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月光に咲く花の如く  作者: 夜妬
第4章 東宮兄弟
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第40話 必然の巡り会い

ここで少し、バベルについて話しておこうと思う。

バベルは俺と美月が作った。勿論二人でトンカチを片手にこの馬鹿でかい空中要塞を一から作り出したわけではない。技術と知識、そして権力で作り上げたのだ。事は美月との出会い、そしてそのずっと前まで遡る。



「――ああ、あんたが東宮の坊ちゃんかぁ」


突然現れたそのへらへら笑う少年は俺の手を勝手に取ってぶんぶん振った。


「俺ぁ美月っていう。西城って知ってっか? そこの孫だ! まぁ仲良くしようや」


ここら辺では聞かない関西の方の言葉遣いだ。その少年が笑顔を絶やさず言った西城という名前、知らないわけがなかった。東宮と対立している西の名家。当主は高齢で跡取りもおらず、いつ潰れるかも分からない、耄碌じじいが死んだら勢力を西まで伸ばすと父が話しているのを聞いたことがある。


「……東宮煌葵だ。西城の、跡取りか? そんな話は聞いたことがないが」


「あー俺本当は菊原って苗字なんだけどな? 色々あってじいちゃんに引き取られてん。俺の情報は結構隠されてたみたいやけど。ま、親がどうであれ、俺はお前と仲良うやってくつもりや。こんな世界になってしもーたしなぁ」


美月がスッと視線を移した。一面の焼け野原は黒煙でどこまで広がっているか分からない。世界が一瞬で変わってしまった。

だが、()()()()()()()()()。偶然の産物でもない。運命だ。必然だった。おそらくこいつも予想していたのだろう。でなければこんなに早く俺に、東宮煌葵に会いに来るなど不可能だ。


「はぁ……それで? 西城の坊ちゃんはどうするつもりなんだ?」


協力を持ちかけられるだろうという俺の予想は外れていないはずだ。そうでなければこいつはこの混乱に乗じて俺を殺しにかかる。それくらい東と西の関係は緊張状態にあった。数時間前までは。


「ん-、お前んとこ、建設会社やろ? まぁ表向きはっちゅう話やけど。ちーっと人と機材を動かして欲しいねん」


――やはりか。


「……作るのか。『ミカエルの要塞』を」


「話が早くて助かる。お前も守りたいもんあるやろ? そこの妹ちゃんとかな。そのために協力しようや」


美月が俺の後ろに隠れている椿をちらりと見る。赤い着物に身を包んだその姿は女にも見えるが……。


「弟だ。名を椿と言う」


「お゛、弟ぉ? 噓やん……そんな情報なかったけどなぁ。ふーん、女装が趣味なん?」


心底驚いたといった風に数歩後退る美月は大きな目を更に見開いた。


「こいつの情報は伏せられていたんだ。これは趣味とかじゃないしな」


「へえ、お互い色々あるなぁ……とりあえずよろしゅうな、椿ちゃん」


美月がどう捉えたかは分からないが、一応は落としどころを見つけてくれたらしい。そこでやっと今まで黙っていた椿が口を開いた。


「ちゃん付けはやめてください……」


「おっと、なんや、ちゃんと男の子の声やん。煌葵が噓ついてるのかと思ったわ」


「兄様は噓なんてつきません!」


キッと椿が美月を睨み付ける。こんな顔は初めて見た。大人しくて自我を持たない人形のように見える椿も、俺と二人の時だけは年相応に笑顔を見せる。それでも怒った顔など見たことがなかったから少々面喰ってしまう。


「おーおーこれは随分と……まぁ兄弟仲良さそうで良かった良かった」



――世界が壊れた日、焼け野原で笑う美月はその狂気さを隠そうともせずに俺たち兄弟の懐に忍び込み、協力関係を結んでいった。

そうして東日本は俺が、西日本は美月がその権力を使って動かし、バベルの元となるシェルターを作り出す事に成功する。



「煌葵、マナって知ってるか?」


シェルターの中の小さな研究室、そこが俺と美月の城だった。初めは警戒し一定の距離を保っていたが美月からは殺意のようなものは感じられなかった。腹の内を全て見せていないのはお互い様だろうが、それでも共通の敵を倒す為に協力した方が賢明だと判断して今に至る。


「ああ。この星を構成する元素。単体では存在を確認することすらできないが……」


「別の世界の鉱物である媒体、飛蒼鉛ひそうえんによって存在を確立され、人間の手でも利用が可能になる神の物質」


「……そんな大層なもんじゃねぇだろ……ただ今までは人間がそれを使う手段を持ってなかっただけだ。空間に亀裂が生じることが必然だったなら、人間がマナを使うようになることも必然だった。ならこれは神の産物なんかじゃないさ」


手のひらを上に向けるとそこに風が集まって来る。原理は分からない。だが、感覚で分かるのだ。この力をどうやって使えばいいのかが。


「ふーん。ま、それでもいいけど。やっぱり親父さんから聞いてたんか? 世界がこうなるってこと」


「いや、書斎で資料を見たんだ。直接聞いたわけじゃない」


「そうなん? でもこの事知ってたのに親父さん死んでしもうたんやなぁ?」


「……」


眉間に皺が寄るのが分かる。それでも美月はどこ吹く風だ。


「爺さんが言ってたで。東の若造は頭が切れて生意気だって。あの爺さんを唸らせるお前の親父さんが、何の対策もしてなかった訳ないんとちゃいます?」


探るように細められた目と、不自然なまでに完璧な曲線を描く唇。貼り付けられたその笑顔は気味が悪くて見れたもんじゃない。


「……それを言うならお前んとこの爺さんも死んでるんだろ?」


手持ちのカードは同じ枚数でなければならないだろうと探るように聞いてみるが美月は肩をすくめただけだった。


「あーあれは老衰。世界を立て直すなんて面倒だから後は任せるとかなんとか遺言残して死んでったわ」


「……それ本当に老衰か?」



△▼△▼△▼△▼



崩壊の日から数年前の話になるが、俺は椿と大きな屋敷の中で二人きりのかくれんぼをして遊んでいた。父が仕事に行っている間だけ、俺たちは兄弟でいられた。そしてその日、我ながら卑怯だとは思うが椿が入ってこられない父の書斎に隠れた俺は大量の書類を目撃することになる。

「……対ドラゴン専用要塞? 建設の……い……くしょ? ミカエルってあのミカエルか?」

複雑な文字列は当時の俺には全てを伝えてはくれなかった。

「人類が、ゆがみ、を……? 空間に亀裂が走って異形が現れる? ……なんだこれ」

下手なSF小説をつなぎ合わせたようなその書類は父の所有物にしては趣味が悪く、いたずらの類だろうと流していた。


だが後に分かったのだ。それが現実に起こり得る事象であり、これから人類が滅びの道を辿るのだと。


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