106話 グランドトーナメント (5)
「じゃあ、ここに座っている俺たち三人とも、今日それぞれの競技で勝ったってことだな。」
「はい、サリン様。おっしゃる通りですね。ここにいるニアは、この場所に来る前はイクスターンの闘技場の闘士だったそうです。おそらく剣の腕前は私より上かもしれません。ははは……」
「ほう……。それなら次回の試合はレーベン卿の馬上槍試合より、ニアの決闘大会場の方へ行ってみるべきだな。」
サリンが円卓に置かれた小さなリネンの布で口元を拭きながら言った。
「これはこれは、サリン様をこのヴェス・ディナスまでお連れした道案内役の騎士としては、少々寂しいお言葉ですな。はは。」
「そうではないさ。むしろお前を気遣ってのことだ。決勝で顔を合わせる相手が、応援を口実に客席でじっと見つめていたら、本来の力を出せなくなるだろう?」
「ふむ……。そういうものですか?」
「そうだぞ、道案内騎士。」
天真爛漫に微笑むサリンに向かって、レーベンは顎を撫でていた手を下ろし、首を振った。
「そういえば、馬上槍試合ばかりに気を取られすぎていたようだ。ニアが決闘大会に出場する日もすっかり忘れていたとは。」
「俺もレーベン卿のその言葉には同意だ。だから明日の試合はさっさと勝ち抜いて、他のグランドトーナメントの競技も見て回るつもりだ。言った通りニアの試合も気になるし、弩と弓術の大会もあるらしいから、あちこち見て回らないとな。」
「私も時間ができたらサリン様の予定にお供したいですね。」
レーベンがパエリャの器の横に置かれた大きなスプーンで、自分の皿に山盛りになったパエリャを移しながら言った。そして、すでにニアの手にある空の皿が現れると、そこにもスプーン一杯に取り分け、自分と目を合わせたニアの満足げな表情と頷きを受け取った。
「君も私も明日の試合があるから酒は控えねばならんのが、少し残念だな。こんな料理には良い酒がなくては味が半減だ。」
「ええ。まさに夢のような味わいの料理ですが……。口の中に広がるこの味を引き立ててくれる酒が一緒に飲めないのは、少々寂しいです。」
「はは。明日のためにこの寂しさを残しておこう、レーベン卿。ニアも許してくれるな? 明日馬上槍試合でランスを正しく構えるには、体に酒の気が残っていてはならんからな。」
サリンとレーベンの二人が、残念そうな仕草で左手に持った水の杯をいつまでも撫でながら会話を続けていた。
「かまわんだる。酒がなくてもおいしいだる。」
酒がなくて残念がる二人とは対照的に、相変わらず両手を忙しく動かしながらサリンの言葉に答えたニアが、大きく「わあん」と口を開けてパエリャを口いっぱいに詰め、むしゃむしゃと咀嚼した。
「それなら良かった。足りない料理があればいくらでも追加注文するから、存分に召し上がれ。」
「ありがとうだる。腹いっぱいになるまで食べるだる。」
忙しく動いていた左手のフォークと右手のスプーンを置き、少しだけ止めたニアが頭を下げてサリンに感謝の挨拶をし、円卓の上に脚を全部もがれたコバルト・クラブの胴体を両手で掴んで自分の前に引き寄せた。
コバルト・クラブはニアが一つ持っていってもまだ二匹残っていたので、遠慮なく巨大な蟹の胴体を手に取ることができた。
「では、この場にいる三人の勝利を祝して。これからももっと多くの勝利を互いに!」
「決勝でお会いしましょう、サリン様!」
「うお~!」
円卓の上にレモン水の入った三つの杯が高く掲げられた。
<番外編:竜を追う犬たち>
暗く静かな早朝の通り。冷たい空気に肩をすくめながら歩くドロコが一人。
