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月光に咲く花の如く  作者: 夜妬
第2章 「むかしばなし」
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第18話 糸と風・上

「ハルさんと任務なんて、なんだか久しぶりですね!」


 ハルとユキは静岡県浜松市に来ていた。


 地のエレメントである五等星とその部下達との合同任務では、このように少し遠出する場合が多い。


「そうだなぁ……ユッキーいつも遠征任務で居ないし、数ヶ月ぶりくらいか?」


 ユキの遠征先は全国各地あるドラゴンスレイヤーの拠点だ。当たり前だが、ドラゴンが現れた時にいちいちバベルから出撃していると間に合わない。そのため、各拠点には普段からC級に対応できる程度の戦力が常駐しているのだ。


 そして、ユキの仕事はと言うと……。


「あー……ここだ。 よし、仕掛け直しましょう」


 ━━トラップを仕掛ける事だ。

 地上戦で少しでも各拠点のドラゴンスレイヤー達が楽になるように。


 運が良ければB級も倒せるという強力なトラップ。それが全国各地に設置してある。


 一度発動すると使えなくなるものもあるようで、それをまた設置するのも仕事だ。


 そのためユキはバベルにいることが少ない。


 今日は珍しくペンタグラムの大部屋に帰ってきていたので、ハルが合同任務に誘ったのだ。


 久しぶりにユキと話したかったのもあるが、次にトラップを設置する場所、つまりこの近辺で珍しいドラゴンの目撃情報も上がっていた。


 それが気になった、というのが大きかった。



 珍しいドラゴン、そのワードにずくんと腹の下が重くなる。

 ハルは左腰に携えた刀の柄にそっと触れた。


『完成したぞ! どうだこの美しい刀は!』


 胸焼けしそうなほどのドヤ顔で刀を渡してきた煌葵を思い出す。見た目は何も変わっていないじゃないかと突っ込むと、戦ってからのお楽しみだとウインクされた。


 成人男性のウインクなど気持ち悪いだけだと思うだろうが、顔が……『顔は』良いため様になっていたのがとても腹立たしかった。


 それでも煌葵の腕は信用している。きっと、この刀なら、アイツを倒せる……。


「ハルさん? ここは設置し終わったので移動しましょ!」


「あ……ああ、今行く」


 いけない、集中しなければ。

 トラップ設置中の彼らの護衛が任務なのだ。何かあった時に対応が遅れれば合同任務を申し出た側として示しがつかない。


「なんかぼーっとしてますね。どうかしました?……もしかしてあの人達の事ですか?」


 ユキが指差す先を見ると、親子だろうか、男性と小さな女の子が手を繋いで歩いていた。

 ハルと目が合うと小さく会釈し去っていく。


「……なんか、みすぼらしいですね」


 ボソッとユキが呟く。確かに格好はボロボロだった。


 いくらミカエルが物資を配給しても、日本全国全ての人に行き渡るわけではない。他の国だってそうだ。ドラゴンが関与せずとも、飢えて死ぬ人が減らないのも事実だ。


「僕は……汚い大人にはなるなと言われました」


 ユキの言葉に困惑する。何の話かすぐには分からなかった。だが、ユキの視線の先で気付く。


「もしかして、さっきの人の話?」


 ユキがコクリと頷く。


「あー……誰に言われたのか知らないけど、汚いっていうのは、『心が』って意味だと思うよ」


 そう告げると、きょとんとしたユキと目が合った。


「心が汚い……でも、心は見えないですよね」


「━━見えないのに、どうして汚いって分かるんですか?」


(……参ったな。 ユッキーのこういう所、上手く言えないけど苦手だ)


 純粋な瞳。心の底からの疑問なのだろう。


 ユキは、鳥籠の中の小鳥と一緒だ。

 美しい羽根を持っていても飛び方を知らない。自分の羽根の使い方を知らない。外の世界を知らない。


 無垢で穢れのない白。それがユキだ。


「……ユッキーはそのままでいてね」


「ハルさん今日本当に変ですよ? どうしたんですか?」


 本当なら、もっと何かいい言葉を返してやらなければいけないのだろう。だが無理だった。こういうのは、兄さんに任せたいところだ。


(俺も、同じだ。 外の世界を見てはいるが茨で身動きが取れない。進めない。だから何も教えてやれないんだよ。ごめんなユッキー)


「んー久しぶりにユッキーとデートだからちょっと緊張してるのかもな」


 冗談めかして笑ってやると、心配そうにハルの顔を覗き込んでいたユキの表情も晴れた。


 いつものハルさんだ、と言って笑うその顔はやはりまだ幼くて━━。


 無意識に眼帯に触れていた手を下ろし、まだ守ってやらないとな、なんて兄貴面しそうになったことを少し恥ずかしく思った。



 ▽▲▽▲▽▲



 浜松市で発動したほとんどのトラップを交換し終え、そろそろ帰ろうかという時、ユキが皆を制止した。


「ここから少し行ったところで元々設置してあるトラップが発動している。 それもいくつも」


「分かるのか?」


「さすがに遠すぎるものは無理ですけど……ある程度なら、糸が教えてくれるんです」


(糸……確か前もそんな事言ってたな……)


『この世界は、糸で繋がっているんです』


 初めてトラップ作りを見せてもらった時にユキが言った言葉だ。


 トラップを作っているユキの手元を見ると、確かに糸が踊っていた。だが、言葉の意味は理解できず、天才が言うことは分かんねぇな……と思っただけだった。


(まぁその糸のおかげで、こうしてドラゴンを見つけられたわけだが……)


 突如眼前に現れた一体のドラゴン。噂の個体で間違いはないだろう、初めて見るドラゴンだった。


 蛍光色のような、派手な黄色がベースの体。明らかに異質。


 A級、いや、B級か? 翼が無い代わりにヒレのようなものがついている。


 そいつは何かを探すようにぺたぺたと這いずり回ると、ある場所で止まった。


「な……そこは!」


 ユキが叫んだ瞬間、ドンッと局地的に大きな爆発が起きる。ドラゴンのすぐ真横だ。ユキのトラップが発動したのだ。


 だが、ドラゴンは無傷。外れたのか、と残念がるとユキが首を振った。


「あいつ、多分トラップがあることに気付いてた。わざと発動させたんだ!」


 隊員たちが目を見開く。トラップに気付く個体など今までおらず、わざと発動させるなんて聞いた事が無い、と。


(ふーん? レア物か……()()()()()()()()())


「ユッキー達はトラップの修復作業に入って良いよ。 俺がやっとくから」


「でも、一人じゃ……!」


「大丈夫、こいつも試したかったし、終わったら加勢に来てくれれば良いよ」


 ハルは刀に手を添える。 するとフワッと若葉の香る風が吹いた気がした。


「……分かりました。 どうか、気を付けて」


 真剣な面持ちで頷くユキに、ん、と手を振る。


 ━━スッと刀を抜き、ドラゴンと対面するハル。


 その目は新しいおもちゃを与えられた子供のようにキラキラと輝いていた。

どうしようか迷ったのですが、分ける事にしましたので次回、糸と風・下となります。お付き合いいただけると嬉しいです!

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