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122話 グランドトーナメント (21)

トールマンが姿勢を変え始めた。地面に着いていた左手を離し、猫背に(かが)めていた腰を伸ばし、腰の辺りから取り出した五本の刃が爪のように付いたガントレットを左手に装着した。


「( クロー・ガントレットと幅広の剣の組み合わせか……。 ) 対峙する敵からの称賛ではあるが、嬉しいものだ。しかし、わずか数回の攻撃をかわし、一度の攻撃を防いだだけの私を評価するのは……あまりにも早計(そうけい)というものではありませんか!」


グラベルの広げた左手から魔法陣(まほうじん)が展開され、すぐ下の地面に向かって手を伸ばした。


『ウンブラ・ビースト』


グラベルが召喚した黒い影の召喚獣(しょうかんじゅう)がその姿を現した。鎧のような黒い鱗に覆われた長く強靭な体躯(たいく)と長い尾。そして強力な顎と無数の鋭い牙が長い(ふん)を包む、ワニに似た召喚獣だった。


「魔法……。ウェイ・オブ・マナ。魔法では。俺を倒すことはできない。」


左手の五本の刃を前に突き出し、トールマンがグラベルに向かって駆け出そうとしたその瞬間だった。


『(屋敷の周囲を守れ、ウンブラ・ビースト。)場所を移して続けましょう、トールマン。』


グラベルの言葉と同時に、トールマンの足元に青い魔法陣が現れた。そして一瞬光を放ち、霧散(むさん)するように消えた魔法陣と共に、トールマンの姿もグラベルの前から消え去った。





*****


波が砕け、白い飛沫(しぶき)を上げる音が聞こえる。海の塩気をたっぷり含んだ空気が鼻先を刺激し、冷たい風が耳元を(かす)めて過ぎていった。


遠くには、ゴツゴツした岩と緑の植物に覆われた小さな岩山がそびえ、その上で二つの月が互いに向き合うグラベルとトールマンを照らしていた。


「魔法で。場所を移したのか?」


体を翻して周囲を見回したトールマンが、再びグラベルに向かって攻撃の構えを取りながら言った。


「ええ。静かな街の真ん中で大きな音を立てたくはなかったので。北の海の遠くにある無人島です。ここなら、ぐっすり眠っている人々を起こす心配なく、あなたを相手にできますから。」


初めて屋敷の庭でトールマンと対峙した瞬間、マナを修練する中で身についた癖で、グラベルはトールマンから溢れ出るマナを感じ取り、分析しようとした。そしてグラベルの目に映ったのは、静かな闇の中で揺らめく落ち着いたマナの動きだった。


まるで獲物を狙う野獣から感じたマナと同質のものだった。しかしそれは荒々しい生のマナではなく、数多の戦いを経て鍛え上げられたマナだった。だからこそ今、グラベルの目には、本質は依然として荒々しいながら、外見上は微塵の揺らぎもない、高度に練磨(れんま)されたマナの流れとして映っていた。


トールマンのマナを見たグラベルは、並の相手ではないと判断した。トールマンと戦うには今の場所が相応しくないように感じ、周囲を気にせず互いを真正面から対峙できる、この海の真ん中の島へと場所を移したのだった。


「なるほど。だが、誤算だぞ。グラベル。」


トールマンが片腕を上げ、顔の近くに持っていき、顔を覆っていた仮面を外して地面に投げ捨てた。


仮面を外して露わになったトールマンの顔は、荒々しく彫られた石像のような強烈な印象を与えるものだった。広い額には深い(しわ)が刻まれ、厚い皮膚は岩の表面のように粗く見えた。


