120話 グランドトーナメント (19)
<ディアロとドランザ>
ヴェス・ディナスの南城壁の外、新市街地。城門へと続く広い大通りから枝分かれした道の一つ。この通りは通称『雑貨街』と呼ばれている。
柳の枝を編んで作ったしなやかで丈夫な籠を、店の前に並べて売る商人。
白樺のスプーンやフォーク、ブナのまな板や器、そして木の杓子など、さまざまな木材でできた台所道具を、道行く客が手に取りやすいよう小さな台の上に展示した店の前では、新しいまな板を選ぼうとする女性たちの姿が見える。
色とりどりの女性用頭飾り――リボンやボンネット、麦わら帽子、肩まで覆う長いフードなど――を、移動式の仮設台の上に並べて売る帽子屋が、自分で様々な形の帽子を次々と被り替えながら、通りすがりの人々を呼び込んでいた。
大勢の人で賑わう雑踏の中、談笑しながら歩く一行がいた。
「なぁディアロ、親父たちに言い訳はちゃんと用意したか?」
黒く塗られたプレートアーマーを身にまとい、華やかな意匠が刻まれた金属製の槍を持った赤銅色の髪の男が、雑貨街の人ごみの中でもはっきり通る声で、隣を歩く金髪のディアロに尋ねた。
「ん? どんな言い訳だ?」
「今回のグランドトーナメントの馬上槍試合で優勝できず、ダラバイに帰るってことに対する言い訳だよ。」
「さあ……。父上は僕が優勝するなんて期待してなかったと思うけど? 一方で、君の父上であるステレン男爵は、千人の兵を相手にできると言われるほどの騎乗術の誉れ高いステレン家の当主で……きっと怒るだろうね。」
「そ、それは違うだろ。矢を弾き返し、魔法を避けながら疾走する騎乗術があっても、試合で負けることなんて山ほどあるさ。」
「ほう……。それで? いったい誰が大陸一の騎手を倒したっていうんだ?」
「ディアート家の下にある辺境の家、ステレン家の騎士としては手が出せない相手だったよ。」
「どういう意味だ?」
ディアロが首を傾げながら、ステレンの騎士に尋ねた。
「相手が悪かったってことさ。正体を隠して大会に出場した王族に槍を向けるほど、僕は馬鹿じゃない。たとえ馬上槍試合であってもな。」
「……そういうことだったのか。よく考えたね。王族は事故とかミスなんて信じないから。ちょうどいい口実じゃないか? 『相手の実力が遥かに上だったので敗れました』なんて言うより、ずっとまともな名分になるよな。なあ、イーゴン?」
二人の後ろを、懐に何冊もの書物と紐で束ねた巻紙を抱えてついてくるイーゴンに、ディアロが声をかけた。
「はい! ディアロ様。よくお考えになりましたね、ドランザ様。ステレン男爵様には私が詳しくお伝えいたしますので、どうかご心配なく!」
「いや、でもいつも傍にいる従僕はどうしたんだ? 僕の忠実なスクワイアに荷物持ちをさせて。」
「え? ちょっと待って……。紙を五十枚だけお願いします。」
ドランザに少し待つよう手を振ったディアロが、巻紙とインク、羽ペンが並ぶ店の扉を開けながら言った。
少しして、買った紙をイーゴンに預け、再びディアロが歩き始めた。
「蹄鉄師に馬を預けてあるから、そっちに行ってるんだ。今日はイーゴンに少し手伝ってもらったよ。いいだろ?」
「それを僕に聞くのかよ、イーゴンに聞けよ。」
ドランザの言葉が終わると、二人は後ろのイーゴンに向き直った。
「え? あ……私は大丈夫です。書物と紙だけですから、そんなに重くありませんよ。」
「ほら?」
「……まあ、イーゴンがいいって言うならな。ところで、蹄鉄師に馬を預けたのはどうしてだ? 試合中に怪我でもしたのか?」
「いや。試合前から後ろ足の蹄が伸びすぎてたらしい。蹄を削って新しい蹄鉄を打ってもらおうと思ってさ。親切にもいい蹄鉄師を紹介してくれたよ。」
「え? 誰が?」
「僕の試合相手だったアヤメ紋章の騎士が……。馬から落ちた僕を起こしながら教えてくれたんだ。騎士にとって、自分の体を預けて走る馬ほど大切なものはない。だから今より頻繁に蹄鉄師に会えって、ね。」
