第28話 初めまして、崩壊の塔
御三家
何日も、何日も悩んだ。
これはきっと、今までの人生で一番大きな決断になる。そう考えるとなかなか答えを出せなかった。
多分、あの青年の誘いに乗ってバベルに行ったら、家族と過ごす時間は減る。
危険は増えるだろうし、辛いこともたくさんあるだろう。
━━今が幸せだ。とても。
みんなのことが好きで、大切だ━━だから。
━━アメが出した答え、それは、家族を守りたいというものだった。
▽▲▽▲▽▲
バベルの門番(門ではなく連絡橋だが)は、突然やって来たみすぼらしい少女を追い返した。
当たり前と言えば当たり前だが、やっとの思いでここまで来たのに門前払いとは……正直へたり込んでしまいそうだった。
その時━━
「んぁれー? あの時の女の子やん。どないしたん?」
へらりと笑って近付いてくる青年。その顔には見覚えがあった。件の日、少し離れた所にいた━━美月、と呼ばれていた青年だ。
えっと……とアメが戸惑っていると、美月の背後からまたタイプの違う整った顔立ちの青年が現れる。
「……美月? 何やってんだ?」
「この子、知り合いってか……煌葵のお客さんやな」
「兄さんの……? ……こんなに小さな女の子がか?」
青年が訝しげな顔でアメを観察する。
「年下が趣味だったか……? いや……」などと呟く青年を見事なまでにスルーして美月はアメを抱き上げた。
「まぁ、とりあえず煌葵ん所まで連れてってやるからなー」
そのまま巨大要塞に入ろうとする美月を、門番が慌てて止めた。
「あ、あの! 貴方様でもさすがに部外者を入れるのは……!」
そんな門番に、美月はきょとんと首を傾げる。
「バベルの全ての権限、俺にあるんやけど?」
その時、美月がどれだけ冷たい瞳をし、門番を震え上がらせたか、抱き上げられたアメは知らない。
▽▲▽▲▽▲
バベルの奥にあるエレベーターに乗り、どんどん上がってやっとたどり着いた一室。
煌葵はそこでたくさんの書類に埋もれていた。
「あ、おい! お前ら抜け駆けして外に出ただろ! ……俺も連れて行けよ!」
入室した際の扉が開く音だけで誰が来たか分かったのだろうか。煌葵は顔を上げずに文句を垂れる。
「兄さんまで出たら問題でしょう……? 俺らの中の誰かはここに残らないと」
「そーそー、椿の言う通り。それになぁ、今日はお客さんも居るんや。喜べって」
そこまで言うと、やっと美月はアメを下ろした。正直に言うと少々気恥しかったので早く下ろして欲しかったのだが、建物に入ったあともそのままだったのだ。
「……客ぅ? ペンチ持ったじーさんだったら許さないぞ?」
ひょこっと顔を上げ、いくつかの本の山を崩し、紙をばらまいて体を起こす煌葵。
初めに椿と目を合わせ、その次に美月を見、そしてゆっくりと視線を下げた。
━━あ、目が合う。
ぱちくりと、音が聞こえそうなほどの瞬きの後、ふわっと花が咲いたような笑顔が浮かんだ。
「お、おま……来てくれたのか! つかなんで二人と一緒なんだ? 呼んでくれれば俺が迎えに行ったのに」
どうやって呼べばいいと言うのだ。そもそも、そこまで喜ばれる筋合いはないと思うのだが……この二人のことも知らないし、煌葵と呼ばれる目の前の青年も良く知らない。情報量の多さに混乱する。
「え、兄さん……本当に……」
「いやぁ、全然分からんけど面白そうなことになってるのは分かる」
青ざめる椿とケラケラ笑う美月、そして、きらきらと目を輝かせ、アメの手を取る煌葵。
カオスとはこの事だろうか。とにかく誰かに助けを求め、一刻も早く帰りたかった。
「……こほん。ではちゃんと説明させてもらおう」
煌葵はアメを自分の隣に座らせ、まだ百面相を続ける二人を向かい側に促した。
「えーとだな、俺がたまたま偶然あったこの少女……名前は……」
「……アメです」
「アメ……うん、アメか。宜しくな。そう、アメは見てわかる通りマナ濃度が高い。かなりな。そして多分俺と同じ風のエレメントだ」
アメにはもう、煌葵が何を言っているのか分からなかったが二人は神妙な面持ちで頷いていた。
「確かに、珍しいなぁ。それくらいの子には持て余すようなマナの量かもしれない」
「そうですよね。兄さんが不純な理由で女の子を連れてくるわけないですよね……」
「椿?……俺が何だって?」
「いえ、なんでもないです。美月がちょっと……」
「はぇ!? そこで俺に振るの? いや、お前は本当に煌葵が相手になると残念やなぁ……」
━━三人の仲が良いことは分かった。だが、それ以外は全く分からない。とにかく話を進めなければ、とアメは意を決して口を開く。
「あの! それで、私どうすれば……?」
なんの知識も無い状態で来たのに、それが一つも増えていない。困るし怖いのでどうにかして欲しかった。
「あぁ、悪い。……ここに来たってことは、覚悟が決まったって事だろ?」
こくりと頷き意志を示す。唾を飲み込んだ事が、どうか気付かれませんように。
「なら、とりあえず訓練兵として下積みをしてもらう。まぁ俺も最初のうちは面倒見てやるから安心しろよ」
「いや待て、煌葵だけじゃ安心出来ん!俺も面倒見る!」
「兄さんと美月が揃ったら危ないから俺が面倒見るよ」
心強い仲間が三人増えたようだが、アメの不安は無くならない。それどころかより大きくなっていた。
これからの、生活に対して。
でも、頭を撫でてくれた煌葵の大きな手の感触が、少し忘れられないのだ。
美月は関西出身なので、関西弁が混じります。




