第24話 今日の授業はここまで
「━━弟? でも、前に家族はみんな死んだって……」
そう言っていたような、と記憶を辿るナツキ。
「あぁ、確かに血の繋がった家族はいない。みんな、死んだだろうな」
『崩壊の日』、気が付いたら一人だった。
もうその家族の顔もあまり思い出せないと言うハルの表情からは、なんの感情も読み取ることができない。
「でも家族ってのは、血の繋がりだけじゃないだろ?」
『崩壊の日』のあと、人間達は手を取り合って生きていた。
同じシェルターで暮らすものを家族と呼んだり、同じ部隊のメンバーを家族と呼ぶものがいる。
「俺は、バベルに来る前にいた孤児院の奴らを家族だと思ってる。もちろん、バベルのみんなも家族みたいなもんだな」
「孤児院? ハル様はそこで育ったんですか?」
「そうだ。孤児院と言っても、生き残った子供が集まって暮らしてるだけで、育ててくれるような大人はいなかったけどな」
どこか遠くを見、懐かしそうに語るハル。
「……会いに行かないんですか?」
すぐそばに弟がいるのに、そう問う麗央に、ハルは寂しそうに外に目を向けた。
「反ミカエル派のあいつとか?……無理だろ」
あっ……と失言に気付き、麗央は申し訳なさそうに目を伏せる。
ハルは、窓枠に頬杖を付き、弟だと言う少年から目を離さない。息遣いさえ聞こえてきそうな静寂の後、ハルはすっと息を吸った。
「俺は、死んだことになってるから」
▽▲▽▲▽▲
「マナはよく、例えとして磁石が使われますね」
「マナは何かしらのエレメントとして具現化しないと目には見えないので、小さな磁石だと思ってもらって構いません」
司令棟の一室、教室として使われているその中では一人の教師の声が響いていた。
「では、今日の本題である『赤死石』の呪いについてです」
寝ている生徒がいてもにこにこと笑みを絶やさず続ける男━━気浮は、マナを薄く結晶化させて教室前方にスクリーンを作り出す。
そこに映し出されたのは、赤いビスマスのような石。
「━━これが飛蒼鉛です。皆さんに馴染みの深い名で呼ぶならば赤死石ですね」
気浮はポケットから小さな石を取り出す。スクリーンに映し出されたものと同じ、赤い石。
「飛蒼鉛はまだまだ研究が進んでいない部分もありますが、マナの原石、とする説もありますね」
ある程度の生徒が自分の手元に目線を移したのを確認すると、気浮は石を持つ手に力を込めた。
それはパンッと一瞬にして弾け飛び、きらきらと輝く砂になる。
ふわふわと宙を舞うそれを器用に操り、教室の中を一周させてみせる。
それは動物の形になったり、小さな人の形になったりと、変幻自在に姿を変え生徒達から歓声を引き出していた。
「これは結晶化させていますが、ドラゴンスレイヤー達はもっと細かいマナを操り戦います」
気浮は細く白い指をゆっくり上げて虚空を指す。その動作はいやに美しく艶かしい。
浮遊していたマナの結晶がパッと散りばめられて砕ける。
さらに小さく、細かくなったそれらは一瞬強く光を放って消えた。
「ふふ、美しいでしょう? でもね、この飛蒼鉛は毒と同じなんですよ」
またスクリーンが切り替わる。今度はデフォルメ化された人間のイラストが映し出された。
「ドラゴンスレイヤーだけでなく、バベルに居る全ての者にとって必要不可欠なこの飛蒼鉛ですが、一部の人間にとっては猛毒、いえ、爆弾のようなものです。何故か分かりますか?」
ざっと教室を見渡すが、手を挙げるものはいない。
「━━磁石はS極とN極があり、同じ極同士は反発しますよね? それと同じで、人間と飛蒼鉛も反発するんです」
揃ってきょとんとした顔を浮かべる生徒達にくすりと笑って続ける。
「そうですねぇ……なんて説明すればいいか……例えは、そうだ……+(プラス)と-(マイナス)がいいですかね。 『崩壊の日』多くの大人たちが命を落としました。それはこの飛蒼鉛の影響です」
スクリーンに表示される子供のイラスト、その頭上には-の文字。
「人間は、体内にもマナを持っています。その性質は、子供の頃は誰もが-です。そして、大人になるにつれて+へと変わっていきます。そして、飛蒼鉛も+、つまり大人と飛蒼鉛は相性が悪いんですよ」
スクリーンに映る子供の絵が、徐々に成長して大人の姿へと変わる。頭上の-の文字も+へと変化した。
そしてその大人の絵が、映し出された飛蒼鉛に近付いて行き、触れたと同時に━━爆ぜた。
それはもう無駄にリアルなアニメーションで木っ端微塵に爆発した。あまりにも惨い映像。
生徒達からは小さな悲鳴すら上がる。
それでも、気浮はにこにこと授業を進める。生徒達はもしかしたら、その笑顔に狂気を感じたかもしれない。
「━━まぁ、大人になると必ずマナの性質が変わるというわけではありません。技術開発部には今年で七十歳になる方もいます。性質を変化させないようにする研究も進められていますしね。そして……」
━━その時、小さなベルが鳴った。終業の合図だ。
「あぁ……今日はもう終わりですね。次は『人間の竜化』について話したいと思います」
そうだ、と気浮は思い出したように教室の後方を指さす。
「その子、誰か起こしてあげてください」
授業が始まってからずっと机に伏せている一人の生徒。
その生徒を見て気浮はひとつ苦笑を零し、教室から出て行った。
気浮先生(もとい作者)はこれでも頑張って赤死石の呪いの説明したんです(´;ω;`)




