134話 ヴェス・ディナスの冬 (2)
歴史の記録には、戦争や国家間の外交、新しい魔法や魔石装置など大陸の歴史だけでなく、さまざまなテーマが網羅されている。
そして、そんな記録が集められているヴェス・ディナスのこの書庫には、最近グラベルが特に興味を持って目を通している記録書が一冊あった。
クルクートとエステタ王国の戦争記録を探していた際に発見したこの記録書には、大陸に存在するありとあらゆる遺物、聖物、呪文書、秘宝、古代の遺産に関する情報が記されていた。
異世界にはどのようなアイテムが存在するのだろうかと興味を抱きながら記録書を読み進め始めてからすでに数日が経ち、グラベルの足取りは毎日の繰り返しの日課の一つとして固まり、図書館に来るたびに必ず記録書庫へと向かうようになっていた。
「幽霊骨の指輪……傷がついても新品のように元に戻り、装着者の指のサイズに合わせて大きくなったり小さくなったりする指輪か……。歌を聞かせると時を遡って指輪の傷も消えるエルフたちの宝……。ヨーグのハープは、演奏者とハープの端にある彫刻された手が一緒に動いて演奏してくれる楽器なんだな。」
グラベルは書かれた文字の間の小さな挿絵を目でなぞった。
小さくても中に入れた物の時間を止めてくれるスターズの箱、毎日一カップの燃える油を口から流し出す不思議な獣の彫像、装着者が蒸し暑い夏の日でも汗を流さず、厳しい冬の寒さでも外套が必要なくなるという平穏の首飾り。
数多くの神秘的な能力と効果を持つ宝物の記録を読んでいたグラベルの目が大きく見開かれた。
繰り返されるヴェス・ディナスの日常を脱却させてくれる過去の遺産に関する記述が、グラベルの目に飛び込んできた。
「ネロディアの鏡。鏡の縁に飾られた玉を手で握り、鏡を覗き込むと、自分が最も望むものを映し出す。そして手に握った玉の中にある黄金色の針は、鏡の中に現れた対象が存在する場所を指し示す。玉は所有者が最も望むものがある場所へと導いてくれる……。」
机の上に広げられた記録書の文面をより詳しく見るため、グラベルは座っていた椅子から立ち上がり、ネロディアの鏡についての説明が書かれた文を指でなぞった。
震える指先を落ち着かせながら、グラベルはもう一度記録書の内容を読み下した。長い間探し求めていた空中莊園の位置がわかるかもしれないという期待に、グラベルの心臓が激しく鼓動し始めた。指先が震えた。
『アクイルンの迷宮4階の墓室で発見されたこの鏡は、迷宮探検家であるランベル、モコモ、マタによって発見されたもので、黒色の鋼鉄よりも硬いネロディアの鏡は傷一つなく埃さえも付着していない状態で発見されたという。最初に発見された当時、鏡の縁には24個の装飾玉のうち9個が落ちており、15個の玉飾りだけが残っていたそうだ。』
ページをめくりながら、グラベルの目に記録書に書かれた文字が鮮明に飛び込んできた。息を止めて文字を追うように目を動かした。
息を潜めた静寂の中で、グラベルの喉から唾を飲み込む音が響いた。
『その後、アクイルンの競売場でダムの巨商ベナールに売却された……。この鏡の力を借りれば空中莊園がどこにあるかわかる!』
今すぐ鏡の前に立ったとしても、ネロディアの鏡が映し出すのは空中莊園の姿だろうと、グラベルは確信できた。
それほど自分の心の中に常に居座っているのは、仲間たちが眠っているかもしれない空中莊園の位置だった。空中莊園へ行く鍵となるネロディアの鏡についての情報を手に入れたことで、グラベルは自分の目標に大きく近づいたという気分に囚われた。今この瞬間は、何ものとも代えがたい安堵感がグラベルの心を満たしていた。
『ダムの巨商ベナールだったな? ダムなら以前プロイクトンの南、さらに南にあるトルへ行き、それからラトゥール洞窟道を抜けて西へさらに進むとアクイルン、そしてそこからさらに西へ行けばダウィとムワの都市ダムだ……。』
