第12話 御伽噺
『━━昔々、ある小さな国の、そのまた小さな村に1人の青年がいました。働き者で面倒見が良く、村中誰からでも愛されるような、そんな青年でした。
青年の父は木こりでした。力仕事が多いためか、体が村一番丈夫でした。
青年の母はとても美しい女性でした。時折街に出かけては、美しい歌声で稼いだお金を生活の足しにしていました。
そんな2人の遺伝子を受け継いだ青年は、凛々しく、強く育ちました。
青年には、将来を共にしようと約束した人がいました。小さい頃から一緒にいたお隣の少女です。
「大きくなったら結婚しようね」
そんな子供の頃の約束が果たされようとしていたのです。
強く勤勉な青年と、優しく明るい少女。誰もが良い夫婦になると思っていました。
けれどもある日その2人は引き裂かれてしまいました。
戦争です。
隣国との戦争が激化したことで、青年は徴兵されることになりました。
青年は自分の村も、国も好きだったので、好きなものを守るための戦いに出ることに迷いはありませんでした。
「帰ってきたら、君が好きな村の外れの教会で結婚式を挙げよう」
そう言って青年は村を発ちました。
前線は酷い有様でした。
誰もが祖国のために命を投げ出すのです。
地方から徴兵された、訓練などろくに受けていないもの達は王国兵士達の盾になり散っていきます。彼らは使い捨ての駒でしかなかったのです。
それでも青年は必死に生に食らいつきました。生きて帰る、そのために青年は何人も人を殺しました。
自分の心も殺しました。
戦争は負けました。
青年は生き残りました。身も心もボロボロになりながら、それでも約束を守るために生き抜いたのです。
戦争が終わった時、青年にはもうその約束しかありませんでした。
青年は行きの倍以上の時間をかけて村を目指しました。
本当なら足が止まってしまいそうなほど疲れていましたが、青年は彼女に会いたい一心で歩き続けました。
そうして青年は城下町に辿り着きました。ここまで来れば、青年の村まで半日ほどです。
そんな時、青年は広場に人集りができているのを見つけて足を止めました。敗戦国ですから、繁華街ですらほとんど人を見かけなかったのにも関わらず、そこは何やら喧騒に包まれていました。
そしてそこで青年は、十字架に張り付けられた愛しい人を見つけました。
━━魔女狩りです。
この国が戦争に負けたのは魔女のせいだ。魔女を捕らえろ。全員火炙りだ。そう言って何人もの女性が捕らえられました。青年の幼馴染もとい婚約者も、そんな時代の惨劇の犠牲者でした。
絶望の淵に立たされた青年は、さらにどん底まで突き落とされることになります。
青年の故郷、緑豊かな村が焼け野原になっていたのです。青年が帰ってきた時には、村は魔女が住んでいた魔の村だと言われ、一帯を燃やされてしまった後でした。
青年の心は、人間が湧き起こしてはいけないような黒々とした感情でいっぱいになりました。
国のために戦ってきたのに、国は青年の大切なものを全て奪ったのですから当然といえば当然のことなのかもしれません。
それでも青年は、国に復讐しようとはしませんでした。愛する人を裏切ることになると、そう思ったからです。
全てを失った青年は、北へ北へと歩き続けました。本物の魔女が住んでいると言われる、白銀の世界を目指しました。
そしてやっとの事で魔女に会えた青年は、こう言うのです。
「彼女との約束を果たしたいんだ」
魔女は優しく微笑みました。
「お前は私に何をくれるんだい?」
青年は全てを失っていたので魔女にあげられるものが何もありませんでした。
青年が言い淀むと、魔女は青年の胸にトンッと人差し指を置き、今度は挑戦的に笑いかけました。
「━━私は永遠が欲しいんだ。だから貰うよ、お前の時間」
そう言って魔女は手始めに『少女がいなくなったこの世界ではもう約束を果たす事が出来ない青年の未来』を喰いました。
青年の魂は、魔女との契約によりこの世界に縛られる事になりました。そして青年は新しい体を手に入れるのです。
青年が次に生を受けたのはある貴族の家でした。
青年はなんの不自由もなく、跡継ぎとしての英才教育を受けて成長していきました。
そしてある日、出会ったのです。いえ、再会したと言った方が正しいのでしょうか。
屋敷の使用人として新しく雇われたのは青年の婚約者の少女でした。青年はとても喜びました。涙を流し、会いたかったと告げました。しかし少女もとい使用人の女性は戸惑った顔をします。女性は青年の事を覚えていませんでした。当たり前です。少女の魂は縛られていないのですから。
青年の想いは伝わらないまま幾年かが過ぎ、その女性は重い病に罹って死んでしまいました。約束は果たされませんでした。
次に青年は騎士の家に生まれました。当たり前のように青年も騎士を目指して鍛練し、強くなりました。もし少女に会えたら今度こそは守れるようにと。
しかし、生まれ変わった少女は敵国の姫になっていました。そして隣国の王子と外交のための結婚をしました。またしても青年は約束を果たす事が出来ませんでした。
そうやって青年の魂はこの世をずっと彷徨い、新しい体を手に入れて生まれ変わり、少女を探し続けました。
━━何度も。何度も何度も。
そして少しずつ、少しずつ、青年の時間を計る時計と、この世界の時を刻む時計がカチリカチリとずれていきました』
そこまで話すと語り部はふう、と息を吐いた。もう話は終わりだと言わんばかりの態度だ。
それを見てハルは顔を顰めて言う。
「その青年とやらが、あんたなのか?」
2章の導入は、御伽噺のような昔昔の話