鋭い牙と角張った顎の小さな傷跡からは、何度も繰り返された戦いと、彼が歩んできた苛烈(かれつ)な暗闘の痕跡がうかがえた。


野獣のような気配を放つトールマンの鋭い眼差し。その下の口元では、微笑みを装った残酷な雰囲気が、尖った口角の間で漂っていた。


「思う存分暴れられるようになったから。有利になったのは。俺だ!」


―ガキィッ!―


地面を強く蹴り、目の前に立つグラベルに向かってトールマンが突進した。そして右手の剣を高く掲げて振り下ろした。


「さあ、どうでしょう。どちらが有利かは……実際に戦ってみなければ分かりませんよね?」


余裕のある表情でトールマンの一撃をかわしたグラベルの指先から、小さな火球が一つ、トールマンの肩に向かって飛んだ。


―ゴォォォォォゥゥゥ!―


子供の手でも包めるほどの小さな火球がトールマンの肩に触れた瞬間、巨大な炎に変化し、トールマンの体を激しく焼き尽くした。


『この程度の魔法では足りないか……?』


目の前で燃え上がる黒煙と赤い炎に包まれたトールマンの姿を、グラベルは見つめていた。しかしその疑問も束の間、炎が消え、黒い煙を引きながら信じられない速さでトールマンが左手の五本刃ガントレットを構えて迫ってきた。


「こんな魔法で俺を焼けるものか!」


長い腕を活かしてグラベルの視界の死角から急所を狙う、暗殺者特有の攻撃が繰り出され、続いて大きな体躯を利用した力強い振り下ろしの一撃が放たれた。


トールマンの体についていた火は消えたが、燃えて原型を留めない外套の焦げ臭さと、黒く(すす)けた皮膚の焼け臭いは依然として彼の周囲に漂っていた。


飛来する幾度もの苛烈な攻撃を、グラベルは悠々と回避しながらトールマンの様子を観察していた。


『顔と肩の皮膚が再生している。』


トールマンの黒く煤けた傷が、元の灰褐色の皮膚へと再生していくのが見て取れた。


普通の人間なら死角からの急所攻撃を避けられないはずだったが、グラベルの周囲10キュビット(約5m)半径に展開したマナ・エクスパンションのおかげで、トールマンのすべての攻撃を容易にかわし、冷静に相手の動きを把握できていた。


―シュン!―


トールマンの剣をかわした直後、グラベルの鞘から抜かれた剣がトールマンの厚い皮膚を裂き、血を流させた。


「なかなかやる。だが、まだ足りない。」


剣で斬られた傷を押さえ、一瞬顔を歪めたトールマンだったが、再び鋭い歯を覗かせて笑った。


トールマンの攻撃が続く。


一撃で馬車を真っ二つにし、中の標的までも切り裂く強力な剣が、グラベルの剣によって(はば)まれた。


左手の五本の刃は、寝ている商人を容易く五つに切り分けることができたはずだったが、グラベルには一本も届かず、彼が立っていた後ろの木や岩をただ斬り裂くのみだった。


―ズザッ!―


再び肉を裂く剣の音が響いた。


『やはり再生するな。カヴナクほどではないにしても……。』


斬られたトールマンの肉が再び繋がり、皮膚を伝う血を止める様子を見て、グラベルは以前の農園での戦いを思い出した。


「ただ避けているだけか?」


低く沈んだ声だったが、トールマンがグラベルに向かって振り下ろす剣とガントレットの刃には、焦りと苛立ち、怒りが滲み出ていた。


『これほど長く俺の剣を(しの)いだ相手がいたか?』


トールマンは自問しながら、これまでの時間を振り返っていた。


鎧を着た騎士も、厚い鉄の扉の奥に隠れて傭兵たちに守りを叫んでいた商人たちも、数十人の剣士と弓兵に囲まれていた貴族も――振り返る数年の記憶の中にも、自分の剣から耐え凌いだ者は一人もいなかった。


