第6話 刀の回路
司令棟の中央に位置する司令室、そこで煌葵は大きなモニターを見ていた。
映っているのは今神奈川県にいる2部隊だ。その中でも彼が注目しているのはただ1人。
ずっと腕を組み、真剣な顔をしていた煌葵だったが、戦闘が終わるとふうっと一息ついた。そしてそばに居たオペレーターの1人に向かってへらりと人が変わったように笑いかける。
「いやぁ、これありがとな」
少し緊張した様子のオペレーターに借りていたヘッドセットを返した。
煌葵が司令室から出ようと振り向くと、入口付近に1人の男が立っていた。
黒い髪を片側だけかき上げ、ピシッとスーツを着込んでいる。その男は機嫌が悪いことを隠そうともせず腕を組み、片眉を吊り上げて煌葵を睨みつけていた。
「私の部下の仕事を取らないでいただきたい」
地の底から響くような低い声だ。だが煌葵は気にも止めずにへらへらと笑みを貼り付けたまま彼の肩をポンと叩く。
「あーほらそんな顔してると眉間のしわが取れなくなっちまうぞ、支部長さん?」
額に青筋を立てる支部長にひらりと手を振って、煌葵は司令室をあとにした。
バベルにはいくつかの医務室がある。
ドラゴンスレイヤー達の治療はもちろん、日常的な怪我の治療から技師達が試作品の実験で爆発を起こしたときなんかでも使われる。
ちなみに司令部の管轄だ。
帰還したハルは麗央にすぐさまそのうちの1つに連れていかれた。そして今は治療を終え、ベッドに座っている。
それを囲むのは麗央、ナツキ、凛、そして煌葵だ。
「ハル様、無理しないでちゃんと休んでくださいね?」
「大したことないから大丈夫だよ」
たしかに全身に細かい傷はある。何故できたのかは分からないが、防護服のおかげで本当に大したことはなかった。だが、その返事に反応したのは別の人物だった。
「大丈夫じゃないでしょ。説明してくれますよね、リーダー」
静かだが重い声だった。
かなり怒っているらしい。それに対して煌葵はハルの向かい側のベッドに腰掛けて3人を見渡した。
「ハルには言ったが、今回俺は刀の回路に負荷をかけた。飛蒼鉛の性質は覚えてるだろ?」
「……磁石と同じで、引き寄せ合い、反発し合う、ですよね」
答えたのはナツキだ。合同任務での様子を心配してついて来てくれた。
「そうだ。風のエレメントのマナ以外は反発するようにした。ハル、お前の身体にできた傷はその反発したマナが結晶化して当たったからできたと考えられる」
「あの、戦闘が終わった時に目眩みたいなのがしたんですけど、あれは?」
ハルはあの時の体が熱を帯びる感覚と疲労感を思い出して問う。
「それはお前の体がオーバーヒートしたんだ。風のエレメント同士は引き寄せ合うように回路を組んだ。刀に引っ張られていつも以上のスピードが出たってわけだ」
それに体がついて行かなかったんだろうと煌葵が言った。たしかに刀に置いていかれるような場面があり、扱いにくいと何度も感じた。
「でも、この刀を使えばもっと速くなれる……」
そのハルの呟きに、今まで難しい顔をして煌葵の話を聞いていた凛が制止する。
「それはやめた方がいいと思う。下手したら身体がバラバラになる」
「え!?どういうことですか?」
麗央が顔面を蒼白させて問うた。何もそんなに泣きそうな顔をしなくてもいいと思うのだが。
「そもそも、こんな回路は武器に用いない。風とそれ以外のエレメントのマナが完全に分離してる。普通こんな事出来ないんだよ」
「いやぁ……そんなに褒められたら煌葵さん照れちゃうなぁ」
凛が煌葵をキッと睨む。それに対し、頬を引きつらせて苦笑を浮かべながら煌葵は続ける。
「でも、お前を実験台にしたのは本当だ。本来ならもっと運用試験をしなければいけないんだ。危険な目に合わせて悪かった」
そう言って頭を下げる煌葵。実験台にした自覚はあったんだな、とは思ったが怒る気にはならなかった。
「頭を上げてください。別に死んだわけじゃないし、煌葵さんのそういうところ、今に始まったわけじゃないので大丈夫です」
煌葵とはハルが訓練兵だった頃からの長い付き合いだ。こんな風に振り回されるのはしょっちゅうだった。
「じゃあ俺は回路を組み直してくるわ。ちゃんと使えるようにしてやるからな」
そう言って医務室から出ていく彼に凛がついて行く。監視は必要でしょ、との事だった。
今までの行いで一番弟子にも信用されていないらしい。
「俺もジェミニ達のところに行ってくる」
「ハル様!俺は訓練に行きますけど、ちゃんと休んでなきゃダメですからね!」
そう言って2人とも出ていってしまう。
1人取り残されたハルはボフッとベッドに体をうずめた。休めと言われたって、いつもより少し疲労感があるだけで元気なのだ。
この後は完全にオフ。訓練に行ってもいいが、そうすると心配性の部下に怒られてしまう。かと言ってこのまま医務室にとどまっても暇である。せめて話し相手が欲しいものだが、室内にはハル以外誰もいなかった。
怪我人、病人がいないのはいい事だ。
だが、独りは寂しい。
散歩にでも行くか、とハルは立ち上がって大きく伸びをした。
煽っていくスタイルの煌葵
このシーン、ちょっと重要なので……




