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月光に咲く花の如く  作者: 夜妬
第3章 孤児院
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番外編「愛しい妹へ」

付き合ってないけど付き合ってないなりに甘い空気にしたかった産物です。

時系列的には26話の少し後ら辺になるかな、と思うのでそちらも読んでいただければより人物の心情などがわかりやすいかと

 爽やかな風が頬を掠め、木漏れ日が眼前にちろちろと揺れている。

 教会の裏の小さな森は、今日もドラゴンに見つからずひっそりと、木々の青い葉を風になびかせていた。


 眉間にしわを寄せ、いつになく怖い顔をして自分の手元を見詰めていたソラは、ひとつ頷くとパッと顔を上げて出来たと呟いた。


「━━お、早いね。 どれどれ?」


 花畑、とも呼べないようなその場所で座り込んでいたアメは、同じくその隣にいるソラの手元を覗き込んだ。


 アメの栗色の髪が柔らかく舞って曲線を描き、ソラの鼻先で踊る。

 そのむず痒さに耳を赤らめてふいっと顔を逸らした彼にアメは気付かない。

 その拍子にソラが手にしていた花冠からぽろぽろと花が零れ落ちる。


「あぁ……ダメだよ。ちゃんと組んで結ばないと、ひとつ取れるだけで他の花も取れちゃう」


 ここに花をさしてここの茎と結ぶの、と指で示しながら手直しを加えていく。

 そうしてある程度形になったら、慣れない作業に四苦八苦しているソラをくすくすと笑い、また自分の手元に目を移した。


 アメがソラと出会って早数年が経った。出会って、と言うよりも拾われて、と言った方が正しいようなそんな代物だったがこの際どうだっていい。


 アメにとってそれはとても大きなターニングポイントだった。

 ソラと会っていなければ、こうして妹の━━さくらの誕生日プレゼントを作ることなどなかっただろう。


 お金もなく、足りるとも言えない配給品を十数人で分ける苦しい生活。それでも、誰かの誕生日には出来る限り盛大にパーティーを行うのだ。

 こんな世界だからこそ、楽しめる時に楽しまないとな━━そう歯を見せて笑ったのはソラだったか翔真だったか。


「……これでいいか?」


 おずおずと完成したと思しき花冠を差し出してくるソラは心無しか疲れているように見える。


「うんうん、やれば出来るじゃん!」


 アメは自分が作っていた花束を置き、渡された花冠をチェックする。

 少々不格好ではあるが、作り方を知らなかった彼にしては上出来と言える。


「いいよいいよーうまいよー」


「あのぉ……アメさん?」


「ん? どーしたの?」


「いいよって言いながらめちゃくちゃ手直しされると傷付くんスけど……」


 少々ガッカリした様子でため息を吐くソラに、けらけらと軽い笑いを返す。


 手直しと言うよりは仕上げと言った感じなのだが面白いので言ってやらない。

 普段何事もそつなくこなすソラがここまで苦戦する状況がアメには可笑しくて仕方がなかった。


「これならきっと喜んでくれるね」


 出来上がった花冠を、パッと自分の頭に乗せてアメは振り返る。


 ひらりと風に連れ去られる花びらはどこに向かうのだろう。

 アメの、緩んだ目元がやけに紅を指したように赤く見えて、それが見てはいけないもののような気がしてソラは目を逸らした。


「そ、うだな……綺麗だ」


「まぁ私が選んだ花だからね。 当たり前でしょ?」


 ふふんと鼻を鳴らすアメに、そうでは無い、そういうことでは無いのだと、伝えるだけの勇気はソラにはなかった。


「……そろそろ戻るか。ちび共が腹空かせて待ってるだろうしな」


「そうだね。 早く帰ろ! 私もお腹空いた」


「お前食い意地張ってるもんなぁ」


「はぁ!? そんなことないし!」


