第35話 その子はいつか
いつか、幸せになって欲しいなぁと思いながら書いてます。悲惨な未来が待ち受けていることを知ってても愛着が湧いているので、ある意味残酷なことですけどね
「生き返らせることができるんですか? ソラを……? どうやって!?」
病室にそぐわないハルの声がこだまする。とは言ってもこの部屋は彼専用の軟禁部屋だ。同室の者がいないことはもちろん、近くには一般職員が入れないように簡易的なマナの結界まで張ってある。だからそれを咎める者は居ない。
「あー、うん、まあなんていうか、できる可能性が無きにしも非ずって感じなだけだからな?」
期待はするなと煌葵が言う。
「いいですそれでも。可能性がゼロではないなら、それだけで救われる」
それはアメが、ということだろう。迷子の子供のようだったハルの目は、母親と再会できたかのように安堵の色をしていた。
「ただ、条件があるんだ」
「何でも言ってください。何でもします」
「……人間の蘇生なんてしたことねえから憶測でしか話せないんだが、まず絶対条件としてソラの肉体がいる。何割かは食われちまってるだろうから……」
「俺らを襲ったドラゴンを倒せばいいんですね」
「話が早くて助かる。あいつらには消化器官は無いはずだからな、何とかなるはずだ。普通はドラゴンの心臓、もといコアを破壊する事で絶命させているが、取り込まれたソラのパーツを剝離するために出来るだけコアを破壊しないで倒してもらいたい」
コアが何割損傷すればドラゴンが倒れるのか、そんなデータは取りようがないためこの世に存在しない。おそらくは相当の経験と抜群の勘をもってしても難しいだろう。
現時点ではドラゴンのコアの位置を正確に割り出せるような天才的な能力を持ったドラゴンスレイヤーはバベルにいなかった。
「やりましょう。とどめを他の奴らに刺させなければいいってことですよね。コアの位置は、同種ならある程度近い場所にあるから似たようなドラゴンを倒して感覚を掴めばいい」
ハルは打って変わって怖いくらいに前向きな姿勢だった。己の言っていることがどれだけ難しいのかを分かっていないわけではあるまい。一種の現実逃避だろう。縋るものがこれしかない故のものだ。
「ああ。だが、問題はそれだけじゃない。奴を倒したところで戻ってくる体の割合は半分にも満たないだろう」
「それじゃ足りないですよね」
「そうだな。だから別の所から残りを持ってこないと無理だってことだ」
「……つまり?」
「つまり、お前には死んでもらわなきゃならない」
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東宮煌葵という人物をよく知っているものに、どんな人物なのかという調査をしたとしよう。
すると、グラデーションピンクの髪の少女は「だらしなくて手のかかる大人。尊敬出来るのはその腕だけで、正直早く独立したいんだよね。何で身の回りの世話まで私がしなきゃいけないのって毎日思ってる」と言った。
寂しい荒野のような頭をした老人はこう言った。「一癖も二癖もある奴じゃな。しかしその腕は癖がない。発想力が高くてそれを活かす技術もある。わしが何十年も費やして身につけたスキルもあっという間に盗んでいきよった。まあ酒癖はすこぶる悪いがの」
そして、深縹に染まる絹のような髪の青年はこう語る。
「煌葵? あいつは面白いやつだな。力があるのにそれを誇示しない。使わない。自分の目的を誰にも明かさない。つまり食えないやつだということだな。何も考えていないだけかもしれんがな。だらしがないといわれているのを何度も聞いたことがある。この俺が起きている間に、だぞ? おそらくはもっとなんだろう。後はそうだな……ヘラヘラしているのに目は笑っていないなんていうのはざらでなあ、観察する上であいつほど面白い者はいないだろう。ああ、あまり見るのはおすすめしない。気づいたら背後にいて、己の首筋に死神の大鎌が添えられていた、なんてことになりかねんぞ。はは、冗談だ」
がさつ、適当、怠惰、その他諸々。煌葵という人物を表す言葉はお世辞にも良い評価とは言えないものばかりだった。腕は良いがそれ以外はてんでだめ。私生活を知る煌葵の部下たちは口を揃えて言った。ここまでくると本人が可哀想になって来るので、最後にバベルのトップの言葉を添えて終わるとしよう。
「私は兄を、あの男を絶対に許さない」
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東宮家に産まれた跡取りはとても優秀だった。
言葉を覚えるのも早く、自分の置かれている立場もしっかりと理解していた。小学校に上がる前に小学校6年間で学ぶべき事柄を網羅した。そんな知能を持ちながらもそれをおごったりひけらかしたりはしなかった。人付き合いもうまかった。体も丈夫だった。体が弱い母をいつも支え、優しさをもって人に接することができる子供だった。
容姿も淡麗だった。父親譲りの艶のある黒髪ときりりとした眉に母親譲りの大きな目、スッと通った鼻筋に紅を引いてあるかのような柔らかにカーブする唇。
森羅万象を全て見透かすような目をしたかと思えば、年相応にあどけなく笑ってみせる。東宮煌葵という子供は、持っていない才能が無い、そんな神童だったのだ。
そしてなにより、努力を惜しむことがなかった。厳しい父の英才教育の元、前へ進むことをやめなかった天才は、この名家を背負って立つに相応しい人間になると誰もが確信を持っていた。
ただ、そんな天才にも不安分子がついていた。それが双子の弟の存在だ。いつか、兄を脅かす存在になる。鬼になって一族を滅ぼす。早く排除すべきだ。周りの者たちは口々に言った。
それでも煌葵は椿のことを愛していた。
「周りが何と言おうが関係ない。椿は俺の弟だ」
世界が理不尽に椿のことを排除しようとしていることを、幼いながらも理解した煌葵は椿を守ると決めた。
だが、そのための力が十分ではないことも理解していた。例えば父上が椿を消すと決めた時、俺には何が出来るのだろう。おそらく、泣いてすがることしかできない。そんな自分の無力さを、こうきは六歳にして悟った。
「椿、お前は俺が守るから」
「兄様、兄様、だめだよ。僕に話しかけている所を父様に見られたら……」
ぎゅっと握った椿の手は小さかった。双子なのに全然違う。赤い花が描かれた着物姿の椿は本当に女のようだった。それがまた煌葵を苛立たせる。
「間違ってるんだ。父上も、みんなも。俺が何とかする。お前を自由にしてやるから」
「いいんだ。兄様、僕は大丈夫だから、早くここから離れて。父様が帰ってきちゃう」
そう言って椿はとんっと煌葵の胸を押す。諭すようなその笑顔に、胸が締め付けられる。
不当な扱いを受けていて辛いはずなのに。ないもののように、存在が悪かのように扱われ、生まれてきたことを嘆きたくなるようなこの環境でどうしてそんな顔ができるんだ。
辛いって言えよ! 助けてくれって泣けよ! そしたら俺が、俺が……なんだって言うんだ。何も出来ないじゃないか。俺なんかより、椿の方がよっぽど強い。ずっとずっと強い。俺は何もしてやれない。
……力がいるんだ。与えられる地位のほかに、絶対的な力が。
俺は、俺と椿のために強くならなきゃいけない。
最近ペンタグラムのメンバーがあまり出てこないなぁと思ったかもしれません(自分もです)
安心してください、次話出ます




