108話 グランドトーナメント (7)
明るくなる倉庫の中。貪欲な顔たちが松明を手に持ち、倉庫の隅々を照らしながら、欲望の渇きを癒してくれるような品物を探していた。
血と雨水の臭いが混じった不快な生臭さと、外套の奥まで染み込むじめじめした湿気など、忘れてしまうほど、他人の財産を奪うときの期待と快楽に、思わず歯をむき出しにして醜い笑みを浮かべる顔たちが、松明の下に浮かび上がり、倉庫の隅に座っているディベルテに向かって徐々に距離を詰めてきた。
松明が揺れ動き、ディベルテと目が合った男の声が、倉庫内の他の仲間たちを呼び集めた。
予想外の倉庫の隅に座っていたディベルテの姿を見た黒い影の松明が、ディベルテに向かって近づいてきた。
青い眼光を宿して大きく見開かれたディベルテの目が、自分に向かって近づいてくる見知らぬ影をゆっくりと追いかけた。
気力が衰え疲れ果てた様子で倉庫の壁に寄りかかり、荒い息を吐いているディベルテを確認した一団の中の一人の男が、剣を抜いて笑いながら手に持った剣を振り下ろした。
ずしゃっ。粘つく血の塊が肉片とともに床に落ちる音。
ディベルテが動く。彼が宝物のように大切に、いつも懐に抱いていた剣が、彼の手の中に握られていた。
床に落ちた松明、闇に溶け込むようにディベルテが姿を消し……。すぐに悲鳴が上がる。雨に濡れた外套とともに倒れるぐちゃぐちゃという音が響き、倉庫内に降る雨音と混じって恐怖に満ちた声が聞こえる。
肉を裂き、水を吸った薄い革の鎧と布の服を切り裂く音がした後、血だまりの上に倒れた死体たちを見下ろす青い眼光が、闇の中にただ一人立っていた。
再び倉庫の中には静けさだけが残った。見知らぬ者の悲鳴も、苦痛に苛まれる呻きも、血を吐く咳の音も、もう聞こえない。
倉庫の古い木の屋根に降る太い雨粒の音、そしてその屋根を伝って落ちる水の流れの音が、くぐもって聞こえてきた。
かすかに聞こえる女の笑い声……。
ディベルテの口元には恍惚とした微笑みが、愛しい恋人を見つめるような慈しみの眼差しで手に握った剣を見つめていた。
血に染まった外套、肉片と脂肪がこびりついた自分の剣に頰を寄せ、ディベルテの目が閉じられる。
震える唇、指先で外套の布を引っ張って慎重に剣を拭った。
ディベルテの口からは果てしなく同じ言葉が繰り返されている。誰かの名前……。
レアベッラ。レアベッラ……。レアベッラ……。呼べば呼ぶほど胸が締めつけられる愛おしい名前、レアベッラ……。
太い雨の降りしきる暗い倉庫の中で……。互いを深く愛し合う恋人が。
新しい愛が生まれた。
<ドラゴンフライ ・ タイガービートル>
ヴェス・ディナスの外れ、新市街地。建てられて間もないため、まだ新しいレンガの匂いと木の香りがほのかに漂う食堂の中に、濃い色の髪の男が赤みがかった暗い茶色の楓のテーブルに腕を乗せて顎を支えている。
誰かを待っているような男の姿。
食堂の内部は大勢の人の声で満ちていた。
笑い声、料理の載った皿を両手で支えながら大きな声で注文した客を探すウェイトレスたちの声が響く。
顎を支えていた男が近づいてきたウェイトレスと数言交わして料理を注文したようだったが、生々しい笑顔で男に挨拶したウェイトレスが食堂の厨房の方へ去っていくと、大きくあくびをした男が、ぐるぐると涙の溜まった目で周囲を見回した。
厨房からすぐに調理されて湯気を立てる料理。見る人によっては気味悪く見えるかもしれない豚の頭が載った皿と赤いワイン、笑い声とともに杯を掲げて甘い蜂蜜酒を飲み干し、食堂のホールを活気で満たす客たちの姿を、柔らかな口元の笑みを浮かべて眺めていた。
嫌いではない油の匂いと食欲をそそるパンの香りが厨房から漂い、空腹の腹をさすりながら注文した料理を待つ客たちが顎を上げて首を長く伸ばし、料理の載った皿を手に持ってホールを行き来するウェイトレスたちを見つめている。