手に美味しそうに光る赤いリンゴを一つ握り、見慣れぬ街の景色を見ながら歩いているのはニアだった。
「うむ……寒いだる。」
手に持ったリンゴを大きく一口かじったニアが周りを見回し、冷たい風が外套の隙間を突き刺すのを感じた。
ニアの口から吐き出される白い息が、まだ太陽も昇っていない真っ暗な静かな通りに吹く風の冷たさを教えてくれていた。
昨夜。ミオフラで味わった料理の強烈な味の記憶がニアの頭に浮かんだ。
そしてそのせいで空腹になった腹をなだめるために、手に持ったリンゴをかじった。
もう一つの昨夜の記憶が蘇る。より大きな勝利を約束して別れた三人。ニアは腹いっぱいに詰まったお腹を抱えながら冒険者ギルドの建物に向かって歩いていた。
到着したときはまだ夜が深くなかったので、ギルドの建物の中にはまだ大勢の冒険者がいた。
冷めない冒険の熱気を互いに吹き込みながら今日の冒険談を語る声が満ちるギルドの受付前を通り過ぎ、ニアが足を止めたのはギルドの依頼掲示板の前だった。
掲示板に貼られた無数の依頼書を上から眺めていたニアの視線が止まったのは、長くその場所に留まっていたことを示すボロボロの依頼書だった。
ニアはさらに近づき、日光で色褪せた黄色い依頼書を掲示板から剥がし、そこに書かれた内容を読んだ。
【ヴェス・ディナスの西方、ラサール湿地に棲むバジリスクの討伐依頼】
湿地帯の水鳥狩りと葦の採集を妨げているバジリスクの討伐を求める依頼書には、バジリスクの絵も描かれていた。
頭部に王冠のような模様がある巨大な蛇の絵だった。
太い胴体に大きく開いた口の中には数十本の曲がった鋭い牙が描かれていた。絵の下の説明には『蛇の王であるバジリスクの息には猛毒が宿り、その息だけで草木は枯れ、石は砕ける』と書かれていた。
その後バジリスクの依頼書を持って受付に向かったニアは、ギルドの受付係から何度も警告と注意を受けた後、受付係の勧めでバジリスクの毒の息に対応する解毒剤を三つ受け取り、ギルドの建物の外に出てティアバード宿屋に向かった。
そして今。太陽が昇る前の早い時間に、バジリスクがいるラサール湿地の位置が記された小さな地図を手に、アルトゥス・ボアの狩猟のために何度も通ったヴェス・ディナスの西門に向かって歩いていた。
朝になってから開く大きな門ではなく、関門を守る兵士に身分を確認し、門を開閉する手間賃として銀貨を何枚か渡さなければならない小さな門を通り、ヴェス・ディナスの西方、ブランディビアンの森へ向かった。
「森をさらに西へ行くと……ラサール湿地……。」
目を細めて、月明かりに照らされた地図をニアが見つめていた。
『明日は試合があるから、その前にバジリスクを倒してまたヴェス・ディナスに戻らなければならないだる。』
赤い線でヴェス・ディナスとラサール湿地を結んだ小さな地図を再び懐にしまい、ニアは森の方へ続く道を歩き始めた。
濃い朝霧が立ち込める森だったが、何度も通った道なのであまりにも慣れ親しんだ道だった。低く地面を覆う霧をものともせず、森の奥へ迷うことなくニアは歩いていった。
「うむ……リンゴ二個では足りないだる……。」
ぐるるっと鳴る自分の腹を見てニアが言った。そしてすぐに懐に手を入れ、何かを探すようにまさぐった後、赤黒い実が埋め込まれた干し肉と動物の脂を混ぜて作った保存食を取り出し、口に放り込んでむしゃむしゃと咀嚼した。
香辛料を混ぜて作られているので肉と脂の生臭さはなく、干し肉を砕いて脂で固め、その間に酸っぱいベリーの実を入れて作った保存食の味は、昨日の高級レストランで食べた料理とは比べものにならなかったが、それなりの風味と味わいがニアの空腹を満足げに満たしてくれた。
