188話 ウダバ村 (2)
やぶの向こうから荒い息遣いが聞こえてきた。それが少しずつ近づくにつれ、枝の折れる音と枯れ葉を踏みしめる音が重なり、闇の中にひとつ、またひとつと姿を現し始めたものたちがいた。
荒野の略奪者。強者が支配し、弱者は踏みにじられる苛酷な掟の中に生きる存在たち。バルドとドブルに向かって迫ってきたのは、オークたちだった。
先頭に姿を現したオークは、腰を大きく曲げ、跛行 しながら歩み出てきた。灰色がかった荒い皮膚には古い傷跡が幾重にも刻まれており、赤い目がドブルとバルドを交互に睨みつけていた。幅広く平たい鼻からは荒い息が漏れ、開いた口からは黄ばんだ牙が飛び出ていた。
その後ろに続いて、二体目、三体目のオークが姿を現した。最初のオークよりもはるかに大きな体格だった。黄褐色の皮膚に黒い剛毛が逆立ち、黄色い目が闇の中でぞっとするほど光っていた。
「こりゃ……」
バルドが呟きながら一歩後ずさった。しかし背後からも、別のオークたちの気配が迫っていた。
続いて現れたオークたちは、先のオークとはまた異なる見た目だった。比較的細身だが、はるかに背が高く、黒みがかった皮膚には傷跡が蜘蛛 の巣のように絡み合っていた。左の頬には深い刀傷が縦に長く刻まれており、そいつが笑うたびにその傷が歪んで、一層凄惨 な面構えを作り出した。
オークたちの身なりはどれも汚れていた。金属片を継ぎ当てた板甲 と錆びた鎖帷子 、粗く汚れた革の切れ端が、雑に身体を覆っていた。鎧と呼ぶには粗末すぎて、あちこちに穴が開いたり破れた部分が多かった。
最も目を引くのは、腰にぶら下がっているものだった。大きな肉塊が革紐で縛られて揺れており、その表面にはまだ乾いていない血が暗く染み込んでいた。肉からは生臭い腐敗臭が漂い、虫たちがその周囲をぶんぶんと飛び回っていた。
「オークの野郎どもが……」
ドブルが小さく呟いた。
その時、さらに多くのオークたちが続々と姿を現した。
これらのオークたちは、他よりもさらに武装が整っていた。手には長い槍を持ち、槍先は長く延びた刃が前方に二股に分かれており、縁には何度も研いだような不揃いな鋸歯 が並んでいた。
また別の数体のオークの手には、湾曲した剣が握られていた。刀身は真っ直ぐではなく反り返っており、鋭いものの、どこか粗削りな印象を与えた。柄は獣の骨で作られているようで、その上に革紐がぐるぐると巻かれていた。
そして……オークたちは絶えることなく、茂みと木々の間から現れ続けた。いつの間にか空き地を取り囲むすべての方角から、オークたちが姿を現していた。
一体のオークは、両手にそれぞれ異なる武器を持っていた。右手に斧を、左手に鈍器を握っていた。斧の刃には古い血の染みが乾いてこびりついており、鈍器もまた幾度も使われた跡が歴然としていた。
「ちくしょう……」
バルドは周囲を見回しながら眉をひそめた。額に深い皺が刻まれ、目はオークたちを睨みつけていた。
最後に遅れて姿を見せたオークは、他と違って弓を背負っていた。背中には矢筒があり、その中から羽根つきの矢がいくつも突き出ていた。
「フワル……」
ドブルが小さな声で呟いた。まだ気を失っているフワルのことが心配だった。しかし今すぐ、この状況にどう対処するか考えなければならなかった。
ついにオークたちが空き地を完全に包囲した。ざっと三十体は優に超えていた。それぞれ異なる見た目と武器を持っていたが、ひとつだけ共通点があった——全員が獰猛 な目つきでバルドとドブルを睨みつけているということだ。
包囲網が完成すると、オークたちが一斉に動き始めた。
「Waaa!」
先頭のオークが怪声 を上げながら槍を振り上げた。その瞬間、他のオークたちも一斉に武器を振りかざした。湾曲した剣が闇の中で不気味に輝き、槍先がバルドとドブルに向けて突きつけられた。
「バルド!」
ドブルが叫んだが、もう遅かった。
