163話 ダム (6)
ダウィとムワの街、ダムの西を流れるナウラート川は、この地域で最も長く、最も大きな川であり、ノルワン山脈から流れ込む無数の支流を吸い込みながら、サアルンの森を貫いて大陸の西へと向かっていた。
その巨大な流れは豊富な水量を誇り、川の周囲には多様な生態系が形成されていて、森の住民たちにとって欠かせない存在となっていた。
ダムの数ある店のひとつ、「ボウマの釣り具店」は、ナウラート川に近い賑やかな通りの一角に構えていた。その通りは川沿いに長く伸びており、石畳 の上にはさまざまな商店や露店が軒を連ね、いつも活気に溢れていた。
川から吹き込む風が湿気を帯びて通りを包み込み、道端には漁師や魚捕りたちが持ち込んだ魚やザリガニなどを売る商人たちと、威勢のいい売り声が飛び交っていた。
通りのあちこちでは色褪 せた天幕 が揺れ、革と木でできた簡易な露台 の傍には、旅人や漁師たちが一息つける場も設けられていた。
その一角に佇 むボウマというダウィが主を務める店は、外観こそ古びてはいたが、頑丈な木材で建てられた建物で、川風に色の褪せた看板には、大きな鈎 と銛 が交差した形が描かれていた。
看板の上には「ボウマの釣り具店」という名がくっきりと刻まれていた。
扉を開けて中に入ると、よく陽が差し込む窓のおかげで板張りの床はしっかりと乾いており、あちこちに整然と並んだ陳列台が置かれ、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。壁には水中の生き物を捕らえるための様々な道具が所狭しと掛けられており、一目見ただけでここが漁具を専門に扱う店だとわかった。
壁面には多種多様なハープーンと銛が並んでいたが、中でもひときわ目を引いたのは、長い柄の先端に鋭い鈎状の刃が付いたハープーンだった。鯨捕りにも使われそうなその大型ハープーンは、鉄製の柄がずっしりとした重みを感じさせ、刃は何枚もの鋼を重ねて鍛造 したのちに細かな鋸歯 が刻まれており、獲物が逃げ難 い構造になっていた。その傍らには、より小さな銛も展示されていた——短い柄に鋼の刃が取り付けられた形で、浅瀬から手で投げて使うのに適していた。
一方の壁には、さまざまな形の槍が整理されていた。トライデント、すなわち三叉槍 は、先端が三又に分かれていて魚を突く確率を高める構造だった。長く均整の取れた柄は投擲 にも向いていたが、浅瀬で直接突くのにより効果的だった。その隣には、より単純な形のバイダント——双叉槍 が並んでいた。二つの刃を持つこの槍はトライデントよりも扱いやすく、魚をより正確に突けるよう設計されていた。柄は水に強いチーク材で作られており、いくつかの製品には骨で刻んだ装飾が施されていて、独特の趣を纏 っていた。
店の中央には木製の棚がいくつも置かれ、その上には各種用品が整然と並んでいた。手に持って投げる小型の銛は、短い柄の先端に鈎の刃が付いており、素早い攻撃が可能だった。夜に魚を誘い寄せる水中ランタン(フィッシュ・ランプ)は油ランプと反射板が組み合わされた形で、柔らかな光を放ちながら暗がりでも魚を引き寄せられるよう考案されていた。
ギャフフックは大きな魚を船へ引き上げる際に欠かせない道具で、この店では長く丈夫な木の柄に鋭い鈎が取り付けられた製品を扱っており、中には柄に革製のストラップが付いたものもあり、実用性を一層際立たせていた。
壁の一角には、薄く削った動物の骨に小さな穴を開けて作った水中眼鏡が掛けられていた。水の中でも視界を確保するために考案された道具だった。その下の棚には魚の保管用の桶 が並んでいた——生きた魚を保管できるよう、木桶や籠 の形で作られたものだった。重い石が取り付けられ水面下に沈められるものもあれば、水の流れを調節する小さな穴が開けられ、魚が長く生きていられるよう工夫されたものもあった。
また棚には、木材あるいは骨で作られた釣り針が置かれていた。鉄が貴重な地域では骨や角を削って針を作り使用しており、鉄の臭 いがする針よりも骨や木で作った釣り針の方が魚をよく釣ると言われていたため、近頃は鉄針よりも骨針を求める客が多かった。
ハンドラインの道具も共に並んでいた——竿 を使わず、糸と針だけで魚を釣る方式で、単純ながらも効果的な漁法だった。もちろん、竹や様々な素材の木で作られた釣り竿も並べられており、ゆったりと水中に針を垂れて魚釣りを楽しむ者たちのための選択肢も用意されていた。
店の一角には各種網が掛けられていた。投げて使う円形の投網 、魚が泳ぎながら絡まる形の刺 し網、そして船や人が両端を持って引く曳 き網まで、種類は豊富だった。また、魚が一度入ると出られない構造の魚籠 も揃えられており、長期的な漁を望む者たちに人気が高かった。 小魚を掬い上げるのに使う玉網 も、大きさ別に壁に掛けられていた。手軽な魚捕りのための道具たちだった。
店にすでに入っていた者たちの中でも、特に二人のダウィが目を引いた。一人は他のダウィに比べて体格が小さく、濃い茶色の毛をしたダウィだった。腕を組んだまま、壁に掛かった大型ハープーンを一本一本眺めていた。目の前のハープーンを手に取って柄のバランスを確かめ、刃の強度を指で叩いて確認するその仕草 からは、慎重な性格が滲 み出ていた。