大きな盾を椅子の横に下ろし、疲れたため息をつきながら席に着いて大きめの二杯の酒を注文した肉厚な冒険者。
グランドトーナメントのスケジュールに合わせて今到着したばかりの一団の放浪商人たちが集まって、重い荷物を背負って険しい道を歩いてきた足と肩を揉みながら座っている。
一人で座っていた男の外見は、食堂のホールにいる誰よりも周囲の異性を惹きつける容姿だった。優美な顎のラインと滑らかな顔立ち、男の手とは思えない長く美しい指。ホールの隅に男の席があったにもかかわらず、横目でちらちらと見て、万一目が合ったら赤く染まった頰を隠して席を移すウェイトレスたちがいるほどだった。
しばらくして頭を下げた食堂のウェイトレスがやって来て、男の席には赤いワインの入ったトネリコの木で作られた杯が置かれていた。
「私が遅すぎましたか? ドラゴンフライさん?」
ホールいっぱいの喧騒を突き抜けて鮮明に聞こえてくる声に、ドラゴンフライが頭を巡らせて自分を呼んだ声の主を見た。
「うむ?」
「そんなに遅くなかったですよね?」
親しげな挨拶でドラゴンフライの肩を手の甲で軽く叩いて通り過ぎたタイガービートルが席に着きながら言った。
「そうだ。あまり遅くはなかった。」
「料理は?」
「俺が食べる分は注文したぞ。」
「えええ? 私の分は? 私の分は~?」
目を丸くして唇を突き出しながらタイガービートルが言った。
「何が好きかわからないだろ。俺も注文してまだ間もないから、お前も早く注文しろ。」
「は~い……。でもドラゴンフライさんはどんな料理を注文したんですか?」
「二度焼きした大麦パンと、ヤギの肝とじゃがいもを炒めた料理を頼んだ。」
「へえ……。ヤギの肝か……。じゃあ私は……。」
少し体を起こして周囲を見渡し、他の客たちのテーブルに載っている料理をざっと確認した後、タイガービートルが生々しい笑顔で自分に近づいてきたウェイトレスを迎えた。
「ご注文ですか?」
にこにこ笑いながらウェイトレスが言った。
「オートミールのポリッジはありますか? それとイノシシの肉料理があればおすすめしてください。」
「はい。チーズと蜂蜜、それに卵が入ったオートミールのポリッジがあります。そしてルーダイト式イノシシもも肉料理があります。」
「ルーダイト式? コバルト群島の料理ですか? どんな料理か教えてもらえますか?」
「えっと……。しっかり塩味をつけたイノシシの肉とヘーゼルナッツ、マスタードシード、刻んだネギ、ウィートベリー、ソレル、そしてオレガノをルーダイト式の鉄のコルドロンで煮込んだ料理です。」
人差し指を下唇に当てながら材料を思い浮かべたウェイトレスが言った。
「お? かなり詳しく教えてくれましたね。」
「私も忙しいときは厨房で手伝うんです。」
「うーん……。じゃあオートミールのポリッジとさっきのルーダイト式イノシシ肉料理。それと焼きリンゴ2個とワインをお願いします。」
「はい~。すぐに持ってきます。」
「食べ過ぎじゃないか?」
「え~~、日が沈むまでまだ時間ありますよ。仕事に支障がないなら、たくさん食べておかないと。しかもルーダイトの料理は昔本でちらっと見ただけだったんです。実際に味わってみないと。」
「オートミールのポリッジを注文しなければ良かったのに。」
「う~ん、それは……。今日は絶対に食べなきゃって、ここに来る前から決めてたんです。夢で食べた料理はその日に絶対食べる。それが私のルールなんですよ。」
「ふむ……。」
「あ! 本で読んだルーダイトの料理の文句も思い出しました。」
「どんなのだ?」
「えっと……。『昔のルーダイト王のコルドロンは30頭の豚が入るほど大きく、華やかな装飾と世界のあらゆる獣が彫刻された姿は、この世のどんな芸術品とも比べられないほど美しい』だったかな……。たぶんそうです。」
「かなり詳しく覚えてるな。」