最初の槍がバルドの左肩を貫いた。鋭い金属が分厚い毛と筋肉を突き抜けると、バルドが悲鳴を上げた。
「ぐわああっ!」
二本目の槍が右脚に刺さった。膝のすぐ上だった。槍先が骨にぶつかる感覚とともに、バルドがよろめいた。
同時にドブルへも攻撃が続いた。一体のオークが横から槍を突き入れ、槍先がドブルの背中に食い込んだ。
「くっ!」
ドブルが前のめりに倒れこもうとした瞬間、別の槍が手の甲を貫いた。指の間から血が流れ落ちた。
――ジャラジャラ、ガチャッ――
その時、オークたちが二人のダウィ目がけて、鎖で作られた網を投げつけた。複雑に絡み合った鎖が空中で広がり、バルドとドブルを覆い尽くした。
「くぅ……」
バルドがもがいたが無駄だった。鎖が身体に巻き付いて動きを封じた。槍で刺された傷から血が流れ出た。
ドブルも同様だった。鎖網 が身体を絡め取り、自由に動くことができなくなった。背中と手の甲の傷がずきずきと疼いた。
「Grrrrr……。Gahahaha!」
オークたちが満足そうに怪声を上げた。首領らしき大柄なオークが、他のオークたちに何か叫んだ。
「Org Kark Narr! Gulama Tek!」
ドブルとバルドには、彼らが何を言っているのかまったくわからなかった。しかしその声には、勝利の高揚と驕り が滲み出ていた。
「Karak! Vorg Nark Tala!」 「Guluma! Guluma!」
オークたちが互いに言葉を交わした。一体がバルドを指さして何か言い、傍のオークは倒れているフワルを見ながら嘲るように話した。
その時、群れの後方から何かが近づいてくる気配がした。他のオークたちが道を開けて左右に退いた。その間から、ゆっくりと歩いてくる小さな影が見えた。
その存在は、他のオークたちの半分の大きさにも満たなかった。背丈はドブルの腰ほどしかなかった。しかし他のオークたちは皆、畏敬するような態度でそれを見つめていた。
最も異様なのは、彼がつけている仮面だった。木で作られているらしいそれは、彼の頭よりもはるかに大きかった。縦長の楕円形をしており、表面には複雑な模様が刻み込まれていた。
仮面の上部には、長く垂れた骨の飾りが連なっていた。鳥のものか獣のものかわからない白い骨が革紐に通されてゆらゆらと揺れていた。風が吹くたびに骨同士がぶつかり合い、かたかたと音を立てた。
仮面自体の造りも独特だった。木の表面には木目がそのまま生かされており、なめらかに整えられた部分もあれば、粗く削られたままの部分もあった。目の部分には小さな穴が開いており、その奥で小さく鋭い目が光っていた。
仮面の口の部分は大きく開いており、内側は真っ黒だった。口の縁には小さな牙のようなものが嵌め込まれており、一層不気味な印象を醸し出した。
木の仮面をつけた存在の首と腕には、華やかな装飾が飾られていた。赤と金が混じった珠がぎっしりと連なったネックレスが首を囲み、腕輪も同じような色の珠と羽根、小さな骨の破片で作られていた。
その身なりは、他のオークたちとは明らかに違っていた。濃い褐色の革の衣をまとい、その上には各種の護符や呪術的な装飾が施されていた。腰には小さな袋がいくつもぶら下がっており、それぞれから異なる匂いが漂ってきた。
木の仮面の手には杖が握られていた。杖もまた木で作られているようだったが、上部には頭蓋骨がついていた。小さな動物の頭蓋骨で、空っぽの眼窩 がバルドとドブルを睨むようだった。
木の仮面は、ゆっくりと、ゆっくりと二人のダウィへと歩いてきた。
一歩ごとに地面を擦る音が聞こえ、杖が地面を突くたびに鈍い音が鳴った。
かたかた、どっ、かたかた、どっ……。
他のオークたちは、彼が通り過ぎる時に頭を垂れた。膝をつく者さえいた。この小さな存在が、彼らの間でいかに高い地位を持つかがよくわかった。
木の仮面が、槍で刺され鎖網に絡め取られたバルドとドブルの前へ辿り着いた時、ぴたりと立ち止まった。仮面の奥の目が、二人のダウィをじっくりと品定めするように眺め回した。
