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140話 惡食家

ラトゥール洞窟の奥深く、沈黙の通りは静寂に包まれていた。


深い闇が濃く垂れ込める中、洞窟の地下に隠された湖には、巨大な帆船が一艘、水面に浮かんでいた。水の音は小さく響き、船の索具(さくぐ)が岩に擦れる低い金属音が、時折寂しげに響き渡る。


長年動くことなく地下洞窟内の湖に停泊し続ける船の周囲には松明が灯されていたが、底知れぬ黒い湖の闇は、相変わらず寂寥(せきりょう)と静けさに満ちていた。


小さなランプの光が柔らかく照らす広い部屋の中には、重苦しい空気が漂っていた。部屋の中央には大きな丸テーブルが置かれ、片隅の扉の向こうからは、ちらちらと揺れる火の光とともに料理人たちの低い囁き声が漏れ聞こえてくる。


テーブルの周りには三人の人物が座り、食事を楽しんでいた。


部屋の主人が味に集中したいという意向により、洞窟の奥深くにある部屋だというのに、厚いカーテンが光を遮っており、薄暗いランプの灯りだけが室内を照らしていた。


丸テーブルは木製だったが、長年の風雪に耐えてきたように古びており、その上には独特の香りが染み込んださまざまな料理が並べられていた。


まず、グロイと他の二人から呼ばれる肥満(ひまん)の男が、テーブルに体を預けるように座っていた。


彼は異様に大きな体躯(たいく)をし、汗でてかてか光る肌を持ち、広い顔の中で小さな目が忙しなく動きながらテーブル上を眺めていた。


彼の前には大きな皿が置かれていた。皿を下ろした料理人が言った。


「『千の足』と呼ばれる一品でございます。」


赤いソースに絡められたムカデの脚が何層にも積み重なっていた。


通常の大きさをはるかに超えたムカデは、二、三節ずつに切られており、無数の脚がまだうごめいているような錯覚を起こさせる。


グロイはフォークで一節を刺し上げ、口に放り込んで噛み始めた。頰(ほお)が膨らみ、ムカデの胴体を砕くゴリゴリという音が響く。


「うむ……。この食感はいつ食べても……実に妙だな。」


グロイが口を開けながら言った。口の端に油がにじみ、彼は無造作に手の甲で口元を拭った。


「ふむ~、ムカデ料理はいつ食べても最高だ。こんな上物はここでしか手に入らんだろうな。」


グロイは手を伸ばし、フォークでさらに多くのムカデの節を刺しながら言った。


テーブルの反対側に座るもう一人の人物はアリナだった。


手足が長く瘦せた彼女は濃い灰色の服をまとい、厚い瞼の下には異常に大きな目が飛び出していた。


彼女は目の前の料理を見つめ、薄い微笑みを浮かべた。


彼女が見つめる皿の上には、透明な緑色のスライムゼリーと、黄色みがかったコカトリスの足の皮のフライ、そしてその上に猛毒(もうどく)グモの身を薄く削ぎ、毒液を混ぜたソースが滴り落ちていた。