「へへ……。記憶力がいいんです。」
肩をすくめてタイガービートルが目を細めて笑った。
少し時間が経った後。二人のテーブルの上には注文した料理と、タイガービートルが後から追加で注文したこんがり焼けたパンが置かれていた。
「どう? そのヤギ料理?」
「ん? うまいぞ。一口やるか?」
口いっぱいに頰張っていた料理をぐっと飲み込んだ後、ドラゴンフライが自分の皿をタイガービートルの方へ押しやりながら言った。
タイガービートルが近づいてきた皿に向かって手に持ったフォークで小さな肉片を一つ刺して口に運んだ。
「ううっ! やっぱり肝はダメだ。 この生臭い鉄の味で食べられない……。これで確信できた。僕は肝が嫌いです。」
「そうか? 俺はこの味が好きで食べてるんだけど。」
「そうですか?」
顔をしかめたままヤギの肝を咀嚼して生臭くなった口の中を、甘い味わいの焼きリンゴで一口かじって中和したタイガービートル。そして二人の会話は続いた。
「建てられて間もない街外れの食堂なのに……。お客さんが多いですね。」
「そうか? そういえば普通の酒場や食堂より確かに賑わってるな。」
「僕たちもあそこにいる兵士さんたちみたいに生きてたらどうだったんでしょう?」
肉汁をたっぷり含んだウィートベリーを山盛りすくって食べた後、遠くで食事をしている兵士たちを眺めながらタイガービートルが言った。
「一箇所に根を張って退屈な人生を繰り返して死んでいっただろうな。急にそんなことを考えるようになったのはなぜだ?」
「え? あ……。ただ気になったんです……。『今の人生と違う人生の僕はどうだっただろう?』って。」
「…………。」
「あ。別に今の仕事に疑問を感じたとか、そういうわけじゃないですよ……。はは……。」
目を細めてドラゴンフライが手に持っていたワインの杯を置くと、まだ兵士たちを見ていたタイガービートルが再びドラゴンフライの方を向いて慌てて言った。
「静かに食事するより、余興として話してみるのもいいんじゃないですか?」
「ふむ。そういうことなら……。兵士としての人生……生活……。」
「ははっ。付き合ってくれるんですね?」
「まあ、せっかくだし。」
「感動です。」
「大したことじゃない。うーん……。じゃあ……。俺たち二人とも弓を射る才能はないから、上官から小言は少し食らっただろうな。」
鼻筋を人差し指で撫でながらドラゴンフライが言った。
「ふうーむ……。そうかもしれませんね。でも有能な指揮官なら、射ちやすい弩くらいは僕たちのために用意してくれたんじゃないでしょうか? 実際このヴェス・ディナスでも何人かの兵士は弓の代わりに弩を持っていましたよ。」
「弓と弩……ただの好みの違いじゃないのか?」
「弩の方がずっと扱いやすいですよ。」
「そうか……。」
「そうですよ。」
「じゃあ槍や剣は上手かっただろうから、関門を守る兵士になるか、山賊や無法者、強盗や盗賊を捕まえに行く生活だったろうな。」
「へへ……。城壁を守るよりはよっぽどマシですね。」
「それでも結局一箇所に根を張った人生だろ。すぐに退屈になるぞ。」
「そうだったかもしれません……。」
ドラゴンフライの言葉通り、小さな村だった今座っている食堂のあるヴェス・ディナスと同じ大都市であっても、根を張った人生を想像していたタイガービートルの表情が少しずつ暗くなっていった。
「あ! じゃあこれはどうですか? あそこにいる人たちみたいに放浪商人として生きるのは? 息苦しくて退屈に一箇所に留まらなくていいし。大陸のどこへでも行きたいところへ行ける人生は!?」
近くのテーブルに座っている放浪商人たちを眺めながら新しい人生を思いついたタイガービートルが、明るくなった表情でドラゴンフライに尋ねた。
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