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124話 グランドトーナメント (23)

―カァンッ!―


鈍い轟音(ごうおん)と共に、レーベンとサリンがティルトの向こう側で互いにすれ違った。


馬上の二人の騎士はわずかに体を揺らしたが、すぐに体勢を立て直し、兜のバイザーを上げて互いに敬意を込めた挨拶を、手で送り合った。


二人は再び自分の紋章(もんしょう)が掲げられた位置に戻り、ランスの先端に付いたライヒ装飾を付け替えた。


そして続く二度目の激突。


アリーナの中央で二本のランスの先端がぶつかり合い、周囲に折れたランスの破片が舞い散った。


その中でも大きめの破片が観客席に向かって飛んできたが、アリーナを囲む壁に設置された魔石装置(ませきそうち)にぶつかってそれ以上進むことはなく、跳ね返されて再び競技場中央の砂の上に落ちた。


三度目の激突。


鷹の騎士は青い地に金色の獅子が描かれたランスを高く掲げた。アヤメの騎士は地色を塗っていないが、紫のアヤメが描かれたランスを手に取り、相手の鷹の騎士に向かってレスカと共に駆け出した。


アヤメの描かれた槍が折れ、再びいくつもの破片が、二人の騎士が駆ける舞台を華やかに彩るように舞った。


鷹の騎士が大きく体を揺らして馬上から落ちかけた瞬間、観客たちの動揺する声が競技場内に響き渡った。


そして北側の観客席では、ラタクが席を立って叫んだ大声に、リズトン男爵が驚く姿も見えた。


幸いサリンは握った拳を片手で高く掲げ、自分が無事であることを観客たちに知らせた。


そして試合は四度目の激突へと続いた。


レーベンとサリンが互いに向かってランスの先を向け、駆け出す。二人が乗る馬の荒い息遣いが聞こえてきた。


競技場内に響く金属の衝突音。


ほぼ同時に相手の盾に命中したランスが折れる音が響いた。


アリーナの床に落ちるレーベンの盾。サリンのランスを方向転換してかわそうとしたが、レーベンのその策は失敗に終わった。


自分の攻撃を真正面から盾で受け止め、ランスを力強く突き出したサリンの堅実な攻めが、レーベンの熟練(じゅくれん)を上回ったのだ。


競技場の両端には、馬上槍競技の進行を助ける者が一人ずつ立っていた。通常は出場騎士のスクワイアたちが、折れたランスの代わりに新しいランスを持ってきて渡したり、馬の汗を乾いた布で拭いたり、盾がへこめばそれを直して一時的に使えるようにしてくれたりする。今日はリブとケインがレーベンとサリンのスクワイア役を自ら買って出て、その役割を果たしていた。


リブがアリーナの床に落ちたレーベンの盾を拾い上げ、レスカの上で息を整えているレーベンに向かって差し出した。


「幸い大きくへこんではいません。どうぞ……。」


「はぁ……はっ。拾ってきてくれたのはありがたいが……持てそうにないな、リブ。」


レーベンの兜の中から荒く吐かれる息が、リブの耳に届いた。そして彼の目に映ったのは、レーベンの肩に突き刺さった、赤く血に染まったランスの破片だった。


力なく垂れ下がったレーベンの左腕を伝って、血の滴が流れ落ちていた。


―ヒィヒィン! プルル……プルルルルッ―


「大丈夫だ、レスカ。大した傷じゃない。」


レスカの首筋を撫でて落ち着かせたレーベンは、リブに持たせたランスを受け取った後、肩に刺さった破片を自ら引き抜いた。


「うっ……! リブ。血を拭く布が必要だな。それを渡してくれ。」


レーベンは血に染まったランスの破片を床に落としながら、レスカの汗を拭くために白い布を持っていたリブに言った。


「あっ! はい!! でも大丈夫ですか? 傷が……。」


「はははっ! たいしたことないさ。馬上槍競技ではよくある怪我だ。あまり心配するな。」


リブから受け取った布を肩に当てると、白い布が徐々に赤く染まっていった。


しばらく目を閉じて呼吸を整えるレーベンの姿を、リブは心配そうな目で見守っていた。


「じゃあ行ってくる。ランスを渡してくれ!」


長い息を吐き出したレーベンが目を開けた。肩に当てていた布を再びリブに渡し、リブが持ってきたランスを受け取って、レスカと共に前へ駆け出す準備をした。


「さぁーっ! これより五度目の激突です! 女神アウェン様は、果たしてどちらの騎士に祝福をお与えになるでしょうか! 皆さま、どうぞご注目ください!」


進行者が左と右を忙しく見回しながら、アリーナの両端にいる二人の騎士が準備を終えたかを確認し、声を張り上げて叫んだ。その声は五度目の激突まで大きく叫び続けたせいか、末尾が掠れて、手に持った魔道具に向かって精一杯声を絞り出しているようだった。