それからおもむろに、懐から小さな袋を取り出した。革で作られたその袋は手のひら大で、口は紐でしっかりと結ばれていた。
慎重に紐をほどくと、袋の中で何かがもぞもぞと動いた。木の仮面が袋を傾けると、中から一匹の芋虫が手のひらへと転がり出てきた。
芋虫は指ほどの長さで、全身が鮮やかな緑色をしていた。背には黄色と黒が混じった縞模様が走っており、身をくねらせるたびにその模様がうねった。
「なんだ、それは!」
バルドが叫んだ。その奇妙な芋虫を見た瞬間、本能的な嫌悪感が込み上げてきた。
「どけ!そんなもん、何だよ!」
ドブルも身をよじって後ずさろうとした。しかし腕には鎖が絡んでいて、大きく動くことができなかった。
木の仮面は、しばらく二人のダウィの間で迷うような素振りを見せた。芋虫を手のひらに乗せたまま、バルドを見てはドブルを見てを繰り返した。どちらを選ぶか思案しているようだった。
しばしの沈黙が流れた。オークたちも皆、息をひそめてその決断を待った。芋虫だけが手のひらの上でもぞもぞと蠢いていた。
ついに木の仮面が決断した。バルドの方へと向き直り、ゆっくりと歩み寄った。
「やめろ!するな!」
バルドがもがいたが無駄だった。木の仮面の指がバルドの耳に近づいてきた。芋虫がくねくねとバルドの耳の中へ潜り込んでいった。
「ぐわぁぁぁっ!」
バルドが絶叫した。耳の中で生きたものがぞわぞわと這い回ると、背筋が強張った。
木の仮面がすっと立ち上がり、口を開いた。
「やっとだな~……これで話ができるというものだ、ダウィよ」
驚くことに、バルドにはその言葉がはっきりと聞こえた。確かに聞き慣れない言葉のはずなのに、まるで自分の言葉のように理解できた。
「ダウィよ、近くにお前たちの村があるだろう?そこまで案内しろ。我らには、お前たちの村が必要なのだ」
木の仮面の声は思ったより高かった。そしてどこか腹黒い響きを帯びていた。
「はっ!教えてやるわけがないだろ。さっさとこの気色悪い虫を耳から引き抜けよ、このちびめ!」
バルドが叫んだ。怒りで目が赤く充血していた。
木の仮面はゆっくりと首を振った。仮面の骨飾りがかたかたと鳴った。
「まあまあ、怒るな。村まで案内してくれさえすれば、あのムワも、お前の友のダウィも生かしてやろうではないか——どうだ?」
木の仮面が気絶しているフワルとドブルを順に指差した。
ドブルが隣で焦るように尋ねた。
「こいつ、何て言ってるんだ、バルド?」
バルドが歯を食いしばりながら答えた。
「村まで案内すれば、俺たちを生かしてやるって言ってる」
ドブルの顔が歪んだ。固く噛みしめた顎は震えを押さえ込もうとしており、荒い鼻息が漏れ出た。
「はは!そんな話を聞いてしまった以上……仕方ないな、バルド。俺がやる」
ドブルが笑いながら言った。しかしその目には、笑いの色など微塵もなかった。
バルドも似たような顔つきをした。
「いや、俺がやるべきだ。俺が先に聞いたんだから」
二人のダウィの会話を聞いていたオークたちは、満足そうにゲヒゲヒと笑った。木の仮面も頷いて待った。
しかし、ほんのわずかな沈黙が流れた。バルドとドブルが互いを見つめ、目配せを交わした。長い付き合いの友同士、言葉を交わさずとも互いの考えはわかった。
突然、ドブルが大声で叫んだ。
「先に動いたダウィがやるぞ!」
「ふん!そうくると思ってたぞ、ドブル!」
二人のダウィが同時に動いた。
鎖に絡め取られていたとはいえ、彼らの怒りと意志を止めることはできなかった。槍で刺された傷からさらに血が溢れ出したが、二人は構わなかった。
ドブルが先に木の仮面へと飛びかかった。鎖が身体に絡んでいたが、腕の力だけで木の仮面を掴んだ。
「ひぃっ!な……何だ!」
木の仮面が慌てて後ろへ退こうとしたが、ドブルの太い腕が彼を持ち上げた。
まさにその時、バルドの拳が木の仮面の脇腹を強打した。
ドゴッ!
