表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月光に咲く花の如く  作者: 夜妬
第5章 月狩り
48/48

第43話 月を狩る者達

「なぁおい、聞いたか? また出たんだとよ……」


「は? なにが……あー、良かったじゃねぇか、快便で」


「ちげぇよ!!! それはいつもだわ! ……じゃなくてッ、月狩りだよ。ほら、お前も知ってるだろ?」


「ああ……でもあれって上が対処してるんだろ?」


「バカ、対処しきれてないからまたこうやって噂になってるんだろうが」


「それもそうか。つーかいまだに正体とか分かってないんだろ? なんなんだろうな……」



 △▼△▼△▼△▼



 暗い暗い月も出ない夜。真っ黒なコートに身を包んだ一人の少年は崩れかけたビルの屋上で大きなライフルを構えた。スコープを覗き込み、暗闇の先に標準を合わせるとぼそりと呟く。


「――死ね」


 引き金が引かれる。少年は対象に弾が着弾したのも確認せずに立ち上がった。まるで、俺が外すわけがないだろうといったように。

 少年はおろか誰も見てはいなかったのだが、数秒前に少年がスコープで覗いていたその先で黒い影がぱたりと倒れた。


「おい、こっちは終わったぞ」


 少年はライフルを肩にかけると隣のビルに飛び移りながら虚空へと呼び掛ける。ふわりと前髪がなびくのをうっとうしそうに少年は掻き上げた。

 その顔は、ハルと瓜二つだ。周囲が暗いせいであまり見えはしないが、その栗色の髪も、まだわずかに幼さが残る目元もハルそのものだった。違う点を上げるとするならば、その髪型と、右目に眼帯をしていないことだけだろう。


 少年の右目は濁ったガラス玉のようだった。瞳は白目とわずかに色が違うだけの乳白色で遠目から見ればないのと同じだ。


『相変わらず早ぇなぁ……じゃあお前は適当に援護に回ってくれ』


「五月蠅い。俺に命令するなといつも言ってるだろ。それに隊長はお前じゃないぞ煌葵」


 空中でライフルを構えた少年の照準の先には嬉々として戦っている煌葵が映った。そこ目掛けて一発、マナの濃縮弾を放つ。


『ッうわ! 馬鹿あぶねーだろ!?』


「すまん、敵を狙ったつもりだったが外した」


『噓吐け! お前が外すとか明日は槍が降るわ! ッたく、厳しいねぇ()()()()殿()は……』


 お前がちんたらしているからだと一つ舌打ちをした後、またスコープを覗いたアキはそこに映っていた笑顔で手を振ってくる煌葵に盛大に顔を顰めた。

 暗闇で、こんなにも距離が離れているのにもかかわらず正確にこちらの場所を把握しているのも、その顔も気に入らない。


「はぁ……そのふざけた顔をさっさとどうにかして仕事を終わらせろよ」


『俺のこの顔にケチ付ける奴はお前くらいだぞ。そっちはハルと同じ顔なのにどうして性格はそんなに違うのかねぇ……』


 煌葵が腕を振るうと対峙していた影が霧散する。全くもって嫌味な奴だとアキはスコープを覗きもせずに弾を発射した。今度は煌葵を狙って――先ほども煌葵への攻撃だったのだが――真っ直ぐに飛んだその弾の起動がぐにゃりと曲がる。弾はあらぬ方向へと飛んでいき、先のビルの外壁を穿った。


『ピリピリすんなよ。いいじゃねぇか、事実しか言ってねーし。カルシウムが足りてないんじゃねぇの?』


 アキがどれほど睨んだとて煌葵のこの減らず口はなくならなかった。


「……だからお前が嫌いなんだ。忘れるなよ煌葵。俺がお前の首を狙っていることをな」


『おっかねぇ隊長だなぁ……あんたもそう思うだろ? なぁ、せーんせ?』


 悪寒が走りそうなその猫なで声に、無線の先で小さなため息が吐かれた。


『どうでもいいですけど、終わったなら早く加勢に来てくれませんか? 僕は夜目が利く方ではないですし、疲れてるんですよ』


 時折混じるノイズは戦闘音だろう。息が上がっている様子もないし苦戦はしていなさそうだが難航しているのならば行ってやらないといけないだろう。

 とんっと駆けだしたアキの足音に重なるようにもう一つ音がするからふっと隣を見るといつの間にか合流している煌葵が同じように地面を蹴っていた。

 この男のこういうところが嫌いなんだとアキは盛大に顔をしかめる。


「先生は昼も夜も働いてて大変だな」


『そう思うなら何とかしてくださいよ。というか、昼間働いてないのなんてこの部隊の中で貴方くらいじゃないですか?』


「俺は司令部に口出せねぇもん。つーか俺が昼間働いてないってなんだよ。ちゃんと働いてるわ」 


 むつけたような拗ねた声が飛んでくる。それに対してアキはキモイと吐き捨てて煌葵をおいて気浮の元へと向かった。





 数ブロック先で気浮は唐装を身にまとい、双剣を振るっていた。普段の穏やかな表情は鳴りを潜め目の前の敵へと殺気を放っている。揺れる黒い影をひらりとかわしたあと、そのまま身をねじるようにして双剣を振りかざした。


 気浮を囲む影は三体だ。対峙している二体と、気浮の背後の瓦礫に隠れるように身を潜めている一体。それに気付いていないわけではないだろうが、おそらくそっちは何とかしてくれという事なのだろう。気浮の意図を察したアキは気浮の背後に迫る影のさらに後ろに付くと片足を崩れたビルの外壁にかけた。体勢を整えている時間はない。バランスは悪いし標準はブレるが致し方なかった。

 構えたライフルから放たれた濃縮弾は影の左肩を穿つ。急所は外れた。


「……チッ」


 ガシャンとライフルを放り投げたアキはコートの中に手を突っ込み、拳銃を取り出した。右にステップを踏みながら一発放つ。今度はどうやら命中したらしい。黒い影がぐらりと傾き崩れ落ちる。


「おーい……ライフルはもう少し丁寧に扱ってくれよ。俺がそいつの製作にどれくらい費やしたのか分かってんのか?」


 同じく気浮の加勢に入っていた煌葵も血に濡れた()()を一振りして血を落とし近づいてきた。その後ろから少しくたびれた様子の気浮が続く。


「あんたの武器製作は趣味みたいなもんだろ」


 同意するように気浮も頷いた。


「そうですねぇ……それを使うのも趣味みたいですけど」


 ため息を着いた気浮の後ろにはズタズタになった死体が転がっていた。煌葵がやったものだ。

 赤い赤い返り血に染まった煌葵は満足そうにくるりと大鎌を回す。


「狩るのが俺らの仕事だからな」


 ――月狩り。暗い夜にだけ現れることからその名がついた正体不明の集団。

 月狩りが出た夜は人が消えると言われており、人攫いの集団だと噂されている。


 消えた人のことを月狩りに狩られたと表現するものもいた。


 月狩りに関する話のどれもがただの噂ではあるのだが、目撃証言もあり実際に存在するのでそれらの噂はあながち間違ってはいないだろう。



 ここらでその正解を上げるとするならば、月狩りとは、今の日本における夜の支配者のことである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