勇者の作戦
ザッザッザッと一糸乱れぬ足跡が響
く。
ホストル王国の王都ドュームの正門前広場には多くの兵士が集まっていた。
その人数、およそ2万8千人。
ホストル王国の王都ドゥームだけでなく、東西南北各地方の街や都市の兵も集められている。
ホストル王国の国王ナルダがメルニダ王国を攻めることを会議で貴族たちに告げてからたった3日しか経過していないにもかかわらず、各地方都市の戦力の大部分が中央のドゥームに集まっていた。
通常ではありえない早さで戦争へむけての準備が進められていったのである。
この早さの原因はもちろん勇者だ。
ホストル王国に派遣された勇者は、2日前にメルニダ王国王都リースからここドゥームまで転移魔法を使用して戻ってきた。
それから、勇者は各地方都市に転移し、既にそこで集められていた兵士たちを連れて再びドゥームまで転移したのだ。後はその繰り返しで、たった1日で兵士が王都ドゥームに集めることに成功したのだ。
2万8千もの兵士が広場で規則正しく列を成している光景をみて、国王ナルダは御満悦だった。
「素晴らしい!たった3日で各地の兵を集めることができるとは!さすが聖国の勇者殿だ!!」
「そんなことないっス!オイラはただ運んだだけっスよ。むしろ、いつでも戦争が始められるように各地方都市に武器や食糧の備蓄を常日頃からさせていたナルダ様の周到さに驚いたっス!!」
「ふふふ、謙遜が過ぎますぞ!」
国王ナルダは正門の上にて聖国の勇者と戦争の話をしていた。
勇者は大きな帽子を被った茶髪の男だ。旅人のような格好をしているが、服の生地はかなり上質なものだ。
そして、勇者は国王ナルダにある提案をするのだった。
「ナルダ様、今回の戦争はどのように進めるつもりっスか??」
「?、それはもちろん勇者殿の転移魔法の力で大軍をリースまで運んで奇襲をしかけるに決まっておろう?そのために、お主にはリースまで行ってもらったのだ。一度行ったことのある場所ならばお主にの魔法で転移が可能なのだろう??」
「オイラも最初はその作戦でうまくいくと思ったんス!!けど、その作戦は修正したいんっス!!」
勇者の突然の申し出に国王ナルダは困惑する。
「なぜだ?奇襲がうまくいけばすぐにメルニダの馬鹿王の首をとれるはずだ!これ以上の作戦なんてないだろうに」
「そうっス!ナルダ様の言う通りっス!その作戦でもかなり有効なのは間違いないっス!でも、実際にリースまで赴いて、オイラ自身の目で確かめた結果、その作戦を変えた方がいいと思ったっス」
「その理由とどのように変更するかを教えてもらってもよろしいかな?」
「理由はリースにいるメルニダの兵士が思ってた以上に多かったス!!ざっと見繕ってメルニダの兵数が1万4千はいるっス!!」
「1万4千だと!?思ったよりも多いではないか!一月ほど前の間者からの報告では1万弱だったはずだが?なぜ増えたのだ?」
「そのことなんっスけどね?どうやら原因はオイラのっス!」
「お主が原因とな?」
「ええ、どうやらオイラが聖国からこの国に派遣されたって話がメルニダ王国まで伝わってるっス」
「!!、なるほど。メルニダの馬鹿王が北方の兵士を南下させたのだな!」
「その通りっス!二月ほど前に聖国からセモンに派遣された勇者アカズキンがジュルジャとの戦争に参戦したことで、メルニダ王はオイラがホストル兵を率いて攻めてくるのではないかと心配してるっス。だから、国境の近い南に兵士をいつでも派遣できるように北方の兵士を王都リースまで南下させたようなんっスよ」
「くっ、あの馬鹿王め!少しは頭が回るようだな!しかし、それでも兵士の数で我が軍はリースにいる兵士の2倍だ!数の力で押し切ることは可能なのではないか?」
「オイラが一度に運べる兵士の数は1万人までっス!一度の1万人だけではリースにいるメルニダ軍の方が数は上っス!それに全軍を運ぶのには一刻は必要っス!その一刻の間にホストルの兵を削られてしまったら乱戦は必須っス!!」
「確かに当初の予定よりは我が軍の兵士の犠牲は多くなってしまうな。しかし、たった一刻だ。乱戦となり、損害が増えようがリースを陥せれば問題ないではないか?」