同時にドブルの拳が木の仮面の顔面を正面から叩いた。
木の仮面が悲鳴を上げた。
「きぃぃぃぃっ!」
仮面が砕け散り、その中の顔が露わになった。小さく皺だらけの顔だった。鼻が潰れて血が流れ出た。
「Raaagh!!」
オークたちが慌てて槍をさらに深く押し込もうとした。バルドの肩と脚に刺さった槍が、より深く食い込んだ。
「ぐわっ!」
しかし怒り狂ったダウィの動きを止めるには足りなかった。バルドは槍の痛みを無視して、木の仮面にさらなる一撃を叩き込んだ。
ドブルも同様だった。背中と手の甲に刺さった槍が肉にさらに深く食い込んでいったが、彼は木の仮面を放さなかった。むしろより強く掴み直し、また別の拳を叩き込んだ。
鎖網が動きを妨げたが、二人のダウィは絡まった鎖を力ずくで引き千切るように身体を乗せ、そのまま押し進んだ。
「きぃぃぃぁぁぁっ!」
木の仮面の絶叫が森の中に響き渡った。首と腕にかかっていた装飾が木端微塵 に砕け、四方へ散り飛んだ。赤い珠と金色の珠が枯れ葉の上へと転がり落ちた。
「Krag!! Nabuul Tek!」
オークたちが激怒して叫んだ。呪術師が攻撃されると、彼らは完全に理性を失った。
槍先がバルドとドブルの身体にさらに深く突き刺さった。血が地面に水たまりを作り始めた。
しかし二人のダウィは止まらなかった。
「これは、俺たちの村のためだ!」
バルドが叫びながら、木の仮面の胸に拳を打ち下ろした。
「ウダバに手を出すな!」
ドブルも叫び、木の仮面を地面へと叩きつけた。
木の仮面が倒れると、オークたちの攻撃はさらに激しくなった。湾曲した剣が閃き、二人のダウィへと降り注いだ。
バルドの背に、オークの剣が深々と刺さった。背骨に届くほどだった。
「かっ……」
血が口から流れ出た。
ドブルの脇腹にも槍が突き刺さった。肋骨の間に食い込んだ。
「うっ……」
しかし彼らは最後まで、呪術師へと拳を振るい続けた。
ついに呪術師が完全に動きを止めた。首が折れて傾き、目から光が消えていた。
その時だった。気を失っていたフワルが目を開いた。
状況を把握したフワルの目に、涙が滲んだ。友人たちが血まみれになって戦っている姿を見て、フワルの瞳が揺れた。しかし彼にはわかっていた。今、自分が何をすべきかを。
傷の痛みに堪えながら、フワルが立ち上がった。翼が痛んだが、片方だけでも飛ぶことはできた。
「フワァァァァァル!」
バルドが最後の力を振り絞って叫んだ。フワルを呼ぶ声だった。
フワルは涙をこらえながら空へと飛び上がった。片方の翼はうまく動かなかったが、必死に羽ばたいた。
オークたちがフワルへ向けて弓を放とうとしたが、もう遅かった。フワルはすでに木々の上へと高く飛び上がっていた。
「村にすぐ知らせて、フワル!」
ドブルの声が下から届いた。その声はどんどん弱まっていた。脇腹の傷から血が流れ続けていた。
「頼む、フワル!」
バルドもかろうじて叫んだ。背に刺さった剣がさらに深く食い込み、声も震えていた。
フワルは振り向かなかった。振り向けなかった。友人たちが死んでいく姿を目にすれば、自分も崩れ落ちてしまいそうだった。
代わりに彼は、ウダバ村へ向かって必死に羽ばたき続けた。折れた翼が痛んだが、堪えた。友人たちの犠牲を、無駄にするわけにはいかなかった。