「馬の調子が悪かったのか……。相手の騎士は運が良かったな。いくら書物の山に埋もれて暮らしてるお前でも、馬上槍だけは僕と一緒に学んで育ったんだから、そう簡単に負ける実力じゃないはずなのに。」
ディアロを慰めようと、ドランザが肩を軽く二度叩きながら言った。
「馬上槍試合は……短い瞬間の判断力と戦略の修正能力を競うものだから、興味が湧くんだ。そして父上が、それさえやらなければ兵士たちと一緒に訓練しろって言うから、君と馬上槍の練習をする方がずっとマシだよ。」
「うははは! 未来のディアート伯爵様に気に入られるなんて、嬉しいぜ!」
ドランザが大声で笑いながら、道を行く荷馬車を体をひねって避け、ディアロに言った。
「それに、僕の全力を出しても負けてたよ。あの騎士、ほんの少し体をひねって隙があるように見せかけて、僕のランスを誘い出してさ。そして最後に、そのひねった体を逆にひねってランスの間合いをさらに伸ばすんだ……。実力はアヤメの騎士の方がずっと上だった。」
試合前の挨拶で見た柔らかな眼差しとは全く違う、兜の奥の闇の中で光っていた相手の眼差しを思い浮かべながら、ディアロが言った。
「だから! 今日の敗北の苦さを洗い流すのにぴったりの店を調べておいたんだ! なあイーゴン?」
「あ……はい~。港の方にあるラウレルという名の店です。どうせヴェス・ディナスに来たんだから、新鮮な魚を味わうべきだってドランザ様がおっしゃってましたから。」
二人の勝利を祝うためにわざわざ調べた店だとはとても言えなくて、イーゴンが少しためらいながら答えた。
「そうだ! ヘイクのフライにシルフィウムを惜しげもなく振りかけた店だ。ダラバイじゃなかなか味わえない味だぜ!」
もうすぐ味わえる料理の味を想像して、喜びと期待で声が弾むドランザだった。
「先に行ってます。後ろについてきてください。」
イーゴンが早足で二人を追い抜き、先頭に立った。大勢の人で賑わう通りを抜け、街の中央の広場を横切り、リンネット鳥が道沿いの木に止まって鳴く声を聞きながら、海の見える方向へ歩き続けた。
小さな丘の緩やかな下り坂を軽やかな足取りで下り、波の音が聞こえるラウレルという名の店に三人は到着した。
店員の案内で席に着くと、ドランザは三人で食べるには少し多めの料理を注文し、うきうきと鼻歌を歌い始めていた。
「ちょっと注文しすぎじゃないか?」
まだ料理が出てこないテーブルの上で書物を広げ、雑貨街で買った紙に羽ペンを走らせながら何かを書きつけているディアロが言った。
「問題ないさ! ヘイク料理の味を全身の隅々まで染み込ませて帰らないと! なあイーゴン?」
「ディアロ様が想像なさる量の何倍も召し上がると思いますよ。それに、それくらい召し上がらないと、いつもお持ちのあの槍を振り回せませんからね。」
イーゴンが壁に立てかけてあるドランザの槍を指さしながら言った。
「今回はどれだけ重くしたんだ? 少なくとも、あの槍を振るう必要が生じた時に振り回せる重さじゃなきゃな。」
相変わらず視線は書物の小さな文字に注いだまま、ディアロが羽ペンを握った指先で、革の鞘を被せたドランザの槍を指しながら言った。
「もちろんさ。帰り道にトロルにでも出会ったら、直接見せてやりたいくらいだぜ。」
「でも重すぎますよドランザ様。到底人が持てる重さじゃありません。それで普通の馬よりずっと大きなロロも、ドランザ様だけを乗せると敏感になるんです。」
「そうだぞドランザ。可哀想なロロのためにも、馬に乗る時はもう少し軽い槍にしてくれ。」
二人の親しげな忠告に困ったような顔をするドランザを見て、ディアロは軽く微笑み、再び目の前の書物に視線を戻した。
「うううむ……。実はもう少し重くしたかったんだけどな。」
「ダメです!」
「それは無理だ。」
ドランザの言葉が終わるや否や、イーゴンとディアロがまたもや悪意のない忠告をした。
「……わ、わかったよ。二人の意見を聞いて、これ以上重くはしない……。」
ドランザが席を立って、不満げな重さの槍を持ち上げながら言った。
