第30話 模擬戦
キリのいいところまで、と戦闘シーン入れたら長くなっちゃいましたがお付き合い下さい
煌葵に半ば無理やりバベルに連れてこられて半年━━ようやく座学を履修し終え、実践訓練に入ることになった。
実践訓練はバベル内の訓練場で行う。
その内容は、基礎体力向上訓練から始まり、基本的なマナ操作、武器の扱い、連携確認、そして飛行訓練だ。
「ではまず、小隊に組み分けます。配布したプリントにも書いてありますが一応読み上げますね。第一小隊……」
訓練場で声を張り上げるのは気浮だ。
普段あまり大きな声を出さない彼が、広い訓練場に通る声を出せる事に驚いた。
実践訓練は全てのクラスが合同で行うため、座学では別の教室で学んでいた者も同じ隊になることがある。
アメが配属されたのは第十三小隊。
残念ながら知ってる者はいなかった。
小隊は四人または五人で構成され、男女比も半々と言ったところだった。正直に言うと、もっと男子の方が多いと思っていたのだがそうでもないらしい。
この第十三小隊にもアメの他に一人、女の子が配属となった。
名を九条凛という。
隊の中で軽く自己紹介をし終えアメに手を差し出す凛は、明るく裏表の無さそうな子だった。
彼女はハキハキと喋る様子から見ても活発そうで、このご時世に珍しく、とても澄んだ瞳をしていた。
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何日か経って小隊のメンバーとも仲良くなった。凛は初めに抱いた印象の通りの人物で、訓練を重ねていく中で隊を引っ張っていく。
隊には他に二人男子が居たが、その二人も気圧されるほどはっきりとした性格の持ち主で、それでいて周りをよく見て、気配りが出来る、細やかな人物でもあった。
いくつかの小隊はメンバー同士の仲が悪かったりとトラブルも起きていたが、この隊はそんな心配はなさそうでとても安心した。
しばらくして、基礎体力もある程度伸び、武器を扱う姿も様になってきた。
すると訓練兵達は、あるものは不安に、あるものは期待によってそわそわし始める。
なぜなら━━実践訓練が進むにつれて、模擬戦も行われるようになるのだ。
初めは対人戦。相手となるのは別の小隊だ。
この模擬戦では木刀や、刃を潰した小刀などを用いて戦う。
実戦ではドラゴンと戦うことになるので対人訓練など役に立たないのでは?
そういった意見も出た。
だが、気浮は諭すように微笑む。
敵がいること、そしてやらなければやられること、それらに慣れておくためだと。
「教科書通りの戦場なんてものはありません。何が起こるか分からない戦場で、冷静に……そして臨機応変に対応する。そのための力をここでつけてもらいますよ」
立体投影されたスクリーンにはトーナメント表。気浮は小隊に見立てた駒を動かし次の対戦相手を示す。
第十三小隊の相手は、こちらと同じ男女比で構成された第四小隊だった。
「落ち着いて、いつも通り行こう」
試合前に与えられた作戦会議の為の三分。凛は完結に戦略を決め、気負うなと皆を励ます。
まだ隊長を決めた訳ではなかったが、満場一致で凛になるだろう。
それだけよくリーダーシップを取っていた。
━━第四小隊。体格も良く、体術に長けた男子二人と器用に武器を扱う女子二人で構成されたバランスのいい部隊だ。
この部隊が他よりも秀でて厄介なところは一つだけ。四人とも目が本気なのである。
「あーあ……あいつら推薦狙ってるのかぁ」
「初っ端から厄介な奴らと当たっちまったな」
そう文句を垂れる第十三小隊の男子組、小春と和樹。
推薦、とは実地訓練及び実戦投入までのスパンを早めてもらうことだ。この模擬戦での成績で小隊を三つのグループに分ける。成績が良ければ第一グループ、つまり実戦投入の一番早いグループに入れるという訳だ。
実戦投入されることはつまり正規のドラゴンスレイヤーとして採用されることであり、それだけ待遇が良くなる。
訓練兵は生活用品も食糧も配給品と同じか少し質がいい程度。訓練をし、体を動かしているのにそれでは物足りないのだろう。