「それじゃあ駄目っす!乱戦になりメルニダ側が不利だと分かればメルニダ国王がリースから離れる可能性が高いっス!!それは何としても阻止したいっス!」
「うむ、あの馬鹿王の首は必ずとりたいものだ!!しかし、余もわかったぞ!お主がリースから逃したくないのは馬鹿王ではないな?」
国王ナルダは、作戦変更の理由聞き、なるほどと納得するもいささか強引さをかんじた。そして、ピンっと勇者の思惑を閃くのだった。
「なっ、なんの話っスか!?わ、わからないっスね!」
国王ナルダの言葉を聞き、勇者は慌ててて誤魔化そうとする。しかし、そんな勇者の様子を見た国王ナルダは笑いながら勇者の狙いを口にする。
「くっくっく、、別に隠さんでもよいぞ!お主がリースから逃したくないのは、姫たちであろう?」
図星を突かれた勇者は、ギクリと反応すると頭を掻きながら、観念したように口を開く。
「はあ~~、さすがはナルダ王!バレちゃったっスか!オイラはリースで姫たちを見て一目惚れしちまったっス!!だからナルダ王様、今回の戦争で姫たちを手に入れたらオイラに2人ともくださいっス!!他の報酬はいらないっスからお願いっス!!」
「ハッハッハッ、良かろう。今回の戦争の一番の功労者は間違いなくお主だ!!姫たちを捕らえたら好きにするがよい!余との結婚を拒む姫など、余はいらんからな!」
国王ナルダが笑いながら勇者にそう告げると、勇者は本当に嬉しそうな顔になる。
「ありがとうっス。これは俄然やる気が出てきたっスね!」
「それは何よりだ!それで、お主はどのように今回の作戦を修正するか教えてもらおうかな?」
国王ナルダは、笑顔から一変して真剣な顔で勇者に作戦変更の詳細について尋ねた。
「なに簡単っスよ!リースにいる兵士の数が多いのなら、どっかに行ってもらえばいいんっスよ!!だから、いきなりリースには転移せずにメルニダ最南端の街であるパラディオンに転移してそこを攻めるっスよ!!」
「パラディオンだと?なるほど、リースにいる兵士をパラディオンに向かわせてリースの兵数を減らそうとするのだな?」
「正解っス!!」
「ところで、なぜパラディオンなのだ?兵士を南下させて兵の数が減っているメルニダ王国の北方都市へ転移して攻めた方が楽なのではないか?」
国王ナルダの疑問に勇者は得意気に答えた。
「そんな単純じゃないっスよ。オイラとしては確実にリースから兵数を削ぎたいっス!メルニダ北方の都市を攻めるよりもパラディオンを攻めた方がリースから派兵される可能性が高いっス!!」
「そうか!わかったぞ!パラディオンの方が北方都市よりもメルニダとしては陥落させたくないといことだな!!」
「その通りっス!ナルダ王様は全て理解したようっスね!パラディオンに兵を引きつけたら、すぐに手薄なリースに転移して陥落させればいいっス!そうすれば、こちらの損害も少なくかつ、王族が逃げる間もない内にホストル軍の勝利っス!完璧っス!!」
「うむ、そうだな。しかし、メルニダの南方都市レブリックにも多くの兵がおるぞ。その兵たちがパラディオンの援軍に駆けつけたらどうするのだ?」
南方都市レブリックは、パラディオンの街よりもヒダン山脈沿いに西側にある南方都市だ。パラディオンの街もこのレブリックに住む南方伯の管轄でたる。レブリックは、ヒダン山脈の標高が一番低い部分の麓につくられた都市で、ホストルをはじめとする他国との交易で盛んな都市である。パラディオン近郊にあるホストルへ続く山道よりも標高が低く、幅の広い山道があるため安全にヒダン山脈を越えることができる。したがって、メルニダ王国の要所の一つとされている。
「その心配は無用っスよ!レブリックにはオイラの可愛いペットをむかわせるっス!だから援軍どころじゃなくなるっスね!!」
「ペットとは聖獣のことかな?」
「そうっス!」
ナルダ王は力強く頷く勇者を見て、今回の戦争の勝利を確信する。
「よし、ならばレブリックのことは心配ないな!参謀と軍の隊長格ども集めてすぐに今の作戦の修正を伝えるとしよう!その後は、すぐに出陣だ!」
国王ナルダは側仕えの兵士にすぐに指示を出し、軍の幹部を呼び出した。そして勇者の提案した作戦に修正することを告げるのだった。




