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123話 グランドトーナメント (22)

―ゴォォォン!―


地面を叩きつけ、岩が砕ける音と共に、トールマンの巨体が陥没した地面の下へ、埃の霧を巻き上げながら消えていった。


「フゥゥゥン!」


トールマンの攻撃をかわして後退していたグラベルに向かって、次の攻撃が容赦なく迫った。


グラベルの身長の倍以上もあるはずの巨体とは思えない迅捷(しんしょう)さで敵に迫るその動きには、これまで出会ったことのない強者への闘志、トロールの頂点に君臨する王としての矜持(きんじ)、そして大陸随一の暗殺者としての誇りが、燃えるように込められていた。


『お? さっき何度か、私のマナ・コンボルブに触れたような……?』


普段より遥かに多くのマナを放出して高密度に圧縮するマナ・ブルワークではなかったが、常にグラベルの全身を鎧のように覆っているマナの防御膜にトールマンの剣が触れた瞬間、グラベルはわずかに目を細めて驚きの色を浮かべ、舞い上がる埃と、逸れた剣撃で(えぐ)れた地面から飛び散る石片を軽くかわした。


『まずは少し距離を取って……トールマンの動きを鈍らせてみようか。』


「ウグゥゥゥゥゥゥ!!」


咆哮を上げて迫り来るトールマンに向かって、体を低く沈めて踏み込み、グラベルの掌から強烈な衝撃波が轟音を立てて炸裂した。


マナの脈を通じて回転させ、増幅したマナを掌に凝縮して放っただけだったが、その威力はグラベル自身も、遠くに吹き飛ばされたトールマンの姿と自分の掌を交互に見つめて、思わず息を呑むほどだった。


『ランス・オブ・フロスト!(Hasta Frigoris)』


トールマンに向かって、白く凍てつく息を纏った鋭い冷気の槍が一直線に飛んだ。


―ザザザザザッ!―


再び立ち上がり、グラベルに突進しようとしたトールマンの足元に達した氷の槍は、瞬時に彼の脚を凍りつかせ、周囲に細かな氷片を散らした。


『(今なら長文詠唱(ちょうぶんえいしょう)魔法を唱えられる……!)萬有(ばんゆう)を焼き尽くし、灰燼(かいじん)に帰せ!』


トールマンの脚を固く封じた冷気の結晶を確認したグラベルが、両手を地面に向かって大きく広げ、巨大な魔法陣を展開した。


長文詠唱(extended incantation)。呪文の始動音を唱えるだけのものとは異なり、魔法陣の構成と、その内部を魔力で満たす過程を、声にマナを乗せて魔法を行使することが呪文詠唱である。


必要な魔力量と詠唱の長さによって短文と長文に分けられ、さらに発動形式・詠唱の呼応方式・魔法陣の配置によって細かく分類される。


通常魔法とは違い、同じ魔力量でも装備や道具を通じた注入量より、声に込めるマナ量が圧倒的に多いため、詠唱魔法は発動が速く、描ける魔法陣の規模も格段に大きい。


グラベルが地面に描き出した真紅の巨大魔法陣が、眩い光を放ち始めた。


「すべてのものを灰色の灰(はいいろのはい)に変えよ……。」


―ガキッ!―


グラベルを阻もうとトールマンが動いた。両手に握った武器を振り下ろし、脚を覆っていた氷を粉砕し、最初の数歩を重く踏みしめながらグラベルへと迫った。


「お前の魔法を……止めてみせるぞ、グラベル!」


冷え固まった脚を無理に踏み出し、トールマンが加速しようとした、まさにその瞬間。


「背火の前歯!」


グラベルの声が、周囲の空気を激しく震わせるほどの巨大な魔力を帯びて響き渡った。その瞬間、グラベルの前方遠くに、夜空を赤く染める四本の炎の柱が噴き上がった。そして空を指し示すグラベルの指先から、もう一組の炎の柱が虚空に生まれ落ちてきた。


グラベルに向かって突進しようとしていたトールマンの足が、思わず止まるほどの凄まじい熱波が、空へ伸びる炎の柱と、地面へ降り注ぐ獣の牙のような炎の柱から、一気に放射された。


