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月光に咲く花の如く  作者: 夜妬
第4章 東宮兄弟
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第42話 生まれ咲くは鬼

「それにしてもでっかいなぁ……」


「そうだな……あれ本当に俺らが作ったのか……?」


「バカだなぁ煌葵は……俺ら以外にこれを作れる天才がいると思うんか?」


「それは……いねぇな……」



東京湾上空――いや、旧東京湾と言った方が正しいだろうそこに浮かんでいるのは目を見張るような大きさの要塞だった。黒光りするその外壁は空を反射して少し青みがかって見える。巨大な飛蒼鉛を用いて作られたこの要塞はきっと人類の希望となってくれるだろう。


「よくもまぁ作れたな」


「このくだり何回繰り返すねん」


「いやだって……すごくないか? この規模を二ヶ月で作れたんだぞ? 来世まで誇れるだろ」


ケラケラと笑って振り向いて美月を見ると先ほどとは打って変わった表情をしていた。それを言葉にするのならば、慈しみ、だろうか。


「……美月?」


「いや、なんかお前明るくなったなって。あの日、初めて会った時はひっでぇ顔してたからさ」


「そうだったか?」


「ああ、まるで……()()()()()()()()()()、そりゃあもう酷い顔やったで」


さっきとは打って変わってにまにまとふざけたような表情をする美月。だが分かる。顔も、声も、からかうような調子だが鋭い視線だけは冗談を言っていない。


「お前、人を殺した奴に会ったことあんのかよ」


「さぁ? つかそろそろ戻ろうぜ。椿が昼飯用意して待ってるんやろ?」


グイっと腕が引かれる。ふわりと浮遊する美月はバベルを指さした。


「……引き留めたのはそっちだろ」


「えー? 煌葵がちょっと休んで行こうぜって言ったんやーん。そしてそっから俺は天才だとかなんとか言い出して……」


「だからそれはそっちだろ! 確かに俺たちも頑張ったし実際すげぇとは思うけど、結局ミカエルの設計図通りにやっただけだし」


新設された食堂はまだまだレパートリーは少ないがそれでも落ち着いて食事ができる場所だ。椿がそこで待っている。


「いやぁ本当に俺ら天才やわぁ」


「……お前話聞いてたか……? はぁ……腹減ったから先に行くぞ」


「ちょ……ッ待てや!」


材料はそこら辺に転がっていた飛蒼鉛、設計図はミカエルが作成したもの、人材は選りすぐりの適合者達で二ヶ月で完成した空中要塞。あまりにも上手く行き過ぎだと思うだろう。作っていて何度も誰かの手のひらで転がされているような気がした。


「……まぁいいさ。俺は俺の思うようにやらせてもらう」


「……なんか言ったか?」


「言ってない。早く来ねぇとお前の分も食っちまうぞ」


「ちょお、堪忍して~~!?」


△▼△▼△▼△▼



――始めは小さな地響きだった。

その後、強風が吹き荒れて、地面が揺れて、建物が唸って崩れ始めた。酷い耳鳴りの中で父上が何かを叫んでいるのが分かった。そして気付く。ああ、これがそうなのかと。


遠くでこの世のものではないナニカの咆哮が放たれる。狂った従者が自分の頭を搔きむしりながら外へ出て行った。きっと数秒後には死ぬ。いや、それは俺もだ。俺だけじゃない。ここにいる皆死ぬんだ。

そう思ったのに――


「……生きて、いるのか?」


ぐしゃぐしゃになった家の中で、俺はただそこに無傷で立っていた。


「椿……? 椿ッ!」


どこもかしこも酷い有様ではあるが、ここはまだ自分の家だと判断出来る程度の被害しか出ていない。きょろきょろと崩れた家具をかき分けるように部屋を進むと探していた人物はすぐに見つかった。幸いにも気を失っているだけで目立った傷もない。


「……良かった」


出来るだけ危険が少なそうな部屋へと移して寝かせることにした。

後は父上と母上だが、どこにいるのだろう。家の中がぐちゃぐちゃで上手く進めない。何とか父上の書斎までたどり着いた俺はその奥から何やら言い争う声を聞いた。

父上と母上だ。父上が何か叫んでいる。母上が泣いている。歪んだ扉を無理矢理引いて中へと入った。


父上は右腕から出血していて、母上は床に座り込んでいた。もしかしたら足を怪我したのかもしれない。二人共俺には気付いていなかった。父上はどこかに電話をかけていて、母上もその電話に耳を寄せている。また父上の怒号が耳を劈いた。

何をそんなに怒っているのだろう。耳障りだった。今この状況で、怒りをぶつける矛先などないはずだろう? 

分からない。我が子の身を案じる前に怒りが生まれる状況が、()()()が分からない。


プツンと何かが切れる音がした。そこで俺の世界から音が全て消え去った。


体の痛みもなくなって、心もとても軽かった。

右手にはいつの間にか八咫月守が握られていて、それは元々俺の体の一部だったかのように良く馴染んでいた。


もしかしたら、俺はこの日を待っていたのかもしれない。

この機を逃すわけにはいかないと思った。どうしてかは分からないが、自分の体が決められたストーリーに沿うかのように動いていたのだ。


悲鳴など聞こえなかった。ただ、俺にかかる鮮血が生ぬるく気持ち悪かった事だけは覚えている。

気が付くとそこには父上だった肉と母上だった肉が転がっていた。


それだけだ。


「にいさ……?」


静寂を破ったのは椿の小さな声だった。

どうやら目が覚めたらしい。良かった。本当に。


「何してるんですか……え、なんで? え? 兄様、それ、それ……父様、と……母様……? うそ、なんでっ……う゛……」


椿が口元をおさえてうずくまる。大きな瞳はじわじわと涙に濡れて、雫は頬へと流れ落ちた。


何か声をかけてやらねばと思った。肩を抱いてやらないといけないと思った。でも俺の手は真っ赤に汚れているため、そんなことをしたら椿まで汚れてしまう。仕方ないので俺は抱きしめるのを諦めて口を開いた。


「――なぁ椿、()()()()()()()()()()()


煌葵は皇鬼。現代に堕とされた鬼の王

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