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186話 乾きの地より来たる侵略者 (11)

一方、アオルンはまた別のミノタウルの群れへと突進していた。頭から生えた硬い樹皮の角が、獲物へと真っすぐに向けられていた。


ミノタウルの一体が盾を構え、アオルンを食い止めようとした。アオルンの前脚が深く土を抉(えぐ) り、後脚がすぐさまそれに続いた。一歩、二歩――踏み出すたびに間合いが縮まり、重心が乗るほどに速度が目に見えて増した。土の地面が蹄に削られ、長く引っ掻かれた跡が残った。やがてアオルンの巨体が視界を埋め尽くすほどに迫ると、ミノタウルは息を呑んだまま盾をさらに強く握りしめた。


―バリガガッ―


アオルンの角が盾へと正面から叩き込まれた。鈍い衝撃が響き渡り、盾が内側へ深くへこんだ。金属が持ちこたえられずに裂けると、アオルンの角は盾を押しのけ、ミノタウルの胸へと食い込んだ。


ミノタウルの鉄鎧が耐えきれず、裂けた。角が甲冑と肉を同時に貫いて深く刺さると、ミノタウルの体が仰け反った。


息が絶えるように、喉から短い呻(うめ) きだけが漏れ出た。目が裏返り、腕の力が抜けると、盾が手から滑り落ちてがしゃんと音を立てて地に落ちた。


アオルンが頭を左右に振った。角に貫かれたミノタウルの体が、それに従って揺れた。傷口から溢れ出た血がアオルンの角を伝い流れた。


アオルンが頭を勢いよく跳ね上げた。角に串刺しにされたミノタウルの体がぐらりと揺れ、鈍い音とともに地面へと叩きつけられた。


その瞬間、別のミノタウルが斧を手にアオルンへと斬りかかった。両刃の斧を頭上高く振りかぶり、アオルンの頭へと振り下ろした。


しかしアオルンの方が速かった。斧が振り落とされるよりも早く、アオルンの鋭い牙がミノタウルの腕に食い込んだ。


「Arggk!」


ミノタウルが苦痛に叫び、斧が手から落ちた。


アオルンが顎に力を込めた。鋼よりも硬い顎が、ミノタウルの腕をじわじわと締め上げた。牙が食い込んだ肉の隙間から血が滲み出た。もはや耐えきれなくなった骨がついに折れると、ミノタウルの悲鳴が迸(ほとばし) った。