ニアが森の中を歩いている。空に浮かぶ月と星の光が届かない場所は、形を判別しにくい黒い影が風に合わせてほんの少しだけ姿をくねらせるだけだった。
そうしてニアが暗い森の道に入ってからそれほど時間が経たない頃だった。
「うよ……この時間に焚き火……。」
ニアの目に、遠く森の木々の枝に遮られてぼんやりと見える一角に、明るく輝く橙色の焚き火が映った。
『こんな早い時間に森の中に誰だろう?』という好奇心がニアの足を焚き火の方へ導いた。
サラサラと大きな音を立てて大きく歩きながら、茂みを掻き分けてニアは歩いた。万一焚き火の主が突然姿を見せたら驚くかもしれないと思い、さらに大きく足を踏みながら、茂みの横を通り過ぎた。
「おはようだる~!」
ニアが手を挙げて挨拶しながら、焚き火を囲んでいた男に声をかけた。
「ようこそ。ニア・カラゴン。」
灰色の狼の毛皮のマントを羽織った男が顔を上げ、焚き火の光を跳ね返す金歯を見せながらニアに挨拶した。
肩まで伸ばした髪は勝手に広がるのを防ぐため、数束を金の輪に通して束ねてあり、顔と首に深い傷跡のある男だった。
「え?私を知ってるだる? どこで会ったっけ……る……。」
見知らぬ男の口から自分の名前が出たので、ニアは男の顔をじっと見つめながら聞き返した。
「知ってはいるが、会うのは今日が初めてだ!」
男が焚き火を囲みながら、木に立てかけてあった両刃の斧を手に取り立ち上がりながら言った。
ニアの前に立つ男の体は、ニアが大きく顔を上げなければ見上げられないほど巨大だった。そして膨らんだ腹を持つ巨体にふさわしい太い腕と脚を動かし、片手で柄の太い両刃の斧を握り直し、ニアに向かって金色の犬歯を見せながらさらに大きく笑った。
「ぱはは! 何を言ってるのか分からん顔をしているな! 赤いドロコのニア!」
「そうだる……。」
目を細めたニアが男の言葉に答えた。
「説明するのは面倒だ! これで答えに代えよう!」
男は言葉の終わりに力を込めて叫び、手に持った斧を頭上に高く振り上げてニアに向かって振り下ろした。
ドンという音とともに振り下ろされた斧が地面に落ち、斧を振り下ろした風で焚き火の炎が揺らめき、男の攻撃をかわして後ろに飛び退いたニアに向かって炎が揺れた。
「何をするだる!」
いつの間にか抜いていたハーフ・スピアを手に持ったニアが男に向かって叫んだ。
「素早いな。まあドロコどもはみんな素早いからな……。もっと速くこいつを振るわねばならん! ふらっちゃ!」
巨体を動かしてニアに近づいた男が、再び大きく斧を振り回した。
「なぜ私を攻撃するんだる、でぶ人間!」
焚き火から離れ、闇の中でぼんやりと姿を見せたニアが男に向かって叫んだ。
「しまった。どうせすぐ死ぬ身だから名前も教えてやらなかったな。このまま名乗らなければあちこち逃げ回ってうるさく吠え立てるだろう……。どうしよう。」
「私たちが処理しましょうか、ハズール様?」
少し斧を立てて顎を撫でながら悩んでいたハズールと呼ばれた男に、木の上の闇の中からもう一つの声が尋ねた。
「いや。私は自分でやる。お前たちはこのドロコが街の方へ逃げないようにしてくれればいい!」
首を回してウッドッと音を立て、肩を回して体をほぐしたハズールが、再び闇の中のニアに向かってゆっくり近づきながら言った。
ニアが食べているのは、史実に基づいた最強の保存食『ペミカン』をイメージしています。高タンパク・高脂質で、過酷な冒険には欠かせない一品ですね。




