第27話 歯車
その日もアメは、朝食を食べて少し休憩をした後散策に出かけた。
ソラと翔真は配給品を取りに行くため、今日は別行動だ。
教会のある小さな森を抜け、シェルターに続く道を横切って隣町まで走る。
荒野を抜けると瓦礫の山が広がっていた。砂埃が立ち込めていて、薄目でないと進めない。
ここは『崩壊の日』以前に栄えていた町。瓦礫の量からそれなりに大きな建物も多く建っていたことが分かる。
ここは孤児達の宝箱だ。探せば探すだけ色々なものが見つかる。
ちなみに今日の一番の収穫は缶詰だ。フルーツと、コーン、そしてツナ。
きっとみんな喜んでくれるだろう。
━━これだけ持ち帰れば十分なのだが、その時は欲が出た。
もう少し奥に行ってみよう。まだ何かあるかもしれない。
……そう思ったのが間違いだった。
倒壊していないビルで完全に見えなかった。今日は配給の日だから人の声が聞こえるのだとそう勘違いした。
単独行動をした。
大丈夫だと、何に対してか分からないが絶対的な安心を、当たり前だと思った。
━━小さな過ちが積み重なって、大きな波紋を呼ぶことになってしまった。
ビルの角を曲がった先に広がっていた光景、アメはそれにはっと口を押さえた。
(ドラゴンスレイヤー!? 最悪……なんでこんなところに……)
その理由は明白だった。側には崩れ落ち灰と化すドラゴンの死骸。
つい先程まで戦場だったそこに足を踏み入れてしまったのだ。
正直、ドラゴンスレイヤーとは関わりたくないというのが本音だった。
━━何故か?
それは、ドラゴンスレイヤーが一般市民をよく思っていないからだ。いや、差別していると言ってもいい。
バベルのドラゴンスレイヤーは選ばれし人間。力を授かった代わりに一般市民のおもりをしなけいけない。一般市民を守るために命を落とすものもいるため、ドラゴンスレイヤーは一般市民をよく思っていない。
そんな噂が立っている。だから出来ればなるべく関わりたくないのだ。
だが、一人のドラゴンスレイヤーと目があってしまった。
「……ぁ……ッ……」
踵を返して走りさろうとした。見られたらまずいということではない。関わると面倒なだけだ。まだやり過ごせる━━だが。
「……んー? そこのちびっ子、ちょっといいか?」
(やばい……やばい逃げろ、走れ!)
スタートダッシュはバッチリだった。目も合わないうちにその場を去れる━━そう思ったのに……ふわりとアメの目の前に一人の青年が現れる。
自分の背後にいたはずなのに何故、と驚きと困惑の表情を浮かべるアメに、その青年はにっと笑って告げる。
「俺は空飛べるからなぁ……凄いだろ」
その無邪気そうな顔に少し警戒心が薄れる。
青年はアメにもう一度飛んで一回転してみせると得意気な表情を浮かべた。
悪い人ではないのかもしれない。
だが、先程までとは打って変わってすっと目を細め、真剣な眼差しを向けてくる。
やはり……などとぶつぶつ言ったあと、アメと目線を合わせるためにしゃがんでくる。
「お前……マナ濃度が高いな。良かったらバベルに来ないか?」
青年は親指で背後を指す。
「お前ならきっと強いドラゴンスレイヤーになれるぞ。たくさんの人を守れる、家族、友人、みんなを救えるヒーローになれる」
(な、にを……言って……ヒーローになれる?ドラゴンスレイヤー?私が……?)
困惑するアメの広報で、青年を呼ぶ声が聞こえる。
撤収作業が終わったから帰ると。
青年はそれに対して短く返事をすると、アメの頭をポンポンと不器用に撫でる。
「じゃあ、気が向いたら来てくれよ。気長に待ってっから。あーでも、子供の足じゃ少し遠いか?……まぁ何とかなるか」
硝子のような翼が突如青年の背に現れる。
青年を中心にヒュウッと風が流れる。
「おーい……煌葵早くしろよ! 何女の子たぶらかしてんだよ」
「うるせーな!今行く!」
彼はまるで重力などないかのように飛び上がると、にっこりと万人受けする笑顔を向けて手を振った。
▽▲▽▲▽▲
悩んだ。それはもう夜も眠れないほどに。
月明かりが照らす森を裸足で歩いた。
ドラゴンは夜は活動しないらしい。夜は目が見えないから活動出来ないと言われているが、本当かどうか分からない。
━━ドラゴンスレイヤー、それになれば、みんなを守れるのか?本当に?
きっと、今以上に死が近くなる。
みんなと離れなければいけないかもしれない。今ある幸せを、手放さなければいけないかもしれない。
辛い未来だと分かっているのに、何故そっちを選ぶ?
それならば今の幸せを大切にしたい。
家族とずっと一緒ににいたい。やっと出来た、新しい家族。
でも、失いたくない。もし自分がドラゴンスレイヤーになれば失わなくて済むのかもしれない。
━━葛藤。息が詰まる。
静かな夜は、嫌な事もはっきりと目の前に現れる。
そんなアメを知るのは、ただ暗闇の空に浮かぶ月だけだった。
「おい、ナンパか?」
「ちげぇよ。お前じゃあるまいし」
「はぁ?このモテモテの美月さんはそんなことしません〜」