「ご注文の料理をお出しする前の食欲をそそる前菜と葡萄酒です。」
低く太い声の男が、三人が座るテーブルに近づきながら言った。男の左手には葡萄酒の瓶が二本、右手には広い皿に載せた一口サイズの料理が並んでいた。
小さなパン切れの上に、さまざまな組み合わせの具材をそれぞれ乗せ、小さな木の串でしっかりと固定した料理だった。
小さなチーズ、オリーブ、油で揚げたタコの身を小さく切ったもの、さらには茹でたエビやキノコ、鉄板で焼いた貝など。多彩な味わいの小片が並んだ皿を置くと、男は手慣れた手つきで葡萄酒の栓を抜き、微笑んで厨房へと戻っていった。
「ところでディアロ、さっきから何をそんなに書いてるんだ? う~ん! ここにもシルフィウムを使ってるな。このエビ、すごくうまいぞ。食べてみろ。」
「スコロラ・アクショットの書いた魔石の共鳴装置を使った鉱脈探査法を要約して書き留めようと思って。」
「へえ~。そんな本もあるのか? まあ、ダラバイとは違って大きな図書館がある大公の街だからな。」
ドランザがチーズと油漬けのオリーブを刺した木の串を、書物に集中するディアロの手に差し出しながら言った。
「う~ん! うまいな? しかも食べやすい。手で持ったまま本を見ながらでも食べられるなんて。」
「あ、そういえば父上も、いつも伯爵様の新しい魔石装置の実験で苦労してるって言ってたけど、ディアロも何か作ろうとして勉強してるのか?」
「別に何かを作ろうってわけじゃないよ。魔石でできることが多いから、基礎知識と関連知識を身につけておこうと思って。」
「未来のディアート伯爵様は抜け目がない性格だな。お腹もちゃんと食べておけよ。メインのヘイクの蒸し焼きと素焼きが出てきたら、舌と胃がびっくりするからな。」
さまざまな具材を刺した木の串を三本、書物を押さえるディアロの指の間に差し込み、その驚いた様子がおかしいと笑いながらドランザが言った。
「ふう……。敵わないな。」
言葉とは裏腹に微笑みながら、ディアロが指の間に挟んだ木の串の揚げたタコの脚を口に運び、テーブルの書物を閉じた。
「ふふふ。楽しみだろディアロ? もう店内に広がってるシルフィウムの香りがヘイクと出会ったら、どんな味になるか。」
これまでで一番大きく見開いた目で、想像力で増幅されたヘイク料理の味がドランザの頭をいっぱいに満たしていた。
「大変お待たせしました!」
先ほど前菜を持ってきた男の、筋肉質の太い両腕に、甘いヘイクの香りが漂う料理が載った大きな皿がのせられていた。
「ヘイクとシルフィウムで味付けした煮込みと、メープルウッドの炭火で何も味付けせずに焼いたヘイクです。ご注文が多いので他の料理が出るまで少し時間がかかりますが、まずはこちらの二品で待っていてください。」
重厚な声の男が二つの大きな皿を置きながら言った。そしてその言葉が終わると同時に、料理の香りに魅せられた三人が勢いよく皿に手を伸ばし始めた。
適度な脂がもたらす柔らかくしっとりした食感。淡く優しく、口の中で溶けるような味わい。
ヘイクの味は強くなく、他の素材の味を邪魔せず、シルフィウムの魅惑的な香りと溶け合って自然な甘みを引き立てる。
「どうだ? どうだ? 想像以上だろ?」
口いっぱいの料理を大きく飲み込んだドランザが、二人の反応をうかがいながら聞いた。
「最高です! この味をそのままダラバイに持ち帰って売れたら、ドランザ様のスクワイアなんて辞めてもいいくらいですよ!」
「はっはっは! それは困るなイーゴン。」
リゴンの陽気な冗談とは対照的に、静かに素早く手を動かすディアロの様子がドランザの問いに代わって答え、透明な葡萄酒を互いの杯に注ぎながら、その日の敗北を忘れる宴は夜遅くまで続いた。
今回のエピソードは、グランドトーナメントを終えた三人の、賑やかで美味しい「打ち上げ」を描きました。
活気あふれる雑貨街の様子や、シルフィウムが香るヘイク料理の魅力が、読者の皆様にも伝われば幸いです。