「Kaaaaagggggh!!」


ミノタウルが残った片腕を振り回し、アオルンの頭を拳で打ち据えた。鈍い音とともに拳が硬い樹皮に当たったが、アオルンは微動だにしなかった。


ミノタウルが再び拳を振り下ろした。


アオルンは腕を噛んだまま、顎にさらに力を込めた。ミノタウルの腕からはより濃く血が滲み出し、骨が徐々に砕けていく音がいよいよ大きく響いた。


肉と筋肉が圧力に押し潰され、ついには裂けた。血が迸り、アオルンの口元を赤く染めた。アオルンの顎がもう一度強く締まると、ミノタウルの腕が骨ごとむしり取られた。


「Aaaaaaaaagh!」


ミノタウルは腕を失ってよろめいた。血は止まることなく噴き出し続けた。残った手で傷口を塞ごうとしたが、無駄だった。


周囲では、別のミノタウルたちがアオルンへと迫りつつあった。一体が仲間たちへと怒鳴り声を上げ、他の者たちは斧と槍をアオルンへと向けていた。


アオルンの前脚が、腕を失って絶叫するミノタウルの頭を打ち据えた。


頭が地面に叩きつけられ、鈍い音が響いた。地に落ちたミノタウルの目は、すでに死の色に濁っていた。




*****


ヴラントは別の場所で、複数のミノタウルを相手にしていた。ミノタウルたちがヴラントを取り囲んだ。一体、二体、いつの間にか七体が彼を囲んでいた。


ヴラントは無言のまま立っていた。動いてはいなかった가、その存在一つで周囲の空気が奇妙に重く張り詰めていた。


しばしの静寂。そして――


ヴラントが両腕を高く持ち上げた。太い両腕が大きく弧を描いて薙(な) ぎ払われた。


ミノタウルが三体前へと吹き飛び、続いて四体がヴラントの腕に弾かれて弾き飛ばされた。


残ったミノタウルたちが驚いて身をすくめたが、逃げるには遅すぎた。ヴラントが再び腕を伸ばした。


両腕が滝のように下へと落ちていき、残っていたミノタウルたちをそのまま抱き込んだ。


呻く間もなく、彼らの体はヴラントの巨大な腕に絡め取られた。腰から胸にかけて、互いに重なり合ったまま捕らえられたミノタウルたちは、巨大なヴラントの手の中では満足に抵抗することさえできなかった。


「Aaaáh! Áphes me!(うあああ! 放せ!)」


ミノタウルたちがもがいた。しかしヴラントの腕は、彼らの力では到底振りほどくことのできない重さだった。巨大な手に握られてうごめくその様は、むしろ哀れに見えるほどだった。


腕に力が込められると、捕らえられたミノタウルたちの骨と筋肉が内側から砕けていった。悲鳴が幾重にも重なり、奇妙な音色を作り出した。やがてすべての声が途絶えた。目の色が消え、彼らの体は力を失った。


ヴラントが腕を解いた。骸(むくろ) が一つ、また一つと土の地面へと落ちた。重く鈍い音が短い間隔を置きながら広がった。


土煙が立ち上り、動かなくなった体が互いに入り組んだまま、あちこちに転がっていた。


その瞬間、別のミノタウルが一体、背後から飛びかかった。ヴラントの脚の中で最も細い根を狙い、両手に握った斧を叩き込んだ。


斧の刃が深く食い込み、樹皮が裂けた。短い鈍い音が響いたが、ヴラントは何の反応も示さなかった。


彼にとっては、小枝が一本擦れた程度に過ぎなかった。斧を握ったミノタウルの手が、震えた。


ゆっくりと首を巡らせたヴラントの目が、攻撃者を見下ろした。緑に輝く瞳の中には、怒りよりもむしろ、かすかな失望が宿っていた。




*****


一方、アオルンは別のミノタウルを追っていた。


ミノタウルは森の中を走った。絡まった根や茂み、石に躓いてよろめき、伸びた枝にぶつかった。荒い息をつきながら前へ進んだが、足取りはどんどん乱れていった。生き延びようと足掻いてはいたが、すでにアオルンの足音が迫っていた。


アオルンは猛烈な勢いでミノタウルの後を追った。


巨大な体躯(たいく) であるにもかかわらず、驚くほどの速さで森を疾駆(しっく) した。四本の脚が交互に地を蹴る様は、まるで巨大な豹のようであり、体を覆う分厚い樹皮の鎧と前へと突き出た角は、突進するサイを思わせた。


アオルンが逃げるミノタウルを追い越した。そして前に立ち塞がった。


ミノタウルが急いで向きを変えようとした。


しかしそれよりも先に、アオルンが前脚で地を蹴って体を躍らせた。


空中で体を捻り、巨大な前脚を薙いで、逃げるミノタウルの背を打ち据えた。


樹皮に覆われた爪がミノタウルの背を裂いて食い込んだ。


ミノタウルの鉄鎧があまりにもたやすく裂け、背骨が剥き出しになった。


「Uwaaaaaa!」


ミノタウルは短い悲鳴を上げて前のめりに倒れ込んだ。


アオルンが倒れたミノタウルの首筋を噛んだ。鋭い牙が頸椎の間へと食い込んだ。


「Grrk... gkk...」


血を含んだ呻き声がミノタウルの喉の奥で鳴り響いた。


背骨が圧迫され、肩と腕が痙攣するようにのたうち、やがてミノタウルの体が固まっていった。


アオルンは口を開き、ミノタウルの肉片をぺっと吐き捨てた。


ミノタウルの骸が地に伏していた。首筋は深く抉られ、血が地面を染めていた。両目は見開いたまま固まり、その中には最後まで拭い去れなかった恐怖と絶望が沈んでいた。




*****


ヴラントは太い木の根のような手を、深く大地へと突き刺した。指先から伸びた太い節が、土の中を掴み取るように食い込んだ。しばらくすると、鈍い振動とともに巨大な岩が一つ、地面から引き抜かれるように浮き上がった。