下からは、オークたちの怪声が聞こえ続けた。
「Kaaaarraa!!」 「Guluma! Guluma!」
オークたちが怒りに燃えて二人のダウィを取り囲んだ。呪術師を殺されたことへの復讐心が、彼らを荒れ狂わせていた。
鎖と槍先に押しつぶされ、その身体はすでにぼろぼろになっていた。それでも二人のダウィは、最後まで退かなかった。しかし彼らはもともと、戦士でも英雄でもなかった。木を伐り、火を熾していた、森の慎ましき働き手に過ぎなかった。手に剣も盾もなく、あるのはただ拳だけだった。
その拳では、絶えることのないオークの剣と槍を、いつまでも防ぎきれるものではなかった。
バルドが膝をついた。もはや立ち続ける力がなかった。肩と脚、背中の傷から血が止まらなかった。視界がぼやけ始めた。
「ドブル……」
バルドが力なく呟いた。木の仮面の亡骸 を見つめながら、満足そうにかすかな笑みを浮かべた。
ドブルも脇腹を押さえていた。指の間から血が滲み出た。しかしその目には、後悔の色がなかった。
「フワルは……救えた……」
二人のダウィは互いを見つめ、最後の時を共にした。長い付き合いの友同士、言葉がなくても互いのことがわかった。
「ウダバの……ダウィと……ムワたちが……無事でいてくれれば……」
バルドが最後に呟いた。そしてその瞼が、ゆっくりと閉じた。
ドブルは最後まで身を起こそうとしたが、背後から迫った槍先が彼の胸を貫いた。短く息を喘がせると、そのまま崩れ落ちた。その眼差しは、最後まで消えることなく、そのまま静止した。
二人の友は、そうして静かに息を引き取った。
オークたちの怪声が森の中に響き渡ったが、もう遅かった。呪術師は死に、フワルはすでに村へと向かって飛んでいた。
一方、ウダバ村へ向かって飛び続けるフワルの目から、涙が流れ落ち続けた。風が顔を撫でていったが、涙を乾かしてはくれなかった。
「バルド……ドブル……」
フワルが小さく呟いた。友人たちの最後の姿が、何度も頭の中に浮かんでは消えた。
フワルは止まらなかった。村の人たちに知らせなければならなかった。オークたちが来ていることを。彼らが村を狙っているということを。
遠くにウダバ村の灯りが見え始めた。村の中央広場のかがり火と、家々に灯された明かりが、闇の中で温かく輝いていた。
「もう少し……もう少し……」
フワルはクチバシを固く結んで羽ばたき続けた。村まで、もうわずかだった
「待ってて……みんな、待ってて……」
フワルが最後の力を振り絞って翼を漕いだ。友人たちの犠牲を無駄にしないためにも、必ず村へ警告を届けなければならなかった。
闇の中で、ウダバ村の灯りが少しずつ近づいてきた。フワルの小さな心臓が速く脈打っていた。恐怖と悲しみ、そして使命感が入り混じった複雑な感情が、その胸を締めつけていた。
村の境界線が見え始めた。古い木の道標 と柵が、闇の中でぼんやりと浮かび上がった。もうすぐ村の人たちに会えるだろう。
そして彼らに、すべてを話さなければならない。バルドとドブルの死を。オークたちの侵入を。迫りくる危機を。
フワルの目から、また一粒の涙が落ちた。
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