肩には丈夫な革鎧 を纏い、腰には古びた革紐で括り付けた短剣が一本差さっていた。壁に掛かったハープーンを見つめるその表情は真剣だった。まるでその道具の用途を頭の中でじっくりと思い描いているような様子だった。
もう一人は彼よりも背が高く筋肉質な体格をしており、粗い毛皮のベストを羽織っていた。別の種類の銛を手に持ち、重さを測りながら確かめていた。
茶色い毛のダウィは依然として壁に掛かったハープーンを見つめていた。その指先が柄に沿ってゆっくりと動き、硬い感触を確かめた。鋼鉄で鍛えられた刃先に刻まれた微細な鋸歯が、光を受けてきらりと輝いた。店の内部には各種木材でできた道具が溢れており、室内にはさまざまな木の香りが混ざり合っていた。チーク材の濃く重みのある香り、オークの柔らかな香り、そしてパオロサで作られた柄から漂う独特の匂いが、店の空気の中に漂っていた。
その時、濃い色の毛をした別のダウィが彼に歩み寄ってきた。
「バズ、そんなでかいハープーンをどれだけ遠くまで投げられるんだよ。もっと小さいやつにしとけって。」
近づいてきたダウィが低い声でバズに言った。彼はバズよりも体格が良く、目の端には深く刻まれた傷跡があり、荒々しい印象を放っていた。
バズは眉をひそめながら、ハープーンを手で振ってみた。重さを確かめるような動作だった。それから、断固とした口調で言い切った。
「このくらいのハープーンなら投げられる。」
そうして店の奥で砥石 を整理していた主人のボウマに向かって声を張り上げた。
「ボウマ!これいくらだ?」
ボウマは木箱の中から砥石を取り出して棚の上に一つずつ並べているところだった。手についた細かな石粉をパンパンと払いながら腰を伸ばした。砥石は滑らかに仕上げられた灰色の石で、きれいに角が立っていた。額に浮いた汗を手の甲で拭ったボウマは、バズが持っているハープーンをちらりと見やった。
「ああ……それはちょっと高くてな……金貨8枚は出してもらわないと。」
バズの声が思わず大きくなり、口を尖らせながらぼやくように言った。
「高っ!まあ……それだけ良くできてるみたいだけどな。ダオバ、お前のは?お前が使ってるそのハープーン、いくらだったんだ?」
「俺のか?前に見せたことなかったっけ?」
バズの問いに、ダオバは静かに微笑みながら、自分の背に掛けていた革布をほどいた。布の中から姿を現したハープーンは、一般的なものとはあきらかに違った。
赤みを帯びた黒い光沢を宿す柄は、堅牢 なチーク材で作られており、刃はかすかな青い光沢を帯び、繊細な紋様 が刻まれていた。ダオバはハープーンを手に握り、軽く持ち上げて重さを調整しながらバランスを確かめた。指先にわずかな感触が伝わり、彼は満足そうに頷いた。
「これは金貨10枚出したよ。ドレイクの骨を削って加工したハープーンだってな。」
バズはぎくりとしてダオバのハープーンを見つめた。その指先が鋭い刃に沿ってそっと感触を確かめた。重さは予想よりも軽かったが、鋭い刃が放つ威圧感は相当なものだった。
「……このくらいのハープーンがなきゃ、トラグにはなれないってことか。金貨8枚……。金貨8枚……金貨8枚と、トラグ。」
トラグ。やがてやってくる大きな鮭たちを捕る祭り、ドゥク=ドゥク・ピオラノにおいて最大の鮭を仕留めた者に与えられる、名誉ある称号だった。漁師たちの間では最高の肩書きであり、腕前を認められた証だった。バズはしばし考えに沈んだようだったが、やがて再びハープーンを手に握り、ボウマを見やった。
ダオバはゆっくりと首を振りながら言った。
「お前には重すぎるぞ、バズ。辛うじて投げられたとしても、満足のいく距離は飛ばないだろうよ。だからこそ、軽くてバランスの良いこのバイダントを試してみるのはどうだ?」
彼は壁に掛かっていたバイダントを一本外して、手の甲の上に乗せてバランスを測った。長く細身の柄は片方の端で自然にバランスを保ち、鋭い二本の刃が光を照り返して柔らかな光沢を放っていた。
「軽く飛んでいって跳ね上がる鮭を当てるのも楽だし、大きなナマズだってこのくらいのバイダントで十分仕留められる。」
ダオバは慣れた手つきでバイダントをくるりと持ち替えながら、自信ありげな笑みを浮かべた。そうしてバズを見やりながら言った。
「だから、このトラグの名を持つダオバ様の言うことを聞けよ、バズ。」
「そうかな……。ところでダオバ、お前は今日どうしてここに来たんだ?」
バズは手に持っていたハープーンを下ろして腕を組み、ダオバを見やった。新しいハープーンへの迷いは、ひとまず棚上げにしたようだった。
ダオバは片手で顎を撫でながら、軽く笑った。
「ユラカンでも捕まえようかと思ってな。家にある網が大きすぎて難儀 するんだよ。もっと目の細かい網が必要でな。」
そう言いながら彼は店の奥を見渡し、大きな声で主人を呼んだ。
「ボウマ!ここに目の細かい網はあるか?」
まだ木箱からあれこれ道具を取り出して整理中のボウマへと、ダオバが声を張り上げた。
今日も読んでいただき、ありがとうございました