岩の表面には古くから土が貼り付いており、引き上げられるたびに小さな石の破片と乾いた根がぱらぱらと落ちた。


ヴラントはその岩をゆっくりと持ち上げた。重く硬い岩の重さが肩の上へと傾いたが、ヴラントは両脚をしっかりと踏ん張り、ミノタウルたちへと体を向けた。


そして岩はヴラントの腕を離れ、宙へと飛んだ。長い腕が振り抜いた軌跡に沿って、岩は低く太い弧を描きながら飛んでいき、逃げ惑うミノタウルの群れの真ん中へと落ちた。


最初の衝突は、森を横切る轟音とともに炸裂した。岩の落ちた場所にはミノタウルたちが押し潰され、形も判別できぬほどの肉の塊となっていた。骨と肉が砕け、血が四方へ飛び散った。


しかしそこで終わりではなかった。岩は速度を失うことなく転がりながら前へ進んだ。巨大な重量を乗せて転がった岩は、逃げ惑う群れのうち何体かをさらに呑み込んだ。


中には短い悲鳴さえ上げられぬまま粉々になった者もあり、腰を断ち切られたまま岩の下で体を震わせる者もあった。


岩は倒れていた大きな枯れ木の幹にぶつかって斜めに向きを変え、その軌道上にいた別のミノタウルたちがその岩を避けられぬまま、次々と下敷きになった。


数体のミノタウルは逃げ惑う中で転んだ同族の上へと転がり込んでくる岩を見て絶叫し、別の者たちは素手でそれを食い止めようとして両腕ともに折れた。混乱と恐怖の中でミノタウルたちの隊列は崩れ、秩序のない敗走が始まった。


二つ目の岩が空へと飛んだ。森を横切りながら岩が立てるうなり声が、木霊となって響いた。今度の岩も固まっているミノタウルたちへと真っすぐに落ちていき、またしてもミノタウルたちの悲鳴と血が森に広がった。


その最中、あるミノタウルは岩に正面から直撃されて胸が砕け、即死した。血が口を突き破って噴き上がり、目までを覆った。両手は宙を掴もうとするように掻きむしり、そのまま地へと落ちた。


別のミノタウルは転がる岩に脚を直撃された。膝から下が完全に砕け、骨の破片が外側へ飛び出した。


「Aaaáh! Hē skélē mou!(うあああっ!脚が!)」


しかし苦しみは長くは続かなかった。ヴラントがまた別の岩を投げた。今度は巨大な岩が、倒れていたミノタウルの頭を轢き潰しながら通り過ぎた。


侵緑者(しんりょくしゃ) たちを迎え撃つサアルンの森は、血の臭いと絶叫、混乱に満ちていた。生き残ったミノタウルはもはや数えるほどしかなく、皆が死の影に怯えきっていた。