「新緑を焼き砕く飛火龍(ひかりゅう)の奥歯!」


続くグラベルの詠唱。炎の障壁に阻まれて、ぼんやりとしか姿を捉えられなかったトールマンが横へ回り込もうとしたその歩みを、完全に封じたのは、グラベルの周囲を包み込むように立ち上がった炎の壁だった。


「噛みつき奪う焔帝(えんてい)の牙!」


虚空に二つ、地面に二つ――鋭い野獣の牙のように生まれた炎の牙が、強烈な輝きを放ち、トールマンの腕と額を伝う汗さえ一瞬で蒸発させるほどの灼熱を撒き散らした。


「荒ぶる炎を放て、焔化の君主よ。炎を操るすべての王たちの主よ!」


詠唱を続けるグラベルの瞳は、周囲の炎の光を反射して、深く赤く輝いていた。


その瞬間。


血を煮えたぎらせるような熱気に、思わず後退せざるを得なかったトールマンの視界に映ったのは――炎で構成された、圧倒的なまでの巨大な火竜の姿だった。


炎の中心に立つグラベルが、ぼんやりとした小さな点のようにしか見えないほどの雄大な火竜が、赤く燃え上がり、周囲を睥睨(へいげい)していた。固く閉ざされたその口は、いつでも大きく開き、敵に向かって強烈な炎の息吹を吐き出す準備を整えていた。


「大地と天空のすべてのものを、灰に変えよ!」


グラベルの詠唱が終わると同時に、遠くに立つトールマンに向かって、火竜の口がゆっくりと開いた。


最後の節。大地と空のすべてを焼き尽くす火竜のブレスが具現化した、灼熱の炎がトールマンに向かって奔流(ほんりゅう)のように広がった。その間に存在するすべてのものを飲み込み、焼き払いながら。


最初に炎に呑み込まれたのは、島の木々だった。青々とした葉も、太く逞しい幹も、瞬時に炎に包まれ、激しく燃え上がった。樹皮が裂け、中の樹液が沸騰する音が響き、赤い炎に触れた木々はあっという間に灰となり、風に散っていった。


炎はさらに島の草原を覆った。鬱蒼(うっそう)と生い茂っていた草は、火竜のブレスに抗うことすらできず、たちまち黒く焦げ、風が吹くたびに灰となって飛び散った。草が焼ける独特の匂いが鼻を突き、残ったのはただの灰の海だけだった。


火竜のブレスが岩に触れると、固い岩さえ溶け出し始めた。表面がひび割れ、中から熱い溶岩が溢れ出すように岩が崩れ落ち、赤く輝く溶岩の塊へと変わっていった。溶けた岩はゆっくりと流れ、島の地形そのものを変貌させ始めた。


敵に向かって突進しながら、触れるものすべてを消滅させる超高温の炎が、トールマンを通り過ぎていった。


「ふううう……。」


一言も発することなく、肉片一つ残さず灰の山と化したトールマンを眺め、グラベルは長く息を吐いた。


「いつかエルドに会ったら、この島をまた修復しなくちゃ……。」


グラベルの仲間NPCのうち、荘園内の小さな森に住む、全身に魔法陣を刻んだ橙色の髪のドルイドの姿を思い浮かべながら、彼は独り、小さく呟いた。


やがて、グラベルが召喚した火竜の姿が消え去り、目の前に広がるのは、魔法の途方もない威力が生み出した惨状だった。火竜の炎が通り過ぎた跡地に残ったのは、黒い灰と焦げた残骸だけ。


草も木もすべて灰となり、岩さえ溶け落ちて島の輪郭そのものが変わってしまった光景は、グラベルが想像していた以上に壮絶で、これまでの修練が確かな成果を上げていたことを、改めて実感させた。


「あの屋敷に召喚しておいたウンブラ・ビーストにも何事もないようだし……。任された仕事は、ちゃんと果たせたってことか。」


口元にわずかな微笑みを浮かべ、自分が放った魔法の威力を改めて確かめるように島の様子を一瞥したグラベルは、再び地面に向かって魔法陣を展開した。


「まずはオリド子爵の屋敷に戻ろう。」





<グランドトーナメントのフィナーレ>



トールマンが北の海の小さな無人島でグラベルに焼き尽くされ、灰の山となった日の翌朝。


早朝からサリンが滞在する屋敷は、昨日とは一変して、重装甲の騎士たちと青いローブをまとった魔法使いたちが、正門や屋敷の入り口だけでなく、周囲の通りまでびっしりと配置されていた。