懐から地図を取り出して広げたグラベルは、ヴェス・ディナスからダムまでの旅程を指先でなぞった。
「ふう……。かなり時間がかかりそうだな。」
再び椅子に体を預け、図書館の天井を見つめながらグラベルが長いため息をついた。
『計画をしっかり立てなければ。できれば一日でも早くダムに行きたいのに……。』
まだ冬が訪れてからそれほど時間が経っていないが、一日でも早くネロディアの鏡の前に立ちたかった。考えなければならない要素が多かった。そして冬の長い旅とはまた別の問題があった。
果たして鏡の主人が、自分の望み通りにすでに24個中9個を使ってしまって15個しか残っていない鏡の能力を貸してくれるかどうかも疑問だった。
最悪の場合、残りの15回の機会さえもこの世から消滅してしまい、ダムまでの遠い道を歩いたことがすべて無駄になる可能性もあった。
沼に沈むように不吉な考えばかりが浮かんだが、逆に考えればベナールという巨商が快く適当な金額や対価を支払わせて鏡を使わせてくれるかもしれないし、プロイクトンまでは慣れた道なので思ったより厳しい旅ではないかもしれないと思った。
「『立ち寄らなければならない都市が……。ラチャ・ワリア、バラ・グラス……プロイクトン。村……都市……待て!』そうだ! 次元転移門! ポータルがあったじゃないか! なぜそれを思いつかなかったんだ?」
グランド・ワールド・オンラインではポータル魔法を唱えるには、一度でもその村を訪れたことがあるという制約があったが、その制約以外は距離に応じたマナさえ十分なら大陸の果てから別の果てまでポータルを開いて移動できるのだった。6ヶ月、1年かかる道のりも、ほんの数歩ポータルに向かって踏み出せば行けるようにしてくれる魔法だ。
グラベルは異世界に来てから空中莊園を探し回っていた。マナを広げて広い範囲を認知し空を飛んで回っていても、頭の中の地図で一度行った場所は『空中莊園のない場所』として認識され、常に新しい場所を訪れて空中莊園を探し出さなければならないという考えが支配的だった。村に戻る方法を探す時間はほとんどなく、今になってようやくポータルという魔法の門を作り出せるという事実に気づいたのだった。
『言い訳をするなら、これまでヴェス・ディナスまで来る間に戻る理由はなかったし……。残念なのは最近リアント村に行く時にスレロムは二度目の訪問だったから、あの時にポータルを使っていたら……。いや、戻る時でも……。』
過ぎ去った時間がより惜しく感じられた。しかしすでに過ぎた時間を戻すことはできず、適当な距離は人々の目を避けて空を飛んでいたので時間の損失は大きく感じられなかった。
グラベルは急ぎ足でヴェス・ディナスの図書館を抜け出し、街の外れの方へ向かって走り出した。一刻も早く、ポータル呪文の実現可能性を確認したかった。
そんな気持ちがグラベルの足取りをさらに急がせた。
*****
しばらく後、グラベルは静かな森の真ん中に立っていた。
「それでは……やってみよう、ふううう……。」
呼吸をゆっくりと吐き出しながら、グラベルは精神を集中し始めた。穏やかに自分の魔法を唱えようとする心で吐く息と同時に目を閉じた。
森の木の葉は風に揺れ、時折聞こえる鳥たちの声が穏やかな雰囲気を生み出していた。グラベルは内面の静けさと共鳴する森の空気を吸い込み、つい先日訪れた小さな村の様子を思い浮かべた。
幽霊蜘蛛の森近郊に位置する小さな村。近くの丘の上から見下ろすと村の様子が一目でわかる小さな村の風景が浮かんだ。
暖かい日差しが照る村の小さな広場。赤い屋根の小さな家々、そして通りを囲む石垣……。グラベルはその場所で感じたマナの気配を思い浮かべた。
異世界で目覚めてから今になってようやく気づいた変化。遅ればせながら気づいたグラベルの頭に刻まれた知識。魔法使いとしてグラベルはポータル呪文を唱える際に特別な能力を持っていた。