ましてや今のグラベルのように、すべての攻撃をことごとく防ぎきる者などいなかった。


「そんなことはありませんよ。私は力をゆっくりと引き上げるタイプなんです。」


焦りで揺らぐトールマンの剣を悠然とかわしながらグラベルが答えた。そして剣を持たない左の手から、二発の魔法矢がトールマンに向かって飛んだ。


―ヒュン!―


腹部と胸を貫通する痛みをものともせず、トールマンはグラベルに向かって大きく剣を振り回した。


『(短文詠唱で威力を少し上げよう。)雷鳴の猛獣よ! 汝の咆哮で敵の戦意を引き裂け!』


―ドゥドゥドゥドゥン!!―


グラベルの声に応じて生まれた複数の小さな魔法陣から紫色の雷撃が(ほとばし)り、トールマンの腕、脚、体中の至る所に直撃した。雷鳴と共に全身を駆け巡る雷は、これまで味わったことのない激痛をトールマンに与えた。


血管が破裂し、皮膚を裂いて飛び散る血が周囲の地面に飛び散った。しかし再びトールマンの傷と煤けた皮膚は徐々に元に戻り始めていた。


『(この程度なら……カヴナクと同等の再生力か? 見た目もトロルに似ているような……いや?)素晴らしい再生力ですね。魔法耐性も相当なようです……。火に弱くないという点を除けば、トロルそのものの肉体ですね。』


ここがゲームの世界なら情報識別(しきべつ)のスキルでトールマンの頭上にステータスウィンドウが浮かび、全情報を教えてくれただろう。しかしグランドワールドオンラインで使えたスキルのいくつかはここでは使用できないことを知るグラベルは、相手の正体を推測するため、苦痛を耐えながらも闘志を燃やすトールマンに言葉を投げかけた。


「トロルではない。私はすべてのトロルの王。トロール・ソブリンだ。火も、雷も、どんな魔法でも私を殺すことはできん。」


誇りを込めたトールマンの言葉を聞き、グラベルの表情が変わった。


『トロール・ソブリン? 意外と簡単に正体を明かしてくれる……。』


トロール・ソブリン――グラベルが聞いたことのない名前だった。しかしその言葉から、トールマンがトロルの上位種であること、そしておそらくトロルの弱点である火を克服し、強力な魔法にも耐えうる肉体を持つに至ったのだろうということが推測できた。


「そうですか! トロルの王とは。では、正体を明かしていただいたお礼に、私も剣術ではなく、私の得意分野だけであなたを相手にしましょう。」


チャキンと音を立てて剣を鞘に収め、グラベルの声が明るくなった。口元と目に微笑みが浮かんでいた。それは相手を嘲る嘲笑でも、自分が優位だという傲慢でもなかった。


ただ、自分が限界を試せる強敵が現れた喜びと、新たな挑戦に喜んで応じる彼の性格が自然に表れた表情だった。心の片隅では様々な魔法を試す機会だという思いもあったが、そんな誘惑には流されず、手を広げて魔法を展開した。


トールマンの体を囲むように出現した魔法陣から、氷の棘が具現化(ぐげんか)して突き刺さり、続いて地面を突き破って岩の槍がトールマンを貫いた。


「グオオオオオ!!」


しかしトールマンの千切れた肉片は再び生え、裂けた傷はたちまち回復する。驚異的な再生能力だった。その様子を見てグラベルの目が一瞬大きく見開かれた。しかし同時に、トールマンのマナは再生を使うたびに減少しているものの、まだ当分の間は強力な攻撃と素早い動きを維持できるだけの余裕があるように感じられた。


『ただ再生を繰り返しているだけではない。徐々にその姿が変わってきている……。』


グラベルの魔法に対抗するトールマンの再生能力。魔法が命中するたびに苦痛を堪えながら咆哮を上げ、グラベルへの攻撃を止めず、剣とガントレットの刃を振り回していた。


それと同時に、全身の筋肉はさらに膨張し、浮き出た血管がよりはっきりと蠢動(しゅんどう)するのが見て取れた。

いつも読んでいただきありがとうございます!

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