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月光に咲く花の如く  作者: 夜妬
第2章 「むかしばなし」
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第16話 告白と本当

 ハルが逃げ込んだ先は技術棟の一室。


 中にいた少女は窓からの突然の来客に驚き、近くにあったドライバーをハル目掛けて投げ付けた。


「な、何!? 誰、え、ハル!?」


 もの凄いスピードで飛んできたドライバーを、ハルは器用にすんでのところで受け止めた。


「おい凛、危ないだろ? 人に物を投げちゃダメだって教わらなかったのか?」


「まさか窓から人が入ってくるなんて思わないわよ! 何階だと思ってんの!?」


 この作業場はホールから見てもかなり高い場所にある。バベルを上層、中層、下層に分けたならばここは上層の五階と言ったところだろうか。


 凛がよくこの場所で作業をしている事は知っていた。技師に個人の作業部屋というのは基本的には無いらしいが、自ずと作業しやすい所は決まってくるのだろう。


 ハルは近くにあった椅子を引き寄せ、入ってきた窓の傍に座った。

 時折部屋に迷い込む風が心地良い。


 凛が作業する小さな音だけが聞こえる部屋。今もどこかで、ドラゴンと戦っている部隊があるとは思えない。静かな時間が流れていた。


「なぁ凛、俺ら、付き合ってると思われてたらしいぞ」


 遠い昔の事を思い出すかのようにぽつりと言葉が溢れ出す。


「え、知らなかったの?」


「えっ? 知ってたのか?」


 噂は本人には届かないものだとばかり思っていたが。


「女の子達はそういう話題が好きだからね。休憩の時とか、たまに聞かれるの。あんた達はどうなのよってね」


 そういうものなのか。確かに年の近そうな女の子達が食堂で騒いでるのはよく見かけるが何を話しているのかなんて興味もなかった。


「いちいち付き合ってないって説明するのも疲れてきたのよね」


 凛がわざとらしくため息を吐く。それでも作業をする手は恐ろしくスムーズで迷いがない。


 ハルは行儀悪く片足を椅子に乗せ、膝を抱き寄せる。

 椅子がギシッと軋む音がやけに遠くで聞こえた。


「……じゃあさ、俺ら付き合おうか」


 その時初めて凛の手が止まった。今まではハルを見向きもせず作業をしていたその手が、不自然に動きを止めた。


 その瞳の奥で揺れるのは驚きと、困惑と、それから……。


「ば、バカじゃないの? そういうのは他の女の子に言いなさいよ」


「━━言わないよ。 凛にしか言わない」


 ギッギッとハルが椅子を揺らす。作業を再開した凛の手元もおぼつかない。


「……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ビクリと凛がハルを見る。目が合わない。ハルはただ、膝を抱えて何処か虚空を見ていた。


「恋なんて出来ない。 恋愛なんて、()()()()()()()()()()()


 感情を乗せずに笑うハルに、凛はグッと唇を噛んだ。


 笑えない冗談を怒る気にもなれない。

 信頼されていることを喜ぶ気にも、なれなかった。



 △▼△▼△▼



 霞ヶ浦上空に天使が舞っていた。


『ハル、準備はいい?』


 耳元からは凛の声。


「問題ない。 目標も目視出来ている。 いつでも大丈夫だ」



 近くでは小隊がD級と戦っている。ネヴァンの目撃情報が入ったため、ハルはその小隊の支援に来ていた。


 ペンタグラムが駆り出すようなランクではないが、元々凛に新作が出来たからと呼び出されており、それも試したかったので引き受けたのだ。


「それで、この何とかリング、どうやって使うんだ?」


 ハルは自分の腕に嵌められている青と黄緑色のシンプルなブレスレットを見た。


『集積呼応リング! 対になるマナの引力を使って武器を収納できるものだってさっき説明したでしょ?』


 出撃前に色々と専門用語だらけの説明をされたが、へぇ、四次元リングすげーくらいの感想しか持てなかった。技師の才は無いのだ。


『じゃあとりあえず使ってみて。 覚えてるよね?』


「ああ、確か、リングに収納されている武器は七つ。日本刀が二本、短刀が二本、クナイが三本……俺クナイなんて使わないんだが?」


 俺は忍者じゃないんだぞ、ふざけてるのかとハルは文句を垂れる。


『これ以上日本刀用意出来なかったんだから我慢してよ』


 愛用の日本刀はまだ煌葵さんの手元にある。普通の武器はハルのスピードに耐えきれないのだが、今回のリングは質より量というわけだ。

 壊れた傍から新しい武器を取り出して戦う。今までになかった戦術だ。


『まずは日本刀。 日本刀に対応しているマナの半分を弾いて取り出して』


 武器は無くなったわけでは無い、実体はもちろんそこにある。触れられないし見えないけれど、それはマナが隠しているだけ。武器を隠しているマナの半分を取り払ってしまえば、隠れていた武器が姿を現す。