彼が訪れた場所は単なる記憶以上のものとして彼に残っていた。一度でもグラベルが滞在した場所には、彼が感知できる独特のマナが宿っていた。
そのマナはその場所だけの固有の響きを持っていた。そしてその場所たちは単に視覚的な情報ではなく、グラベルの精神に刻まれた魔法的な波動として存在していた。
そしてその刻まれた情報は、唱える者と場所の間のつながりを意味していた。
グラベルは自分がその村で感じた魔法的な波動を思い浮かべながら集中した。心の中で再構築した村の見下ろす丘の風景を、そしてそことつながるマナの糸を具現化して呼び起こした。そして細いマナの流れがグラベルの指先から感じられた。
『確かにゲームとは違う……。』
グラベルの指先から青く光るマナの糸が現れた。その糸はグラベルの精神と目標とする村近くの場所を結ぶ通路を開くための魔法的な道具だった。
グラベルはゆっくりと指を動かしながら空中に魔法陣を描き始めた。通常の魔法陣とは異なる、円や幾何学的な形からなる魔法陣ではなく、固有のマナの波動を視覚化したものであり、その波動が魔法陣の形と文様を決定していた。
グラベルが指で具現化した魔法陣を仕上げて魔法陣が完成すると、自分が思い浮かべた場所のマナがより強く感じられた。そして集中のために固く閉じていた口を開き、呪文を唱えて魔法陣を活性化した。
「Porta ad locum meae memoriae patere. (私の記憶の場所へと通じる門よ、開け)」
そしてその瞬間、グラベルの前にポータルが開いた。
6キュビット(3m)サイズの巨大な楕円形のポータルが神秘的な宇宙の色で輝いている。
濃い黒色の背景の上に紫色、緑色、赤色、青色などさまざまな光が絡み合って光を放っていた。
そうして明るい光を放つポータルへ一歩を踏み出し光を見つめながら、グラベルは自分の魔法が成功したことを直感し、口元に微笑みを浮かべた。
『では、行ってみよう。』
グラベルはゆっくりとポータルの中へ歩み入った。ポータルの中は時間が止まった空間のように感じられた。周囲は静かでグラベルの足音は何の音も立てなかった。虚無を歩くような感覚だった。数歩先にはグラベルに向かって近づいてきた細いマナの糸がグラベルを出迎えるように導くように引いていた。
しばらく後、グラベルはポータルの向こう側に到達した。ポータルを抜け出して瞬く閃光に一瞬目を閉じていた目を覚ました時、彼は自分が村の見下ろす丘の上に立っていることを確信した。
丘の下にはポータルを唱える前にグラベルが視覚化した通りの村の様子が広がっていた。赤い屋根の家々、石垣、そして小さな広場が彼の目に映った。
村は去った時と同じく平和そうに見えた。
「ははは! 成功だ! なぜ今になってこれを思いついたんだ! これからは移動がずっと楽になる!」
グラベルは深い満足感を覚えた。息を吐くと白い息が短く散った。
彼は自分が遠い距離を瞬時に移動したことを実感し、喜んだ。これでグラベルはポータル魔法を使って自由にさまざまな場所を移動できるようになった。
「ポータルを唱えてプロイクトンまで移動すれば、たくさんの時間を節約できるな!」
喜びのこもった軽い足取りで丘の下へ歩き下りながら村へと向かった。
グラベルは今、新しい旅の準備を始めていた。ネロディアの鏡を所有するダムの巨商ベナールに会いに行くには、プロイクトンを経由してスモレン男爵領のトルへ行き、トルから西へラトゥール洞窟道を通って迷宮都市アクイルンへ行き、さらに西へ進んでダウィとムワの都市ダムへ行かなければならない。
グラベルはこれからの旅路で出会う新しい場所たちを期待しながら、空中莊園へと自分を導いてくれるネロディアの鏡を手に入れるためにあらゆる手段を動員することを誓った。
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