森の守り手と相対したミノタウルたちは、震える脚で後退し、地を這って逃げようとする者もあった。


しかしヴラントとアオルンは止まらなかった。彼らにとって、サアルンの森に侵入した者はすべて、生かしておく理由のない存在だった。


アオルンが、震えているミノタウルの一体へと近づいた。そのミノタウルはすでに武器を投げ捨て、両手を挙げていた。


「Lýsai me... dêomai! Sōson!(たのむ……頼む、助けてくれ!)」


ミノタウルが泣き声で懇願した。しかしアオルンの瞳は、静かにミノタウルを見下ろしていた。


アオルンの前脚が、ゆっくりとミノタウルの胸へと伸びた。鋭く太い爪がミノタウルの鎧を裂いて、深く食い込んだ。


鎧に穴が開き、金属の破片が飛び散った。爪は肉を裂き、肋骨の間を割りながら心臓へと食い込んだ。


「Kuuuuuuuuughk···」


ミノタウルの口から血が溢れ出た。目は驚きと苦痛のまま、大きく見開かれたままだった。


アオルンがゆっくりと爪を引き抜いた。ミノタウルの体が後ろへ倒れ、地面に崩れた。胸に穿たれた穴から血が流れ出た。


ヴラントは残ったミノタウルたちへと歩を進めていた。彼らはすでに完全に戦意を失っていた。膝をつき、頭を地面へとつけていた。


「Syngnōmēn aitoumen! Hēmeîs hēmartēkamen!(許しを乞う! われらは過ちを犯した!)」


「Ouk an elthōmen pálin eis to dásos!(二度と森には来ない!)」


「Tēn psychēn mónon... deḯsō se!(命だけは……お願いだ!)」


ミノタウルたちが必死に懇願した。しかしヴラントの表情は変わらなかった。


「Vrashu ek thalur na drûn, kelun varg uthâr.(燃える木々の苦しみが、汝らの定めとなる。)」


ヴラントの深い声が響いた。その声には、怒りと悲しみが入り混じっていた。


「Zaruun ek vrélen kaithir, nor akhen drul nedûn.(森の歌を聞いていればよかったものを、汝らはその声に耳を傾けなかった。)」


ヴラントが両手を高く持ち上げた。巨大な両手が、最後のミノタウルたちの上に影を落とした。


「Khoren ul draath.(今、死が来る。)」


ヴラントの両手が同時に降りてきた。それぞれの手がミノタウルを一体ずつ掴んだ。


太い枝が絡み合って成る指が彼らの胴体に巻き付き、次の瞬間――


ヴラントの両腕が大きく振り払われた。


「GRAAAAH!」


巨大な唸り声とともに、ミノタウルたちの体が宙へと弾け飛び、枝の間を裂きながら太い老木へと叩きつけられた。


肉と鉄が同時に裂ける音、迸る破裂音、その中で押し殺されていた悲鳴――


「Aaaaaggh―!」


しかし悲鳴は長くは続かなかった。


二つの骸が力なく木から剥がれ落ち、地面へと並んで打ち捨てられた。頭は歪み、手足は折れ曲がっていた。


森は静かだった。風も、森の獣たちも、鳥たちも、すべてが沈黙に沈んだ。


しかしやがて遠くから、森の彼方から聞こえてくる音があった。


トトッ――トドトトッ――ドドッ――


森の陰の中、目には見えないが確かに存在する、多くのミノタウルたちの足音。


生き残ったミノタウルたちが逃げ散りながら立てる蹄の音だった。


根と根の間を転びながら駆けるミノタウルたちの必死な息遣いが聞こえ、その中には恐怖に泣き出しそうな呻きも混じっていた。


今やサアルンの森には、ミノタウルたちの骸だけが散らばっていた。あちこちに血が流れ、砕けた骨があちこちに散っていた。潰れた鎧の破片が、森の地面のあちこちに打ち捨てられていた。


戦いは終わった。


ヴラントがゆっくりと周囲を見渡した。炎がいまだいくつかの木で燃えていた。その瞳には淡い緑の光が滲み、その中に深い悲しみが過ぎった。


ヴラントが両手を持ち上げ、燃えている木々へと伸ばした。


森が静かに自らの息をヴラントへと委ねた。彼の指先から広がった苔色の気が、燃える木々を包むように命の息を吹き込んだ。


炎がゆっくりと消えていった。燃えていた枝が一つ、また一つと静まっていった。赤い炎が次第に小さくなり、完全に消えた。


炎が残した木々の傷が癒え始めた。


黒く焦げた跡を残した樹皮が崩れ落ち、内側を剥き出しにした。傷の上に命の光の筋が広がり、切り落とされた枝の先からは若い芽が静かに萌え出した。森は彼の手のもとで、再び息を吹き返した。


アオルンの姿が変わり始めた。巨大な体を纏っていた鎧が、ゆっくりと揺れながら崩れた。硬かった樹皮が割れ、その中に絡まっていた蔓(つる) が流れ出た。蔓は一本ずつ解け、地の上へと落ちて流れながら、自らの場所を見つけるように土の中へと溶け込んでいった。鋭かった角と牙が、元の小さな大きさへと戻った。


