119話 グランドトーナメント (18)
< ラタク・バナスとリズトン男爵>
バナス公爵家の城の内庭、その中でも城塞の最も奥まった場所に、ラタク・バナスのための小さな空間がある。その空間には彼の執務室へと続く木製の階段が見える。
バナス家の紋章が描かれた白い布が広げられ、強烈な日差しを遮る木陰の下には、鋭く研ぎ澄まされた剣と槍が何本も、黒い布で覆われた長い卓の上にずらりと並べられている。
ラタク・バナスが父であるバナビル・バナス公爵を助け、領地に関する数多くの政務を処理しながら長い時間執務室の椅子に座っていると生じる肉体的痛みを和らげるために、簡略ながら作り出したのがこのラタク・バナスのための小さな空間、彼の個人訓練場だ。
この小さな訓練場の床には、花崗岩より数倍硬いとされる濃い空色のルナライトを加工して作った床材が敷かれ、華美を好まない主人の性格が表れる装飾のない木製の椅子と丸い形の卓が置かれている。
「ふんっ!」
大きな声を上げて槍を振るうラタクの姿が見える。
-カガッ- -クワザッ- -ウジッ-
先端が尖り刃の広い槍で、粗く削られた丸太の人形に向かって振るうラタクの動きが止まったのは、遠くから近づいてくる人の姿を確認した後だった。
「書物と巻紙に埋もれてお過ごしになるには、惜しいお腕前でございます。」
広い袖の黒いタバードをまとい、青い結び飾りを腰に巻いた男が近づいてきた足を止め、帽子を脱いで貴族特有の礼を尽くした挨拶をしながら言った。
「ようこそお越しくださいました、リズトン男爵殿。先日お送りいただきました豆と大麦は、先日無事到着いたしました。ちょうどその件で書簡をお送りしようと思っていたところでした。」
「はははっ。そのお手間を省くために私が参上いたしました。無事お受け取りくださったようで何よりです。軍馬たちに与えるものと伺っていましたので、なおさら心を込めて用意いたしました。」
手に持っていた槍を長い卓の上に置き、リズトン男爵に座るよう席を勧めながら、ラタク自身も椅子を一つ引き出して腰を下ろした。
「ラタク様は大公の若い頃のお姿をそのまま写し取ったようだ、というお話を耳にしたことがございます。先ほど槍をお扱いになるお姿を拝見し、かつてクルクートとの戦場でご活躍なさった大公のお姿が容易に思い浮かびます。」
「私が父上を追い越すには、まだまだ遠い道のりです。先日も城にお戻りになられた際、怠けていないか確かめると仰って剣を交えましたが、結果は幼い頃に木剣を握っていた時と変わらぬものでしたから。」
「ふむははっ……。おやおや、失礼いたしました。相変わらずお元気なバナス大公のお話を伺えて、自然と喜びの笑みがこぼれてしまったのです。お許しください。」
リズトン男爵の言葉に、微笑みで代えて答えたラタクが、近くで待機していた使用人に頷き、手招きで客人に明日のお茶を持ってくるよう合図を送った。
「ちょうどリズトン男爵殿にお願いしたいことがありました。よくお越しくださいました。」
「おや? お願い事……。シャレの小さな領主にできることでしたら、どのようなことでも精一杯努めさせていただきます。もちろん失敗するようでしたら、最善を尽くしたという点をご考慮いただき、予めお許しを乞うておきますが。」
「ははっ。私に予めお許しを乞う必要などありません。他でもない……大量の鉄を調達していただきたいのです。レンシロアの東、ロウィン山脈には良質の鉄を産する鉄鉱山が数多くありますから。」
「はい。鉄の調達自体は容易です。問題は量でしょうか? そうでなければ私にお頼みにならず、ご自身で手配なさったでしょう。どれほど必要でしょうか? そして期限は?」
思ったより難しそうな依頼ではないと知り、リズトン男爵が安堵の短いため息を吐いた後、ラタクに尋ねた。
「必要な量は……多いです。通常の荷馬車百台分ほど。十万ストーンの鉄塊が必要です。」
「…………」
二人の間に、しばしの静寂が落ちた。ほんのわずかの間、ラタクから聞いた言葉が聞き間違いではないかとリズトン男爵は考えたが、椅子に身を預け、使用人が運んできた茶を受け取りながら待つラタクの姿を見て、自分の考えが誤りであることを悟った。
「百台分? 十万ストーンもの鉄……。そう簡単には揃えられる量ではございませんな。」