「う~ふ~ん。これは本当に……素晴らしいわ。」


鼻歌のような感嘆の声を漏らしながら、目の前のスライムゼリーをスプーンですくい、言った。


ゼリーは透明で柔らかそうで、ほのかに光を放っているように見えた。


スプーンを口元に近づけ、ゼリーを口に入れた彼女はゆっくりと噛みながら、その微妙な食感と味わいを堪能した。


「やはり毒を使った料理はラトゥールが最高ね。素材からして違うもの。」


続けて彼女はコカトリスの足の皮のフライを一口かじり、揚げ物のサクサクと崩れる音を響かせた。


そして最後に座っている人物は、ミュイドックという名の、灰色の肌に深い皺が刻まれた老いた男だった。


額、鼻、頰にはいくつものいぼが浮き出て不快な印象を与えていたが、どこか敬虔(けいけん)な雰囲気を漂わせていた。


彼の服は黒く古びた布でできており、ところどころに白っぽい埃が付着していた。


ミュイドックは優雅さを感じさせるゆっくりとした動作で、ムカデの節をフォークで刺し上げ、ナイフで慎重に切り分けて口に運んだ。


「味は実に素晴らしい。良い料理人を抱えているな、アリナ。」


ミュイドックがゆっくりと言った。


「そうですか? いくつかは私が腕を振るったものもありますよ。


そういえば、次の集まりはミュイドック、あなたの番でしたわね? ふふ~、どんな料理を味わわせてくださるのかしら~?」


「ちょうど次の集まりのために、長く熟成(じゅくせい)させておいたアンデッド羊の骨髄(こつずい)がある。その味を披露してやろう。私が大変好んで食べる一品だ。」


グロイとアリナは互いに顔を見合わせて微笑み、アリナが顎に手を当てて低い声で言った。


「アンデッド羊の骨髄……興味深い料理ですこと。イクスターンまで遠路はるばる行く甲斐がありそうですね。楽しみにしてますわ、ミュイドック。」


「くふふふふ。臭いに耐えられるなら、アンデッド羊の内臓も一緒に用意しておいてやろう。」


部屋の雰囲気は薄暗く、静かだった。


三人は料理を味わいながら、静かな会話を続け、テーブルの上には次々とより異様な料理が運ばれてきた。


ムカデの殻をゴリゴリと噛む音。グシャグシャと揚げ物を食べる音、そして皿を掻くフォークとナイフの音が、部屋の静寂の中で響いていた。


この三人は皆、惡食家(あくじきか)(Malophagist)だった。


食事がかなり進んだ頃、部屋は奇妙な静けさの中で、それぞれが異様な料理を楽しむ音だけが聞こえていた。


千の足、スライムゼリー、コカトリスの足皮のフライ、コウモリの翼で作ったパイに野菜と肉を詰めて揚げた料理、小さなトカゲの頭だけを集めて他の具材と炒めた料理など、気味の悪い料理たちがテーブルを埋め尽くしていた。