 バッと怒りに顔を赤くしたアメに、照れ隠しで吐いたからかいの言葉をくくっと乾いた笑い声に混ぜて気付かれませんようにと願った。


 隣を歩くアメの手をそっと取ってしまおうかと考え、やめる。


 この自分よりも少し小さな手を、俺はもう取ったじゃないか。そしてあの日、こいつと家族なろうと言ったのではなかったか。


 ソラは自嘲の笑みを零して足を早めた。



 ▽▲▽▲▽▲



「「はっぴばーすでーとぅーゆーはっぴばーすでーとぅーゆー! はっぴばーすでーでぃあ……さーくらー!!!」」


 太陽が教会のステンドグラスを真っ直ぐに照らす頃、さくらの誕生会は始まった。


 頭にソラの作った花冠を乗せた今日の主役は、ありがとうと言ってはち切れんばかりの笑顔を作る。


 その周りには各々が集めてきたプレゼントが置いてあった。


 例えばアメが贈った花束、どこかから取ってきたのだろう木の実やハートの形をしたワッペンなどだ。贅沢なものは一つも無い。それでも、小さな贈り物はそれぞれとても温かみの感じられるものだった。


 配給されたパンを切り、シェルターから分けてもらった砂糖で作った木苺のジャムを塗る。それを何枚か重ね、その上に申し訳程度に缶詰のフルーツを乗せたものがさくらの目の前に置かれている。


 一応これがメインのケーキである。


 メッセージの書かれたチョコのプレートも、ふわふわのホイップもないが仕方あるまい。


「これねー、翔ちゃんと一緒に作ったの!」


 さくらはそう言うと、口の端にジャムが付くほど精一杯口を開けてそれを頬張る。

 本人が自分用のケーキを作ったのかとツッコミそうになったが、その幸せそうな顔を見るとどうでも良くなってしまう。


「美味しい?」


「うん! このいちごね、みんなでね、取りに行ったの!」


 みんなというのはおそらく年少組のことだろう。


「ちび共だけで大丈夫だったか?」


 ソラが心配そうに尋ねる。さながら父親のようだ。


「俺も着いて行くって行ったのにさぁ、料理に専念してくれって言われちまってよ」


 テーブルに肘を付き文句を言う翔真はそれでもなんだが嬉しそうで、つられてアメも頬が緩む。

 可愛い妹が少しずつだが成長していくのが嬉しいのかもしれない。


「それにしても、大きくなったよね。 さくらも、みんなも」


「そうだなぁ……身長なんかもすぐに追いつかれそうだ」


「ああ、翔真は小さいもんな」


「なんだとソラてめぇ!」


 ぎゃーぎゃーと小競り合いを始めた二人は、アメの「すぐにお嫁に行っちゃうかもね」というしみじみとした呟きにに押し黙る。


「……だめだ。どこの馬の骨とも知れん奴にさくらを任せられるか」


「同感だ。俺の可愛い妹は誰にもやらねぇ」


 今度はガシッと手を取り合う二人を脇目に苦笑しつつ、アメは未来という不確かなものについて考えてみる。




 少しずつ、地面を覆う雪が溶けて春が見えるように、世界は鼓動を鳴らし始めていた。


 焼けた大地には緑が、灰に覆われた空には光が、生き残った人類の心には希望が芽生えてきている。


 もしかしたら、月並みだが幸せな未来というものが待っているかもしれない。


 まだ、生きていくことに、自分の人生に期待してもいいのかもしれない。


「私も……」


 素敵なお嫁さんになれるかな、そんな事をボソリとごちる。


 賑やかな子供たちの笑い声の中で、掻き消されてしまいそうな小さな声。

 それでも隣に座るソラには届いていた。届いてしまっていた。


 グッと唇を引き結び、怒っているような、悔しそうな、それでいて幼い子供のように拗ねた顔をソラが向けた事にアメは気付いただろうか。




本編では恋愛の要素がないので恋愛させたかったんですけど、家族愛も強く、しっかり恋愛させるのが難しい両片思いの二人でした

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