「ええ。期限は来年の夏までで結構です。もうすぐ冬ですから、生産量が減る時期でもありますし。」
「うむ……。個人的な好奇心ですが、その大量の鉄が何に使われるのか、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「兵士たちの剣鞘を替えるためです。」
「ううむ? 剣鞘? 剣を入れる剣鞘のことでしょうか?」
「はい、そうです。既存の木と革で作られた剣鞘の耐久性が低いため、頻繁に交換しなければならない点を改善するため、既存の剣鞘に鉄製の輪を剣鞘の入口と中程に巻き、剣鞘の先端は完全に鉄で覆って作る予定です。」
ラタクは立ち上がって長い卓の上から木製の剣鞘を取り、リズトン男爵に見せながら言った。
「うむ? しかし剣鞘というものは、そんなに頻繁に壊れるものなのですか?」
「男爵殿がお考えになるより、ずっと壊れやすいのです。木と革は湿気、水、寒さに弱く、湿った環境では木が腐ったりカビが生えたりしますし、革は乾燥してひび割れたりします。そして普段は腰に差して持ち歩きますから、日常生活でも通路の壁や同僚の剣鞘とぶつかり合いますし、野外で過ごす時間が長いため、頻繁に損傷するのです。すでに兵士たちの間では剣鞘は消耗品として認識されています。そうなると扱い方も荒っぽくなり、一日でかなりの数の剣鞘を交換しなければなりません。」
「ふうううむ。そうでしたか……。それでより頑丈な剣鞘を支給して……剣鞘に対する意識を変え、長期的には頻繁に交換する必要がある木製の剣鞘より耐久性の優れた鉄製の剣鞘に替えようというわけですね。」
「はい。それこそがこの大量の鉄がヴェス・ディナスに必要な理由です。また余った鉄の一部は、少し幅広の槍身を作る計画もあります。」
「十分なご説明をいただきました。では好奇心も晴れたところで、この仕事を完遂した場合に私がいただく報酬について、相談してもよろしいでしょうか?」
「もちろんです。シャレの歯粉男爵を安値で雇うつもりはありませんから、望まれることをおっしゃってください。」
「それでは……私が望むことを申し上げましょう。まずは三つほどですが……。」
慎重に三本の指をラタクに向かって広げながら、リズトン男爵が言った。
「どうぞおっしゃってください。私がお渡しできるか、成し遂げられることでしたら、今回の件の対価として喜んで差し上げます。」
明るい表情で言いながら、ラタクが茶托ごと茶碗を持ち上げ、椅子に身を預けた。
「え……ではまずは第一に、エルフとの交易に深い繋がりをお持ちのイルダ・バナス様に、私をご紹介いただけますでしょうか。エルフ商人のうち、ウスフィエルというエルフ商人が、庭園で育てられる椅子を栽培しているという話を聞きまして。うむ……もっと正確に申せば、木を椅子の形に育て上げる、というべきでしょうか? いずれにせよ、それをエステタ王国の貴族たちに売りたいと考えております。」
「椅子の形をした木? 珍しい庭木……いや、家具と言うべきか……? 初めて聞く話なので、私には馴染みのない概念です。」
「はい。そうでしょう。私も最近になって、そんな独特な形の庭木を売る商人がいると知ったばかりです。エルフたちにとってはごく当たり前の概念のようですが。」
「そうですか。機会があれば私も購入してみたくなります。それではイルダとの会合は私が手配いたします。残りの二つの報酬も、続けてお聞かせください。」
古くなって脚の部分が割れかけた自分が座っている椅子を、顔を少し下げて眺めながら、ラタクは生きている家具、椅子の形に育てられた木の姿を想像しつつ、リズトン男爵との取引条件を聞き続ける会話へと移った。
「それでは第二に……。どう見ても第三ともつながる話ですが……まずはその前に、周りの使用人たちを少し遠ざけていただけますでしょうか。」
「そういたしましょう。」
ラタクが頷き、周囲に控えていた使用人たちに下がるよう命じた。
「王弟であらせられるディリタ・ドラスラット様をご存じでしょうか?」
周囲をゆっくりと見回した後、リズトン男爵が身を丸い卓の方へ寄せ、小声でラタクに尋ねた。
「ディリタ様なら……。ずいぶん昔にドラスナールへ参った際に、お目にかかったことがあります。互いの名前を交わした程度の短い出会いでしたが……。」