緊張を高める太鼓の音が、観客たちの歓声と混じり合って響いた。そして観客たちの胸を震わせるほどの巨大な角笛の音を最後に、互いに向かって疾走する二人の騎士が乗る馬の(ひずめ)の音が聞こえてきた。





*****


五度目の激突が始まる前、観客席では――


「どうなると思う?」


競技場南側の広い観客席に座るディアロが、四度目の激突を終えたアヤメの騎士と鷹の騎士を見ながら、隣に座るドランザに尋ねた。


「鷹の騎士……かな? 今までの馬上での堅実さは、あっちの方が上みたいだからね。」


「そうかな? アヤメの騎士もかなり熟練した実力だったのに……。放浪騎士だなんて信じがたい腕前だったよ。」


「えっ? 今のその発言! 大陸中に散らばって忠義を尽くす主を探している放浪騎士たちを馬鹿にする発言じゃないですか~? ディアート家は放浪騎士たちの非難を覚悟してるんですか?」


ドランザがからかうような口調でディアロに言った。


「そういう意味じゃないよ。馬上槍競技に備えてちゃんと練習もできない放浪騎士だなんて信じられない、って意味だったんだ。」


「あ? あぁ……そっか。僕も分かってたよ! 冗談だよ冗談、はははは。」


ドランザのからかい混じりの非難をあっさり受け流しながら、ディアロは五度目の激突の準備をするアリーナの方へ視線を移した。


「ふむ……。やっぱりアヤメの騎士の方が辛いかも……。」


「どうして? 何かあったの? あ……。」


ディアロの言葉に反応してアリーナの両端にいる二人の騎士の様子を眺めていたドランザの視線が、アヤメの紋章が描かれた側で止まった。


「ランスの破片だ。ランスが折れる瞬間に飛んでくる破片を避けるのは難しいから……。」


「えっ! 抜いたよ。かなり大きな破片だったね。盾も持ち上げられないくらいの傷か?」


破片を引き抜き、白い布を肩に当てているレーベンの姿をもっと詳しく見ようと、ドランザが席から立ち上がりながら言った。


やがて五度目の激突の開始を告げる進行者の声が聞こえてきた。


「二人とも頑張れーっ!」


どこからかレーベンとサリン、両騎士への応援の声が響いた。ニアの声だった。





*****


ドワーフ王国の兵士たちが、馬術に長けたキルビアの騎馬兵を称賛して生まれた言葉がある。


人馬一体(じんばいったい)。人が馬と一つになって、互いの動きが連動することを言う。騎手の意図通りに馬が動くレベルを超えて、どちらの方向へ動くべきか、互いの意思を先に察知し、馬の視線を向けるべきところ、跳び上がるべき時、尻尾を振ることさえも騎手の意図通りに動いてくれる――それがドワーフたちが語る騎馬術の極致(きょくち)だ。


その騎馬術の極致が、大陸西のエステタ王国の都市、ヴェス・ディナスの競技場で今まさに実現しようとしていた。


「今回だけだ……。どうか今回だけ……。」


ティルトの向こう、遠くでランスを構えながら近づいてくるサリンの姿を、兜の狭いバイザー越しの視界にしっかりと固定したまま、レーベンは独りつぶやいた。


肩の痛みなど忘れ、自分が乗っているレスカの踏み出す足の動き一つ一つが感じ取れるほど、レーベンは集中していた。


肩の傷のせいか、それとも普段の試合とは違い五度もレスカの上に乗りランスを構えたせいか。いつもより手に持つランスがひどく重く感じられた。


レーベンは自分に問いかける。


『この馬上槍競技で、目の前にいるオリド子爵様に勝利という栄光をもたらす才能が、俺にあるのか?』


自分に投げかけた問いに、レーベンは答えられなかった。これまで放浪騎士として長い時間を過ごしてきたが、自分に才能があると思ったことは一度もない。ただ、長年磨き続けた努力と、降りかかる試練に折れまいとする意志だけが、他者が持つ才能に対抗する自分の武器だと、ずっと考えてきた。


