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167話 ダム (10)

ダムの西壁と南壁が交わる場所、大きな石を積み重ねて造られた城壁が、灰色の冬空の下にそびえ立っていた。巨大な生きた木々が城壁の間から高くそびえ、まるでダムを守る番人のようにも見えた。


木々の樹皮は深い皺(しわ) に覆われていた。早朝の空気には湿った土と木の香りが混じり合って漂い、道具を打つ金属音、底が平らな石運び用の大型橇(そり) が地面を引っ掻く音、そして城壁を積み上げるために石を運ぶ作業員たちの低い唸り声(うなりごえ) が、不思議と調和して歌声のように聞こえてきた。


工事現場の真ん中では、ダウィの一団がダム南方のモノス採石場から運んできた巨大な玄武岩(げんぶがん) の塊を木橇(きぞり) に乗せて引いていた。縄を巻いた腕には重さで筋肉が張り詰め、冷たい空気の中で白い息が立ち上っては風に散っていった。


彼らを指揮するのは、ダムの建築匠、ヴァルゴだった。背が高く体格の良いダウィの彼は、灰色混じりの粗い茶色の毛を持ち、採石場の埃で汚れた分厚い革の作業着をまとっていた。


深い琥珀色の瞳は眉根(まゆね) を寄せた表情とともに苛立ちで光り、太い声が喧騒を切り裂いた。


「その石どもはあっちに動かせ!そっちじゃない、もっと左だ、このノロマどもが!」


彼は手を振り回して作業員たちを急き立てた。若いダウィの一人が橇を誤った方向に引っ張ると、ヴァルゴは大股で歩み寄り、その肩を掴んで向き直らせた。


「目はどこについてるんだ、ブロン!あっちだ、あっち!」


ヴァルゴの怒鳴り声を聞いたブロンは顔を赤らめ、頭を下げてそそくさと橇を引き直した。


ヴァルゴの視線が遠くへ、城壁の下で作業員たちを指揮する人間へと向いた。ラボロスの石工、クラバだった。


ダウィとムワの中でひときわ目立つサルン・ケだった。灰色の髪は後ろに束ねられ、袖の広い古びた革衣が風にはためいていた。


ヴァルゴは口元を歪めた。サルン・ケがダムの城壁積みを指揮するだと?


彼は心の中で歯噛みした。


「ラボロスの石工風情が何様のつもりだ……。ダムの城壁をサルン・ケごときに任せるとは。」


彼は低く呟きながら、足で小石を蹴った。小石は転がり、城壁の下の土の山にぶつかった。


ダムの石工としての誇りと、余所者(よそもの) がその上に手を置くことへの不快感が、彼の胸の中でふつふつと煮え立っていた。この城壁はダウィとムワの力で、彼らが削り出し積み上げた石と木で、幾百年もの歳月を耐え抜いてきたのだ。なのになぜ、よりによってサルン・ケなのか。


ヴァルゴの記憶は少し前、クラバがダムの石工たちを集めて説明していた大会堂へと戻っていった。会堂はダウィとムワの職人たちで埋め尽くされていた。篝火(かがりび) が壁沿いに燃え上がって深い影を落とし、彼らの毛並みと羽根が炎の光に揺れてそよいでいた。


クラバは中央に立ち、木と石で作られた城壁の模型を指し示していた。模型を指すその手は荒れており、爪の下には石の粉が詰まっていた。灰色の髪はきちんと束ねてあったが、何本かがほつれて顔にかかっていた。


「ダムの城壁は見事なものだ。」


クラバが語り始めながら、ゆっくりと室内を見渡した。その目は疲れていたが、篝火の光を映す瞳は輝いていた。


「ダムの芯壁(しんぺき) は完璧に近い。木と石の調和は、私がこれまで見てきたどの城壁よりも堅固だ。今回われわれの任務は再建ではなく、外壁——すなわち外皮壁の補強だ。」


彼は模型の層を指し示した。


「城壁は息をしなければならない。適応しなければならない。われわれは『余白』を残す。変化のための空間だ。生きている城壁とは、攻め込んでくる敵に合わせて進化するものだ。」


職人たちの間にざわめきが広がった。丸い玉で飾った毛を編み込んだダウィの石工、ロガンが手を叩いた。


「なるほど!」


低い声を上げながら深く頷いた。ロガンの隣にいたムワの職人カリアは、翼を額に当て、理解したと示す羽ばたきを見せた。しかし皆が納得したわけではなかった。若いダウィのブロンが口の中で呟いた。