 凛が出撃前にハルに言った言葉だ。なんの事だかさっぱりだったが、リングを付けてみると分かる。確かに七つのマナの塊があるのを感じた。


 一度大きく羽ばたき旋回。

 前方に三体、二時の方向、四体。八時の方向にも二体、近い奴から潰す。


 リングに手をかざし、大きなマナを引き剥がす。するとそこに一本の日本刀が現れた。

 柄をグッと握り締め、ネヴァンに向かって振りかざす。


 一体、二体、三体目でミシッと嫌な音が手元から伝わってきた。


 一度敵と距離を取りたい。だが、一度こちらを敵と判断したネヴァンはそう簡単に見逃しちゃくれないようだった。


(クソッ……もうヒビが入ってる!)


 後方から猛スピードで突っ込んでくるネヴァンに、慌てて振り返り刃を突き立てる。


(━━あ、折れる)


 ポキッと呆気なく折れる日本刀。D級三体で折れるとは。


『早く次の武器を出して!』


 また襲いかかってくるネヴァンに折れた日本刀を突き刺し、もう一方の手で新たな日本刀を構える。


 そう言えば凛が言っていた。リングに収納できるのは回路がない武器だけだと。

 回路があるとマナが作用し合うため収納できないのだという。


(なるほど、コスパが良いのか悪いのか分からないな)


 つまり強力な武器は収納できない。


 ああ、また折れた。ネヴァンは残り三体。武器は三本。短刀とクナイが二本だ。


「おい凛! せめてクナイじゃなくて小刀入れて欲しかったんだが!」


 マナ量調節のためだとかで日本刀は多く入れられないらしい。短刀もこの本数が限界。そこでなぜクナイを入れたんだ。技師の考える事は理解できない。


 ネヴァンは賢い。最初の数体はそのまま突っ込んできたが、群れで攻撃するようになった。


 左から一体。短刀を薙ぐ。


 ━━当たらない。左腹部に激痛、後ろからの攻撃だ。


(━━もう一体が来る!)


 グッと背をそらし、後ろを振り返らずに右手のクナイを振り下ろす。

 刹那、この世のものとは思えない断末魔。


 残り二体。左右から挟まれて上手く攻撃が当たらない。


 短刀は鋭いくちばしでの攻撃を防いだ瞬間にヒビが入り、使い物にならなくなった。残るはクナイだけだが……。


 ハルの翼が一瞬にして消える。キラキラと光り輝くマナを撒き散らしながら、湖へと落ちていく。


 好機とばかりにネヴァン達がハルへと急降下する。それに対してハルはクナイを投擲(とうてき)する。だが、大したスピードもないそれをネヴァン達は易々とかわしてしまう。


『ハル!!!』


 鼓膜が破れそうな程の凛の絶叫。

 ハルの落下スピードよりも攻撃してくるスピードの方が速い。今にも追いつかれそうだった。ネヴァン達が笑うように口を開く。


 それを見たハルは、不敵に笑った。


「……はは、無い脳ミソで必死に考えてその程度か。 武器が無きゃ俺が戦えないと思ったか?」


 突如吹く、目を開けていられないほどの強風。


 ━━かまいたち。


 吹き荒れる突風に煽られてネヴァン達が上空へ押し戻される。

 そして一瞬でバラバラになり絶命した。


 それを横目に見つつふよふよと滞空するハル。


「いやぁ、このリング便利だなぁ! ってぇ……脇腹掠ったんだった……」


 ザザッとノイズが聞こえる。凛が何かを言ったのか、通信の調子が悪いのかは分からなかった。


『……ほ、んとにびっくりしたでしょ!?』


 キーンと耳に響く声。心配してくれたようだ。


「悪い悪い。でも大丈夫だって。リュウの次にこの空を支配してるのが俺だぞ」


 機嫌が良い子供のように、ハルは高らかに笑った。

恋愛出来ない系主人公、ハル。

凛が初登場の時に作っていたのはこの四次元リングの回路を結ぶための基板だったという裏設定があったりなかったりします。

この集積呼応リングの仕組みが詳しく知りたい!という方が居たらそのうち説明してもいいかなぁと思いますが、居ませんよね、ね?

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