第22話 兄弟と二等星
「俺だってなぁ、守りたいもののためなら地位でもなんでもくれてやるだけの根性くらいあるんだぜ?」
「━━あの二人が双子かぁ……言われてみれば確かに、似てなくもない……か?」
ペンタグラムのブリーフィング室もとい雑魚寝部屋━━そこでナツキがぶつぶつと呟いている。
先程終わった会議、その中で起きた煌葵と椿の内輪揉め。
その際の新人ドラゴンスレイヤーの一言に答える形で吐かれた言葉。
『━━あの二人は双子なんだよ』
『━━元々は兄の煌葵さんが支部長だったんだがなぁ……弟に席を奪われて僻んでるって話らしい』
ナツキも初耳だったらしい。会議室を出てからユキとずっとその話題で盛り上がっていた。
「でも、僕は煌葵さんが兄って言うのに驚きました。なんかちょっとだらしないし、逆かなって」
床にしかれた毛布の上に寝そべるユキ。
その横にはもうくーくーと寝息を立てるリュウがいる。
「そうか?」
ナツキはバリッとお菓子の包装を剥がした。
じゃがいもを薄くスライスしてカラッと揚げたもので、食堂で作られ、その横の売店で売られている。
「でも、いつもはへらへらしてる煌葵さんが椿さんにだけ当たり強いのも、僻んでるなら俺は納得だけどね」
「━━煌葵さんは、そんな人じゃないよ」
しばらくはハルもそのお菓子を横からつまみながら二人の話を聞いていたのだが━━ナツキのその言葉に、思わず強い口調で反論してしまう。
「煌葵さんは、自分で支部長の座を降りた。そうしなければいけない理由があったから……椿さんに託したんだよ」
「じゃあ僻んでるわけじゃないんですね……でも、理由って……?」
さすがに好奇心旺盛な年頃なのだろう。ハルがぼかして言ったところにユキが突っ込む。
それも予想していたのだろう。
ハルはふっと困ったように笑って、少し息を潜めて話し出した。
「……今から数年前、まだ煌葵さんが支部長を務めてた時に、突然現れたんだよ━━兄さんがね」
もう任務に出てしまったのだろうか、部屋には戻って来ていない現二等星、アルストロメリア。
太陽の元に輝くブロンド。
海に反射する蒼眼。
そして、透き通るような白い肌。
明らかに日本人では無いアルスが初めてバベルに来た時はそれはもう注目の的だった。
「椿さんが任務に出てる時にたまたま見つけて助けたらしい。同じ水のエレメント使いだから戦い方も教えてもらったって兄さんが言ってたな」
「え、ちょっと待ってください……支部長ってドラゴンスレイヤーだったんですか!?」
驚きの声を上げたのはユキだった。
一応そういったバベルの歴史も訓練兵の時に学ぶはずなのだが━━彼は飛び級したも同然なので仕方ない。
だが、隣で同じように驚きを隠せていないナツキは習っているはずの事だ。
是非とも座学をやり直してもらいたい。
「煌葵さんと椿さんは初代ペンタグラムの一員だからな。二代目は煌葵さんが一等星で、椿さんが二等星。三、四、五はリュウ、兄さん、俺。そして今が三代目な」
話が逸れたついでにハルは新しく菓子を開ける。ペンタグラムとて、任務のない時くらいだらだらしながら体に悪そうなものを食べたいのだ。
ハルは寝返りをうったリュウに布団を掛け直してやりまた続けた。
「━━それでえーっと、どこまで話したんだっけか……ロシア支部の話はしたか?」
ハルの言葉にふるりと頭を振る二人。他支部の話題が出るのは珍しかった。
「兄さんが強くなって、ペンタグラムになろうかって時にな、どこから情報が漏れたのか知らないが、ロシア支部が兄さんに関して言い掛かりを付けてきたんだ」
アルスは記憶喪失で、椿に会う前の事は覚えていないらしい。それを利用して、ロシア支部は無理やりアルスの引き抜きにかかった。
元はロシア支部のドラゴンスレイヤーだっただとか日本が誘拐して記憶を消しただとか、ロシア支部は適当な事を吐き散らしてあの手この手でアルスを奪おうとした。
「酷いな……」
ナツキが苦虫を噛み潰したような顔をする。
「━━もちろん抵抗はした。兄さんが今もバベルにいることが証拠。でもその時の、情報漏洩を含めた全責任を取って煌葵さんは支部長の座を降りたんだよ」
「じゃあ……ペンタグラムになった時に過去の全ての情報が最重要機密になるのって……」
さすがはユキと言ったところか、天才と呼ばれるだけあり察しがいい。
ハルは無言で頷いた。
「ロシア支部とのトラブルのあとから日本は半鎖国状態。前みたいに他国からのドラゴンスレイヤーの派遣を受けることも無くなった」
司令部が本部と情報共有しているが、それ以外は他国との繋がりはほとんどない。
トラブルなどは一切無くなったが支援が無い分きついところも多い。
「なんか、煌葵さんへの見方、ちょっと変わったかもしれない」
そう呟くナツキに、以前の煌葵を知るハルは少し嬉しく思った。
「……煌葵さんは弟思いでいい人だよ。椿さんは、自分にも責任があったのに全部背負い込んだ煌葵さんを怒ってるらしいけどな」
「だからいつも喧嘩ばかりなんですね」
「そうだな……昔は全然喧嘩してなかったんだけどなぁ?」
「え、想像出来ねぇ!」
こうやって、少しでもあの兄弟の誤解が解ければいい。昔のバベルを知らない若い子達が、少しでも先人の勇気を知ってくれればいいとハルは考える。
「でも、弟を守るってかっこいいですね」
━━煌葵の好感度が上がりすぎていてやり過ぎたかとも思ったが。
「そうだな……いつだって、家族は大切だよな」
ハルは少し寂しげに瞳を揺らした。
一等星の過去話から始まり、二等星の過去話で終わる…悪くないのでは?と自分で思っております2章完結です。次は主人公の過去を1章まるまる使ってお話しようと思います。お付き合いいただけると嬉しいです