トールマンという暗殺者を討ち果たしたというグラベルの報告を受けたラタクが、王弟ディリタ・ドラスラットをさらなる脅威から守るため、動員可能なすべての騎士と魔法使いを配置した上で、大公の代理として自領を訪れたディリタへの、若干遅めの歓迎の挨拶も兼ねての訪問だった。


二人の会話は、正体を隠してヴェス・ディナスに来ていたディリタの謝罪から始まった。そして状況の説明を聞きながら、護衛を付けてくれたことへの感謝の言葉も、ラタクにしっかりと伝えた。


その後の話題は、王国の辺境の自爵であるサリン・オリドとして、今日の馬上槍大会の最後の試合を終えてから帰りたいというディリタの強い意志と、それを止めようとするラタクの説得で、互いに一歩も引かぬまま長く続いた。


しかしラタクの説得は失敗に終わった。ディリタは、自分の予定を変更する気はないと言い、馬上槍大会には王弟ディリタ・ドラスラットではなく、一人の騎士として参加し、その結末を自分で締めくくりたいと頑なに主張した。


王家を支える貴族の一員として、屋敷に配置した護衛をそのまま残すという条件で、二人の会話は決着した。そしてラタクはディリタにオリド子爵の勝利を祈ると言いながら、テーブルから取り出した獅子を象ったライヒ・ランスの装飾品を彼に手渡し、屋敷を後にした。





*****


熱い太陽が中天に昇り、昼の訪れを強く予感させる。


ヴェス・ディナスに建てられた三つの馬上槍競技場の中でも、繁栄の女神アウェンに捧げられた最も大きく華やかな競技場の周囲は、活気にあふれる人々で埋め尽くされていた。


アヤメの騎士と鷹の騎士が飾るグランドトーナメントの最終戦――馬上槍試合を見るために集まった大勢の観客と、彼らに試合前に喉を潤す飲み物や、手軽に食べられる串焼き肉を売る商人たちの姿があちこちに見えた。


白い大理石で彩られた競技場内は、午後の強い日差しが照りつけているにもかかわらず、通路を吹き抜ける涼しい風が心地よく、観客たちに快適な観戦環境を提供していた。


客席はすでに人で溢れていた。両手に食べ物を抱えて席に着く食欲旺盛な観客もいれば、「今回のトーナメントで見た強者たちの試合は全部見たけど、今日の決勝は絶対に鷹の騎士が勝つよ」と隣の客に熱く語る者もいた。


競技場のティルトがよく見える北側と南側の特別席には、女神アウェンを模した彫像と深い緑の装飾布が掛けられ、高位の貴族たちのために用意された広々とした大理石の席が並んでいた。その近くでは、ふかふかのクッションと木製の入場札を手に、自分の席を確認する観客たちの姿が目立っていた。


競技場北側の貴賓席に座るラタク・バナスは、隣に立つ使用人が差し出す大きな日除けパラソルの下でも、わずかに眉を寄せて中央のアリーナをじっと見つめていた。


隣席のリズトン男爵が、冗談めかして「もう少し軽いグリフォン羽のパラソルに替えてはいかがですか? 使用人の腕が細くなってしまいますが」と声をかけ、ラタクの不安を和らげようとしていた。


やがて、試合開始を告げるラッパの音が響き渡り、競技場の壁に設置された大型リュートの優雅な旋律が流れ始めた。続いて角笛とオカリナの協奏が加わり、観客席に華やかな音楽が広がる。


しばらく楽器の音に耳を傾けた後、声を増幅する魔道具を手にした、派手な衣装の進行者がアリーナ中央に姿を現した。


競技場全体に大きく響き渡る、レーベンとサリンの名前。


アリーナの両端には、レーベンのアヤメの紋章とサリンの鷹の紋章が描かれた木の盾と旗が掲げられていた。


進行者の紹介を受け、白馬に跨ったサリンが堂々と現れ、続いてレーベンもレスカと共にアリーナに姿を見せ、観客席に向かって手を振って挨拶した。


大きな歓声が上がる。


そして、複数の太鼓を連打するような馬の疾走音が響き渡った後、二人の騎士のランスが、互いの盾に向かって構えられた。

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