第31話 密会
結果から言ってしまうと、第十三小隊は第四小隊に敗北。惜しくも第一グループに入る機会を逃してしまった。
戦績は四勝一敗一引き分け。
第二グループに振り分けられることとなった。
「あーあ、惜しかったなぁ……クソッ」
「気浮先生が残り全部勝てば第一グループに入れるって言ってたのにね」
訓練場の壁に背を預けてペットボトルの水を飲み干し、壁を殴り付ける和樹。
その隣に座るアメは彼に苦笑を返し、前方を見詰めた。
今まさに、最終試合の決着が着こうとしている。
それにしてもよく戦力が均等になるように隊の組み分けをしたものだなと、そう感心するくらいにどの試合も白熱したものだった。
「お、凛。もう良いのか?」
顔を上げるとそこには怪我の治療を終えた凛が立っていた。
「うん。もう大丈夫。アメはもう大丈夫なの?」
「背中の打撲だけだし、そんなに痛まないから平気。小春は?」
「そろそろ来ると思う」
凛は包帯を巻かれた腕をさすった。
訓練なので大きな怪我はないが、打撲やかすり傷は少なからず負ってしまっていた。
「……残念、だったね」
凛がぽつりと呟く。独り言にも聞こえたし、自分に言い聞かせているようでもあった。
「マナの使用制限がなけりゃなぁ……アメもそう思うだろ?」
今回の模擬戦の条件は、マナの使用禁止。元々高度なマナ操作は出来ないが、マナによる攻撃、飛行等を禁止され、完全に肉弾戦だった。
「まぁ、ちょっとは。でも結果は結果だよ」
後から嘆いてもしかたない。それにアメは、自分が和樹や凛ほど悔しがっていないことを、他人事のように感じていた。
「第一グループに入ってさっさとこんな生活からおさらばしたかったな」
「そうだよね。私ももっと美味しいもの食べたいな」
「凛は食い意地張ってるからな」
「はぁ!? あんたには言われたくないんだけど!」
もはや日常となりはじめている和樹と凛の小競り合い。以前は酷くなる前に止めに入っていたが、今日は模擬戦の疲れもあって億劫だった。
━━美味しいご飯、自衛のための力、ドラゴンの攻撃に耐える絶対的な要塞。
訓練兵が求めるもの、正規のドラゴンスレイヤーが約束されるものだ。
だが訓練兵に与えられる配給品でもアメや孤児院の子供達にはご馳走だった。毛布の代わりに配られたボロボロの布も、くるまって身を寄せ合えば十分暖かかった。
訓練兵になっただけで、明日死ぬかもしれないという状況が変わった。
第一グループに入れなくとも、それで十分なのだ。
「━━な〜に話してんの?」
ひらひらと手を振りながら近付いてくるのは怪我の手当てを終えた小春だった。
「んー? 今度凛のとこのシェルターに遊びに行こうって話。 この前は凛が俺んとこ来たからさ」
「え、お前らってそういう……?」
「違っ……! アメが行けないって言うから私だけ仕方なく……ってか何であんたはいなかったのよ!?」
「いやぁ別に〜?」
小春は凛の猛攻を受け流しへらりと笑う。
小春のこの飄々としたところがアメは気に入っていた。必要以上に干渉せず、それでいて離れ過ぎない、故に孤立しない。
シェルターという家がないアメは、言うなればレアなケースだった。
和樹はよく家族の話をし、自分の家に人を呼びたがる。そしてそれと同時に遊びに行きたいとよく言うのだ。シェルターが無いとは思っていないのだろう。
兄弟が多いという話はしたが、この手の話題が苦手なアメにとって小春のような人物は理想だった。
「アメが行かないなら俺も行かない。だって二人の邪魔になるだけだもん。ねー?」
アメの隣に座って同調を求める小春は相変わらずだ。
「だから違うってば!」
「まぁまぁ、落ち着いてよ凛。小春もあんまりからかわないの。あの日は私用事があったんだって」
本当の事は言っていないが嘘も言っていない。
「あ、じゃあ皆で模擬戦お疲れ様会やろうぜ」
また和樹が突拍子もないことを言い出した。だが、今回は悪くないと思う。模擬戦は一つの節目だし、今までずっと訓練詰めだったのだ。息抜きしてもバチは当たらないだろう。
「いいねぇ。じゃあ食料調達は俺に任せなよ」
「盗みは良くないよ、小春」
「場所は……凛の家にしようぜ!」
「だ〜か〜ら〜! 勝手に決めるな!」
広い訓練場に凛の声が響き渡る。
少し肌寒く感じる季節になったが、それでもここは温かく感じた。
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復興もまだまだ進んでいないこの国の夜は、身体に纏わりつくような不快な闇が流れている。今日のような、月も星も雲に覆われている日は特にだ。
だが、それが何故か酷く心地良いと、口の端を無意識に上げて武器に付着した血液を払う。
バベルに帰投した煌葵は自室に帰る前に、明かりの漏れる一室へと立ち寄った。
「━━せんせ、まだ仕事か? ご苦労なこった」
部屋の主に随分な挨拶だなと、普通の人なら嫌味を零すところだが、彼はふっと笑っただけだった。
「貴方程じゃないですよ。いえ、仕事だと思っていないんでしょうけど」
返り血で汚れた煌葵のシャツを一瞥し、気浮は椅子に深く座り直した。
「そういえば模擬戦終わったんだろ? どうだった?」
「ああ、まぁ悪く無かったですね。貴方のお気に入りのあの子は第二グループですよ……ちょっと、テーブルに足乗せないでくれます?」
滅多に表情を変えない気浮が初めて少し眉間にシワを寄せた。
「第二? は? なんでだよ! まだ実戦投入されないってことか!? せんせー何とかしてくれよ!」
「そう言われても困ります。得意不得意ってもんがあるでしょう。今回の模擬戦は彼女にとって不得意な分野だったんですよ」
子供のように頬を膨らませる煌葵に呆れたようにため息を吐く。
「そもそも、なんであの子にそんなに執着するんですか。ちょっと体内のマナ濃度が高いだけのただの子供ですよ?」
「まぁ、そうだが……初めて会った時にこう、ビビっと、ほら、な?」
「……貴方そういう趣味だったんですか……僕の生徒に手は出させませんよ」
「違ぇよ! なんつーか……俺には俺のシナリオがあるんだよ」
煌葵は不敵に笑って見せた。
「先生、あんただって十分執着してるだろう?」
気浮の座る椅子の前に立ち、煌葵はその胸をトンっと指で叩く。気浮の顔には煌葵が作る影が差した。
「そうですね……僕には、僕のシナリオがあるので」
してやったり、そんな子供のような表情を浮かべる気浮に、煌葵は一瞬きょとんとした顔をし、そして吹き出した。
「ふ、あははっ! いやぁ先生、今度一杯いこうぜ? 二人で!」
「貴方確かまだ未成年でしょう。嫌ですよ」
「酒豪だって聞いたんだが……本当か?」
「誰に聞いたんですか……なんと言われようと貴方とは嫌です」
「つれないなぁ」
静寂が落ちるバベルの中、一室だけくつくつと煌葵の笑い声が響いていた。
次回は孤児院の子供達の番外編になる予定です