「戦いながら変わるだと?馬鹿げてる!」


鋭い目のムワ、セリンは首を傾けた。


「生きている城壁?石が自分で動くとでも言うのか?」


クラバは周囲の反応を意に介さず言葉を続けた。


「外皮壁をより高く積み上げ、石弓と弓を射るための矢狭間(やざま) を設ける。敵がミノタウルであれ、オークであれ、弱点はなくなる。」


彼は断固とした眼差しで周囲を見渡し、ひとときの間を置いた。指先が模型をそっと押さえた。


「敵に合わせて進化する城壁——それが、ラボロスの石工が積む城壁だ。」


室内は反応で揺れ動いた。ロガンは顎を撫でながら頷き、カリアは羽根をばたつかせた。しかしブロンは腕を組んで目をぐるりと回した。


「サルン・ケの大言壮語(たいげんそうご) だ……。」


と囁いた。ロガンは首を傾け、隣の仲間に問いかけた。


「余白か……。それはどういうことだ?空間を空けておくということか?」


後ろに立っていたヴァルゴは腕を組み、顎を強張らせた。進化する城壁?余白?気の利いた言葉を並べているだけで、このサルン・ケはわれわれの木を知らない。クラバの言葉に耳を傾けながらも、心の奥底で不快感が膨らんでいった。ダムの城壁は彼らの汗で建てられたものだ。サルン・ケが入り込む余地などない。


確信を胸にひとり頷いていたヴァルゴは、大会堂での記憶を振り払い、視線を城壁の下で石を運ぶ作業員たちへと向けた。


ダウィたちは巨大な玄武岩の塊を橇に乗せて城壁の下まで引いてきた。橇が地面を引っ掻く音が耳を刺し、石の山から埃が舞い上がった。


クラバは城壁の周囲に組まれた木の足場の上に立ち、風にはためく袖の中から指先を伸ばして空いた場所を指し示した。


「石はそこへ、二本目の木の隣に積め!あらかじめ形を合わせて、隙間なくきっちりとな!」


何時間も声を張り上げていたせいで、その声は嗄れていた。彼は手で喉を擦って息を整え、再び作業員たちを叱咤(しった) した。


ヴァルゴが重い長靴の音を立てながらクラバに近づいた。その毛並みは汗と埃でぼさぼさになり、目はクラバをあからさまな侮蔑で睨み付けていた。


「石を選ぶ目が肥えているな、サルン・ケ。」


低く唸りながら嫌みを飛ばした。


「モノスの玄武岩がラボロスの口には合わんか?われわれの石がお前らサルン・ケの石より劣るとでも言いたいのか?」


クラバは額の汗を拭いながら振り返った。目は疲れていたが、ヴァルゴを見上げるその眼差しはいまだに鋭かった。


「モノス採石場から切り出した石は見事なものだ。硬くて緻密で、私がこれまで見てきたどの石よりも優れている。」


彼はヴァルゴの嫌みをさらりと受け流した。


「だが、配置が肝心だ。城壁は積み上げる石と同じだけしか強くなれない。」


彼は石を削るダウィの集団を指し示した。


「角は平らに均せ(ならせ) 。隙間も弱点もあってはならない。だが石の間に小さな空間を設けることで、初めて衝撃に耐えられるようになるんだ。」


ヴァルゴは鼻を鳴らして毛を逆立てた。


「われわれが仕事を知らないとでも思っているのか?ダムの城壁はお前らの種族が手を加える前から、何百年もの間持ちこたえてきた。」


彼は作業員たちに向かって声を上げた。


「削り続けろ、このやろうども!このサルン・ケに、ダムの石工の腕前というものを見せてやれ!」


その声は響き渡ったが、クラバの落ち着いた対応に少しばかり気圧されていた。『あのサルン・ケ、言うことだけは一丁前だな……』彼は心の中でぼやいた。


クラバはヴァルゴの嫌みを無視して城壁に集中した。彼は足場から降り、部分的に積み上げられた城壁の近くにダウィとムワの職人たちを集めた。作業員たちが集まると、道具がかすかな陽光を受けて光った。


若いムワの石工カリアは羽根を後ろに束ね、具現化した手の形でノミを握りながら、好奇心に満ちた目を輝かせていた。埃に覆われたダウィの老職人ロガンは、槌(つち) の柄を手で撫でながら歩み寄ってきた。ブロンは遠くで橇を引きながら、依然として不満をこぼし続けていた。