『たった一度だけだ。今までで一番切実な今、目覚めてくれ。もし俺の中に磨き続けた努力の奥に、隠れた才能があるのなら、目覚めてくれ!』


―プルル……プルルルルッ―


レスカの荒い息遣いがレーベンの耳に届いた。そしていつの間にかさらに近づいてきたサリンの姿が見えた。


長いランスの先端が、互いが狙う標的へ向かってどんどん近づいていく。


跳躍。障害物を越えるために高く跳ぶのとは違う動きで、レスカが四肢で強く地面を蹴った。


高さよりも前へ向けた跳躍だった。背中に乗るレーベンが持つランスの先端を、ほんの少しでも早く届かせるためのレスカの機知(きち)。そしてそのレスカの意志を正確に受け止めたレーベンが、的確なタイミングで右肩をひねりながら突き出したランスが、サリンの盾の端をかすめ、彼の鎧に突き刺さった。


―コワザッ!―


ランスが折れる音と共に破片が舞い散り、レーベンの目の前には、バランスを崩して馬上から落ちていくサリンの姿があった。


雷鳴のような歓声が競技場内を揺るがした。


拍手喝采(はくしゅかっさい)が、アリーナの上に降り注ぐ白と赤の花びらと共に、雨のように降り注いだ。


頭上から降り注ぐ花びらの豪雨を浴びながら兜を脱いだレーベンは、手綱を引いて後ろを振り返った。


競技場には、レーベンの勝利を告げ、称賛を送る進行者の声が響いていた。


「ふう……。幸い怪我はないようだな。」


レーベンの視界には、席から立ち上がり兜を脱いでこちらに向かって手を振るサリンの姿があった。


安堵(あんど)の息を吐いた後、レーベンはレスカから降りてサリンに向かって歩み寄った。


「大丈夫ですか? オリド子爵様?」


「痛いね。」


「え? 怪我でもされたんですか?」


「傷はないが、全身がずきずきするよ。」


拍手と観客たちの声があまりに大きかったため、二人の騎士の声は互いに届かず、口の動きを大きく見せ合いながら会話を続けた。


「おめでとう。」


「ありがとうございます。運が良かっただけです。」


「まずは肩の傷を治療してくれ。俺はこの場に集まった皆に、言いたいことがあるからね。」


レーベンに祝いの言葉をかけた後、サリンは首に力を入れて試合の結果を叫び続けている進行者に向かって歩み寄り、片手を差し出して、進行者が手に持つ魔道具を渡してほしいという手振りを見せた。


競技場を埋め尽くしていた歓声が徐々に収まり、全ての視線が鷹の騎士へと集まった。


「先ほどアヤメの紋章の騎士に敗れた、鷹の紋章の騎士です。」


サリンの声が競技場内の魔道具から響くと、観客席から聞こえていた歓声が少しずつ小さくなっていった。


「試合はよく見ていただけましたか? 皆さんの表情を見ると、このサリン・オリドの敗北を惜しんでくださっている顔も見えて、ほっとしました。」


競技場内の様々な観客の顔を見回しながら、サリンは朗らかな表情で笑って言った。


観客席には、試合の結果を見に来た多くの騎士たちの姿があった。


銀色の甲冑に金色の装飾を施した騎士、盾に獅子の紋章が描かれた騎士、兜に華やかな羽飾りを付けた騎士の姿も見える。


別の騎士は赤い甲冑を身にまとい、その旗には炎の形をした紋様が鮮やかに描かれていた。


女騎士も何人か見えた。彼女たちは優雅でありながらも力強い姿で甲冑をまとい、それぞれの特別な紋章を誇らしげに周囲に示していた。


観客席からはサリンを慰める声も、惜しまれる試合の結果に悔しがる声も聞こえてきた。

手に汗握る、馬上槍試合のクライマックス!

負傷한 レーベンが辿り着いた『人馬一体』の境地、そして敗北をも気高く受け入れるサリンの姿――。

アリーナに響き渡る歓声と、二人の熱き騎士道精神을どうぞお楽しみください!

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