落ち着いた声でラタクが答えた。
「ふむ……。そうですか。実は……王弟ディリタ様が、このヴェス・ディナスにいらっしゃいます。」
「ん? 王弟殿が? ここに?」
予想外の言葉に、ラタクが眉間を寄せた。
「はい。そして理由は存じませんが、護衛の騎士も魔術師も連れず、単身でお越しになったようです。そしてそのお姿が……甲冑を着て馬に乗っておられたようなので、おそらくグランドトーナメントにご参加なさろうというおつもりかと……。」
「参加者全員の名前は私もざっと目を通しましたが……ディリタ様のお名前はありませんでした。偽名をお使いになったのでしょう。」
「恐らく馬上槍試合でしょうか? いや……決闘や弓術の試合かもしれませんが……。」
「ディリタ様がヴェス・ディナスにいらっしゃることさえ確かなら、行方を探るのはそれほど難しいことではありません。」
「はい……。ですので第二にお願いしたいのは、腕の立つ護衛を雇ってディリタ様をお守りいただきたいのです。顔があまり知られていない、口の堅い者でなければなりません。」
「護衛を? 正体を明かさずにお越しになったようなので……。それが必要でしょうか?」
「普通ならそうですが、ハディン・カビルもこの地に来ているようです。それもドラスナールから飛空艇で急いで。ご存じの通り、陰謀を巡らす際は他人を使って事を起こし、自分は表に出ないことを好むあの男が、枢密院の会議にも欠席してわざわざここまで来たというのは、良い予感がしません。」
「うむ……。わかりました。ちょうど適任の人物が思い浮かびます。すぐに護衛をつけましょう。」
「では、ディリタ様の件はラタク様にお任せして……。第三の報酬ですが……今回新しく建造されたバナス家の商船一隻を要求するのは……少々高額すぎると考え、別のものをいただくことにいたします。」
「…………」
商船一隻を要求しようとしていた気持ちを変えるというリズトン男爵の言葉に、ラタクが安堵の長いため息を吐いた。
「どうぞおっしゃってください。」
「グランドトーナメントが終わった後、ディリタ様との食事の席を設けていただけますでしょうか。」
「え? 食事の席を?」
「はい。静かに話ができる食事の席で十分です。」
「あ……。はい。」
どこか怪訝な報酬を求めるリズトン男爵の言葉に、ラタクが驚いた表情を浮かべて答えた。
「ははは。どうやら全く理解できないというお顔をなさっていますね。誤解のないよう、少し補足して説明いたします。」
「はい。お願いいたします、リズトン男爵殿。」
「うむ……。最初は麦を育てて十倍の利益を上げました。歯粉を作って二十倍、マブエン関門要塞とエルフの家具で三十倍に増やせそうですか?」
リズトン男爵が言葉を一旦止め、両手を合わせ、親指を忙しく動かしながら、次に口にする言葉を吟味するように思われた。そしてほんのわずかの沈黙の後、彼は再び口を開いた。
「小さな貴族ではありますが、私は商人に近い人生を送ってきたようです。だから私にとって、商売で利益を上げることは当たり前のことになってしまいました。少しラタク様にお尋ねします。私が王を作り出すとしたら、どれほど大きな利益を上げられるでしょうか?」
「…………」
重い沈黙が流れた。おそらく二人が、リズトン男爵の質問に込められた意味の重さを、互いに理解していたからだろう。
「それは……到底計算がつきません。」
「ははははっ。それをこれから私がやってみようと思います。そして……ありがとうございます。」
リズトン男爵が言った「ありがとう」の意味。王を作り出すという自分の言葉に対し、即座に反逆者として捕らえ、城内のどこか深い牢獄に閉じ込めなかったことへの感謝の挨拶だった。
「シャレの麦で作ったビールを、道すがら何樽か持って参りました。まだ早い時間ですが、召し上がってみてください。」
「ええ……。そういたしましょう。」
リズトン男爵の壮大な計画は、この日初めて男爵の頭の中から外界へと飛び出した。
ご愛読いただきありがとうございます!
今回は、実務家としてのラタクの顔と、食えない男・リズトン男爵の密談を描きました。
「たかが剣鞘にこれほどの鉄を?」という驚きから、男爵が漏らした「王を作る」という不穏な野望まで……。静かな談笑の中に、今後の嵐を予感させる種をいくつか撒いてみました。