アオルンは再び本来の姿へと戻った。幾十本もの蔓が絡み合って成る体は、再び見慣れた形を取り戻し、空の眼窩(がんか) から放たれていた強烈な緑の光も、今は穏やかで温かいものへと変わっていた。


アオルンは小さな脚を弾むように踏み鳴らしながら、軽い風に乗るように軽やかな足取りで歩き、ヴラントの足元へと向かった。そして枝でできた巨大なヴラントの足に体を擦り寄せ、長い時を待ち続けた主へと、恋しくてたまらなかった心を伝えた。


ヴラントが見下ろし、満足そうに頷いた。その手がアオルンをそっと撫でた。


「Manehn le, Aorn.(よくやった、アオルン。)」


ヴラントの声は今や、ミノタウルたちを相手にしていたときとは違い、穏やかな響きで語られていた。


サアルンの森に、再び平和が戻った。鳥たちが再び枝に降り始め、小さな獣たちが自らの巣や穴から顔を覗かせた。


ヴラントがダルンとティルエルダへと向かってゆっくりと歩み寄った。


ダルンが深く頭を垂れて礼をした。


「古の守り手よ、お助けいただき、まことにありがとうございます」


ティルエルダもヴラントへと頭を下げた。


「本当に……本当にありがとうございます」


ヴラントが彼らを見下ろし、穏やかな表情を浮かべた。樹皮で成る顔であったが、その表情には温かみが宿っていた。


「Varhûn ek Rûn, akhiæl ek Thalan, draushun na kelûr.(川の君主の末裔(まつえい) と、森の娘よ、汝らの勇気を喜ばしく思う。)」


「Thûren vehrash kalun eketh, nor draushun na thurel.(木々がすべてを私に語ってくれた。汝らの勇気と犠牲を。)」


「Akhiæl ek Thalan, frath unarh kelun thûren morval ûthan.(森の娘よ、汝の氷により、多くの木々が闇から救われた。)」


ティルエルダの目に涙が浮かんだ。何も言えなかった。ただ深く頭を垂れるだけだった。


「Khéru drathûn vakhal. Thalan verûn na rithal.(今や侵入者はすべて去った。森は再び平和を取り戻した。)」


ヴラントが空を仰いで言った。


「Var thûren draem kalith rithal ûtran, sul ekhen varûn thréla.(しかし傷ついた木々を癒すには時がかかるだろう。私は彼らの傍らにいなければならない。)」


ヴラントが再びダルンとティルエルダを見下ろした。


「Unarh véla. Rûn na khan lir.(汝らはもう安全だ。)」


ヴラントが目を閉じた。


巨大な体が低くなり、両腕が土へと降りていった。


太い指が土を割ると、割れた隙間から湿った土の香りが立ち昇った。


ヴラントの体から伸びた無数の根が、地面の下へと広がっていった。


かすかな揺れが伝わった。


その胸の下から淡い緑の光が滲み出し、その光はヴラントの周囲へと静かに広がった。


炎が過ぎ去った跡の黒い痕が、ゆっくりと薄れていった。


焦げた樹皮が崩れ落ち、その下から生きた内側が剥き出しになった。


切り落とされた枝の先から、若い芽が顔を覗かせた。


空気の中に残っていた灰の匂いが晴れ、代わりに濡れた土と苔の香りが広がった。


枝々が軽くそよいだ。


ヴラントは動かなかった。


しかし彼の体から伸びた力は森のいたるところに沁み込み、傷ついた木々を一本ずつ甦(よみがえ) らせていた。


そんなヴラントの姿を眺めながら、ダルンとティルエルダはその場に立っていた。


ついに森には、再び静けさが訪れた。鳥たちのさえずりと風の音、そして木の葉がそよぐ音だけが空気を満たした。


侵入者はすべて去り、サアルンの森は守られた。そしてその平和を守ったのは、古より森を護り続けてきたヴラントとアオルンだった。


その圧倒的な力の前では、ミノタウルたちの侵略など、無意味なものに過ぎなかった。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。これからも楽しんでいただければ幸いです

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