「よく聞け。」


クラバが嗄れた(かれた) 声で言った。喉を鳴らして息を整える。


「外皮壁の下三分の二は厚く、腹を突き出したような形で城壁の外側に張り出すように積む。これはわれわれの盾だ——攻城兵器の衝撃を受け止めるためにな。」


彼は片膝をついて棒切れで地面に曲線を描いた。その線が頑丈な城壁の輪郭を浮かび上がらせた。


「上の三分の一は高さを優先に、しなやかだが頑丈に積み上げる。損傷が生じたとしても、戦闘の最中でも上の部分は積み直せる。だから余白を残すんだ。」


ロガンが髭を掻きながら爪をカチカチ鳴らした。


「戦いながら積み直すだと?大胆だな、サルン・ケ。」


カリアは嘴(くちばし) を少し開けて首を傾けた。


「城壁が生きて適応するということか?まるでわれわれの木と石が一体になった城壁みたいに?」


クラバが頷いた。


「その通りだ、カリア。柔軟さこそがこの城壁の強みになる。そのためには、残る城壁の上三分の一を逆に弧を描くように前へ傾けながら積み上げる。」


彼はまた別の曲線を描いた。


「これは隙間なく堅固に積み上げるんだ。隙間が少なすぎて衝撃を吸収できないほど良い。攻城兵器、バリスタのボルト、投石機の石——そういった攻城兵器が放つものが当たったとき、破片が下に降り注ぐよう、城壁の外へ流れ落ちるようにするためだ。そして、われわれの弓兵は安全でなければならない。」


ロガンが低く口笛を吹きながら槌で手のひらをぽんと叩いた。


「利口だな。これだけ高く積み上げれば、弓兵たちの頭上に石が落ちてこなくなるわけだ。」


カリアは爪をカチカチ鳴らしながら羽根を膨らませた。


「戦う城壁だって!そうか、これはただの城壁じゃない!」


その声には興奮が滲んでいた。


集団の端に立ってクラバの言葉を聞いていたヴァルゴは腕を組んだ。


「見事なごまかしだ。」


彼は呟いた。


「だがバッドランドの連中に通じるか?オークやミノタウルは城壁の形なんぞ気にしないぞ、サルン・ケ。」


その声は懐疑的だったが、目には好奇心の色がかすかに過っていた。クラバの言葉が彼の自尊心を傷つけたが、その論理は素直に否定しがたかった。


クラバは手の土を払いながら立ち上がった。


「持ちこたえてみせる。ヴァルゴ、ダムの城壁はバッドランドからのいかなる脅威も防いでみせるとも。」


彼は城壁の木々を指し示した。木の葉が穏やかに、風に乗ってゆるやかに揺れ動いていた。


「城壁を繋ぎとめる木と石が……。そして石工たちの力が共にあれば、耐えることができる。」


風が工事現場に吹き込んで、作業員たちの毛並みと羽根を揺らした。


職人たちは互いに目を見交わした。頷く者もいれば、感嘆の声を囁く者もいた。


敵に合わせて進化する城壁、息をする城壁——クラバの構想は、最も懐疑的な者たちの心すら揺り動かしていた。


クラバは思った。生きている城壁、街と共に息をする城壁——それが、ラボロスの手が加わったダムの城壁なのだ、と。


「言葉と同じだけ城壁を積み上げられるか、しっかり見せてもらおうじゃないか、サルン・ケ。」


ヴァルゴはクラバから身を翻し、作業員たちの方へと向かった。


「次の石を持ってこい!動け、このぐうたらどもが!」


声は高らかに響き渡ったが、心はクラバの言葉に留まっていた。余白……、生きている城壁……。認めたくはなかったが、あのサルン・ケの言葉には確かな重みがあった。彼は橇を点検しながら、ブロンに向かって再び怒鳴った。


「ブロン、しっかりしろ!石が一つでも駄目になったら、お前の毛を根こそぎ引っこ抜いてやるからな!」


クラバは再び城壁の足場の上へと登っていった。その視線が城壁をゆっくりと舐めるように走った。木の葉が陽の光を受けて幽かに輝いていた。


クラバの視線が向く遠い西。そこからやってくるものが何であれ、ダムの城壁は備えができているだろう。


嗄れた声が再び力強く響いた。


「石を積み上げ、千年は優に持ちこたえる城壁を作るんだ!」


作業員たちは新たな意志で動き出した。槌が石を打つ音が響いた。橇が土を削りながら石を運んできた。


風にそよぐ木の枝が擦れ合う音を立てた。その風は城壁の下で黙々と石を削り続ける石工たちの汗を静かに冷やしていた。


クラバは足場の上で手を挙げ、作業員たちを鼓舞した。その影が城壁の上へと長く伸びた。

ご愛読いただき、誠にありがとうございました

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