皆さっさとこの生活を抜け出したいのだ。
だが、それはこちらとて同じである。
「うん、頑張ろう。訓練通りに」
緊張が顔に出ていたのだろう、アメの背中をそっと押す凛に向かって微笑んだ。
「━━それでは第一試合を始めます。試合は七分間です。勝利条件は相手の部隊を全滅させること」
立体投影スクリーンと同じ淡い黄色に光る文字が頭上に現れる。
「ちなみに、致命傷を負ったと判断した時点でこのように頭上に戦闘不能の表示を出します。七分後、人数に関係なくどちらの隊も一人以上生き残っていた場合は引き分けとします」
つまり……保身に走って誰か一人だけ立っていれば負けにはならない、ということか。
「━━それでは、試合開始!」
その合図と共に、第四小隊のメンバー全員がこちらに向かって一斉に攻めてくる。
「なっ……あいつら何考えてんだ!?」
動揺を露わにする和樹。なるほど、第四小隊は余程勝つ自信があるらしい。
「落ち着いて! 陣形を崩さず相手を良く見て!」
相手の不意打ちにも動じないのは流石凛だ。その言葉にフッと肩の力を抜き、アメは木刀を構えた。
「おらぁぁぁぁぁぁァァァ!!!」
体格のいい男子が短剣を前衛の小春に振り下ろす。
それを小春が止めた瞬間に和樹が相手の脇腹を狙う━━だがそれは後ろに構えた女子に阻止されてしまう。
第四小隊のメンバーはギラギラと殺気のようなものを瞳の奥に宿していた。
(これは……油断してたら殺られる……ッ━━)
ガンッと両腕に強い衝撃。重心をあと少し上げていたら吹っ飛ばされていただろう。
特攻隊員だった男子の背後から飛び上がりアメに襲いかかってきた女子は凄まじいパワーでアメの木刀を弾こうと攻撃を繰り出す。
(く……ぅう……強い!)
相手の僅かな隙を突いて、一度体勢を立て直す為に距離を取るアメ。ふと前方を見やると、そこでは相手が懐に忍ばせた小刀に小春が太腿を切られているところだった。
刃を潰したものとは言え多少の痛みはあるのだろう、顔を顰める小春。だがその頭上にはまだ戦闘不能の文字は無い。
小春の援護に向かう凛だったが、もう一人の女子に邪魔されている。お前の相手は私だと言わんばかりの猛攻。
だが、凛はダガーを囮に小春の元に駆け寄る。
『いい? 私達は一対一だと不利だから、なるべく分散されないように努めること』
凛が試合前に言ったことだ。
第十三小隊は体術よりもマナ操作が得意な隊だった。もちろん基礎戦闘術の成績が悪い訳では無いが、一人一人の物理的な攻撃力は第四小隊に劣る。
「凛! 後ろだ!!!」
和樹が叫ぶ。
追撃だ。凛の背後には小刀を振りかぶる影があった。
だが━━。
「余所見してる暇なんてねーだろ」
「ぐ…あぁぁッ!?」
呻き声を上げたのは和樹だった。脇腹にナイフが刺さっている━━いや、この場合はめり込んでいると言った方が正しい。
パッと和樹の頭上に戦闘不能の文字が浮かぶ。
苦しそうに腹を押さえて蹲る和樹を踏み台にして、その男子はアメに襲いかかった。
……何かが、プツリと切れる音がした。腹の奥がざわつく。
腸が煮えくり返ると言うのはこういう事だろうか。
審判が、致命傷を与えたと判断すればいいのだ。あれほど━━内蔵に損傷がありそうなほどナイフを押し込まなくても、蹴り上げる必要もないのに。
こいつは、故意に、和樹を━━悪意を持ってそうしたのだ。
臓が重くなったかのように重心が下がる。
相手は二人、だが関係ない。許さない。
持った木刀の柄がミシッと音を立てるのを、水の中にいるかのように遠くに聞いた。
アメは、風を纏うそれを感情とともに振りかざした。
小春:第十三小隊の中で体術の成績が一番良いので前衛。器用貧乏がマナ操作にも現れている。
和樹:ガタイが良く、体力もあるが武器を扱うよりもマナ操作の方が得意。
凛:何でも器用にこなす。筋力が少し弱いのが悩みでリーチのある武器は得意じゃない。
アメ:小柄だが荒野を駆けて生きなければいけなかったせいか体力と筋力はわりとある。体術やマナ操作と比べたら飛行術の方が長けている。