グロイの重い息遣いが部屋の沈黙を破り、彼は大きなスプーンにトカゲの頭をいくつも載せて口の中に放り込み、噛み始めた。


そんなグロイの姿を見たアリナが微笑みながら口を開いた。


「グロイ、覚えてる? 前にラゴンの卵を食べるって強情を張った日のこと。」


「ああ、あの時のことか? ラゴンの卵……うへへ、思い出すだけで身震いするぜ。あの卵を飲み込んだ後、どれだけ苦労したことか……。」


グロイは口の中のトカゲの頭を噛みながら、ゆっくりと頷いた。


「あなたがその貴重な卵を一つ割った瞬間、部屋中があの凄まじい臭いでいっぱいになったの、覚えてるわ。あの時のあなたの青ざめた顔と表情ったら。」


グロイはアリナの言葉を聞きながらその場面を思い浮かべ、苦笑いを浮かべた。


「はあ……。あの時の臭いは本当にひどかったな。今でも鼻の奥に残ってる気がするぜ。それでも、あの味だけは忘れられねえよ。」


「でもまたあの味を味わうには、今は金だけじゃなく運も必要になるでしょうね。最近ラゴンの卵は値段も飛び抜けてるし、卵自体もなかなか見かけなくなったから。」


アリナが笑みを交えた口調で言いながら、自分の前のスライムゼリーをスプーンで掬い上げた。


「あの味……。」


グロイがごくりと大きく唾を飲み込んで答えた。


「またあの味を味わうためなら、金なんかじゃなく、俺の生涯の運全部を賭けたって構わねえよ。」


その時、二人の会話を聞いていたミュイドックがゆっくりとスプーンを置き、穏やかな微笑みを浮かべて言葉を添えた。


「ラゴンの卵か……。実に危険な食べ物だな。毒はないが、ラゴンの卵を食べた者の中には、原因不明で死ぬ者がいるからな。お前は運が良かったな、グロイ。」


「でもグロイなら、またラゴンの卵を食べるでしょう?」


アリナは頷きながら微笑んだ。


「世の中には想像もつかないほど奇怪な素材がたくさんあるわ。ラゴンの卵なんて、そのほんの一部に過ぎないもの。」


グロイは再びスプーンいっぱいに小さなトカゲの頭を炒めた料理を掬い、口に放り込んでから言った。


「そうだな。特にこういう希少な料理は、命を賭ける価値がある。」


「それじゃあ、今回の猛毒グモのソースはどうだった? このソースを味わう時、毒が血管を巡る感覚が、まるで体が新しく生まれ変わるような気分になるのよね。」


「どれ。話が出たついでに、もう一度味わってみるか?」


グロイはアリナの言葉に興味を示し、濃厚な猛毒グモのソースがかかったコカトリスの足皮のフライを手に取った。


「何度味わっても、結果はいつも大満足よ。それに私が直接作ったものなんだから。このラトゥールで毒料理なら、私が一番上手いんだから。」


会話は続き、食事はさらに盛り上がっていった。


三人がそれぞれの話を交わしながら料理を楽しんでいたその時、突然グロイの手が止まった。


彼の顔が歪み、口から小さなうめき声が漏れた。


「これは……なんだ?」


グロイが不安げな目で、自分が噛んでいた飴のような丸い物体を口の中から取り出し、指でつまんで掲げて見せた。


「グレアフロッグの目よ。何度も解毒処理してあるから安心して、グロイ。」


アリナが笑いながら、自分もグレアフロッグの目玉が入った料理をスプーン一杯口に運んだ。


アリナの言葉にもかかわらず、グロイはすぐに口に含んでいたものを床に吐き出した。


しかし彼の顔は次第に青ざめ、胸元の服を掴んで息を荒げ始めた。


「はあっ……はあぁっ……。解毒は確かだったのか?」


グロイがますます息を荒げながらアリナを見つめて尋ねた。


「さっき私も食べたじゃない。ちゃんと何度も解毒剤に浸しておいたんだから、心配しないで。」


そう言い終えたアリナが、舌を出しながらグレアフロッグの目玉をグロイに見せた。


「たまに、普通の解毒剤が効かない奴がいるのよ。」


ミュイドックがゆっくりと手に持ったフォークを置き、グロイを見つめながら言った。


「グレアフロッグの目は甘い味がするから、料理の素材としてはとても良いんだがな……。アリナは解毒をしっかりやったようだが……時々、今日のグロイが食べたように、解毒剤に浸けても毒が抜けきらない個体がいるんだ。」


「ううっ……。」


「だが心配するな。このために用意してある強力な解毒剤が、私にはある。」


ミュイドックは皺だらけの手を伸ばし、自分の鞄から不透明な小さな瓶を取り出してテーブルに置いた。


「これはとても特別な薬だ。ありとあらゆる毒を解毒できる。もちろん、代償(だいしょう)は伴うがな。」


「代償? 私が代わりに払いますわ。料理を用意したのは私なんだから。ミュイドック、何が欲しいの?」


アリナが眉を寄せながら、テーブルの上の瓶をじっと見つめた。


「代償? ああ……我々の間では、何事も代償を払わねばならん。」


ミュイドックはゆったりと笑いながら言葉を続けた。


「二人とも真の惡食家ならば、私の提案に快く応じてくれると信じている。この薬を渡す代わりに、我々三人は新しい素材を一緒に用意し、料理して共に食らうのだ。素材が何になるかは、まずグロイを助けてから話すとしよう。」


「俺が生き残れたら、その提案を受け入れるぜ、ミュイドック。」


グロイは息を荒げながら頷いた。


「あまり怖がる必要はない。お前の命は救ってやるからな、グロイ。」


ミュイドックはガラス瓶を開け、グロイの口に数滴垂らした。


しばらくすると、グロイの顔から青ざめが少しずつ消え、呼吸が再び整ってきた。


彼は目を閉じ、ゆったりと微笑みを浮かべた。


「今回は本当に危なかったな……。」


「で? 素材は何なの?」


アリナがミュイドックを見つめながら尋ねた。


「ふふふふ。聞いたら驚くだろう。どんな惡食家も足を踏み入れたことのない領域(りょういき)になるからな。」

ご拝読ありがとうございました

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