの力を利用している。武器の回路に埋め込まれたマナを、武器の周りの大気中に存在しているマナと反発させて攻撃力をあげているのだ。




 リントヴルムが翼を広げ、軽く羽ばたく。それだけでかなり強い風が吹き、土埃が舞い上がった。そのまま低空飛行し、リントヴルムの左右から攻撃をしていたライブラ達を噛み砕こうと首を振り回している。


 それを上手くかわすライブラ達だが、疲労も溜まり動きが鈍くなってきていた。


 リントヴルムが飛行をやめ、ドンッと音を立てて地に両足をつけた。そして素早く大きな尾を振る。その先にいたのはアルストロメリアだ。


 その不意を突く一撃に、まるで未来が見えていたかのようにトンッと1歩地面を蹴り上げ、宙で体を捻って回避する。


 着地したアルスの目に前髪が掛かる。それをかきあげて彼は周囲を見渡した。


 部下達の消耗が激しい。当たり前だ。遠征任務に出ていて1度も帰還せずそのままA級との戦闘。

 バベルを背負うライブラ、スコーピオンという上位部隊員だとしても、彼らは人間なのだ。


 早く片付けたい。だが、目の前にいる異形は倒れる気配はおろか、疲労すら感じさせずに吼える。


 グッと身体が引っ張られるような感覚。

 酷い耳鳴り、ブレる視界。

 その原因は大きく開くリントヴルムの口から明らかだった。

 ブレスだ。


「防御層を展開しろ!」


 アルスが部下達に叫ぶ。A級のブレスにも怯むことなく、ライブラとスコーピオンは陣形を組む。


 ブレスへの対処法は基本的には2つだ。

 1つはB級ワイバーン戦でアリエス、タウラス隊が行おうとした退避。


 そして2つ目が防御層の展開だ。防御層とはマナの結晶の層であり、盾のような役割をする。また、大気中のマナを利用するために自由に形、大きさを変えることが出来る。


 陣形を組んだ2部隊がリントヴルムに向かって手をかざすと、青く透き通るガラスのような層が現れる。表面にはハルの刀の幾何学模様に似た青いラインが浮かび上がっていた。

 それが何層にも、何十層にも重なっていく。


 背を反らしていたリントヴルムがグッと頭を振った。


 バリバリと空気が破裂しているかのような、鼓膜を破ってしまいそうな音が鳴る。

 紫の雷光が真っ直ぐアルス達に向かって走る。

 目を開けていられないほどの閃光。

 パリン、パリンと何層もマナの結晶が砕けていく。


 ━━このままではもたない。防御層がすべて破られる。


 A級ブレスの直撃、それは死と同義。


 あと4層、3層……隊員達は動かない。

 誰も逃げない。


 死を目の前にしても、誰も、アルストロメリアを裏切らない。


 ━━あと2層。


 破裂音が、聞こえた。

 防御層が砕けた音でも、ブレスを放つリントヴルムから発せられたものでもない。


 アルスが地を蹴った音だ。


 ━━残り1層。


 一蹴りで部下達の前に出たアルスの目の前には薄く青い結晶を破ろうとしている稲妻。


 すっと息を吸い、アルストロメリアはレイピアを構えた。



防御層は魔法陣や魔法円のイメージです

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